祭りに吹く、追い風

──スマホや気軽に参加できるアクティビティが増えたせいか、祭りが少なくなっている印象を持っています。祭り専門家である加藤さんは、どのように現状を捉えていますか?
あの青森ねぶた祭りですら参加者が減っているという話題が新聞でも取り上げられていますよね…。ですが、私はむしろ、祭りには追い風が吹いていると考えています。その兆候はすでに表れていて、昨年Twitterでバズっていた盆踊りブームはご存知ですか? 中野駅前盆踊り大会がDJ KOOさんなどをゲストに迎えて、「EZ 盆 DANCE」や「ボン・ジョヴィで盆踊り」などJ-POPや洋楽で盆踊りをし、多くのメディアに取り上げられました。Twitterにアップされた動画が多くの人の目にも届き、にわかにブームを起こしていたんです。
──昨夏すごくSNSで拡散されていましたね! 祭りとSNSの親和性は高そうです。
「EZ 盆 DANCE」のような新しい取り組みによる注目もありますが、あまり知られていなかった伝統的な祭りがSNSを通じて新たな層に発見されるパターンも増えています。例えば、SNSなどで「日本の奇祭」として取り上げられた結果、参加者の半数以上が外国人の方たちになったり、3時間の入場規制がかかったりするほど、人気に火がつく…なんてことも起こっています。

また祭りは、テクノロジーとも親和性が高いです。青森ねぶた祭りではプロジェクションマッピングを活用した「ハイパーねぶた」と呼ばれる新しいねぶたが実現しています。これはプロジェクションマッピングを投影することでねぶたに描かれた絵が動いて見えるというものです。ほかにも、祭りの参加者向けのアプリも開発されています。ねぶたの位置やよさこいを踊っているチームについての解説などを閲覧できるものです。
──なかなかニッチなアプリ…! あらゆる意味で、祭りが変化のフェーズに入ってきているように感じます。
祭りを取り巻く環境は日々変化していて、今後追い風はさらに強くなると考えています。というのも、2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据えた日本の観光立国化が大きな要因です。2020年までに訪日外国人の数は4000万人を見込むと言われていますし、その先2025年には大阪万博、また日本初のカジノ開業の話もありますよね。このように国がインバウンドへの施策にますます力を入れていく状況で、日本の伝統文化の塊である「祭り」はフックとしてとても有効です。観光コンテンツとして白羽の矢が立ちやすいのです。

それに日本は、「世界一祭りがある国」と呼ばれていて、年間30万件もの祭りが開催されていると一説には言われているんです。単純計算で毎日800件の祭りがどこかで行われている。音楽系のフェスも一種の祭りと言えますし、日本人はやはり、祭りが大好きなんですよね(笑)。

世界一祭りがある国、日本

──30万件もあるのですか! 日本人の生活や文化は祭りとともにあると言っても過言ではなさそうですね…。
日本の祭りの発祥をさかのぼると、稲作時代の五穀豊穣祈願など神事が由来になっていて、作物の豊作や気候に恵まれるように神様に祈りを捧げることが祭りの起源と言われています。特に夏場は、台風や害虫による影響も多く、また都会部では疫病が流行る季節でもありました。そのため、夏場は疫病や作物の腐食封じなどで、神様に祈る機会が多かったため、祭りの数も多いのです。
──確かに夏は祭りが多い印象でしたが、そういった時代背景があっての理由なのですね!
そうなんです。その後、神に祈る意味を持つ祭りから徐々に発展していき、賑やかしや度胸試しのような要素も付加されていきました。昔は度胸を持つ男性が男らしいとされ、モテたこともあって、祭りの規模や人気、人数が増えていき、現在へと続く祭りになっていきました。

前述の通り、現代では祭りを取り巻く環境がポジティブな向きに動いています。テクノロジーや流行を取り入れて注目されていくものや、WebやSNSの活用で集客に成功しているもの、そしてまったく新しい祭りも生まれています。その一方で、時代の流れについていけない祭りが淘汰されている実情もあります。

──30万件もの祭りがあるので、シビアな問題ですよね。淘汰されていく要因について、どのように考えていらっしゃいますか?
やはり、運営側や担い手の少子高齢化、地域の過疎化が主な理由です。高齢化や人手不足が起こっている祭りの運営では、急激なテクノロジーの受け入れはなかなか難しいのが現状です。新しい担い手を募るにも、WebやSNSの運用ができるか否かで大きな差があります。
とは言え、必ずしもすべての祭りが大幅にテクノロジーを取り入れていくのが良いかと言うと、必ずしもそうではありません。テクノロジーを導入しすぎても祭りが持つ伝統や特性を打ち消すことになってしまうからです。伝統文化とテクノロジーのバランスを保ちながら、運営側が運営しやすく、参加者にはより楽しんでもらうためのテクノロジーやデジタル化の道を提示してあげることが必要なのではないかと思っています。

祭りが持つ、”底力”

──テクノロジーと伝統の適切なバランスが必要とのことですが、具体的に言うとどのようなものになるのでしょうか?
すでに実証実験も始まっているのですが、祭りと電子決済システムは非常に親和性が高いと思っています。参加者はビールやたこ焼きを片手に屋台を回ります。これまでのように財布から小銭を出すよりも、スマホやICカードで決済できた方が手間もかからず、楽ですよね。また、運営側にも大きなメリットがあります。これまでの祭りでは、正確な参加者データや売上データが取れていないことが多かったため、出品される商品はニーズに照らし合わせたものとは限らず、適当になっている部分もありました。そこに電子決済システムなどを導入することで、実際の購入データを取得できます。そうすることで、お客さんがなにを求めているのかニーズも測ることができますし、売上対策や雨天時などの場合の対応策などができる。非常に多くの経済的なメリットが生まれてくるんです。

──確かに、それは双方に大きなメリットがありますね!
運営・担い手募集の窓口についてもそうです。実は、祭りの手伝いをしたい人たちや神輿の担ぎ手をやりたいという20~30代の若い方たちは少なくないのです。ただ、それをしようにも窓口がわからないという意見が多くあります。そのため、HPやSNSを持つ祭りに人が集まりやすい傾向があります。

オマツリジャパンでも、サポーターというボランティアスタッフを募っており、現在374人(※2019年7月現在)に及ぶサポーターがいます。そのなかには地方創生に携わりたいと思う人がたくさんいます。そういった人たちを集めるためにもWebやSNSなどのテクノロジーでつながれる手段を示すことは重要だと思っています。
──貴社に登録しているボランティアスタッフの方たちだけでも374人いらっしゃるのですか…。そもそもなのですが、加藤さんが祭りを支援していこうと思ったきっかけはなんだったのでしょう?
2011年の青森ねぶた祭りで、東日本大震災直後で集客に影響を受けながらも地元の人たちが祭りを通して、盛り上がる様子に感銘を受けたのがきっかけです。その当時、私は武蔵野美術大学で油絵を専攻していて、絵描きやアートの分野で生きていきたいと思っていました。そんななかで、震災直後にもかかわらず、活気づくねぶた祭りの様子を見て、私も人の役に立つことをしたいと思いました。

その当時の私にできることって絵を描くことだけしかなかったのですけど、絵を描いてそれが直接誰かの助けになることって難しい。だから、最初は家の近くでやってる祭りのポスター制作やステージ設営の手伝いなど、自分の周りでできることを少しずつ行っていました。そうした活動をしていくなかで、同じ考えを持つ仲間と出会うことができ、オマツリジャパンの事業として祭りの支援をしていくまでに至ったのです。

──祭りが持つ底力に魅せられたのですね。
そうですね。実際に祭りを支援していくなかで発見できることはさまざまあります。例えば、企業などの法人が祭りを支援していく仕組みもかなりレガシーであることが多いんです。たくさんの人が集まる祭りという場はPRをする場としてはうってつけの場所です。にもかかわらず、協賛しても企業名が入った提灯だけ…。なんてことも少なくないのです。そのミスマッチをなくしていくことも、オマツリジャパンが行っている事業の1つです。
──言われてみるとたしかに思い浮かぶ光景ですね。祭りやその界隈などは、まだまだ改善の余地は多そうです。
私個人としては、祭りをもっと身近で参加しやすいものにしていきたいと考えています。休みの日に動物園や映画館へ行くように、ラフにその場のノリで行ってもらえる場にしていきたいです。祭りがもっと身近になれば、地域ごとのコミュニティの活性化にもつながります。個人でできることが増えていくからこそ、自分の住む地域のコミュニティが持つ価値はこの先上がってくると思うんです。そのためにも、祭りに多くの人が集まっていく仕組みづくりを今後もしていきたいですね。いつまでも日本人にとって、祭りが大好きなものとしてあり続けられるような未来をこの先つくっていきたいです。

──テクノロジーによってまだまだ発展の可能性を持つ祭り。祭りの本質に寄り添いながら、未来へ導いていくオマツリジャパンの活躍が今後の祭りをどう変えていくのか。明るい未来に気付くことができました。本日はありがとうございました!
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