中国のクリエイティブ事情から見る、広告のグローバルトレンド Quantum Video ファウンダー 曹一清さん
テクノロジーを社会に浸透させ、世界の先端をゆくキャッシュレス社会を実現している中国は、今や注目の的です。Advertising Week Asia 2019では、中国の広告会社(Hans Films China)がゴールド・パートナーになるなど、中国が広告という領域でも世界にアピールしたいことがうかがえます。
日本の広告会社・制作会社のみなさんも、中国のクリエイティブ事情が気になるはず。中国の映像プロダクションであるQuantum Videoファウンダーの曹一清さんにインタビュー。聞き手は、上海の同済大学に短期留学していた経験を持ち、中国情報やSXSWなどの海外カンファレンス情報も発信している、フリーランスライターの肩書も持つ岡本侑子さん。中国のクリエイティブ事情や広告業界のグローバルトレンドを探ります。
日本の広告会社・制作会社のみなさんも、中国のクリエイティブ事情が気になるはず。中国の映像プロダクションであるQuantum Videoファウンダーの曹一清さんにインタビュー。聞き手は、上海の同済大学に短期留学していた経験を持ち、中国情報やSXSWなどの海外カンファレンス情報も発信している、フリーランスライターの肩書も持つ岡本侑子さん。中国のクリエイティブ事情や広告業界のグローバルトレンドを探ります。
中国人広告クリエイターのキャリアは?
──現在、中国の広告業界も他の業界同様に著しく成長していると感じています。そのような状況で、曹さんはどのようにして現在のポジションに就かれたのでしょうか?私の大学の専攻はインダストリアルデザインでした。大学卒業後にオフィス家具会社のデザイナーとして2年間勤め、その後Quantum Videoを起業しました。
2012年に私を含めて3人でこの会社を設立しました。私は会社運営の責任者です。いま従業員は約30人を抱えるまでになり、設立当初から非常に速いスピードで成長しています。
──クリエイターの皆さんはどのようなキャリアなのでしょうか?
従業員のバックグラウンドはさまざまです。何名かは映像制作業界出身ですが、それ以外は別の業界にいて、映像スキルを持っていたわけではありません。例えば、一人の男性従業員の話をしましょう。彼の大学の専攻はロケットエンジニアリングでしたが、彼は一人で映像制作スキルを学び、私たちの会社で働くようになりました。
──日本同様に多様な人材がいるのですね。中国の映像プロダクションで働くクリエイターの特徴はありますか?
中国の社会変化のスピードはとても速いので、どのプロジェクトも迅速に対応をする必要があります。だから責任感が強いです。そして強い個性や意志を持っており、能動的に動いてくれます。1カ月で8つのプロジェクトを進行させているディレクターがいると聞いたこともあります。
──スピードが求められるのですね。曹さんにとって“良い映像クリエイティブ”とはなんですか?
私の思う“良い映像クリエイティブ”は、クライアントの目標を達成できるクリエイティブである、ということです。クライアントの目標達成には映像クリエイティブが必要であると考えています。プロダクションとして映像のクオリティに集中したい気持ちはあるものの、クライアントの求めるものは、販売支援であることを忘れてはいけません。クオリティに集中しすぎると映画のようになってしまい、クライアントの役に立つことはできません。クライアントの投資が無駄になってしまいます。クライアントの販売目標や売り上げを達成するための映像は、とても良いコマーシャルフィルムになりうるはずです。
どのようなクライアントが多いのか?
──中国で働いているクリエイターは、世界を視野に入れて仕事をしているのでしょうか?現在は、顧客がドバイ・ニュージーランド・アメリカの会社の場合もあり、他国と協力して映像を制作することもあります。例えば、ドバイ政府の観光部門プロジェクトが我々に求めていたことは、ドバイに中国人旅行客を引き付けてほしいということでした。
──そのほかにどのようなクライアントを抱えているのでしょうか? そして、Quantum Videoはなにが得意なのでしょうか?
私たちのクライアントは自動車、通信会社など、さまざまな業界のクライアントを抱えています。昨年の最大顧客の1つはファーウェイです。彼らのブランドのほとんどのコマーシャルは私たちがつくりました。
クリエイティブエージェンシーと協力して、コマーシャルを制作することが得意です。1年間で200以上の映像クリエイティブを制作しています。1カ月で大きいものから小さいものまで含めて、大体20以上のプロジェクトが進行していたことになります。映像の配信先は、WeChatなどのデジタルがメインです。最近は、Webフォーマット用の映像制作の依頼が増えていますね。 ──それはとても忙しいですね。Quantum Videoでは、クライアントとどのように向き合っているのですか?
2017年以前は広告会社やクリエイティブエージェンシーから依頼があり、映像を制作していました。しかし、2018年以降はアリババやファーウェイ、ボルボなどのクライアントと直接取引で映像を制作しています。クライアントも広告会社やその先の制作会社を管理し、良好なパートナーになれる方法を常に模索しています。だからこそ、直接取引に移行しているようです。
AIなどの最新のテクノロジーの取り入れ方
──最新のテクノロジーを映像制作の現場にどのように取り入れていますか?まず、中国が生んだユニコーン企業の一つであるDJIのドローンは、とても使いやすく、信頼性が高く、優れた映像を撮影することができます。ドローンにはAIシステムが搭載されているため、飛行制御が簡単にでき、より簡単に撮影を行うことができます。
──AIも制作現場に導入していますか?
クリエイティブな仕事に関わる人たちは、クライアントへイメージを共有するためのリファレンス用に多くのムービーやクリエイティブを探す必要があると思います。その探すことに費やしている時間をAIなら簡単に削減することができます。AIの技術によって、男性か女性か、嬉しいのか悲しいのか、音楽がアップテンポなのかスローテンポなのか、自動車メーカーなのかファッションブランドなのか、いろいろと認識できます。コマーシャルの最後には必ずブランドロゴやブランド名が入るので、AIはどのブランドのコマーシャルかも見分けて検索ができるはずです。
これらのアイデアを実現すべく開発を進めていますが、私にエンジニアスキルがないのでとても時間がかかっています。そのほかにもアリババはすでに、デザインのためのAIを社内で開発したと聞いています。映像クリエイティブもAIで自動生成される可能性があります。将来的にはAIが映像制作業界に大きくて深い影響を与えるように思います。 ──なかなか聞くことができない中国のクリエイティブ事情で大変興味深かったです。ナショナルクライアントに応対していることもあり、日本と似通っている部分もありましたね。本日は貴重な話をありがとうございました。