「最強のチームをつくりたい」人を知り、人を活かすマネジメント Haleonジャパン マーケティング マーケティングディレクター、ノースアジア 齋藤朋子さん
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外資系企業でキャリアを積み、現在はHaleon(ヘイリオン)ジャパンのマーケティングディレクターを務める齋藤朋子(さいとうともこ)さん。学生時代の教え「Be different」を原点に、自分や他者のユニークネスを大切にしながら、グローバル市場でさまざまな商材に挑戦してきました。そんな齋藤さんは現在、Haleonジャパンでまた新たな挑戦していると話します。Haleonジャパンへ入社した理由や、さまざまな個性や才能を活かすチームづくりについて伺いました。
この記事は前後編です:前編はこちら
「『Be different』を胸にキャリアを歩む」
2013年からダノンジャパンに7年在籍し、その後、ベビーカーやチャイルドシートのブランド「アップリカ」で知られるニューウェルブランズ・ジャパンのマーケティングヘッドを経験。最初の日本リーバと合わせると、20年近くマーケティングに携わりました。そろそろ次のステージに進むときかなと。自分のスキルや経験をメンバーに継承して、チームづくりに携わりたいと考えたんです。
──Haleonジャパンなら、それができそうだと感じたわけですね。
そうです。英GSKは2022年、コンシューマー・ヘルスケア事業を分離して、独立企業の「Haleon」が発足しました。私が入社したのは、そのわずか3年前、2019年のことです。
最初に受け持ったのは5人ほどのチームでしたが、会社が変革の時期にあることは知っていましたから、大きな責任を感じたのを覚えています。会社からも「FMCG(日用消費財)で培った経験を活かしてほしい」と期待されていたと思います。ただ、同時にHaleonへの移行に伴う、カルチャー・トランスフォーメーションの時期に立ち会えることにもわくわくしていました。
──どのような仕事に取り組んできましたか?
入社後は、入れ歯洗浄剤や安定剤の「デンチャーケア」カテゴリーと、歯磨き粉の「ペースト」カテゴリーという、2つのカテゴリーリードを担当してきました。当社で扱う商品はヘルスケア製品ですから、ダノンジャパンで培った啓発活動の経験を活かそうと思って取り組んできました。
当社の製品を使用するきっかけは、歯科医師からのおすすめが多いです。歯科医に行って入れ歯をつくり洗浄剤や安定剤を使用するの必要性を教わったり、知覚過敏と診断されて専門の歯磨き粉を勧められたり、というケースですね。つまり、消費者への啓発活動だけではなく、医療従事者を通じた患者さんである消費者への働きかけも非常に大事なマーケティング活動となっています。
2024年にシュミテクトから発売された「プラチナプロテクトEX」は、日本発信で誕生したシリーズ最高峰の知覚過敏ケア製品です。実は知覚過敏は20~40代に多い症状ですが、深刻に捉えていない人が少なからずいます。そこで、「ナイトケア」のアイデアを歯磨き粉に取り入れ、就寝中の知覚過敏ケアを提案したのです。マーケティング活動としては、例えば、日本の若い世代の方に製品を正しく使用してもらうためのコミュニケーションプランを歯科医師と共に制作したり、歯科医師にも製品の利便性をきちんと理解してもらうために宣伝を行ったりなど、幅広い活動を行いました。
──最近、一般用医薬品含めすべてのカテゴリーを統括するディレクターという立場になられたそうですね。難しさを感じていることはありませんか。
現在、日本で20数名、韓国で15名ほどのチームを統括しています。マーケティングの領域がブランドやメディアから調査、デジタルまで、国も韓国と日本と、幅が広がったことによるチャレンジはあります。
例えば、KPI(目標達成に向けた指標)を設定するにしても、ブランドチームはシェアの目標などが数値化しやすい一方で、調査チームは「より効果的な調査方法を見つける」といった項目も入り、横並びで見るのが難しいです。また、バックグラウンドも考え方も専門性も異なる個人の集まりですので「1つのチームとして頑張っていこう!」とまとめるのは、シンプルには進まないこともあります。
ただ、これも難しいと考えるか、「Be different」で当たり前と考えるかで違ってきます。やっていることはさまざまでも、最終的には会社としてのパーパスがある中で同じゴールを目指しているわけです。だから、向かう先を明確にしつつ、一人ひとりの個性や才能を活かすチームとしてみんなでやっていこうと旗を振るのが、私の役割かなと思っています。
一言で言うなら、最強のマーケティングチームをつくりたいです。
最強の原点とは、「Deep Human Understanding(人への深い理解)」ができるようになることだと考えます。これは当社のブランドにおいて大切にしている言葉です。コンシューマー向けの製品をつくる企業のマーケターとして、いかにニーズやインサイトをつかみ、ビジネスに活かすか。トレーニングや業務のフィードバックの中で、この点をしっかりサポートするようにしています。コンシューマードリブン(消費者中心主義)を全社の風土として根付かせることをリードする部署でありたいです。
──チームのメンバーにはどんなことを期待していますか?
「Autonomy」、つまり自律性です。当社は製薬会社としてはじまっていることもあり、正しい手順でチェックリストや承認プロセスをパスしていくような仕事のやり方を、とても大事にしてきました。そのため、ボトムアップで自分がやりたいことや新しいことを提案する機会があまりないという声を聞いてきました。
でも、今私たちが取り組むコンシューマー向けのビジネスは、スピード感が求められます。いろいろな部署を巻き込みながら、自分で判断してどんどん進めていく必要があります。細かくチェックリストを確認するような従来のやり方を、これからは変えていかなければなりません。
──カルチャーを変えるということですね。
そうですね。マーケティング部門に限らず、会社全体のカルチャー・トランスフォーメーションが必要だと思っています。
当社には2024年まで「カルチャー・クラフト・エンジン(通称カルクラ)」という社員グループがありました。Haleonジャパンの新しいカルチャーの浸透を推進するため、経営層と社員をつなぐ存在として、各部門のリーダーを中心に活動していて、私も発足時から関わっていたのです。
カルクラの発想は「ジョブ・クラフティング」という考え方が基になっています。仕事とは与えられるものではなく、自分でつくっていくもの。カルチャーも同じで、経営陣がどういう会社にしたいかではなく、自分たちがどういう会社にしたいかを考えることが、会社全体の良い方向につながります。そして、カルクラメンバーはエンジンとなって、自分の部門メンバー、さらには会社全体を刺激していく役割として、活動をしていました。
メンバーは、所属部門も考え方もさまざまです。でも交流イベントや勉強会など、カルクラのメンバー発信で社内を巻き込みながら実現させてきました。それが実現できたのは、お互いの仕事内容やパーソナリティーを少しずつ理解し合っていったからです。自分がグループに提供できるものは何か、このメンバーが協力すればどんな新しいことができるのか。皆の意見も聞きながらも、それぞれが自主的に考えて行動するようになり、カルクラメンバーの熱が会社全体へと伝わっていきました。
さまざまなバックグラウンドの方が自発的に考え行動する土壌がありながら、一緒に活動し、新しいものを生み出せること。それも、チームとして最強を目指すことの意義だと感じます。
──齋藤さんのお話を伺って、人のバックグラウンドや考え方の多様性を受け止めることこそ、マーケティング活動の基盤を成すのではないかと思いました。専門知識やスキルは後からついてくる。ゼミの指導教授がおっしゃった「まずは教養」というお話は、ぜひ多くの次世代マーケターの皆さんに知ってもらいたいと思います。本日はありがとうございました。
「『Be different』を胸にキャリアを歩む」
チームづくりに挑戦したい
──Haleonジャパン(当時はグラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン)へ転職するに至った背景を教えてください。2013年からダノンジャパンに7年在籍し、その後、ベビーカーやチャイルドシートのブランド「アップリカ」で知られるニューウェルブランズ・ジャパンのマーケティングヘッドを経験。最初の日本リーバと合わせると、20年近くマーケティングに携わりました。そろそろ次のステージに進むときかなと。自分のスキルや経験をメンバーに継承して、チームづくりに携わりたいと考えたんです。
──Haleonジャパンなら、それができそうだと感じたわけですね。
そうです。英GSKは2022年、コンシューマー・ヘルスケア事業を分離して、独立企業の「Haleon」が発足しました。私が入社したのは、そのわずか3年前、2019年のことです。
最初に受け持ったのは5人ほどのチームでしたが、会社が変革の時期にあることは知っていましたから、大きな責任を感じたのを覚えています。会社からも「FMCG(日用消費財)で培った経験を活かしてほしい」と期待されていたと思います。ただ、同時にHaleonへの移行に伴う、カルチャー・トランスフォーメーションの時期に立ち会えることにもわくわくしていました。
──どのような仕事に取り組んできましたか?
入社後は、入れ歯洗浄剤や安定剤の「デンチャーケア」カテゴリーと、歯磨き粉の「ペースト」カテゴリーという、2つのカテゴリーリードを担当してきました。当社で扱う商品はヘルスケア製品ですから、ダノンジャパンで培った啓発活動の経験を活かそうと思って取り組んできました。
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2024年にシュミテクトから発売された「プラチナプロテクトEX」は、日本発信で誕生したシリーズ最高峰の知覚過敏ケア製品です。実は知覚過敏は20~40代に多い症状ですが、深刻に捉えていない人が少なからずいます。そこで、「ナイトケア」のアイデアを歯磨き粉に取り入れ、就寝中の知覚過敏ケアを提案したのです。マーケティング活動としては、例えば、日本の若い世代の方に製品を正しく使用してもらうためのコミュニケーションプランを歯科医師と共に制作したり、歯科医師にも製品の利便性をきちんと理解してもらうために宣伝を行ったりなど、幅広い活動を行いました。
──最近、一般用医薬品含めすべてのカテゴリーを統括するディレクターという立場になられたそうですね。難しさを感じていることはありませんか。
現在、日本で20数名、韓国で15名ほどのチームを統括しています。マーケティングの領域がブランドやメディアから調査、デジタルまで、国も韓国と日本と、幅が広がったことによるチャレンジはあります。
例えば、KPI(目標達成に向けた指標)を設定するにしても、ブランドチームはシェアの目標などが数値化しやすい一方で、調査チームは「より効果的な調査方法を見つける」といった項目も入り、横並びで見るのが難しいです。また、バックグラウンドも考え方も専門性も異なる個人の集まりですので「1つのチームとして頑張っていこう!」とまとめるのは、シンプルには進まないこともあります。
ただ、これも難しいと考えるか、「Be different」で当たり前と考えるかで違ってきます。やっていることはさまざまでも、最終的には会社としてのパーパスがある中で同じゴールを目指しているわけです。だから、向かう先を明確にしつつ、一人ひとりの個性や才能を活かすチームとしてみんなでやっていこうと旗を振るのが、私の役割かなと思っています。
人への深い理解がブランドと組織をつくる
──これから、どんなチームをつくっていきたいですか?一言で言うなら、最強のマーケティングチームをつくりたいです。
最強の原点とは、「Deep Human Understanding(人への深い理解)」ができるようになることだと考えます。これは当社のブランドにおいて大切にしている言葉です。コンシューマー向けの製品をつくる企業のマーケターとして、いかにニーズやインサイトをつかみ、ビジネスに活かすか。トレーニングや業務のフィードバックの中で、この点をしっかりサポートするようにしています。コンシューマードリブン(消費者中心主義)を全社の風土として根付かせることをリードする部署でありたいです。
──チームのメンバーにはどんなことを期待していますか?
「Autonomy」、つまり自律性です。当社は製薬会社としてはじまっていることもあり、正しい手順でチェックリストや承認プロセスをパスしていくような仕事のやり方を、とても大事にしてきました。そのため、ボトムアップで自分がやりたいことや新しいことを提案する機会があまりないという声を聞いてきました。
でも、今私たちが取り組むコンシューマー向けのビジネスは、スピード感が求められます。いろいろな部署を巻き込みながら、自分で判断してどんどん進めていく必要があります。細かくチェックリストを確認するような従来のやり方を、これからは変えていかなければなりません。
──カルチャーを変えるということですね。
そうですね。マーケティング部門に限らず、会社全体のカルチャー・トランスフォーメーションが必要だと思っています。
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カルクラの発想は「ジョブ・クラフティング」という考え方が基になっています。仕事とは与えられるものではなく、自分でつくっていくもの。カルチャーも同じで、経営陣がどういう会社にしたいかではなく、自分たちがどういう会社にしたいかを考えることが、会社全体の良い方向につながります。そして、カルクラメンバーはエンジンとなって、自分の部門メンバー、さらには会社全体を刺激していく役割として、活動をしていました。
メンバーは、所属部門も考え方もさまざまです。でも交流イベントや勉強会など、カルクラのメンバー発信で社内を巻き込みながら実現させてきました。それが実現できたのは、お互いの仕事内容やパーソナリティーを少しずつ理解し合っていったからです。自分がグループに提供できるものは何か、このメンバーが協力すればどんな新しいことができるのか。皆の意見も聞きながらも、それぞれが自主的に考えて行動するようになり、カルクラメンバーの熱が会社全体へと伝わっていきました。
さまざまなバックグラウンドの方が自発的に考え行動する土壌がありながら、一緒に活動し、新しいものを生み出せること。それも、チームとして最強を目指すことの意義だと感じます。
──齋藤さんのお話を伺って、人のバックグラウンドや考え方の多様性を受け止めることこそ、マーケティング活動の基盤を成すのではないかと思いました。専門知識やスキルは後からついてくる。ゼミの指導教授がおっしゃった「まずは教養」というお話は、ぜひ多くの次世代マーケターの皆さんに知ってもらいたいと思います。本日はありがとうございました。