ART FUN FAN Vol.13 ギンザ・グラフィック・ギャラリー「TOKYO TYPE DIRECTORS CLUB EXHIBITION 2025」

ART FUN FANでは、広告・マーケティング・クリエイティブ業界で働く皆さまにアートの情報をお届けします。おすすめの企画展をピックアップして、美術ライターが独自の切り口で解説。「アートってなんだかよくわからない。」方から「興味があるからもっと知りたい!」方まで、誰でも楽しめるアートの魅力に触れていきましょう!
コラム第13回ではギンザ・グラフィック・ギャラリーで毎年開催される企画展「TOKYO TYPE DIRECTORS CLUB EXHIBITION(以降、TDC展)」へ。開催35回目を迎える今年も、意欲的な作品が勢揃いです。
書き手は文筆家(ライター)のさつま瑠璃。絵画や立体作品などのアートを取材することが多いさつまが見る、文字とデザインの面白さとは? 東京タイプディレクターズクラブ 事務局長を務める照沼太佳子さんのお話も交じえながら、展示の見どころをご紹介します。
コラム第13回ではギンザ・グラフィック・ギャラリーで毎年開催される企画展「TOKYO TYPE DIRECTORS CLUB EXHIBITION(以降、TDC展)」へ。開催35回目を迎える今年も、意欲的な作品が勢揃いです。
書き手は文筆家(ライター)のさつま瑠璃。絵画や立体作品などのアートを取材することが多いさつまが見る、文字とデザインの面白さとは? 東京タイプディレクターズクラブ 事務局長を務める照沼太佳子さんのお話も交じえながら、展示の見どころをご紹介します。
十三度めまして! さつまです!

ギンザ・グラフィック・ギャラリー2階のライブラリにて
銀座の一等地に建つグラフィック専門のギャラリー、ギンザ・グラフィック・ギャラリー。「ggg(スリージー)」の略称でご存じの方も多いのではないでしょうか。
TDC展といえば、1990年から毎年開催している企画展。主催の東京タイプディレクターズクラブは、創設者の浅葉克己さんはじめ、葛西薫さんや服部一成さんなど日本を代表するクリエイターが所属・運営する団体です。グラフィックデザインの中でも、特に文字や言葉の視覚表現を軸にした国際賞「東京TDC賞」を主催しています。
今年のTDC展2025では受賞作品とノミネート作品を中心に、特に評価の高かった126作品を展覧しています。
ここがすごいぞ! TDC展2025
「例えば狭義のタイポグラフィに留まらず、さらに全体的な、作品世界としての表現やのびやかな感性にも注目しています。国内外から毎年やってくる作品を、私たち自身がすごく楽しんでいるんです。私たちが広く皆さんとシェアしたいものを、結果的に賞として選ばせていただいているのではないかと、思うこともあります」と照沼さん。早速、いくつかの作品をガイドしていただきました!新しくて面白い! 審査員もワクワクさせた作品たち
TDC賞2025でグランプリを受賞した橋本麦さんは、照沼さんも「本当に稀有な存在!」と絶賛するクリエイターの1人。
橋本麦《「MONO NO AWARE / かむかもしかもにどもかも! (imai remix) 」ミュージック・ビデオ》illustrator:鈴木哲生/R&D Programmer:徳井直生
そして、同じく橋本麦さんも参加された、AC部さんの「ミュージックGIFマンガ」にもご注目! こちらもミュージック・ビデオの一種。アニメのように動くGIF形式の漫画のコマを、シームレスに繋げて縦スクロールで読む「GIFマンガ」という独自の形式に、音楽の要素を加えたものです。

AC部/橋本麦/group_inou《group_inou / HAPPENING》
今までの「当たり前」をガラッと変えるデザインの力
カルチャー系作品に限らず、会場には独創的かつ超プロのデザインが数多く揃っています。Henrik Kubelさん率いるA2-TYPEのフォントデザインもそのひとつ。ニューヨーク・タイムズ紙の別冊雑誌『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』の専用フォントを制作するなど世界的に有名なタイプデザイナーですが、「彼らの受賞歴の中でもユニークな作品」と照沼さんは解説します。制作のきっかけは、ニューヨークに出張で行ったときに、街の住民が「NO PARKING」と地面に書いていた文字、特に「G」の文字をすごく気に入ったこと。その日の夜にホテルに戻って、「G」を中心にフォントをつくったそうです。「いい文字だね」と、文字を書いている住民にインタビューをしている様子の映像も掲示されています。

Henrik Kubel + Scott Williams, A2-TYPE《NO PARKING》

Nejc Prah《Center Rog》
これらのデザインを見て「狭いところに安住していない感じがある」と話す照沼さん。凝り固まらない柔軟さこそが、多様性に対する包容力を生み出すのかもしれないな、と思わされます。
さつまが思わず心惹かれたブックデザイン
TDC 賞2025で受賞したブックデザインは2つ。本好きのさつま、そのどちらにも心惹かれました。静けさを感じるダークトーンが印象的な《Gloria Lujanović: Srce zemlje》は、ユーゴスラビアの紛争で起きた戦争犯罪についてジャーナリストのGloria Lujanovićさんが取材・執筆した書籍。灰色のページに黒い文字で書かれているのが、今まで隠蔽されて世の中に知られていなかった内容です。Lana Cavar氏とNarcisa Vukojević氏のデザインによって、その告発や、世間に対する警告的な表現が、気配として感じ取れます。

Lana Cavar, Narcisa Vukojević《Gloria Lujanović: Srce zemlje》
このページの独特な質感は、印刷インキCMYKのK(黒)を使わない特殊な印刷によるもので、舞台作品の世界観を最大限に表現するために3年間も実験を繰り返したというのだから驚き! インキのベースにはKの代わりにシルバーのインキが乗っていて、光沢が生まれています。こうした表現から、ダンサーたちの精神性や芸術性までもが、本の中に再現されているのです。

Sean Yendrys《Let’s Not Get Used to This Place: Meg Stuart/Damaged Goods》
まだまだある! 受賞作品もノミネート作品も盛りだくさん
2フロアの展示とは思えないくらい、情報量とセンスに溢れたTDC展。まだまだ多くの作品があり、どれも見逃せません!例えば、こちらは日本の江戸時代に主流だった、美しい連綿の仮名書体のフォント。可変機能が搭載されたフォント、バリアブルフォントのテクノロジーをこのテーマに持ち込んだ、新しく意義のあるチャレンジと探究心が旺盛なクリエイティブです。

舟山貴士《しゅうれん かな》

Mei Shuzhi《Ju Mei》

ノミネート作品の展示風景
おわりに
「TDC展を35年もやっていると、飽きませんか?と聞かれることもありますが、飽きないどころか毎年『今年が最高!』と思ってやっています」と照沼さん。デザイナーたちの高度な遊び心や挑戦が詰まった作品は、時に大変だとしても誰よりも楽しんでクリエイトしたもの。それを見る審査員もワクワクして選んだという、前のめりなエネルギーを展示の全体から感じます。ビジネス社会におけるデザインの評価よりもあえて実験性を重んじながら、ユニークに存在し続けているTDC展。つくり手の目線に立ってみても、自分のそういうクリエイティブを見てもらえる場があると思うと、いろいろな可能性を追求したくなりそうです。記事では紹介しきれないほどの魅力的な作品群がひしめくggg、ぜひ足を運んで見てみませんか?
イベント情報
「TOKYO TYPE DIRECTORS CLUB EXHIBITION 2025」
会期:2025年4月4日(金)~5月17日(土)
開館時間:11:00~19:00
休館日:日曜日、4月29日、5月3日~6日
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)