「本当に欲しい情報はこれじゃない」就活中に感じた物足りなさ

──昨年(2021年)No Companyを立ち上げて代表取締役に就任されました。その前に所属していた親会社のスパイスボックスでは、史上最年少のマネージャーだったと伺いました。
博報堂グループのスパイスボックスに新卒で入社して、新規顧客を開拓する営業部門に配属されました。テレアポでSNSマーケティング支援の商材を提案する仕事です。自分で言うのは恥ずかしいですが(笑)、成績がすごく良かった。その年の社内アワードで、新人でありながら7個の賞をとったんです。それで、「2年目からマネージャーをやりたい」という僕の希望を会社が認めてくれました。

──新人でいきなり、それだけの成果を出すのはすごいですね。
正直に言って、学生時代には「こういう仕事がしたい」という明確なイメージはありませんでした。だから、まずはクライアントや会社から求められていることに対して全力で取り組もうと思っていました。それで結果を出せば、新しい仕事や役割が回ってくる。そうやって自分の領域を広げていくと、やりたいことに出会えると思っていたのです。
──入社3年目に新しい事業を立ち上げました。その「やりたいこと」に出会ったということでしょうか。
はい。自分が就職活動をしたとき、情報を集めるのに苦労した経験がありました。企業が採用広報の一環で発信している情報が、僕にとってはどれも本当に知りたいことではなくて。求めていた情報は、会社のカルチャーや、社員が実際はどんな働き方をしているか、どんな価値観やキャリア観を持っているのか。でもそういったリアルな情報がなかなかつかめない。いつかこのペイン(悩み)を解決したいと思っていました。

入社してからの2年間、SNSのデータを活用したマーケティング支援をクライアントに提供しているなかで、「このノウハウは採用広報にも転用できるのではないか?」と気付きました。そうすれば、企業は求職者が本当に求めている情報がなにかを把握し、的を射た発信ができるようになるのではないかと考えたのです。

そこで、自分で起案して「採用コミュニケーション事業部」を立ち上げ、事業部長に就任しました。新規事業提案制度のようなものがあったわけではありませんが、広告会社がどこもビジネス変革を急ぐなか、スパイスボックスの経営層にも「若手社員の挑戦を応援しよう」という空気がありましたね。

社内起業して提供を始めたのが、「THINK for HR」というSNS分析ツールです。SNSやWebメディアには、「採用」に関する情報が無数に上がります。それらを集めて解析すると、採用市場のトレンドが見えてきます。特に僕らが注視しているのは、読み手の「能動的なアクション」です。つまり、どういう情報に対して「いいね」や「リツイート」、「コメント」がついているかを見る。このビッグデータを活用すると、求職者に響く採用広報ができます。採用パフォーマンスの向上につながるというわけです。

「社長になる」目的が明確になった

──それから3年半後の2021年10月、採用コミュニケーション事業をスパイスボックスから独立させ、子会社のNo Companyを立ち上げました。スパイスボックスの1事業として成長させていく、という選択肢はなかったのでしょうか。
それは、僕のなかにはまったくありませんでした。コロナ禍になって、企業の採用活動は急激なオンライン化が求められました。クライアントの困惑を間近で感じていた。会社化すれば、社長は自分。意思決定が速くなります。それだけ事業の成長スピードも速くなり、市場の課題に迅速に応えることができると思ったのです。

でも、もう1つ大きな理由があります。

実は昨年(2021年)、「THINK for HR」を使って、今度は「働き方」のトレンドを観測し、世の中の働くモチベーションや、企業の取り組みに対する能動的なアクションのデータを解析するサービスを始めました。従業員の働き方を良くするための戦略策定に活かしてもらうことが目的です。

こういうサービスを提供する以上、自分たちも「働き方」について模索するべきだと思います。例えば、僕らのメンバーのなかには、沖縄や山梨に移住してフルリモートで仕事をしている人たちがいます。それが働くモチベーションにどう影響して、どんなカルチャー形成につながるのか。自分たちの実体験で得た気付きをもとにサービスをアップデートしていけば、結果的に、世の中の働き方をさらに良くすることにつながります。スパイスボックスにはスパイスボックスのルールがあり、すでにカルチャーが出来上がっているので、こういった「実験」をあれこれと柔軟に行うのは難しい。別の会社として独立させることは必須だったと思います。

──もともと、いつか起業したいという気持ちを持っていたのですか?
ありました。学生時代に「将来は自分で事業をやりたい」、「会社を経営したい」と思っていました。

大学に入って趣味で始めたストリートダンスとかサーフィン、スケートボードの影響なんです。こういったカルチャースポーツって、人とどれだけ違う表現をするかが評価される世界です。「人と違う」と言っても、人は誰しも見てきたものや食べてきたもの、着ているものが違う。もともと価値観が違うのです。だから人と違う表現をするというのは、本来の自分を表現するということ。自分の個性、僕たちNo Companyでは  「スタイル」と呼んでいますが、それを解放するということです。そういう世界が、僕はとても居心地が良かった。

冒頭で話したように、僕はWeb広告や事業への強い興味があってスパイスボックスに入ったわけじゃない。一人ひとりのスタイルを押さえ込まない雰囲気に共感して、こういった環境で仕事をしたいと思ったから入社したのです。「いつか起業したい」というのも、なにかやりたいことがあったわけではなく、自分のスタイルを大事にしたいという気持ちの延長にあった。「社長になりたい!」って、そんなフワッとした感じでしたね(笑)。

でも、会社に入って変わりました。あるとき、スパイスボックスの現会長に「これからどんなふうになっていきたいの?」と聞かれ、「社長になりたいんですよ」って答えました(笑)。そうしたら「そんなの明日からなれるよ」と言われたのです。法人登記すれば、それでもう社長だと。「ああ、確かにそうだ」と思った。社長になることは、目的ではなく手段だと気付いたのです。

その後、もともと自分の抱えていたペインと社会課題が交差するポイントが見つかったため、社内で事業部を立ち上げ、スピンアウトしました。自分が解決したい課題に対するアプローチがまだ世の中になかったからです。異動でも転職でも実現できないなら、自分で事業をつくるしかない。手段として起業を選んだということです。

ロールモデルが少ない「20代で子会社社長」をあえて選択

──「スタイル」に強いこだわりをお持ちです。でも、会社化を考えたとき、スパイスボックスを辞めて完全に独立するのではなく、グループの子会社として立ち上げたのはどうしてでしょうか。
一見矛盾しているように思えるかもしれませんが、これも「スタイル」にこだわった結果なのです。

僕はいま28歳。同世代を見回すと、会社を辞めて独立し、起業している人がけっこう多い。一方、20代で大手企業の子会社をつくり、社長になった人は圧倒的に少ないです。人と同じことはやりたくないですからね。僕は後者の、ロールモデルのつくりがいがある道を選びました。僕より若い世代が将来、「リスクを背負わず、大企業のアセット(資産)やパワーを借りながら、スピーディーに世の中の課題を解決したい」と考えたときのロールモデルになれると思っています。

──「スタイル」を追求するといっても簡単ではありません。やり方はありますか?
僕の場合、「なりたい姿」より、むしろ「なりたくない姿」を整理していきます。

例えば会社化にあたっては、約1年前から準備を始め、先輩起業家のインタビューに多くの時間を費やしました。会社を辞めて独立した人、グループのなかで子会社をつくった人。たくさんの人の話を聞くと、どのタイミングでどういう意思決定をするとどうなる、というパターンがつかめます。そのうえで、自らをどこにポジショニングすれば同じパターンにならないかを考えれば、自分のスタイルを追求することができます。

もちろん、面と向かって「あなたと同じことをしたくない」なんて言いませんよ(笑)。でも、お話を聞きながら、自分のスタイルが生きる方向を見極めていきました。

「就活」をなくし、個性が開く社会をつくりたい

──「スタイル」という言葉は、No Companyのミッションに入っています。ご自身が大事にしてきたことを、価値として社会にも提供しようとしているわけですね。
先輩たちから「人生の中間目標を決めるといいよ」とよくアドバイスされていました。だから会社を立ち上げたとき、「スタイルがいきる社会へ」という中間目標をミッションにした。もう少し具体的に話すと、僕は「就活」という概念をなくしたいと思っています。

ダンスバトルって見たことありますか? 対面で交互に踊る競技ですが、あれは、優劣を競うのに明確な審査基準がありません。どれだけ人と違うパフォーマンスをして観客と審査員の心をつかむか。そのカッコよさを競っている。すごく人間らしいと思うのです。

しかし、日本の社会、とりわけ働き方においては、「同じであること」が求められます。同じようなスーツを着て、同じ時間の満員電車に乗り、同じ場所で仕事をする。本当はどれも変えられるはずなのに、社会全体に同調圧力がはびこっています。

なぜここまで「スタイル」が押さえ込まれてしまうのか。就活こそが、その根源なのではないか、というのが僕の考えです。同じタイミングに活動しなくちゃいけない、服装はこうでなければ、人事の人と話すときはこんなスタンスでなければ、という暗黙のルールがある。本当は大学卒業後に留学してから就職してもいいし、企業選びをしていくなかで気付きがあれば、学び直して、あらためてキャリアを考えればいい。タイミングも服装も話し方も、その人の個性にひも付いたものでいいと思います。

そうやって「就活」という概念を取り払えば、求職者から発信される情報も、自ずと個性が前面に出たものになります。企業側も求める人材を見つけやすい。採用活動が本質をついたものになると思うのです。
──「スタイルがいきる社会へ」という中間目標を達成した先には、どんな最終目標が描かれているのでしょうか。
個性を否定されない環境をつくることができたら、次は「スタイルをつくる」ところに踏み込んでいきたいです。

その1つのアプローチ方法が教育だと思います。高校や大学で、働くということやキャリア観について、もっともっと気付きを与えた方がいい。いま起業家たちが集まって、子どもの起業家精神を養う新しい学校(仮称「神山まるごと高専」)をつくろうとしています。すごく共感できるやり方です。

でも、僕はやっぱり違わせたい。オリジナルでありたいから、いいなと思っても、人がすでにやったことは僕はやらない。人と違うことをすれば、独自性を出すことができる。あとに続く人は僕と同じパターンをなぞらないようにすることで、さらに独自性を出すことができる。社会の多様性とは、そうやって形づくられていくものだと思っているのです。だから、学校教育以外のアプローチで「スタイルをつくる」環境を提供する。いまのところの最終目標は、これかな。

──新卒の就職後3年以内の離職率は大卒で約3割、高卒で約4割。これが、秋山さんのお話に出てきたような「やっぱり留学したい」とか「もう1度学び直したい」という前向きなリセットになればいいのですが、まだそうではない場合も多いかもしれません。企業も求職者も、ありのままのカルチャーなり、自分らしさをさらけ出して出会うことができれば、一人ひとりの個性がつぶれない社会の実現につながるのかなと思いました。本日はありがとうございました。
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