二兎を追う者は二兎とも得る!? ラーメンを健康食に変える起業家の発想術 ベースフード 代表取締役社長 橋本舜さん
ダイエットの天敵であるラーメンに栄養バランスの取れた麺を使用することで、健康的なラーメンを実現したベースフード。健康を維持するために必要な栄養を含んだ「完全食」のジャンルに、主食で挑み旋風を巻き起こしている食品スタートアップ企業です。ラーメンの他にもパスタやパンも完全食として販売。パスタはゆで時間がわずか1分で「おいしい」「かんたん」「からだにいい」を実現しています。そんなベースフードの創業者である橋本舜(はしもとしゅん)さんに起業の秘話から食の未来までお聞きしました。
──昔から起業したいと思っていらっしゃったのですか?
起業したいという考えはそんなにありませんでした。ただ新しいことはしたいとは思っていました。やっぱり社会人になるにあたって、他の誰かが始めたことを続けたり広げたりするよりは、誰もやっていないことを始めることに意義を感じるタイプではありました。それで新卒でIT企業を選びました。ただ、前職で創業者の特殊な能力や魅力に触れるたびに、ビジネスセンスとか人間的魅力に惹かれて、起業には興味がありました。やっぱり自分でゼロから立ち上げてみるとか、自分の魅力で人を集めてみるということを試してみたくなりました。いずれにしろ、起業したかったから起業したわけではなく、新しいことをやってみたかった。その新しいことがたまたま社内でできることではなかったから、社外に出たという感じです。 ──それがパスタだったのですね。
会社を辞めるという意思決定をしたときはそれが理由ですね。栄養バランスのよい食品をつくろうと思って辞めました。
──IT企業に勤めていらっしゃったので、パスタは意外に感じるのですが…。
世の中の先端を走っている人は、ソフトウエアにとらわれていないと思います。社会に対するインパクトは衣食住のほうが大きい。ITというのは手段ですから、それを乗りこなすという発想は持っています。前職の新規開発の部署でも、そのような考えをしていて、ITを使って業界や習慣をどのようにアップデートしていくのかを常に考えていました。僕の場合、現在はITを使っていませんが、IT的な考え方で、どのように社会を良くしていくかを考えたときに、なぜか食だったんです。
これにはロジックがあります。今私は30代で、僕らの世代にとって日本における最大の社会課題は、少子高齢化による社会負担の増加です。それを負担しているのは我々なわけで、この最大の社会課題を解決したい。その社会課題を解決する方法は、健康なんです。
少子高齢化を支える人たちの健康寿命を10年伸ばそうと考えたとき、医療ではなく予防になってくる。予防と考えると、基本的に健康習慣の向上と維持で、それは「栄養」「睡眠」「運動」「定期的な検診」が重要になってきます。普通の会社で働いていると、「7時間ぐらい寝られます」「週2回くらいジムに行きます」「年に1回は会社で健康診断があります」と、睡眠、運動、定期的な検診は、普通にできます。でも栄養に関しては、渋谷で働いていると、ファーストフードと居酒屋しかない。だからどうしてもコンビニ弁当に偏ってしまいます。そもそも自炊しようと思っても、食材の栄養価を知っている人はほとんどいないですよね。みんな、1日3回やっている行為に対しての知識がない。それっておかしくないですか? では、栄養を簡単に取れるようになれば、健康習慣が改善すると思いませんか? そうなると健康寿命が伸びたり、パフォーマンスが上がったりする。少子高齢化社会だけど豊かな社会が維持できる。その仕組みは海外でもニーズがあると思いました。
──少子高齢化社会だけど豊かな社会を維持するためには、健康がキーポイントになってくるということですね。
これは、健康格差なんですよ。健康志向で食べたいものを我慢できる一部の人たちが、サラダなどで栄養バランスを整えて健康に。一方で、忙しいからといって即席麺などを食べている人たちや美味しいものを食べたいからといって食べ過ぎ飲み過ぎの人たちが不健康になるわけです。世の中の人は言いますよね? ハンバーガーやラーメン、牛丼を食べてはいけないって。なぜならそれは不健康だから。でも我慢できずに食べてしまう人たちは、いけないとわかっているけど、食べてしまう。「美味しいから」「楽だから」などといった理由で。現状では両者は平行線で、折り合うことはありません。でも、この食べてはいけないと言っている人たちは、食べてはいけないと否定し続けるのではなくて、食べてもいいよと肯定すべきではないかと。食べてはいけない代表格はファーストフードで、それらで提供されるのはパンや麺、米などです。それら主食を健康的なものにすれば、食べてもいいわけです。そうすれば、健康が当たり前になる。少しずつ健康にしようとしても永遠に変わりません。劇的に変える方法は、パンと麺と米を健康にすること。だから主食を選びました。
──すごい発想ですね。現在、麺とパンを販売されていますが、今後新しい商品を開発する予定はありますか?
まずは、栄養バランスが良くて、美味しい麺とパンをしっかりそろえて、定期的にお届けることが大事かなと思っています。健康で一番難しいのは、習慣化なので。やっぱり健康を気にしながら生きていくのは大変じゃないですか。毎月、届いたものを消費しているだけというのは楽だと思うし、家に届くから買い物に行かなくてもいい。それによって、一人暮らしや共働きの人でも健康的な生活の基盤が固まって、安心して過ごせる環境をつくりたいというのが直近の展望です。 ──橋本さんが考えている未来についてお聞きしたいです。
今は人間の倫理観や、人間の自制心に頼った社会なんです。倫理観によって人間を規定していく社会ではなく、システム的に「できる」「できない」と判断される社会になっていくと思っています。それは、健康も一緒だと思っています。眼の前にステーキがあるのに、それを我慢してサラダを食べる。サラダを食べて健康になったかもしれないけれど、健康は、楽しむための手段にすぎない。健康になったけれど、まずかったら楽しくないじゃないですか。健康も自制心や倫理観で制限するのではなく、好きなことをしているのに健康であるという社会をつくりたいです。それを可能にするようなサービス群がでてくると思います。
──欲望のままに食べても健康という発想が斬新です…。
今は、健康志向が高く自分を律することのできる人だけが、健康になれる社会だと思っています。健康的な食生活をしている人が、不健康な食生活をしている人を叱る。それって当たり前と思っているけれど、ひどい社会だと思いませんか? ラーメンばっかり食べて糖尿病になった人に、「それはお前が悪い」と言う社会。結局、食事に気を使っている健康志向の人たちが、ラーメンばかり食べて糖尿病になってしまった人たちの医療保険を負担しているわけですから。それでは社会は何も変わらないから、主食をイノベーションしたいんです。
──ラーメンと健康がイコールで考えられる橋本さんがすごいです。
逆にラーメンが不健康って、なぜ今まで決めつけていたんだろうって思います。確かに背徳感は美味しさにつながる部分はあると思いますが、必ずしも美味しいイコール不健康ではありません。ラーメン屋さんの選択肢として、「美味しいけれど不健康」か「美味しくないけど健康」の2択しか考えていない場合がありますが、それでは思考停止しているから、美味しけど健康を追求すべきだと思います。
──実際に、「BASE RAMEN(ベースラーメン)」を発売していますよね。実現できていることもすごいと思います。
実現できるんです。ただ、技術や人間のクリエイティビティをその分野に注がないと変わりません。今、社会のエネルギーはITや自動車に向かっていると思います。それが食品に向かうようになれば、劇的に変化すると思います。
食のデータ化や3DプリンタはまだSFレベルだと思います。SF小説を書いたりする活動とリアルに社会に役立っていく活動では役割分担が違います。SFのような豊かな発想力がないと着想は得られない。一方で実業がいないと社会は良くならない。前者はまだ実業のレベルまで達していないと思いますし、本当にそのような世の中が到来するか誰も保証していない。もしかしたら人間は、そのようなものを求めていない可能性もあると思います。僕も5年後10年後はチャレンジしている分野かもしれませんが、今は、リアルに日本の少子高齢化に対して貢献したいと思っているから栄養バランスの良いパスタを売っています。
──食の未来は変わっていくと思いますか?
食の未来を予測するのは難しいです。難しいけど、明らかなことが3つあります。1つ目は、サステナビリティ。地球規模で考えたとき、食糧難や環境破壊の問題があります。2つ目はヘルスケアの問題、3つ目は流通の変化です。この3つを具体的に説明すると、大豆や全粒粉は、サステナビリティの高い食材です。それを原材料として組み合わせることで、サラダよりもバランスの良い栄養価の食品をつくることができる。そして、それら商品をお客さんに定期的に届ける。まさに今、ベースフードが実践していることですよね(笑)。
──すでに実践している方もいそうですね。
そうですね。それが、社会全体に浸透すると、さまざまな選択肢ができてくると思います。大豆を使った代替肉や昆虫食もある。食のデータ化は、流通の一つのやり方ですし、パーソナライズやサブスクリプションによって流通もどんどん変革していくと思います。 ──食もパーソナライズされていくのですね。
僕はあらゆることがパーソナライズの方向に進んでいくと思っています。今は技術力が低いからパーソナライズできなくて、画一的に届けています。今後、技術力は上がるから、カスタマイズやパーソナライズができようになる。これはメガトレンドです。食べ物も、全員が同じマス商品を食べているという時代は基本的になくなって、ある程度、ダイバーシティがでてくる。今までは、同じものを大量につくらないと、スケールメリットが働かないから利益が出せなかったんです。でも、量は少ないけれど安くつくれる技術ができれば、ダイバーシティが進みます。
──パーソナライズされていくと、嫌いなものを好きになるきっかけや新しい発見がなくなりそうです…。
セレンディピティ(素敵な偶然の出会い)ですね。知らない出会いを含めて設計されていくんでしょうね。結局、誰かの口から問題提議されている時点で、それは解決できることだと思っています。パーソナライズすると、セレンディピティがなくなって画一化されるみたいなことは、既に世の中で問題提議されています。課題をできない理由と捉えるのか、より良くする理由と捉えるかの違いです。より良くする理由と捉えたプレイヤーが勝ち残っていくと思います。
ピーマンが嫌いな子供に対して、お母さんは完全にピーマンを抜くわけではないですよね。始めは小さく刻んで、次は大きく刻んでみて、最後にそのままの姿ででてくる、というパーソナライズがされています。これが理想ですよね。本人がなりたいことと、社会から求められることは別ですから、そこのバランスを取ったパーソナライズが必要になってきます。それは倫理観が問われます。ある雑誌でプログラマーを養成する大学では哲学や倫理を必須科目にすべきであるということが議論されていました。今後はそういう話になるかもしれません。
──「ラーメンを健康食に」など、橋本さんのお話を伺って、これまでいかに社会が既成概念にとらわれ、思考停止していたかに気付かされました。フードテックを夢物語ではなくひたむきに取り組んでおられる姿に、今後の食の未来をポジティブに捉えることができました。本日は、示唆に富んだお話をありがとうございました。
起業したいという考えはそんなにありませんでした。ただ新しいことはしたいとは思っていました。やっぱり社会人になるにあたって、他の誰かが始めたことを続けたり広げたりするよりは、誰もやっていないことを始めることに意義を感じるタイプではありました。それで新卒でIT企業を選びました。ただ、前職で創業者の特殊な能力や魅力に触れるたびに、ビジネスセンスとか人間的魅力に惹かれて、起業には興味がありました。やっぱり自分でゼロから立ち上げてみるとか、自分の魅力で人を集めてみるということを試してみたくなりました。いずれにしろ、起業したかったから起業したわけではなく、新しいことをやってみたかった。その新しいことがたまたま社内でできることではなかったから、社外に出たという感じです。 ──それがパスタだったのですね。
会社を辞めるという意思決定をしたときはそれが理由ですね。栄養バランスのよい食品をつくろうと思って辞めました。
──IT企業に勤めていらっしゃったので、パスタは意外に感じるのですが…。
世の中の先端を走っている人は、ソフトウエアにとらわれていないと思います。社会に対するインパクトは衣食住のほうが大きい。ITというのは手段ですから、それを乗りこなすという発想は持っています。前職の新規開発の部署でも、そのような考えをしていて、ITを使って業界や習慣をどのようにアップデートしていくのかを常に考えていました。僕の場合、現在はITを使っていませんが、IT的な考え方で、どのように社会を良くしていくかを考えたときに、なぜか食だったんです。
──完全栄養食のパスタをつくろうと思った発想が面白いと思いました。
これにはロジックがあります。今私は30代で、僕らの世代にとって日本における最大の社会課題は、少子高齢化による社会負担の増加です。それを負担しているのは我々なわけで、この最大の社会課題を解決したい。その社会課題を解決する方法は、健康なんです。
少子高齢化を支える人たちの健康寿命を10年伸ばそうと考えたとき、医療ではなく予防になってくる。予防と考えると、基本的に健康習慣の向上と維持で、それは「栄養」「睡眠」「運動」「定期的な検診」が重要になってきます。普通の会社で働いていると、「7時間ぐらい寝られます」「週2回くらいジムに行きます」「年に1回は会社で健康診断があります」と、睡眠、運動、定期的な検診は、普通にできます。でも栄養に関しては、渋谷で働いていると、ファーストフードと居酒屋しかない。だからどうしてもコンビニ弁当に偏ってしまいます。そもそも自炊しようと思っても、食材の栄養価を知っている人はほとんどいないですよね。みんな、1日3回やっている行為に対しての知識がない。それっておかしくないですか? では、栄養を簡単に取れるようになれば、健康習慣が改善すると思いませんか? そうなると健康寿命が伸びたり、パフォーマンスが上がったりする。少子高齢化社会だけど豊かな社会が維持できる。その仕組みは海外でもニーズがあると思いました。
──少子高齢化社会だけど豊かな社会を維持するためには、健康がキーポイントになってくるということですね。
これは、健康格差なんですよ。健康志向で食べたいものを我慢できる一部の人たちが、サラダなどで栄養バランスを整えて健康に。一方で、忙しいからといって即席麺などを食べている人たちや美味しいものを食べたいからといって食べ過ぎ飲み過ぎの人たちが不健康になるわけです。世の中の人は言いますよね? ハンバーガーやラーメン、牛丼を食べてはいけないって。なぜならそれは不健康だから。でも我慢できずに食べてしまう人たちは、いけないとわかっているけど、食べてしまう。「美味しいから」「楽だから」などといった理由で。現状では両者は平行線で、折り合うことはありません。でも、この食べてはいけないと言っている人たちは、食べてはいけないと否定し続けるのではなくて、食べてもいいよと肯定すべきではないかと。食べてはいけない代表格はファーストフードで、それらで提供されるのはパンや麺、米などです。それら主食を健康的なものにすれば、食べてもいいわけです。そうすれば、健康が当たり前になる。少しずつ健康にしようとしても永遠に変わりません。劇的に変える方法は、パンと麺と米を健康にすること。だから主食を選びました。
──すごい発想ですね。現在、麺とパンを販売されていますが、今後新しい商品を開発する予定はありますか?
まずは、栄養バランスが良くて、美味しい麺とパンをしっかりそろえて、定期的にお届けることが大事かなと思っています。健康で一番難しいのは、習慣化なので。やっぱり健康を気にしながら生きていくのは大変じゃないですか。毎月、届いたものを消費しているだけというのは楽だと思うし、家に届くから買い物に行かなくてもいい。それによって、一人暮らしや共働きの人でも健康的な生活の基盤が固まって、安心して過ごせる環境をつくりたいというのが直近の展望です。 ──橋本さんが考えている未来についてお聞きしたいです。
今は人間の倫理観や、人間の自制心に頼った社会なんです。倫理観によって人間を規定していく社会ではなく、システム的に「できる」「できない」と判断される社会になっていくと思っています。それは、健康も一緒だと思っています。眼の前にステーキがあるのに、それを我慢してサラダを食べる。サラダを食べて健康になったかもしれないけれど、健康は、楽しむための手段にすぎない。健康になったけれど、まずかったら楽しくないじゃないですか。健康も自制心や倫理観で制限するのではなく、好きなことをしているのに健康であるという社会をつくりたいです。それを可能にするようなサービス群がでてくると思います。
──欲望のままに食べても健康という発想が斬新です…。
今は、健康志向が高く自分を律することのできる人だけが、健康になれる社会だと思っています。健康的な食生活をしている人が、不健康な食生活をしている人を叱る。それって当たり前と思っているけれど、ひどい社会だと思いませんか? ラーメンばっかり食べて糖尿病になった人に、「それはお前が悪い」と言う社会。結局、食事に気を使っている健康志向の人たちが、ラーメンばかり食べて糖尿病になってしまった人たちの医療保険を負担しているわけですから。それでは社会は何も変わらないから、主食をイノベーションしたいんです。
──ラーメンと健康がイコールで考えられる橋本さんがすごいです。
逆にラーメンが不健康って、なぜ今まで決めつけていたんだろうって思います。確かに背徳感は美味しさにつながる部分はあると思いますが、必ずしも美味しいイコール不健康ではありません。ラーメン屋さんの選択肢として、「美味しいけれど不健康」か「美味しくないけど健康」の2択しか考えていない場合がありますが、それでは思考停止しているから、美味しけど健康を追求すべきだと思います。
──実際に、「BASE RAMEN(ベースラーメン)」を発売していますよね。実現できていることもすごいと思います。
実現できるんです。ただ、技術や人間のクリエイティビティをその分野に注がないと変わりません。今、社会のエネルギーはITや自動車に向かっていると思います。それが食品に向かうようになれば、劇的に変化すると思います。
──フードテックというと食のデータ化や3Dプリンタをイメージしてしまうのですが、ベースフードの場合は、ITの技術を駆使して食品をつくるわけではなく、食品の原材料を組み合わせて商品化していて、ある意味伝統的な食品メーカーですよね。
食のデータ化や3DプリンタはまだSFレベルだと思います。SF小説を書いたりする活動とリアルに社会に役立っていく活動では役割分担が違います。SFのような豊かな発想力がないと着想は得られない。一方で実業がいないと社会は良くならない。前者はまだ実業のレベルまで達していないと思いますし、本当にそのような世の中が到来するか誰も保証していない。もしかしたら人間は、そのようなものを求めていない可能性もあると思います。僕も5年後10年後はチャレンジしている分野かもしれませんが、今は、リアルに日本の少子高齢化に対して貢献したいと思っているから栄養バランスの良いパスタを売っています。
──食の未来は変わっていくと思いますか?
食の未来を予測するのは難しいです。難しいけど、明らかなことが3つあります。1つ目は、サステナビリティ。地球規模で考えたとき、食糧難や環境破壊の問題があります。2つ目はヘルスケアの問題、3つ目は流通の変化です。この3つを具体的に説明すると、大豆や全粒粉は、サステナビリティの高い食材です。それを原材料として組み合わせることで、サラダよりもバランスの良い栄養価の食品をつくることができる。そして、それら商品をお客さんに定期的に届ける。まさに今、ベースフードが実践していることですよね(笑)。
──すでに実践している方もいそうですね。
そうですね。それが、社会全体に浸透すると、さまざまな選択肢ができてくると思います。大豆を使った代替肉や昆虫食もある。食のデータ化は、流通の一つのやり方ですし、パーソナライズやサブスクリプションによって流通もどんどん変革していくと思います。 ──食もパーソナライズされていくのですね。
僕はあらゆることがパーソナライズの方向に進んでいくと思っています。今は技術力が低いからパーソナライズできなくて、画一的に届けています。今後、技術力は上がるから、カスタマイズやパーソナライズができようになる。これはメガトレンドです。食べ物も、全員が同じマス商品を食べているという時代は基本的になくなって、ある程度、ダイバーシティがでてくる。今までは、同じものを大量につくらないと、スケールメリットが働かないから利益が出せなかったんです。でも、量は少ないけれど安くつくれる技術ができれば、ダイバーシティが進みます。
──パーソナライズされていくと、嫌いなものを好きになるきっかけや新しい発見がなくなりそうです…。
セレンディピティ(素敵な偶然の出会い)ですね。知らない出会いを含めて設計されていくんでしょうね。結局、誰かの口から問題提議されている時点で、それは解決できることだと思っています。パーソナライズすると、セレンディピティがなくなって画一化されるみたいなことは、既に世の中で問題提議されています。課題をできない理由と捉えるのか、より良くする理由と捉えるかの違いです。より良くする理由と捉えたプレイヤーが勝ち残っていくと思います。
ピーマンが嫌いな子供に対して、お母さんは完全にピーマンを抜くわけではないですよね。始めは小さく刻んで、次は大きく刻んでみて、最後にそのままの姿ででてくる、というパーソナライズがされています。これが理想ですよね。本人がなりたいことと、社会から求められることは別ですから、そこのバランスを取ったパーソナライズが必要になってきます。それは倫理観が問われます。ある雑誌でプログラマーを養成する大学では哲学や倫理を必須科目にすべきであるということが議論されていました。今後はそういう話になるかもしれません。
──「ラーメンを健康食に」など、橋本さんのお話を伺って、これまでいかに社会が既成概念にとらわれ、思考停止していたかに気付かされました。フードテックを夢物語ではなくひたむきに取り組んでおられる姿に、今後の食の未来をポジティブに捉えることができました。本日は、示唆に富んだお話をありがとうございました。