──現在後藤さんが手がけていらっしゃる「リトルプラネット」は、「次世代型テーマパーク」とのことですが、一体どのようなテーマパークなのでしょうか?

「リトルプラネット」は、ARやVR、センシング技術などを活用したデジタルテーマパークです。AR砂遊び「SAND PARTY」、光と音のデジタルボールプール「ZABOOM」、デジタル紙相撲「PAPER RIKISHI」など、砂遊びや紙相撲といった昔からあるアナログな「遊び」に、ARなどの「テクノロジー」を融合させたアトラクションが楽しめる施設です。

AR砂遊び「SAND PARTY!」
AR砂遊び「SAND PARTY!」
光と音のデジタルボールプール「ZABOOM」
光と音のデジタルボールプール「ZABOOM」
デジタル紙相撲「PAPER RIKISHI」
デジタル紙相撲「PAPER RIKISHI」
──「デジタル」×「アナログ」を掛け合わせたテーマパークというわけですね! 「テーマパークをつくる」という着想自体、とても大きな展望かと思うのですが、そこに至ったのにはどのようなきっかけがあったのでしょうか? もともとテーマパークで働いていたことなどがあったのですか?
いえ、テーマパーク自体は昔から好きで、よく足を運んでいましたが仕事でテーマパークに関わるようになったのは、いまの事業を始めた2016年10月からでした。それまでは大学で映画製作を専攻、前職でソーシャルゲーム事業に従事とテーマパークに特別な関わりを持っていることはなかったですね(笑)。

──映画とゲームを経て、テーマパークにたどり着いたのですか…。さまざまなエンタメ領域を網羅している独特なご経歴ですね。
言われてみるとそうかもしれないですね。自分の中の好奇心に正直というか、たとえ将来を担保できなくても分がやりたいと思ったことに正直に取り組んでいく性分なのです。だから、いま手がけているテーマパーク事業との出会いも突発的でした。きっかけは前職のゲーム会社に在籍しているときに、当時日本に上陸したばかりのVR技術に触れる機会があったのですが、それがすごく面白かったんです。VRを使った新しい事業ができるのではないかと思い立ち、「VRの中にテーマパークをつくる」と発想したことがいまの事業の原点となりました。
というのも、既存のテーマパークは、物理的なハードウェアに対して数百億円の投資をして、それを5年~10年かけて回収していくスキームです。でもVRの中にテーマパークをつくってしまえば物理的に制約なく、すべてが書き換え可能になるのでCGの投資だけでテーマパークをつくることができる。いきなり時間を夜に変えることもできるし、雨を降らせることもできる。巨大な城も、次の日には違うお城にすることができるわけです。現実ではできないけれど、デジタルの世界だからこそできる世界を実現したかったんです。

その後、開発を進めていくうちにいろいろとアイデアが広がり、VR世界ではなくリアル施設としてリトルプラネットを展開することになったのですが、この“デジタルの力でこれまでにないテーマパークをつくる”という構想がすべての原点になっていますね。 

プレースホルダの前に代表を務めていた会社では、順調に事業を拡大することができました。大手のインターネット関連企業のグループとなり、ゲーム開発の仕事もとても楽しくやれていたので、正直、辞める理由はまったくなかった。けれども、新たに挑戦していきたい領域に出会ってしまって、いてもたってもいられなかった。それでリトルプラネットの事業を立ち上げました。
──「デジタルの力でこれまでにないテーマパークをつくる」、とてもユニークな発想ですね! それほど強い思いを抱き立ち上げたテーマパークには、なにかこだわりなどはあるのでしょうか?
砂場×ARや、紙相撲×デジタルといったように、アナログをデジタルに置き換えつつも、必ずインプットかアウトプットのどちらかをアナログにすることを意識してアトラクションの開発をしています。

その理由は単純で、デジタルだけでは得られない経験を体感してほしいからです。インターネットや電子機器を用いたデジタルな遊びって、たとえ家に一人でいてもできるんですよ。でもアナログな遊びだと、誰かと身体を使って遊ぶことや協力して作業をしたり、時にはお互いで切磋琢磨し競い合ったりするなど、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが必要になるんです。デジタルが溢れている時代だからこそ、あえてアナログを取り入れることで、デジタルだけではできない直接的なコミュニケーションを取れる機会を提供したいという思いがあり、アナログ×デジタルという形をとっているんです。

それに、昔からあるアナログな遊びはルール説明やチュートリアルが容易で、なにも説明がなくても成立するものが多い。だから初めて出会った人とも気軽に一緒に遊ぶことができるのも魅力です。

──減少しつつあるリアルな接触の機会を提供しているということですね。
公園の遊具は、経年劣化や安全面などを考慮して使用が禁止になったり、撤去されたりしているモノもあります。一方でIoTなどのテクノロジーはおもちゃにも用いられ、徐々に製品化されています。これからもますますデジタル化は進んでいきます。とはいえ、砂遊びやクレヨンなどのアナログの存在が完全に消えるかと言われればそうではないと思いますが、圧倒的にその経験をする子どもの数は減っていくと思います。
──もちろんデジタルには、アナログでは体験できない体験や感覚を得ることができる利点もありますよね。
おっしゃるとおりです。ただ、デジタルな遊びってアナログほど自由ではない。決められたレギュレーションの中での遊びなんです。昔みたいに想像力をフル活用した、形はなくてもあらゆるものを自在に創造できる遊び、これが減ってしまうことは良くないですよね。

というのも、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授によると、10~20年には49%の仕事が自動化されるという話があります。またデューク大学のキャシー・デビットソン教授は、2011年度に米国の小学校に入学した子どもの65%は、大学卒業時に今は存在しない職業に就くだろうと説いています。具体的な数字はこの先も変動するかもしれませんが、おそらくこの先の未来は、これらの話が実現していくと思っています。そんな半分以上のものが現在存在しないものに置き換えられた未来を生きていくだろう子どもたちに、いまのうちから教えていかないといけないのは“想像力”です。想像することでアイデアを生み出していくことは、どんな時代でも不変のスキルセットになる。だから、想像力を掻き立てることは、テーマパークの使命だなと。
──どんな未来に変化するかわからないからこそ、不変のスキルを身につけていくべきと。
これは私がよく行う思考でもあります。一般的に、将来の変化を予想して変わる前提でリソースを割くことが多いと思います。しかし、その逆にどんな未来でも絶対に変わらないようなものから逆算して考える。これも時代を生き抜くための一つの戦略になるかなと。

加えてもう一つ思うのが、非日常をつくるテーマパークだからこそ、学校や日常生活では経験できない体験を養うこともできます。その一つには、「クリエティブへの憧れを生むきっかけ」もきっとある。クリエイターはどんな時代にも存在しますし、いつでも求められていきます。だからテーマパークこそ、「クリエイターになるための力、モチベーション」を一番底上げできる場所である、と私は思っているんです。そのようなテーマパークの存在価値をいつまでも発信し続けられる場所でありたいと思いますね。

──創造のもととなる想像を生む場所、クリエイターへの憧憬を生む場所。確かに両者はずっと変わらないテーマパークの存在価値かもしれませんね。
それらの変わらない部分から未来を逆算して、リトルプラネットとしての未来をこの先つくっていきたいと思います。具体的には、デジタル化やICT教育が増えていくからこそ、身体を動かして楽しむコンテンツはリトルプラネットの中で増やしていきたいです。
もう一つ未来の話をすると、これは願望なのですが、AIやロボティクスなどのテクノロジーや働き方改革によって労働時間が減少することで、暇な人がこの先増えてくれるといいなと。暇な時間ができれば、それだけ私たちのテーマパークやサービスを体験してくれる人が増えると思うので(笑)。

──「好奇心に正直に」、「変わらない部分から逆算する」など、テーマパークを開設するまでに至った後藤さんならではの考えや思いなど興味深いお話をたくさん聞くことができました。リトルプラネットがこの先どのように進化していくか、とても楽しみです。お話いただきありがとうございました!
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