Vol.3 裁量労働制とフレックスタイム制の違いって、何? キャリアアップナビ
キャリアアップナビでは、マーケティングやクリエイティブ職におけるキャリアアップに関わるテーマを毎月ひとつ、ピックアップして解説していきます。連載3回目は、裁量労働制とフレックスタイム制の違いについて。元・労働基準監督官で現在は社会保険労務士の小菅将樹(こすげまさき)さんに話を聞きました。聞き手はキャリアコンサルタントの荒川直哉(あらかわなおや)。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずでは、なかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!
裁量労働制とフレックスタイム制は何が違う?
荒川:広告・マーケティングに関わる職種では、裁量労働制やフレックスタイム制を採用しているケースが多いですが、その違いを正確に理解している人は少ない印象です。小菅:それぞれの制度は、生まれた背景自体がまったく異なるものです。裁量労働制は、労働時間を「実際に働いた時間」ではなく、労使協定など所定の手続きで決めた「一定の時間」とみなす労働時間制度のことをいい、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があります。デザイナーやコピーライターなどのクリエイティブ業務では専門業務型裁量労働制、マーケティングや広報などの企画業務では企画業務型裁量労働制を採用しているところがあります。
ひとつ目の専門業務型裁量労働制は仕事の性質から、それを進める方法を大幅に社員の裁量に委ねる必要がある際に採用されることがあります。業務を進める手段や時間配分の決定などの具体的な指示を上司が行うことが難しい業務について、労使協定を結び、周知するなどの手続きを行った場合は、社員をその業務に就かせた場合、その日の労働時間が何時間であっても、労使間で決めた時間を働いたものとする制度です。これは上司の具体的な指揮や監督に馴染まず、通常の方法による労働時間の算定が適切でない特定の業務について、平均的にその業務を行うために必要な時間ということで、労使間で決めた時間を働いたとみなすという考え方からつくられた制度です。広告・マーケティングやクリエイティブ関連の業務では、デザイナーやコピーライター、プロデューサー、ディレクターなどの業務が法令で定められていて、制度を適用できる職種は法令で限定されています。
一方の企画業務型裁量労働制。事業の運営に影響を及ぼすような独自の事業計画や営業計画の策定を行う本社・本店や支社・支店などにおいて、企画、立案、調査及び分析の業務を行い、業務の遂行手段や時間配分を自らの裁量で決定し、上司から具体的な指示を受けない社員を対象とした制度です。実際の労働時間にかかわらず、労使委員会で定めた時間を働いたとみなします。対象者から同意を得る必要があること、定期的に労働基準監督署長へ報告を行う必要があります。マーケティングや広報などの業務が直ちに企画型裁量労働制の対象業務となるわけではなく、定められた要件を満たす必要があります。特に裁量労働制は導入要件が厳しく、不適切な適用として労働基準監督署から無効とされる事例もあり、今後は導入に際し、慎重になる企業が増えると予想されます。
フレックスタイム制は、生活と仕事の調和を図りながら効率的に働けるようにすることを目的につくられた制度です。3カ月以内の一定期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、その範囲内であれば労働者が1日の始業時刻と終業時刻を自由に選択できるというものです。フレックスタイム制は、必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)やいつ出退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)の両方を設けるケースもあるため、その会社によって労働時間の自由度が変わってくるので注意が必要です。
転職する際に注意したい制度の違い
荒川:働く側にとっての大きな違いは何ですか。小菅:まず労働に対する報酬の考え方が異なります。裁量労働制は、実際の労働時間に関わらず、所定の手続きにより決められた時間を「働いたとみなす」制度で、「みなし時間」に対して賃金が支払われます。「みなし時間」は、できる限り実際に近い時間とする必要があり、必要に応じてその見直しが必要になります。一方でフレックスタイム制は、清算期間における総労働時間と実労働時間との過不足に応じた賃金の支払いが行われます。
荒川:裁量労働制からフレックスタイム制へ働き方が変わるとき、前もって注意すべきことはありますか。
小菅:労働時間内での評価になってしまうと、大きなギャップを感じることもあるかもしれないですね。フレックスタイム制の場合、同じ成果に対して効率よく働いた場合は賃金が少なく、逆に時間をかけた場合は賃金が多くなってしまうこともあり得ますから。
荒川:転職先を決める段階で、確認しておくべきことはありますか。
小菅:同じ制度を取り入れていても、企業ごとに細かな設定が異なるため、働き方の詳細を確認したほうがよいです。裁量労働制の場合は、どの程度の裁量があるかを確認したほうがよいでしょう。そして、みなし労働時間も確認しましょう。フレックスタイム制の場合は、コアタイムの有無を確認すべきです。コアタイムタイムの有無によって働き方の自由度が大きく変わってきます。また、清算期間と総労働時間も確認した方がよいですね。例えば、清算期間が1週間と1カ月では時間配分の裁量権が大きく変わってくるからです。
また制度自体を知ることも大事ですが、どのような制度を選んでいるのかに、その企業が社員に求める働き方が表れているということも理解した方がよいでしょう。裁量労働制やフレックスタイム制は、働き方という枠の中におけるひとつのツールですから。
キャリアの選択肢は昔と比べて広がっています。だからこそ大切なのはリテラシーです。企業が選択した働き方と、自分が理想とする働き方がマッチしているかどうか。それを判断するためには、正しい情報が必要です。まずは自分のどこを評価してもらいたいのか、どんな時間の使い方が理想なのかをしっかりと考えた上で、自分に合った働き方の会社を選ぶことが望ましいです。
小菅先生が解説! 裁量労働制やフレックスタイム制のメリット・デメリット
■裁量労働制とは?
裁量労働制とは、労働者に裁量がゆだねられている労働契約のことで、実際の労働時間に関係なく、企業と社員の間で労使協定を結び定めた時間を働いたものとみなし、その労働の賃金が支払われる制度のこと(ただし深夜・休日労働は除く)。例えば、みなし労働時間を1日8時間と定めた場合、実際の労働時間が5時間でも10時間でも労働時間は8時間とみなされる。裁量労働制は、専門業務型と企画業務型があり、適応できる職種が限定されている。
〈メリット・デメリット〉
・業務の進め方や時間配分の裁量が委ねられるため自由度が高い→自己管理能力が求められる
・時間のコントロールも自分でできるため労働時間を短くすることもできる→実際の労働時間が長くなっても残業代が出ない(ただし深夜・休日労働は除く)
■フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制は、一定の期間(清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・就業時間や労働時間を自ら定めることができる制度のこと。清算期間内で定められた労働時間内であれば、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて労働しても時間外労働にはならない。清算期間内で定められた労働時間を超えた時間(実労働時間-総労働時間)は時間外労働とみなされ割増賃金が支払われる。コアタイムは必ず勤務すべき時間帯、フレキシブルタイムはいつ出退社してもよい時間帯を指す。フルフレックスタイム制は、コアタイムがない働き方のこと。
清算期間を1週間、労働時間を40時間と定めた場合
〈メリット・デメリット〉
・働く時間を自由に設定できる→自己管理能力が求められる
・定められた労働時間を超えた残業時間は割増賃金が支払われる→実際の労働時間に賃金が比例する(労働時間が短くなれば、賃金も減る)
■裁量労働制とは?
裁量労働制とは、労働者に裁量がゆだねられている労働契約のことで、実際の労働時間に関係なく、企業と社員の間で労使協定を結び定めた時間を働いたものとみなし、その労働の賃金が支払われる制度のこと(ただし深夜・休日労働は除く)。例えば、みなし労働時間を1日8時間と定めた場合、実際の労働時間が5時間でも10時間でも労働時間は8時間とみなされる。裁量労働制は、専門業務型と企画業務型があり、適応できる職種が限定されている。
〈メリット・デメリット〉
・業務の進め方や時間配分の裁量が委ねられるため自由度が高い→自己管理能力が求められる
・時間のコントロールも自分でできるため労働時間を短くすることもできる→実際の労働時間が長くなっても残業代が出ない(ただし深夜・休日労働は除く)
■フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制は、一定の期間(清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・就業時間や労働時間を自ら定めることができる制度のこと。清算期間内で定められた労働時間内であれば、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて労働しても時間外労働にはならない。清算期間内で定められた労働時間を超えた時間(実労働時間-総労働時間)は時間外労働とみなされ割増賃金が支払われる。コアタイムは必ず勤務すべき時間帯、フレキシブルタイムはいつ出退社してもよい時間帯を指す。フルフレックスタイム制は、コアタイムがない働き方のこと。
清算期間を1週間、労働時間を40時間と定めた場合
〈メリット・デメリット〉
・働く時間を自由に設定できる→自己管理能力が求められる
・定められた労働時間を超えた残業時間は割増賃金が支払われる→実際の労働時間に賃金が比例する(労働時間が短くなれば、賃金も減る)
──次回は、外資系広告会社について解説します。