──テクノロジーを活用した、いままでにない新しい不動産賃貸サービス「OYO LIFE」を提供するOYOですが、本国インドではホテル事業をメインとされていますよね。どうして日本ではホテル事業ではなく、不動産事業でスタートしたのでしょうか?
OYOが日本へ進出する理由が、「OYOのホテル事業を日本にも広めていく」というわけではなかったからです。そうではなく、OYOの日本上陸の際に、本社から課されたミッションは「日本にOYOっぽい会社をつくってくれ」というもの。日本進出に際しては、ホテル事業のセールス拠点を設けるのではなく、新規事業をつくることを起点にスタートしていたんです。

──それは非常に珍しいケースですね。「OYOっぽい」の基準とはなんなのでしょうか?
OYOという会社の持つ本質は、ホテル事業でも不動産事業でもなく、「クオリティリビングスペースを提供する会社である」と我々は考えています。クオリティリビングスペースとは、住まいや空間のストレスを解消し、より快適なものに変えること。それがOYOの価値であり、らしさの基準です。
そのため、「日本で住まいの価値を上げるためにはどのような事業が適しているか」という考えのもとで、事業の選定を行いました。インドでのOYOのホテル事業は、中低価格帯のホテルのクオリティを、テクノロジーとオペレーション能力を用いて、稼働率を劇的に上げることで事業化していました。ところが、日本のホテル業界では、低・中価格帯ホテルはAPAや東横インなどのクオリティの高いサービスが既に確立しており、レッドオーシャンとなっていました。他社が既に確固たる地位を築いている中で、そこに参入しても、大きな革命は起こせない。クオリティリビングスペースの提供や空間の価値の大きな向上は望めないという判断をしました。

──そこで目をつけたのが不動産事業であったのですね。
そうです。不動産事業に決定したのは、主に2つの理由があります。まず1つが市場規模です。日本のホテル事業の市場規模はおよそ2兆円なのですが、不動産事業の市場規模はおよそ12兆円もあり、ホテル事業よりも6倍近く規模が大きいのです。

もう一つの理由は、破壊的イノベーションが起こせるかということです。日本の不動産業界にはまだまだテクノロジーを導入する余地があり、イノベーションによる伸び代がまだまだありました。OYOはテクノロジーを用いた、オペレーションの効率化などを得意としています。不動産業界は、それらを用いた顧客のニーズに合ったサービスの提供やユーザー体験のさらなる向上をかなえられる領域であること。これらの理由が、OYOが日本で不動産事業に取り組むことを決めた理由でした。
──OYO LIFEのコンセプトである「旅するように暮らす」というコンセプトも、シェアリングエコノミーの概念が広がりつつある社会の動きともマッチしていますよね。
OYO LIFEのサービスでは「敷金・礼金、仲介手数料が無料」、「すべての工程がオンラインで完結」、「最短翌日入居が可能」という体験を提供しています。そのため、従来の賃貸の体系では不可能であった「Easy to move」が可能です。これはおっしゃる通り、シェアリングエコノミーが広がり、持たない暮らしが広がっている情勢ともマッチしていると考えています。いままでにないスピードで市場が変化する中で、OYO LIFEはそのスピードにフィットするものであると考えています。

──スピードという点では、OYO LIFEの事業自体の成長スピードも凄まじい速さですよね。なぜOYOではこのようなスピードを実現できるのでしょうか?
まずはHR(人事部)が当たり前にやることを、圧倒的な量を取り組んでいることが一番です。加えてOYO本社から大量に投入されるリソースの支え、資金力など、OYOがこれまでに築いた潤沢なリソースによるバックアップが大きな理由です。OYOのCGO(Chief Growth Officer)のカビ・クルートはよく、「納期はいま」と言葉にするんです。「やることが決まったら、納期はいつか考えているのでは遅い。いますぐ着手して、いますぐ納めるべき」という考えを持っている。だから即日着手して、その日のうちにフィードバックまで返す。OYOが持つカルチャーは日本でも同様です。OYO LIFEのサービスも、2019年1月にいまの事業で方向性を固め、3月にはリリースをするというスケジュールで進行していきました。私が入社した2018年10月には私を含め3人しかいなかった社員が、2019年7月のいまでは、500人を越えているのですから、OYOのスピード感には私自身も驚いています。

情報が溢れているからこそ、感情を動かせ

──先ほども少しお話いただきましたが、山口さんがOYOに参画した経緯をお聞かせいただけますか?
OYOには、2018年10月に日本事業の立ち上げに誘われる形で参画しました。当時、私は脱サラして、クラウドファンデングでのクラフトビール事業の立ち上げを行っていました。

──参画を決めた理由はなんだったのでしょうか?
それはとてもシンプルで、面白いことに挑戦できると思ったからです。クラフトビール事業を立ち上げるまでの私のキャリアは、新卒でDeNAに入社し、その後米IT会社Sprinklrの日本支社に在籍していました。それぞれで新規事業の立ち上げや人事、コーポレートの責任者をしていて、がむしゃらに働いていました。でもあるとき、ふと気付いたら自分の感情がどこかにいってしまったような感覚に陥ってしまった。自分でつくりあげてきたビジネスパーソンとしての人格に、本来自分が持っていた人格がハックされてしまったようで、自分を見失ってしまったんです。そんなときに、登山家の故 栗城史多さんとお話しする機会があり、彼がエベレストの登頂に挑戦する思いや姿を知って。その姿に感銘を受けて、その日のうちにキリマンジャロ行きのチケットを手配したんです。
──その日にですか!? すごい行動力ですね…。
自分の人生を歩いていないと感情ってなくなっていくんです。嬉しいという感情は安心を確認するだけのものになり、苦しいや怖いという感情はなるべく感じないように無関心へと変わっていく。そんななかで、栗城さんの「挑戦する人生」を見て、こんな人生を生きたいなと、眠っていた感情が動き出したんです。結果的に、このキリマンジャロ登頂が自分にとっての人生の転換点になりました。

いざ山に登ってみると、初登山かつキリマンジャロという厳しい環境で、頂上に近づくと酸素不足で考えられることが減っていくという状況を初めて味わいました。そんな状態の中で残っていたのが「頂上へ到達したい」という感情だけだったんです。自分の内側から感情が湧き出す感覚をすごく実感しました。そこから、「面白い」、「やってみたい」といった自分の感情を湧かせるものに全力で挑む状態でありたい。それが僕の人生における、自身の価値基準となったのです。OYOの事業はこの自分の価値基準にピタリと合致したんです。

──キリマンジャロを登頂したことをきっかけに、山口さんの人生は一変したのですね。湧き出てくる感情に向き合っていくと。
「感情」というものは、現代においてとても重要な要素です。いまやっているマーケティングでも、誰でも情報発信ができ、情報が溢れる時代だからこそ、どれだけ心に響く体験を提供できるか。その深度によって、世の中への広がり方が全然違ってくる。

OYO LIFEでは部屋を貸すだけに留まらず、入居者の生活をより良く拡張していく「OYO PASSPORT」という事業にも取り組んでいます。これは50以上のシェアリングやサブスクリプションサービスを利用できるサービスで、家事代行やカーシェアリングなど、さまざまなサービスと連携しています。これもひとえに、OYO利用者の生活のクオリティを上げるため。入居者のいまこの瞬間の幸せを最大化させて、OYOの利用者の皆さんに、より深い感動を体感してもらいたい。そう思っています。
──いまこの瞬間の幸せの追求ですか。確かに、すべてのプロダクトやサービスの根源にあるのは、「幸せになる」ためですよね。
少し話が飛ぶのですが、幸せについて私がもう一つ思うことは、「人との競争の先に幸せはない」ということです。キリマンジャロを登る前は「人との勝負で勝つ」、「偉くてすごい自分になれば自由になれる」、そう考えていたんですよ。でも、いざ勝負で勝ったり、賞を受賞したりして、感じたことは幸せではなくて、不安だったんです。競合する相手や他人ばかりを見ていて、自分を見ていなかった。だから勝ち続けても不安はなくならないし、徐々にそれは恐怖という感情に近づいてきました。そのときに思ったのは、恐怖でつくりあげたものは結局長続きしないということです。自分が幸せになりたいのなら、自分をしっかりと見ないといけない。

──マイナスの感情も非常に大きなエネルギーはありますけどね。でも、長続きはしないと。それこそ、自分が他者にハックされてしまうことになりかねないですね。
やはり好きなものや自分のやりたいことに嘘をつかずに取り組むことに勝るエネルギーは存在しないと思います。それが一番、最大出力で長期間持続できますよ。キリマンジャロの登頂以降は、私も嘘をつかずやりたいと思ったことをやっています。そうしていたら、OYOにも巡り会いました。
──それでは最後に、山口さんが今後OYO LIFEで目指していきたいことを教えてください!
いまの時代は本当にいろいろな生き方ができるようになってきている一方で、暮らし方や住居の在り方は大きく変化せずにいます。そんなライフスタイルを、より価値の高いものにOYOが変えていきたい。人の生きるステージそれぞれにフィットした空間を提供していきたいと思っています。日本の生活様式をひっくり返すような、そんな革命を起こしていきたいですね。

──OYO LIFEが起こす、住まいと暮らしの革命がこの先日本、そして世界をどのように変えていくのか。いままで当たり前にあった生活が、私たちの予想もしない形に変わる日はそう遠くないように感じました。本日はありがとうございました!
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