本、Webメディア、オンラインサロン、音声メディア…。出版社と読者の関係が行き着く未来は? 講談社 mi-mollet編集次長兼ブランドマネージャー 川端里恵さん
講談社が「明日の私へ、小さな一歩!」というコンセプトで、ミドルエイジ女性に向けて展開するWebマガジン『mi-mollet(以下、ミモレ)』。2015年に創刊し、2020年4月にはオンラインサロン〔ミモレ編集室〕を開設しました。今回は、ミモレの編集次長兼ブランドマネージャーを務める川端里恵(かわばたりえ)さんにインタビュー。川端さんは、新卒で講談社に入社し、4年間の広告営業を経験したあと、女性誌『with』『VoCE』『FRaU』編集部やデジタル部署を経て、ミモレには創刊直後から携わってきました。10年以上にわたりWebメディアを手がける川端さんに、ミモレのこれまでの取り組みやこれからのビジョンなど、出版社でのWeb領域の仕事ついて、お話しいただきました。
──川端さんは20年近く出版業界で働くなかで、どのような部分に変化を感じますか?
紙とWebの位置づけです。10年以上前、私がWebの編集に携わり始めたころは、Webはあくまで紙の誌面に付随したもの、という考え方でした。コンテンツも本誌ありきで、誌面の内容をWebに転載することがほとんど。またお金の面で見ても、Webサイトは電車の中吊りや新聞広告と同じように、Web上の宣伝物という捉え方でした。以前はWebに予算をとってコンテンツをつくるという発想が会社的にも世の中的にもあまりなかったのです。それがいまではWebも独立した一つのメディアとしてコンテンツを制作するようになりました。それがこの10年くらいでの変化だと思います。私が携わっているミモレもその一つの例ですね。
──ミモレはどのようなWebメディアなのでしょうか。
ミモレは「ミドルエイジ女性のリアルとチェンジ」をコンセプトにしたWebメディアとして誕生しました。その特徴として、私たち編集者が顔と名前をオープンにしてミモレに記事を掲載しています。これは、読者との双方向のコミュニケーションを大切にしているためであり、記事に読者からのコメントがつくことで、情報が完結するという考え方をしているからです。これまで講談社の立ち上げてきたメディアでは編集者が顔出しをすることはあまりなかったため、この部分はミモレの大きな特徴になっています。
そして、読者からのコメントがついたときには、その記事の編集者や著者がコメントに返信をしています。それがきっかけで読者と編集者の距離が縮まっていますね。感覚としてはSNSとWebメディアの間の立ち位置でしょうか。Webメディアのミモレにファンがつく、というより編集者や著者一人ひとりにファンがいる。そんな関係になっていると思います。実際に、読者の方から街で声をかけられることもあるんですよ(笑)。直接会ったことはなくても、コメント上でのやりとりを通して、友人のように思ってもらえているのかもしれませんね。 ──川端さんはどのような役割を担っているのですか?
担当記事の編集ほか、ミモレの編集次長兼ブランドマネージャーとしてマネタイズやブランディングも担当しています。ミモレでは編集長とブランドマネージャーで担当領域を分担しており、コンテンツの統括を編集長が、収益などのビジネス面の統括を私が担っています。ほとんどのメディアでは、一人の編集長がコンテンツとビジネスの両軸をマネジメントするケースが多いと思います。そこを二人で相談しながら進める体制になっているのは、「こういう企画をしたい」というコンテンツ側の視点と、「それは収益が成り立つのか」というビジネス側の視点。それぞれのバランスを保つために理にかなっていると思います。
というのも、Webメディアは雑誌以上にコンテンツと収益が表裏一体です。雑誌の場合は、編集部は誌面をつくるところまでで、その先は販売部や宣伝部の役割が大きい。一方Webメディアは、記事をつくって公開し、宣伝して見てもらうところまで編集者が考えなければなりません。広告についても、雑誌は掲載して広告費をもらうことである程度完結しますが、Webメディアだとクリック数や申し込み数が数値として反映されるため、反響も含めてデザインする必要があります。ミモレでは、コンテンツ面と収益面の両方を編集部内で考えることで、両軸のバランスをとっているのです。
──2021年3月現在、創刊から6年が経ちますが、現在のミモレはどのような状況にあると捉えていますか?
2020年以降、アクセス数が飛躍的に伸び、拡大期に入ったと思っています。その要因に挙げられるのは、コロナ禍で在宅時間が増えたことです。ネット上で情報収集や買い物をする人が増えたと思いますが、それはミモレの読者層に多いミドルエイジの女性の方たちも例外ではありません。以前からオンラインイベントやインスタライブもミモレでは開催していましたが、コロナ禍によってより一層オンライン上でのイベントへの参加が積極的になったように感じます。こうした動きにより成長スピードが一気に加速し、2021年3月現在では月間460万ユーザー、3000万PVを超えました。
また、ミモレが創刊当初から変わらず、「ミドルエイジ女性を応援する」ことを追求し続けてきたことも、成長の要因だと思っています。創刊時は、スタイリストの大草直子さんが編集長(現在はコンセプトディレクター)を務めていました。多くの女性の支持を集めていた大草さんが手がけるメディアということで、当時から注目度も高く、ミモレのアクセス数は創刊当初から月間200万PVほどと、好スタートを切りました。そこから拡大を目指すにあたり、扱うトピックをさらに広げていく、という方法もあったと思います。しかし、無闇にコンテンツを増やしてしまうと、創刊当初のコンセプトとずれが生じてしまい、せっかく集まった熱量の高いファンの方たちが離れてしまうのではないか、と懸念したのです。結果、当初のコンセプトに沿ったコンテンツを追求し、読者の方の熱量を高めていこうと、あえて急拡大しない我慢の期間が2年ほどありました。その期間で着実にファンを増やし、手応えを感じ始めていたところに先述のコロナ禍による影響が重なり、追い風となりました。
──2020年3月には、オンラインサロン〔ミモレ編集室〕を立ち上げられたかと思います。オンラインサロンを立ち上げた経緯を教えてください。
家でも会社でもない、ミドルエイジ女性にとってのサードプレイスをつくりたいと思い、立ち上げました。もともと、ミモレ自体に読者と私たち編集者がコメントでつながる、コミュニティ的な要素があったので、そこから発展していったのです。大人になったら、会社の同僚やママ友でもない人と出会う機会は少ないですよね。〔ミモレ編集室〕は、共通の趣味でつながった仲間と、「こんな服がほしいな」「今週末この映画を見るよ」など、何気ない話ができる場を目指しています。2021年3月時点で、参加メンバーは160人を超えました。参加者は日本全国に限らず、海外在住の方にも参加いただいています。 ──〔ミモレ編集室〕では月額5500円という会費の設定をされています。この設定にはどのような意図があるのでしょうか。
コミュニティに入りたい人を選抜するため、あえて5500円という強気の価格にしました。〔ミモレ編集室〕は、ミモレ読者のなかでも一際熱量の高い方たちのためのコミュニティにしたかったのです。だから月額500円ほどの安価な価格で数千、数万人の会員を集める方法は選択しなかったのです。
立ち上げ当初は、「5500円の会費に見合うコンテンツを提供しなければ…」という強迫観念が強く、有名人を招いたイベントやプレゼント企画などのメリットが必要だと考えていました。しかし、実際に運営してみると、会員の方たちが求めているのはそれらではなかったんです。現在、〔ミモレ編集室〕のコンテンツでもっとも人気なのは、「メンバー主催イベント」です。これは、読書会や雑貨づくりなど企画を会員自らが立ち上げ、参加者を募り、実際にイベントが開催できるというもの。この個人が開催するイベントの開催頻度や出席率がとても高く、人気を集めています。もちろん、編集部主催のイベントも開催しているのですが、会員一人ひとりにスポットライトが当たることに、より価値を感じてもらっているようです。
オンラインサロンでは一般的に、カリスマ性を持つ中心人物に対してファンが集まる形態が多いと思うのですが、〔ミモレ編集室〕にはそのような特定の人物はいません。メンバー同士、また、運営側である編集部とメンバーも、みんなが横でつながっているコミュニティになっています。そういう部分に需要を感じてもらえていると思いますし、その価値や楽しさをもっと伝えていきたいです。
──ミモレは今後どこへ向かっていくのでしょうか。
ミドルエイジ女性を後押しすることに加え、「気持ちを楽にしたい」という思いがあります。私もそうですが、40代を迎えた女性は大変なことが多いのです。家庭では妻や母親などの役割を持つ場合もありますし、仕事では中間管理職としての責任を持っている方もいらっしゃると思います。また自分自身の体の不調や自身の両親のケアをすることも出てくるでしょう。こうした忙しい日々を送る女性のなかには、「オシャレを楽しみたいけれど、そんなに時間をかけられない」と思っている方もいるのではないでしょうか。そんな女性たちが手軽にメイクやファッションを楽しめるような、気持ちを楽にできるコンテンツを提供していきたいと考えています。すでに呼応した事例はいくつかあり、2018年にはシャツ・ピアス・リップをセットにしたパッケージをミモレで監修し、発売しました。こちらは実際に、「そのまま身につけたらオシャレに見える」と読者の方からも好評いただきました。
また、個人的には音声メディアにも可能性を感じています。2020年3月より、『ミモレラジオ局!「真夜中の読書会」おしゃべりな図書室』というPodcastのラジオ番組をミモレ内でも配信し始めました。こちらでは半年以上かけて10万回再生を超えたのですが、そこから約1カ月で15万回再生を突破したのです。音声SNS「Clubhouse」が流行しているように、音声メディアの可能性を私自身もひしひしと感じています。先述のような忙しい女性の方でも音声メディアならば、「ながら聞き」をすることもできますからね。ミモレの読者の皆さんとも親和性は高いのではと考えています。このように、Webメディアで記事を公開するだけにとらわれず、さまざまなコンテンツをこの先も提供していきたいです。 ──川端さんご自身のキャリアのビジョンや目標はありますか?
実はあまり決めていないのです。というのも、コロナ禍前後で生活が大きく変わりましたよね。1年の間にこんなにも日常が変わって、来年どうなるかも想像できない。また、ジェンダーや不平等に対する価値観もこの1年で急速に進みました。そうすると、特にメディアにおいては、昔はOKだった表現が明日突然できなくなることも起こり得ます。特に女性誌は、服や化粧品など女性のルックスを扱っているし、カテゴライズをしがちです。たとえ差別意識がなくても、「~ママ」「~OL」「美人~」という言葉が問題視されるかもしれないし、私のことを「女性編集者」とも言わなくなるかもしれません。そうなると、あらためてメディアの立ち位置も問われてきますよね。先が読めないからこそ、あまりビジョンは持ちすぎず、目の前のことにきちんと向き合うことが大切だと思うようになりました。
また、これから先の時代では、自分が携わるメディアだけでなく、業界全体が儲かってハッピーになることを考えるのが大切だと思います。雑誌やWebメディアなど一つのメディアをつくり上げていくときには、著者や編集者以外にもスタイリストやヘアメイク、ライター、カメラマンなど、多くのスタッフが関わっています。コロナ禍で中止が相次ぐ演劇やコンサートについても、演者だけが目立ちますが、舞台裏のスタッフもみんな仕事を失っているのです。
だからもし、これからメディアづくりに関わることがある人がいたなら、みんなが食べていける、サステナブルな環境をつくっていく方法を考えてみてほしいです。ファッションが好きでファッション誌をつくりたいのなら、服をつくる人も買う人も含めた、業界全体がサステナブルに継続できることを考える。そういう発想が今後の時代に適合していくのではないでしょうか。業界と読者との接点をつくるメディア人として、みんながハッピーになる考え方を持ってほしいですね。
──ミモレというメディアを通して、世の女性をはじめ、関わるすべての人をハッピーにしたいという川端さんの思いがよくわかりました。本日はありがとうございました!
撮影/塚田亮平
紙とWebの位置づけです。10年以上前、私がWebの編集に携わり始めたころは、Webはあくまで紙の誌面に付随したもの、という考え方でした。コンテンツも本誌ありきで、誌面の内容をWebに転載することがほとんど。またお金の面で見ても、Webサイトは電車の中吊りや新聞広告と同じように、Web上の宣伝物という捉え方でした。以前はWebに予算をとってコンテンツをつくるという発想が会社的にも世の中的にもあまりなかったのです。それがいまではWebも独立した一つのメディアとしてコンテンツを制作するようになりました。それがこの10年くらいでの変化だと思います。私が携わっているミモレもその一つの例ですね。
──ミモレはどのようなWebメディアなのでしょうか。
ミモレは「ミドルエイジ女性のリアルとチェンジ」をコンセプトにしたWebメディアとして誕生しました。その特徴として、私たち編集者が顔と名前をオープンにしてミモレに記事を掲載しています。これは、読者との双方向のコミュニケーションを大切にしているためであり、記事に読者からのコメントがつくことで、情報が完結するという考え方をしているからです。これまで講談社の立ち上げてきたメディアでは編集者が顔出しをすることはあまりなかったため、この部分はミモレの大きな特徴になっています。
そして、読者からのコメントがついたときには、その記事の編集者や著者がコメントに返信をしています。それがきっかけで読者と編集者の距離が縮まっていますね。感覚としてはSNSとWebメディアの間の立ち位置でしょうか。Webメディアのミモレにファンがつく、というより編集者や著者一人ひとりにファンがいる。そんな関係になっていると思います。実際に、読者の方から街で声をかけられることもあるんですよ(笑)。直接会ったことはなくても、コメント上でのやりとりを通して、友人のように思ってもらえているのかもしれませんね。 ──川端さんはどのような役割を担っているのですか?
担当記事の編集ほか、ミモレの編集次長兼ブランドマネージャーとしてマネタイズやブランディングも担当しています。ミモレでは編集長とブランドマネージャーで担当領域を分担しており、コンテンツの統括を編集長が、収益などのビジネス面の統括を私が担っています。ほとんどのメディアでは、一人の編集長がコンテンツとビジネスの両軸をマネジメントするケースが多いと思います。そこを二人で相談しながら進める体制になっているのは、「こういう企画をしたい」というコンテンツ側の視点と、「それは収益が成り立つのか」というビジネス側の視点。それぞれのバランスを保つために理にかなっていると思います。
というのも、Webメディアは雑誌以上にコンテンツと収益が表裏一体です。雑誌の場合は、編集部は誌面をつくるところまでで、その先は販売部や宣伝部の役割が大きい。一方Webメディアは、記事をつくって公開し、宣伝して見てもらうところまで編集者が考えなければなりません。広告についても、雑誌は掲載して広告費をもらうことである程度完結しますが、Webメディアだとクリック数や申し込み数が数値として反映されるため、反響も含めてデザインする必要があります。ミモレでは、コンテンツ面と収益面の両方を編集部内で考えることで、両軸のバランスをとっているのです。
──2021年3月現在、創刊から6年が経ちますが、現在のミモレはどのような状況にあると捉えていますか?
2020年以降、アクセス数が飛躍的に伸び、拡大期に入ったと思っています。その要因に挙げられるのは、コロナ禍で在宅時間が増えたことです。ネット上で情報収集や買い物をする人が増えたと思いますが、それはミモレの読者層に多いミドルエイジの女性の方たちも例外ではありません。以前からオンラインイベントやインスタライブもミモレでは開催していましたが、コロナ禍によってより一層オンライン上でのイベントへの参加が積極的になったように感じます。こうした動きにより成長スピードが一気に加速し、2021年3月現在では月間460万ユーザー、3000万PVを超えました。
また、ミモレが創刊当初から変わらず、「ミドルエイジ女性を応援する」ことを追求し続けてきたことも、成長の要因だと思っています。創刊時は、スタイリストの大草直子さんが編集長(現在はコンセプトディレクター)を務めていました。多くの女性の支持を集めていた大草さんが手がけるメディアということで、当時から注目度も高く、ミモレのアクセス数は創刊当初から月間200万PVほどと、好スタートを切りました。そこから拡大を目指すにあたり、扱うトピックをさらに広げていく、という方法もあったと思います。しかし、無闇にコンテンツを増やしてしまうと、創刊当初のコンセプトとずれが生じてしまい、せっかく集まった熱量の高いファンの方たちが離れてしまうのではないか、と懸念したのです。結果、当初のコンセプトに沿ったコンテンツを追求し、読者の方の熱量を高めていこうと、あえて急拡大しない我慢の期間が2年ほどありました。その期間で着実にファンを増やし、手応えを感じ始めていたところに先述のコロナ禍による影響が重なり、追い風となりました。
──2020年3月には、オンラインサロン〔ミモレ編集室〕を立ち上げられたかと思います。オンラインサロンを立ち上げた経緯を教えてください。
家でも会社でもない、ミドルエイジ女性にとってのサードプレイスをつくりたいと思い、立ち上げました。もともと、ミモレ自体に読者と私たち編集者がコメントでつながる、コミュニティ的な要素があったので、そこから発展していったのです。大人になったら、会社の同僚やママ友でもない人と出会う機会は少ないですよね。〔ミモレ編集室〕は、共通の趣味でつながった仲間と、「こんな服がほしいな」「今週末この映画を見るよ」など、何気ない話ができる場を目指しています。2021年3月時点で、参加メンバーは160人を超えました。参加者は日本全国に限らず、海外在住の方にも参加いただいています。 ──〔ミモレ編集室〕では月額5500円という会費の設定をされています。この設定にはどのような意図があるのでしょうか。
コミュニティに入りたい人を選抜するため、あえて5500円という強気の価格にしました。〔ミモレ編集室〕は、ミモレ読者のなかでも一際熱量の高い方たちのためのコミュニティにしたかったのです。だから月額500円ほどの安価な価格で数千、数万人の会員を集める方法は選択しなかったのです。
立ち上げ当初は、「5500円の会費に見合うコンテンツを提供しなければ…」という強迫観念が強く、有名人を招いたイベントやプレゼント企画などのメリットが必要だと考えていました。しかし、実際に運営してみると、会員の方たちが求めているのはそれらではなかったんです。現在、〔ミモレ編集室〕のコンテンツでもっとも人気なのは、「メンバー主催イベント」です。これは、読書会や雑貨づくりなど企画を会員自らが立ち上げ、参加者を募り、実際にイベントが開催できるというもの。この個人が開催するイベントの開催頻度や出席率がとても高く、人気を集めています。もちろん、編集部主催のイベントも開催しているのですが、会員一人ひとりにスポットライトが当たることに、より価値を感じてもらっているようです。
オンラインサロンでは一般的に、カリスマ性を持つ中心人物に対してファンが集まる形態が多いと思うのですが、〔ミモレ編集室〕にはそのような特定の人物はいません。メンバー同士、また、運営側である編集部とメンバーも、みんなが横でつながっているコミュニティになっています。そういう部分に需要を感じてもらえていると思いますし、その価値や楽しさをもっと伝えていきたいです。
──ミモレは今後どこへ向かっていくのでしょうか。
ミドルエイジ女性を後押しすることに加え、「気持ちを楽にしたい」という思いがあります。私もそうですが、40代を迎えた女性は大変なことが多いのです。家庭では妻や母親などの役割を持つ場合もありますし、仕事では中間管理職としての責任を持っている方もいらっしゃると思います。また自分自身の体の不調や自身の両親のケアをすることも出てくるでしょう。こうした忙しい日々を送る女性のなかには、「オシャレを楽しみたいけれど、そんなに時間をかけられない」と思っている方もいるのではないでしょうか。そんな女性たちが手軽にメイクやファッションを楽しめるような、気持ちを楽にできるコンテンツを提供していきたいと考えています。すでに呼応した事例はいくつかあり、2018年にはシャツ・ピアス・リップをセットにしたパッケージをミモレで監修し、発売しました。こちらは実際に、「そのまま身につけたらオシャレに見える」と読者の方からも好評いただきました。
また、個人的には音声メディアにも可能性を感じています。2020年3月より、『ミモレラジオ局!「真夜中の読書会」おしゃべりな図書室』というPodcastのラジオ番組をミモレ内でも配信し始めました。こちらでは半年以上かけて10万回再生を超えたのですが、そこから約1カ月で15万回再生を突破したのです。音声SNS「Clubhouse」が流行しているように、音声メディアの可能性を私自身もひしひしと感じています。先述のような忙しい女性の方でも音声メディアならば、「ながら聞き」をすることもできますからね。ミモレの読者の皆さんとも親和性は高いのではと考えています。このように、Webメディアで記事を公開するだけにとらわれず、さまざまなコンテンツをこの先も提供していきたいです。 ──川端さんご自身のキャリアのビジョンや目標はありますか?
実はあまり決めていないのです。というのも、コロナ禍前後で生活が大きく変わりましたよね。1年の間にこんなにも日常が変わって、来年どうなるかも想像できない。また、ジェンダーや不平等に対する価値観もこの1年で急速に進みました。そうすると、特にメディアにおいては、昔はOKだった表現が明日突然できなくなることも起こり得ます。特に女性誌は、服や化粧品など女性のルックスを扱っているし、カテゴライズをしがちです。たとえ差別意識がなくても、「~ママ」「~OL」「美人~」という言葉が問題視されるかもしれないし、私のことを「女性編集者」とも言わなくなるかもしれません。そうなると、あらためてメディアの立ち位置も問われてきますよね。先が読めないからこそ、あまりビジョンは持ちすぎず、目の前のことにきちんと向き合うことが大切だと思うようになりました。
また、これから先の時代では、自分が携わるメディアだけでなく、業界全体が儲かってハッピーになることを考えるのが大切だと思います。雑誌やWebメディアなど一つのメディアをつくり上げていくときには、著者や編集者以外にもスタイリストやヘアメイク、ライター、カメラマンなど、多くのスタッフが関わっています。コロナ禍で中止が相次ぐ演劇やコンサートについても、演者だけが目立ちますが、舞台裏のスタッフもみんな仕事を失っているのです。
だからもし、これからメディアづくりに関わることがある人がいたなら、みんなが食べていける、サステナブルな環境をつくっていく方法を考えてみてほしいです。ファッションが好きでファッション誌をつくりたいのなら、服をつくる人も買う人も含めた、業界全体がサステナブルに継続できることを考える。そういう発想が今後の時代に適合していくのではないでしょうか。業界と読者との接点をつくるメディア人として、みんながハッピーになる考え方を持ってほしいですね。
──ミモレというメディアを通して、世の女性をはじめ、関わるすべての人をハッピーにしたいという川端さんの思いがよくわかりました。本日はありがとうございました!
撮影/塚田亮平