寿司が持つ、エンターテインメントとしての可能性

──「これまでにない鮨体験で一生の想い出を。」というコンセプトのもと、今年の3月に起業家である兄の輝明さんと寿司職人であり弟の義明さんが兄弟二人で立ち上げられたSUSHI+ですが、こちらはどのようなサービスなのでしょうか?
輝明:「寿司×エンターテインメント」の掛け合わせにより、これまでに経験したことのないような新しい寿司体験を提供していく、高級寿司出張サービスです。固定のメニューは用意しておらず、お客さまの要望に合わせて既存の枠にとらわれない形で寿司を提供しています。
Anyplus CEO 岡林輝明さん
Anyplus CEO 岡林輝明さん
──具体的に過去にはどのような注文があったのでしょうか?
義明:「ウニをとにかく食べたい」や「ひたすら中トロ食べたい」など、一つのネタに偏った注文もありましたし、誕生日会で“寿司ケーキ”をつくったり、企業のパーティーに出店したりもしましたね。あとは、フレンチ料理とのコラボレーションをして一つのコースを組み立てたこともありました。
まぐろ好きにはたまらない、夢のようなオーダーもSUSHI+ではかなえられる
まぐろ好きにはたまらない、夢のようなオーダーもSUSHI+ではかなえられる
豊富な寿司ネタを組み合わせた寿司ケーキ
豊富な寿司ネタを組み合わせた寿司ケーキ
輝明:一番印象に残っているのは、自分たちで主催したイベントですね。そのイベントではEDMを流しながら、日本酒と一緒に高級寿司を楽しむ、というかなり特殊なイベントを開催しました。SNSでも「こういうイベントをやりたかった!」という声もいただいて、新しい寿司の形を求める人は多くいると、確認することができました。
SUSHI+イベントの様子
SUSHI+イベントの様子
これまでの高級寿司は、格式があって少し敷居の高いイメージがあったかと思います。しかし一方で、もっとカジュアルに、けれど回転寿司よりもハイクラスな高級寿司を楽しみたいというニーズもあるのではないか。それがSUSHI+のサービスをつくろうと思ったきっかけです。

──確かに、高級寿司店は格式の高いイメージがあります。だからこそ、そこにニーズがあると考えたわけですね。
輝明:寿司の本質にあるのは、エンターテインメントだと思っています。寿司は日本が誇る食文化として、世界中にとても多くのファンが存在しています。それはひとえに、寿司はおいしいから。寿司を食べている人はみんな、笑顔で楽しそうなんですよね。そんなふうに人の心を動かす寿司は人々を楽しませる娯楽、エンターテインメントとしての力が潜在しているのではないか。寿司に眠るエンターテインメントをほかのエンターテインメントやテクノロジーと掛け合わせることで、相乗効果を上げていき、いままでになかった新しい体験を提供できるのではないかと思いました。

寿司と職人の未来

──兄の輝明さんは起業家として、弟の義明さんが寿司職人としてSUSHI+でもフロントに立っているとのことですが、お二人はこれまでどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?
輝明:大学生の頃から起業したいとずっと考えていて、大手機器メーカーやスタートアップ企業などに勤めながら、自分の立ち上げたい事業について考えていました。そのようななかで、義明が寿司職人としてお客さまに寿司を振る舞っている現場に立ち会ったのですが、ものすごく好評だったのです。外国の方や経営者の方、多くの人からそのような声をいただいているのを見て、寿司のポテンシャルの高さを垣間見ました。それがきっかけで、寿司の事業を構想し始めました。

義明:僕は大学時代に漠然と、「手に職を付けたい」と考えていました。そんなときに、たまたまテレビで寿司の特集がやっていたのです。そのときに「海外で寿司職人」として働いていくのは面白そうだと思って、大学卒業後に寿司の専門学校に入学して1年間寿司について勉強をしました。
Anyplus COO 寿司職人 岡林義明さん
Anyplus COO 寿司職人 岡林義明さん
──卒業後はどこかの店で握られていたのでしょうか? 
義明:専門学校卒業後は六本木にあるお店で働きながら、それとは別に、Airbnbを利用して外国人向けの寿司握り体験サービスも提供していました。言うなれば、「フリーランスの寿司職人」のような感じで、寿司職人として経験値を積んでいました。そのときに、スタートアップ企業に勤めていた兄の輝明に誘われて、一緒にSUSHI+を立ち上げました。

──フリーランスの寿司職人とは、これまた珍しい働き方をしていたのですね。寿司職人は長い修行期間を経た後になれる職業というイメージがありましたので。
義明:飲食業界でいわゆる職人という肩書を得る方法は、おっしゃるように長い期間を修行の身として置くのが主流です。しかし、その道を歩むことは働き方改革などが叫ばれる現代ではとても難しい。現に、20~30代の寿司職人はとても少なく、このままでは寿司職人の数は激減してしまう未来は避けられないと思います。

輝明:もちろん、名店で修行をして自分に箔をつけてから勝負をしたい、と先の未来を見て働いている若手職人も一定数は存在しています。ただ、現状の職人の働き方にイノベーションが起きなければ、寿司職人が不足して寿司の価値がいまよりも上がっていくと思います。より具体的に言うと、回転寿司のような大衆店はテクノロジーによるロボット化が進み安価になる一方で、技術を持つ職人が握る高級寿司は希少性が増し、ごく一部の富裕層しか食べられなくなる、といったような寿司文化の二極化が進んでいくのではないかと思っています。
──この先、寿司にそのような未来が待っているかもしれないとは…。寿司に限らず、職人が欠かせない食文化に共通する危機ですね。
輝明:テクノロジーや働き方がさまざまな形に発展、多様化する現代では職人の働き方にも新しい選択肢を提示していく必要があると思います。若手でも高いクオリティのアウトプットを生み出す人たちは他業界にも存在していますから、飲食業界にも存在していいはずなんです。

義明:日本が持つ食文化は世界に誇る、価値のあるものです。だからこそ、それをつくっていく職人が絶えることは避けていかなければいけません。そのため、時代に合わせたライフサイクルになるように、職人の働き方にも変化を起こしていく必要がある。SUSHI+には、そんな職人の新しいビジネスモデルのロールモデルになり得るポテンシャルがあると、私は考えています。

──職人の働き方にもさまざまなスタイルがあっていい時代なのかもしれませんね。柔軟性を持つことが大事であると。
輝明:おっしゃるとおり、柔軟に新しい選択肢を増やしていくことは重要なのだと思います。特に古い業界でイノベーションを起こすには、異業種と積極的に関わり持つ、異業種の人が参入してくるなど、業界の流動性を高くすることが欠かせません。とはいえ、高級店には高級店の、大衆店には大衆店だけが持つ、それぞれの需要や魅力があります。そこは置いておいて、SUSHI+は新しい選択肢の一つになれば良いと思っています。
──置換するのではなく、新しく確立していくべきということですね。それでは最後にSUSHI+として今後目指していくことを教えてください。
輝明:今後は、SUSHI+主催のイベントをどんどん開いていきたいと思っています。寿司業界以外の料理人とのコラボレーションやDJなどの音楽関係者やテーマパークなどのアミューズメントなど多くのエンターテインメント領域のコンテンツと共同で、新しい寿司のイベントを発信していきたいです。

義明:また将来的には海外展開も挑戦していきたいです。現時点ではどのような形態になるかわかりませんが、国や生まれに関係なく、世界中の人々が平等に楽しめる寿司の魅力をさらに多くの人が熱狂してもらえるようなムーブメントを起こしていけたら面白いなと思います!

──寿司が持つ、エンターテインメントへのポテンシャル、そして職人の働き方。お二人のお話から、日本食を取り巻く未来が伺えました。SUSHI+を通して、寿司や職人の世界に新たな価値を生み出していくお二人の今後のご活躍が楽しみです。本日はありがとうございました!
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