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スタッズ=突出した存在

クドウ:初体験の「ヘリ搭乗」の感想をお聞きする前に、せっかく開催中の個展でお話を伺えるので、それぞれの作品のコンセプトなどをご説明していただけますか。

古賀:まず個展「STUDS」は、イタリアのアパレルブランドCoSTUME NATIONAL(コスチュームナショナル)さんからコラボのお声がけをいただいて、動き始めました。ただ作品を展示するだけでは面白くないので、僕の作品に取り入れているスタッズを「突出したもの、こと、人」と再定義して、常識を突き破る人物をモチーフに作品をつくろうと考えました。

クドウ:古賀さん自身が、陶芸界から突出していますものね。ちなみにこちらは誰をモチーフにしているのですか?
古賀:これは、格闘家の青木真也さんをイメージしています。見ていただければおわかりのように、常識破り・型破りな作品となっています。焼き物の世界では、割れる危険のある壺はNGです。しかし、あえてギリギリのところで均衡を保つような作品にしました。
クドウ:緊張感がある作品ですね……。次は…あ、これはわかった! BABYMETALですね?
古賀:そうです、そうです! ぜひベビメタの3人にお面をかぶってほしいと思ってつくりました。彼女たちは「カワイイ×ヘビーメタル×日本文化」の掛け合わせで、世界的にも人気で突き抜けた存在です。彼女らが表現したいことを伝統的な狐の面に集約しようと試みました。ストレートすぎる表現になっていると思うのでベビメタの制作チームもここは盲点なんじゃないかなってくらい良いものがつくれた自負があります。
クドウ:確かにこれはベビメタの制作チームも喜びそうですね。

古賀:この作品は、女優・のんさんの活動に感銘を受けて創作しました。彼女は、女優だけでなく、音楽や絵描きなどアーティストとしての一面もあります。『‘のん’ひとり展-女の子は牙をむく-』という彼女の個展で、可愛らしい顔に猛獣みたいな口をコラージュする作品を見て、内に秘める激情を感じました。あとでお見せしますが、僕も口に当てる禍々しい作品をつくったりしたので、なお一層シンパシーを感じましたね。
クドウ:古賀さんの代表作の頬鎧盃(ほおよろいはい)ですね。今回は誰をモチーフにしたのでしょうか?

古賀:これまで歴史上の人物をモチーフに制作してきた頬鎧盃ですが、今回初めて現在を生きる尖った方をモチーフに3作品作りました。まずこの一番大きなスタッズがついている作品は、ラッパーのKOHHさんをイメージしています。生き方を絞っていて本当に尖った方だなという印象があったので、このような形になりました。
古賀:次は、フリースタイルフットボーラーの徳田耕太郎さん。過去に日清食品のWebムービーにも出ていた方ですが、サッカーの八咫烏(やたがらす)をイメージしています。
古賀:最後は、ロックバンド・ONE OK ROCKのTakaさん。バキバキなロックバンドですがロックという西洋の要素の中に、どこか日本的な良さを感じました。そして世界へ向けて発信し続ける姿勢に共感して、つくりました。
クドウ:これは……ほかの作品とは少し傾向が違いますね。
古賀:心臓の形をした花瓶です。強靭な心臓のことを、「心臓に毛が生えている」と言いますが、それをスタッズで表現できないかなと。それで日本一強靭な心臓の持ち主は誰だろうと考えたとき、サッカー選手の本田圭佑さんが思い浮かびました。

クドウ:心臓シリーズはもともと創作していたのですか?

古賀:いえ、この企画展で人間をモチーフにすると決めたときに、最初にパッと思いついたのが「心臓」でした。
クドウ:こうした作品ってどのように制作していくのですか?

古賀:まず原型を石粉粘土・パテなどでつくり、その後石膏で型を成形します。ここまでで結構な日数を要します。石膏型は数日かけて乾燥機で乾かし、やっと使用できる状態になります。土を液状へ加工し、石膏型へ流し込みます。そして石膏が水分を吸ってくれるので表面が硬くなっていきます。内側のドロドロの土を外へ排泥した後、数日間乾かし徐々に硬くしていきます。スタッズを施したり、ディティールを詰めたりして、それから焼きの工程です。最初に930℃ほどで素焼きをして2日間冷却させ、釉薬をかけ、さらに1300℃で本焼きして3日間冷却させて、焼き物になります。そこからさらに金やプラチナを塗って焼き上げます。結果、1つをつくりあげるのに総合で1カ月ぐらいかかってしまいます。このため今回のような規模の個展を開くとなると1年間ぐらいかかってしまいますね。

クドウ:気が遠くなるような工程ですね。

古賀:最悪なのは、金やプラチナを塗った後に割れてしまうことです。「僕の1カ月はなんだったのだろう」と自暴自棄になります。けれども、これは良い作品をつくるために必要な工程で仕方がないことと割り切って、作業を進めています。

クドウ:この個展にあるのは、生き残った精鋭たちなのですね。

ヘリコプターで東京を眺望して気づいたこと

クドウ:積極的に新しい体験にチャレンジしていくことは、本流の創作活動の刺激にもなるし、今後新たに取り組んでいこうと考えている支流にも活きるのではないかと日々感じており、特集「初体験ズ」をスタートしました。まず、なぜ初体験として「ヘリコプターで東京を眺望」を選んだのでしょうか?

古賀:僕の作風である「スタッズ」は、実はファッション的発想からではなく、モノに内在するモーメント(時間と力)を可視化した幾多にも連なるものでした。力の最小単位としての形状を追い求め、最初は四角柱・円柱・球体を陶器に付けたり、逆に彫ったりしていました。

ステレオの画面などについている音楽に合わせて波打つ棒みたいなものありますよね? あれ“スペクトラムアナライザ”というのですが、“都市のビル群”を表現するのに適しているのではと考えました。音楽や都市に内在する力を柱体で表現してみようと。その表現を経てさらに、力の最小単位として強いフォルムはなにかを突き詰めていくと、ブリティッシュパンクカルチャーなどで用いられ、反骨心の象徴でもあるスタッズに行き着きました。実は円錐や三角錐は、接地面が広く先端が細くなっているため物理的に強いんです。錐ではないですが、いわゆる東京タワーのような形状です。倒れにくい、折れにくいというのは焼き物の強度的な側面でも向いていました。
クドウ:それで次の創作活動につなげるために、「東京のビル群を上から見たい」という初体験を選んだわけですね。

古賀:そうです。そのようなことを考えていたけど、意外と上から眺めたことはないなと気づいて。もちろん飛行機で眺めたことはありますが、遠目で都市のダイナミックさは感じられなかったので、ヘリコプターで都市のリズムを感じたいと思い、依頼しました。

クドウ:ヘリに乗って上から周回してみると本当にリズムを感じましたよね。新宿・渋谷らへんは大サビ感がありました。僕もヘリで東京上空を飛ぶのは初めてでしたが、新宿と渋谷が点と点から線でつながって、エモかったです。

古賀:人工物の荘厳さを感じましたね。資本も電気も集結した都市に渦巻く力や人の感情を直で垣間見て、面白かったです。いまはGoogle Earthで俯瞰して見られるかもしれませんが、生で体験しないとダメですね。ヘリの音、ヘリの振動、東京の夜景、上空の湿気など五感すべて含めて体験だったなと。

あと面白かったのが、東京のメリハリ、もしくは疎と密。東京駅や新宿が煌々と光る中、皇居や新宿御苑・明治神宮が真っ暗で印象的でした。僕の作品は、敷き詰められたスタッズが特徴的ですが、この「余白の美」は活かせそうだなと感じました。パーティーがずっと続いても飽きますが、たまにあるから面白いのです。ハレとケの発想ですよね。

トラディショナルな業界を飛び越えて

クドウ:少し話は変わりますが、陶芸に限らず、下積みをして業界の作法をちゃんと学んだ上で、ようやく一人前に表現するのを許されるといった慣例はどのような業界にもあると思っています。もちろん基礎は必要ですが、その枠の中でプレイするのではなく、新しい表現に挑戦するための手段として学ぶこともあるのではないかなと感じています。古賀さんは陶芸界としては型破りな活動をしていらっしゃると思いますが、どのようにお考えですか?

古賀:焼き物には素材・技術・プロセスという3つの重要な要素があります。有田焼が生まれてから400年が経ちますが、この要素はずっと変わっていません。もちろん僕も大学時代や修行時代を経て、この3つの要素の基礎を鍛えてきました。さきほどお話した土をこねてから焼き上げるまでプロセスや、成形する技術を磨いてきました。その中で、金やプラチナという素材で新しいアレンジを加えようと考えました。ただしこれは僕個人の内から湧いてきた創作意欲で、旧来の伝統工法を続ける陶芸家と比較するものではありません。職人と作家の違いですよね。職人は100個のお茶碗を同じ重さで同じ形でつくることに長けています。しかし僕は他の人がやれないような表現を探している中でたどり着いたのです。
クドウ:そういう言葉をお聞きできて嬉しいです。トラディショナルな業界であるほど、凝り固まっているような感触があります。そのなかで古賀さんのチャレンジングな姿勢はとてもカッコイイです。

古賀:一昔前までは、職人になるには、陶芸家に弟子入りして師匠や兄弟子のもとで下積みをするのが一般的でした。しかし大学教育の台頭で、基礎技術を身に着け、さまざまな考え方を取り入れる機会ができました。そこで、なぜつくるのか? なぜ土なのか? といった部分について考えさせられます。

クドウ:手段的なHowではなく、根源的なWhyを探究するわけですね。

古賀:だから僕は職人ではなく作家志向だったんです。

「初体験」は究極のインプット

クドウ:古賀さんに限らず、専門領域で働いている人が、殻を破って初めてのことをしてみると、これまで積み重ねてきたスキルと新たに習得したスキルが掛け合わさって、思いもよらないアイデアが生まれるように感じます。しかし、なかなか腰が重くて初体験に取り組めないといった人もいるような気がするのですが、どうすればいいと思いますか?

古賀:僕も以前はひたすら創作活動を続けていたのですが、昨年からあえて制作しない日をつくりました。その日は美術館などへ足を運ぶインプットの日と決めました。あるとき、熊本市現代美術館で村上隆さんの展覧会があったので見に行きました。そこで衝撃を受けたんです。これは僕の中で一つの「初体験」でしたね。正直に言うと美術館という空間が苦手で避けていたし、こんなものだろうとわかっていた気でいました。しかし村上さんが手がけた展示を見て、電気が体中を駆け巡るような感動を覚えました。

クドウ:強制的にでも、自分に初体験をさせることは必要かもしれませんね。

古賀:足を伸ばして本当によかったです。それ以来、より積極的にインプットの場を設けるようになりました。

クドウ:世の中の多くの仕事は、同じことの繰り返しじゃないですか。そのなかで「なんで俺はこの仕事をやっているんだっけ?」という疑問を持たずに、精一杯目の前の仕事に取り組んでいる人が多いと思います。そういうときに、インプットは改めて自分の仕事について振り返るきっかけになるかもしれませんね。
古賀:いま開催している個展「STUDS」で一番嬉しかったことは、「初めてこんな感覚になった」と声をかけてくれる人がいたことです。自分の個展が彼らにとっての初体験になり、なにかしらの気づきを与えられたら幸せなことですよね。

クドウ:インプットは大事ですね。「初体験」にチャレンジすることはある意味、究極のインプットかもしれませんね。濃度的にも、効率的にも。今回、古賀さんと初体験をご一緒できてよかったです! これからも連載を通じて、いろいろな人を「初体験」に巻き込んでいきたいです。ありがとうございました。
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【ナビゲーター】
クドウナオヤ
電通 CMプランナー/コミュニケーション・デザイナー
2012年 電通入社、デジタル・クリエーティブ・センター所属。トヨタのグローバルキャンペーンをはじめ、LEXUSのテレビCMや、日清食品/チキンラーメンのWeb動画「侍ドローン猫アイドル神業ピタゴラ閲覧注意爆速すぎる女子高生」などCMを基軸にした案件を担当。さらに資生堂/マジョリカマジョルカ「マジョリ画」、音楽を味覚化するプロダクト「SQUEEZE MUSIC」といったデジタルを活用したサービス・プロダクトの開発も手がけるなど、さまざまなクリエイティブ領域を“越境”する。New York Festivalsの若手コンペで世界一位になるなど、日本代表として数々の国際賞レースを経験。海外の大学での客員講師など、広告業界内外で講師も務める。

最近では、一夜にしてインスタグラマーになった秋田の84歳「シルバーテツヤ(@slvr.tty)」の“生みの孫”としても注目を集める。
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