マンガ『サ道』はこうして生まれた #サウナでわたしも閃いた サウナ大使/マンガ家 タナカカツキさん
最近、にわかにサウナが注目を集めているのをご存知でしょうか。サウナー(サウナ愛好家)のバイブルといっても過言ではない『サ道』(パルコ)が2011年に発刊され、サウナの作法が広く知れ渡る起爆剤になりました。この作法とはサウナと水風呂と外気浴を繰り返すことを差し、この工程により血流が身体中を駆け巡り、脳に大量の酸素が送り込まれ、脳内ホルモンであるβ-エンドルフィン(不安を軽減させる)やオキシトシン(ストレスを緩和し幸せな気分をもたらす)、神経伝達物質のセロトニン(精神を安定させる)が分泌され、多幸感や恍惚感が湧いてくると言われています。この状態をサウナーは「ととのう」と表しますが、ディープリラックスからのサウナトランスは多くの人を虜にしています。
これまで数多のサウナ記事で、サウナの身体的な効能については語られてきましたが、「advanced by massmedian」では新たなサウナの魅力について探っていきます。題して、「#サウナでわたしも閃いた」。「サウナはクリエイティブな発想を生み出す装置」という仮説に基づいて、さまざまなサウナ好きのクリエイターにインタビューしていく連載をスタートします。サウナーでない人でも、シャワーを浴びているときに突然アイデアが閃いた!なんて経験をお持ちではないでしょうか? この「サウナと閃き」の関係性について探っていきたいと思います。前回に引き続き、マンガ『サ道』の著者であり、テレビ東京で7月からオンエア予定のドラマ『サ道』の原作者でもあるタナカカツキさんに、サウナで閃いたエピソードを伺ってきました。
これまで数多のサウナ記事で、サウナの身体的な効能については語られてきましたが、「advanced by massmedian」では新たなサウナの魅力について探っていきます。題して、「#サウナでわたしも閃いた」。「サウナはクリエイティブな発想を生み出す装置」という仮説に基づいて、さまざまなサウナ好きのクリエイターにインタビューしていく連載をスタートします。サウナーでない人でも、シャワーを浴びているときに突然アイデアが閃いた!なんて経験をお持ちではないでしょうか? この「サウナと閃き」の関係性について探っていきたいと思います。前回に引き続き、マンガ『サ道』の著者であり、テレビ東京で7月からオンエア予定のドラマ『サ道』の原作者でもあるタナカカツキさんに、サウナで閃いたエピソードを伺ってきました。
──マンガ執筆やドラマ監修でお忙しい中、2回に渡りインタビューにお答えいただきありがとうございます。前回は「コップのフチ子」の閃きエピソードをお話しいただきましたが、そのほかにもまだあるのでしょうか?
実はサウナのほかに、「水草水槽」も嗜んでおりまして、その作品づくりでも発揮されました。
──水草水槽ですか…? どのようなものなのでしょうか?
アクアリウムと言うと、熱帯魚を飼育するイメージを持っているかと思いますが、そうではなく、水草を生育するジャンルもあるんです。ただ単純に水草を植栽するだけではなく、魚やバクテリアの相互作用によって、水槽の中に小さな生態系をつくりあげていきます。水槽をキャンバスとし、生きた絵画を制作するイメージです。私たちは「水景画」と呼んでいるのですが、次はどんな方法で、どんなテーマを持った作品をつくるか。そんなことをサウナでととのった後に考えています。
水草水槽の初期段階は、まだ生態系が働いてないので、水の管理を怠るとたちまちコケに覆われて作品は崩壊してしまうんですね。そこで、水槽に水を入れずにソイル(砂や砂利)や空気中の水分で水草を育てます。水草が生い茂ってある程度成長したタイミングで、水槽に水を満たして水中管理へ移行します。水草は、実は水陸両用で、水中でなくても、湿度の高いミスト状態であれば育つんですね。そのように、初期の管理方法を変えたら制作がすごく楽になったんです。その管理の方法を「ミスト式」と命名しました。
そういうことです(笑)。サウナと水草ってすごく共通点があって、サウナで重要な水風呂も水質が重要じゃないですか。静岡のしきじも、熊本の湯らっくすも、天然水や地下水を引いていて水質が良いから、サウナーからの評価が高いですよね。水草水槽も水質の管理がまずは基本。いい作品は水が上質なわけです。そして、メンテナンスの基本は「水換え」なんです。新鮮な水を循環させることで、草や魚、バクテリアが元気になる。生命が活気づくんですよね。サウナも汗をかいて水を飲んで、体内の「水換え」をしてるようなもんですよね。新鮮な水で私たちは意欲を回復させている。このようにサウナと水草を行ったり来たりすることで、両方から新たな気づきを得ています。
関連していると思います。あともう一つ、私の原点と言っても過言ではないのですが、サウナで閃いたものとして「“サウナ”に気づいた」ことでしょうか。
──「“サウナ”に気づいた」ですか! 詳しいエピソードを伺いたいです。
サウナがマンガのネタになりそうだと気づいたということです。私がサウナに初めて気づいたのは2008年でした。当時のサウナのイメージって本当にひどくて、ダメサラリーマンが終電を逃して一夜を明かす吹き溜まりのような場所だったんです。だから、私も敬遠していたのですが、たまたまサウナでトリップする経験をして、すぐにネットでいろいろと調べはじめました。ただ当時はあまりサウナの情報が出回っていませんでした。それで、サウナ利用者の行動をよくよく観察してみると、彼らには暗黙知のような修練された作法のようなものがあることを発見しました。これについてもっと深掘りしてみるのは面白いかもしれない。私は今までサウナを誤解してたんだと気づいて、それが『サ道』につながるわけです。言ってみれば、サウナでサウナのことに気づいた。これをネタに、文章でもマンガでも何かしら表現してみるのは面白いかもしれないと、サウナでととのった後に閃いたんです。
──そういうことですか! 『サ道』の原点につながっているわけですね。
オルダス・ハクスリーが書いた『知覚の扉』に若い頃すごく影響を受けました。内容は、幻覚剤メスカリンを使用した意識状態で、芸術作品がどう映るか、物体がどう見えるかを描写したものです。アーティストやクリエイター、サイエンティストの実験を記録した1冊で、サイケデリックの金字塔になったバイブルのようなものです。これのサウナ版ができないかなと考えたんです。というのも、「ととのう」などのサウナ体験と言えるようなものがありますし、その後のモノの捉え方、ライフスタイルも変化します。サウナを今までとは違う、なにかそのような、面白い別の語り口で表現することができるんじゃないかと。 ──描く前から『サ道』をバイブルにするビジョンをお持ちだったんですね。
いえ、バイブルとか、そういうのはなかったんですけど(笑)、当時は「サウナ」に対するイメージが良くなかったので、『サ道』を通してサウナから得られる多幸感や恍惚感をもっと多くの人に知ってもらいたいというビジョンを持っていました。そのために、「サウナ」という単語が悪いんじゃないかと思って、改名すら考えていたんです。それこそ、ディスコではなくクラブみたいな。けれども、「サウナ」の音の響きっていいなって思っていたんです。日本には「サ神信仰」という考えがあって、現実世界と精神世界をつなげるときに、「サ」が多く使われるみたいなんです。境目(サカイメ)や坂(サカ)、酒(サケ)などがそうです。そのほかにも桜(サクラ)や榊(サカキ)なども。さらに「サウナ」の語源自体も、生と死を行ったり来たりするという意味が含まれているとか。だから私たちの世代の「サウナ」のイメージを、後の世代が新しく塗り替えてくれればいいな~って。
──マンガ版やドラマ版『サ道』を通じて、サウナをリブランディングしているのですね。ある意味「サウナ2.0」かもしれませんね(笑)。本連載もその一助になれればうれしいです。今回は週間連載中のご多忙な中、いくつものサウナで閃いたエピソードをご紹介いただきありがとうございました!
<撮影>池ノ谷侑花(ゆかい)
<取材協力>スカイスパYOKOHAMA「コワーキングサウナ・KOOWORK(クーワーク)」
実はサウナのほかに、「水草水槽」も嗜んでおりまして、その作品づくりでも発揮されました。
──水草水槽ですか…? どのようなものなのでしょうか?
アクアリウムと言うと、熱帯魚を飼育するイメージを持っているかと思いますが、そうではなく、水草を生育するジャンルもあるんです。ただ単純に水草を植栽するだけではなく、魚やバクテリアの相互作用によって、水槽の中に小さな生態系をつくりあげていきます。水槽をキャンバスとし、生きた絵画を制作するイメージです。私たちは「水景画」と呼んでいるのですが、次はどんな方法で、どんなテーマを持った作品をつくるか。そんなことをサウナでととのった後に考えています。
──なるほど、そういうことですか。確かにお見せいただいたこれらの作品をつくるには、コンセプトやテーマが必要そうですね。
水草水槽の初期段階は、まだ生態系が働いてないので、水の管理を怠るとたちまちコケに覆われて作品は崩壊してしまうんですね。そこで、水槽に水を入れずにソイル(砂や砂利)や空気中の水分で水草を育てます。水草が生い茂ってある程度成長したタイミングで、水槽に水を満たして水中管理へ移行します。水草は、実は水陸両用で、水中でなくても、湿度の高いミスト状態であれば育つんですね。そのように、初期の管理方法を変えたら制作がすごく楽になったんです。その管理の方法を「ミスト式」と命名しました。
──ミストサウナから着想を得たんですね。面白いですね。
そういうことです(笑)。サウナと水草ってすごく共通点があって、サウナで重要な水風呂も水質が重要じゃないですか。静岡のしきじも、熊本の湯らっくすも、天然水や地下水を引いていて水質が良いから、サウナーからの評価が高いですよね。水草水槽も水質の管理がまずは基本。いい作品は水が上質なわけです。そして、メンテナンスの基本は「水換え」なんです。新鮮な水を循環させることで、草や魚、バクテリアが元気になる。生命が活気づくんですよね。サウナも汗をかいて水を飲んで、体内の「水換え」をしてるようなもんですよね。新鮮な水で私たちは意欲を回復させている。このようにサウナと水草を行ったり来たりすることで、両方から新たな気づきを得ています。
サウナ道の原点
──確かに一致する部分が多いですね。思わぬところでブリッジするのですね。前回のインタビューでおっしゃっていた「ピースとピースが組み合わさる」感覚でしょうか。やはり「サウナと閃き」は関係性がありそうですね。関連していると思います。あともう一つ、私の原点と言っても過言ではないのですが、サウナで閃いたものとして「“サウナ”に気づいた」ことでしょうか。
──「“サウナ”に気づいた」ですか! 詳しいエピソードを伺いたいです。
サウナがマンガのネタになりそうだと気づいたということです。私がサウナに初めて気づいたのは2008年でした。当時のサウナのイメージって本当にひどくて、ダメサラリーマンが終電を逃して一夜を明かす吹き溜まりのような場所だったんです。だから、私も敬遠していたのですが、たまたまサウナでトリップする経験をして、すぐにネットでいろいろと調べはじめました。ただ当時はあまりサウナの情報が出回っていませんでした。それで、サウナ利用者の行動をよくよく観察してみると、彼らには暗黙知のような修練された作法のようなものがあることを発見しました。これについてもっと深掘りしてみるのは面白いかもしれない。私は今までサウナを誤解してたんだと気づいて、それが『サ道』につながるわけです。言ってみれば、サウナでサウナのことに気づいた。これをネタに、文章でもマンガでも何かしら表現してみるのは面白いかもしれないと、サウナでととのった後に閃いたんです。
──そういうことですか! 『サ道』の原点につながっているわけですね。
オルダス・ハクスリーが書いた『知覚の扉』に若い頃すごく影響を受けました。内容は、幻覚剤メスカリンを使用した意識状態で、芸術作品がどう映るか、物体がどう見えるかを描写したものです。アーティストやクリエイター、サイエンティストの実験を記録した1冊で、サイケデリックの金字塔になったバイブルのようなものです。これのサウナ版ができないかなと考えたんです。というのも、「ととのう」などのサウナ体験と言えるようなものがありますし、その後のモノの捉え方、ライフスタイルも変化します。サウナを今までとは違う、なにかそのような、面白い別の語り口で表現することができるんじゃないかと。 ──描く前から『サ道』をバイブルにするビジョンをお持ちだったんですね。
いえ、バイブルとか、そういうのはなかったんですけど(笑)、当時は「サウナ」に対するイメージが良くなかったので、『サ道』を通してサウナから得られる多幸感や恍惚感をもっと多くの人に知ってもらいたいというビジョンを持っていました。そのために、「サウナ」という単語が悪いんじゃないかと思って、改名すら考えていたんです。それこそ、ディスコではなくクラブみたいな。けれども、「サウナ」の音の響きっていいなって思っていたんです。日本には「サ神信仰」という考えがあって、現実世界と精神世界をつなげるときに、「サ」が多く使われるみたいなんです。境目(サカイメ)や坂(サカ)、酒(サケ)などがそうです。そのほかにも桜(サクラ)や榊(サカキ)なども。さらに「サウナ」の語源自体も、生と死を行ったり来たりするという意味が含まれているとか。だから私たちの世代の「サウナ」のイメージを、後の世代が新しく塗り替えてくれればいいな~って。
──マンガ版やドラマ版『サ道』を通じて、サウナをリブランディングしているのですね。ある意味「サウナ2.0」かもしれませんね(笑)。本連載もその一助になれればうれしいです。今回は週間連載中のご多忙な中、いくつものサウナで閃いたエピソードをご紹介いただきありがとうございました!
<撮影>池ノ谷侑花(ゆかい)
<取材協力>スカイスパYOKOHAMA「コワーキングサウナ・KOOWORK(クーワーク)」