──まずはじめに、「ゆるふわBIプロジェクト」というプロジェクトをメルカリ社内で主催していると聞いたのですが、これは一体どのようなモノなのでしょうか?
一言で表すと、社内にデータ分析のカルチャーを根付かせていく活動です。

──どのような経緯で発足されたんですか?
メルカリ社内にはBI(Business Intelligence)チームというデータ分析の専門部門があったのですが、それ以外の部門でも個人でデータ分析をしている社員がたくさんいたんです。マーケティングやファイナンスなどなど。この人たちと集まってデータ分析の話ができたら楽しそうだなと思ったのが最初のきっかけでした。それで実際に集まってみたら楽しくて、知見の交換もできて有意義だったんです。それで、定期的に集まろうということで、ゆるふわBIプロジェクトが発足しました。

──それぞれ目的も意図も違うと思うのですが、それでも知見の交換になるものなのでしょうか?
すぐに仕事に活きるような近さではないのですが、各々で使っているデータセットが違っていて、こんなデータが社内にあったんだ!みたいな驚きがありました。経理のメンバーからすると基本的なデータでも、僕らは全然知らなかったり。

──そこから各々の業務の改善点のヒントを得られるわけですね?
その通りです。とある社員が自主的に調べて改善点を発表してくれたのですが、それがプロジェクト化することになるといった成果も出始めています。最初はオフ会的な感じでスタートしましたが、そこから業務に還元できるような流れに昇華できました。

──ちなみに今は何名ほど所属しているんですか?
Slackのチャンネル(ゆるふわBIチャンネル)に所属しているのがだいたい140人くらいです。メルカリの社員全体で約1,350人いるので、約1割の社員が参加していることになります。チャンネル内では主に分析に関する質疑応答をしています。また、ゆるふわBIチャンネルの中の10人ほどで社内の面白い分析を広めたり、データ分析に必要な言語であるSQLの社内教育活動をしています。

──140人? すごいですね! データ分析に関心がある方はそんなにいるんですね。ちなみに松田さん自身はいつぐらいからデータ分析関連の仕事に惹かれていったのですか? 改めてこれまでのキャリアについて教えていただけますでしょうか。
データ分析が必要だと感じたのは大学院生のときです。工学部の研究室でコンピュータシミュレーションをしていました。インフルエンザなどの感染症の拡大をいかに抑制するかについて研究をしていたのですが、データが膨大に出力されて、まとめることが難しかったんです。けど自分なりに試行錯誤することが面白くもあり、そこでデータ分析に関心を持ちました。分析ってものすごく価値のあるモノかもと、このとき感じました。

データ分析を専門とする職種の募集なんてなかった

──就職活動もデータ分析のできる職種で選ばれたんですか?
そうですね。就職活動をしていたのが2009~2010年頃で、ビッグデータやデータサイエンスのブームが始まるほんのちょっと前だったんです。波が来る前だったので、すごく苦労したのを覚えています。僕はデータ分析という軸で就職したかったのに、当時そんな募集はなくて、どうやって仕事を探したらいいのかわからなかったです。そんな中でなんとか見つけて、データ分析専業のブレインパッドに入社することができました。

──ブレインパッドではどのような業務を担当していたのでしょうか?
ブレインパッド時代は大きく2つに分けられて、最初の2年間は広告会社と一緒に動いていました。取り扱っている広告の効果の数値的根拠を試算して、広告会社の営業と一緒にクライアントに提出するような仕事でした。その後は、Webメディア企業に常駐して、自社媒体に広告を効率よく配信するエンジンを社内で開発し、そのエンジンの性能を上げる仕事をしていました。

──後者のような業務もデータアナリストが関わるものなのでしょうか? 
記事閲覧者にどの広告を表示すれば一番クリックされるかって、過去の行動履歴からパターンがわかったりします。たとえば、住宅系の記事をたくさん見ている人ならマンションの広告がいいんじゃないかとか。そういうロジックをつくることはデータアナリストの役割の一つです。そしてここがひとつの転機で、機械学習を使いこなしてデータ分析すれば収益につながるんだということを実感しました。仮説を立て、検証して、その結果を反映させれば、ビジネスにインパクトを与えることができる点はとても魅力的でした。そして、そういった改善をチームで進めていくことが、自分にとっては楽しかったんです。

──その後、メルカリへ転職されたとのことですが、それらが決め手なのでしょうか?
そうです。事業会社でビジネスに寄与したかった点と、チームプレイをしたかった点です。

──ちなみにメルカリでなくともさまざまな事業会社があると思うのですが、なぜでしょう? 
それはメルカリのプロダクト自体が好きだったからです。フリマアプリなので、出品者や購買者のやりとりがあって、これは面白い仕組みだなと思いました。自分自身も面白いと思えるようなプロダクトで改善していきたいと思っていたので、メルカリへ決めました。

──プロダクト自体に魅力を感じたんですね。データアナリストは、データの質や量が転職の決め手になるのかなと想像していたのですが。
僕にとってはプロダクトが優先でした。もちろんデータに魅力を感じる人もいると思いますが。

──メルカリでは具体的にどのような業務をされているのでしょうか?
入社してすぐは、US版メルカリの改善に携わっていました。その後しばらくして、JP版メルカリの改善にも関わるようになりました。USとJPは地理的な違いだけでなく業務内容も大きく違っていて、USでは広告によるダウンロードの誘引とDL後のアクティベート化を担当していました。いかにカジュアルに使ってもらえるかを試行錯誤してましたね。一方JPではその先の、サービスをいかにして使いやすくできるかの改善を担当しています。

データアナリストは意思決定をサポートする

──データアナリストとして、具体的にどのように関与しているのでしょうか? プロダクトマネージャー(以下、PM)とは何が違うのでしょうか?
PMとは二人三脚で仕事をすることが多いです。PMとデータアナリストは明確に役割が違っていて、例えるとPMは政治家で、僕らデータアナリストは官僚です。最終的な意思決定者はPMなんです。ただ意思決定をするのはとても大変で、色々な選択肢があるし、いま挙がっている選択肢以外の方が実は正解かもしれない。そこで僕らが、選択肢を整理して、優先順位をつけていく。そうなるとPMは意思決定しやすくなる。それが僕らデータアナリストの仕事です。

──意思決定はたしかに大変な業務ですね。その補佐をしてくれるのは助かりますね。
僕が理想としているのは、PMが気持ちよく意思決定できるようにすることです。そのためにきちんとした論理の流れ、納得のできるストーリーを用意することが、僕らに求められていることだと思っています。
──逆に、データアナリストがミスリードをしてしまう危険性もあると思うのですが。
それはもちろんありえます。なので、数値や定義にミスがないように気をつかっています。基本的なところこそ、一番気を使って、細心の注意を払っています。

──いまはPMの意思決定のフォローをしていますが、経営者などのサポートという役目もあるように感じました。
実際、チームとして経営レイヤーのサポートをしており、PM以外も相手になりえるというのはその通りです。意思決定が必要な場所に根拠を提供していく仕事なので、さまざまな意思決定者のパートナーになれる可能性はあります。このとき重要なのが、パートナーによって必要とする分析の解像度が異なるという点です。大まかな流れを知りたいのか、細かい情報を知りたいのかで分析に必要なデータやアウトプットが変わります。また、このときそもそもデータが収集できているのかに留意する必要もあります。メルカリにおいてはアプリの挙動やユーザーの行動ログのデータは豊富に取得できており、分析者にとしては良い環境だと感じます。

データアナリストの活路

──データ収集しやすいかどうかがネックになる。たしかに他の業態と比べてWebブラウザベースのサービスやアプリケーションベースのサービスの方がデータを集めやすいですね。
そうだと思います。また当社のように自社サービスを運営している企業のデータアナリストは「新規機能の追加時にどのようなデータを取得すれば分析できるか」という設計も必要になってきます。こういった知見を持っていると、今後のキャリアで活きてくることがあるかもしれませんね。

──データの取捨選択やデータ収集のノウハウが他業態でも転用できるということですね。
Webサービスを展開する企業に在籍するデータアナリストが、そこで得た経験を活かして異業種で活路を切り開くことは、データアナリストの今後の生きる道の一つだと思います。ただし、データ収集基盤を整えることの難易度は、いわゆるデータドリブンな会社かどうかで大きく変わってくると思います。

──データを集めやすくするには、データが重要だと認識している風土が必要になります。その面で、冒頭でお話いただいた「ゆるふわBIプロジェクト」はその一環であり、メルカリ社内にはそのような素地が整っているということですね。今後「ゆるふわBIプロジェクト」はどのように展開していこうと思っているのでしょうか? 
データ分析を民主化してきたいと思っています。理由は、意思決定をする場面に対して、データ分析できる人がすごく少ないんです。その状況を放置すると、組織の意識決定の精度が下がると危惧しています。それを改善するためにも、データ分析の民主化を進めたいんです。データ分析って小難しく捉えがちですが、難しくないし、環境が整えば誰でもできるんです。プロジェクトを通して、現在進行形で普及を進めています。

──データの民主化されるとすごい組織になりそうですね。でもアマチュアのデータアナリストが増えると、プロのデータアナリストの居場所はなくなるのでは? と危惧したのですが。
メルカリに入ってすぐに気付いたことですが、現場で意思決定をした方が速いし、改善の質も高いんです。僕は前職でコンサルタントをしていたのでわかるのですが、外部からコンサルティングするデメリットのひとつに「スピードの遅延」がありました。みんながデータ分析できるようになると、この点をクリアできる。だったらみんなが分析できた方がいいなと。それによって、僕らの仕事がなくなることはあまり気にしていないです。意思決定自体すごく大変なことで、そこをカバーできる専門性はおそらく失われないと思っています。

──なるほど、広く普及されても専門性が重宝されるということですね。そして組織全体のデータリテラシーの底上げは間違いなく組織をドライブしていきますね。本日はありがとうございました!
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