「ウェブ電通報」×雑誌『広告(博報堂)』編集長が語り合う、広告業界の未来
電通および電通グループ各社の先進的な知見を紹介するニュースサイト「ウェブ電通報」編集長の小川達也(右)さん。そして、広告文化の創造と発展を目的として博報堂が発行する雑誌『広告』編集長の小野直紀(左)さん。今回は、広告業界を代表する電通・博報堂が編集・運営するメディアの編集長対談が実現しました。
それぞれのキャリアを経て編集長となったお二人は、メディアを通してどのようなメッセージを発信し、どのような気づきを得てきたのか。対談を通して、広告業界の未来像が見えてきました。
それぞれのキャリアを経て編集長となったお二人は、メディアを通してどのようなメッセージを発信し、どのような気づきを得てきたのか。対談を通して、広告業界の未来像が見えてきました。
──はじめに、お二人の経歴について伺いたいです。
小川:もともと営業として15年間勤めており、広報部に異動してからは10年ほどになります。営業時代から出版物やアニメなど、コンテンツ系の案件に縁があったこともあり、「ウェブ電通報」の立ち上げメンバーに選ばれました。私自身も「いつか電通をクライアントにしてみたい。電通のコンテンツをつくりたい」という思いがあったので、絶好の機会でした。
実をいうと、「ウェブ電通報」という名前は最初から決まっていたわけではありませんでした。立ち上げ当時の2013年ごろ、SNSの普及によって個人の情報発信が増えはじめ、メディアにも変化が求められていました。そのなかで紙版のみ発行していた電通報も、今後のあり方を模索していたんです。同時に、印刷物へのコスト削減や環境負荷の問題が持ち上がっていました。そういった内部事情とWebメディア立ち上げのタイミングが重なり「ウェブ電通報」という名前になったんです。 小野:僕は、もともと空間デザイナー、コピーライターを経験したあと、プロダクトデザイナーとして「ものづくり」に携わってきました。会社には「広告はやらない」と伝えていたくらい、ものづくりに集中していました。そのようななかで、雑誌『広告』の編集長就任の打診をされたのです。
1946年の創刊以降、博報堂の広報担当者がつくってきたのですが、2000年以降は嶋浩一郎さんなどクリエイティブの人間が編集長を兼任するようになっていました。その時期から『広告』というタイトルながら、広告以外のことを題材とすることが多くなっていきました。
編集長就任の打診の際に、会社からは「博報堂という看板を背負わなくていい」と言われました。会社というしがらみを気にすることなく、「ものづくり」をテーマにした雑誌がつくれるなら自分にとっても意味がありそうだと思い、2019年から編集長を務めることになりました。 ──それぞれまったく異なるキャリアから編集長になったのですね。続いて「ウェブ電通報」と雑誌『広告』の魅力を教えてください。
小川:ウェブ電通報では、「withコロナにおける学びと発見」をコンセプトに、顧客の事業が厳しいなかビジネスドライブするような社員による記事と電通のネットワーキングによる外部有識者の記事の2軸で幅を持った形で日々更新しています。
特徴的なのが、掲載されるコンテンツ自体を、対象となる社員が自ら執筆していること。「ウェブ電通報」を通して蓄えたノウハウを発信してもらうことで、社員の成長や新たな仕事の獲得につながり、メディアとしてもコンテンツを拡充し続けることができます。
また、記事に対するリアクションがすぐに見えるのも、Webメディアの大きなメリットですね。書き手や編集者の熱意が込もった記事ほど、よく見られていることがわかります。だからこそ社員それぞれのモチベーションが刺激され、コンテンツの質も高められています。
そもそも広告は「ものづくり」の一部だと思っています。自分でつくったものがあったとして、それを「使ってみて」と勧めるのも、小さな広告です。それが会社のなかでは宣伝部という組織になり、さらには広告会社として会社単位にまで区切られるようになりました。一方で、近年の広告会社は、クライアントの「パートナー」として、事業に寄り添った動きが求められています。もともと「ものづくり」の一部であったからこそ、もう一度「広告とものづくり」を一体にすることに意義を感じています。
小川:2019年7月に発売されたリニューアル創刊号では、販売価格を1円(税込)と設定していたのが衝撃的でした。あの価格設定にはどういった意図があったのでしょうか?
また、2020年3月に発売した最新号では「著作」を特集し、オリジナル版とコピー版の2冊を同時に発売しました。オリジナルだけでなく、コピーという「セルフ海賊本」もつくることで、著作物の保護と利用のあり方について問いかけを行ううえで効果的だと考えました。ビジネスが目的ではないからこそ、挑戦的な取り組みで最大限にテーマを訴求できるわけです。
小川:「ウェブ電通報」では社員だけでなく、外部とも連携したコンテンツづくりにも積極的に取り組んでいます。電通ではいろんな社員が活躍していて、それぞれに人脈が広がっています。人とのつながりは、ビジネス以前に大切にすべきもの。多くのつながりに恵まれている電通のメディアだからこそ、その思いを体現すべきだと考えています。いずれは「メディア」としての役割を超え、みんなが集まり、つながっていく「場所」になれるような取り組みを推進していきたいですね。
小野:今回の対談も、つながりの1つということですね。
小川:電通と博報堂のような競合関係であっても、つながりの大切さには関係ありません。小野さんにも、ぜひ「ウェブ電通報」で記事を書いてもらいたいですよ。この場でオファーさせていただきます。
小野:ありがとうございます。こうして堅苦しいハードルをなくした方が、面白いコンテンツが生まれそうですよね。 小川:つながりを増やしていくためには、オンライン・オフラインそれぞれを活用することも大事です。最近は新型コロナウイルスなどで状況も変化し、オンラインでのコミュニティ形成に向けて、社会全体がシフトしつつあります。だからこそ、つながる「場所」づくりを活性化するうえで、今がゲームチェンジのタイミングではないかと考えています。
小野:雑誌『広告』でも、従来とは異なる取り組みを続けていきたいと思っています。雑誌って「この先、世の中はこう変化する」とか「社会はこうあるべきだ」みたいな方向性や思想を伝えるものが多いですが、雑誌『広告』ではそれは行いません。編集者の価値観の提示ではなく、雑誌をつくることで、自らが学んでいきたいんです。例えば、AとBというそれぞれの問題があっても、僕から「こっちが絶対に正しい」という意見は出しません。あくまで自分が学んだ二面性を提示し、読者に問いかけるだけ。どちらが正しいかは、読者が考えられるようにしています。雑誌『広告』は、僕が経験した「学び」の追体験を届けるものであり続けたいと思っています。
小川:「博報堂」という看板を背負わなくていいからこそ、偏った主張を求められず、自由度の高い表現ができるんですね。
小野:ただし、自分の裁量でつくれるからこそ、独りよがりにならないよう気をつけています。常に、僕自身と一緒に記事をつくるライターや編集者という最小限のチームにとって発見のあるものを目指しています。この最小限のチームが納得できないものなら、やらないほうがいい。逆に、チームの満足度が高い記事ほど、評判は良いですね。
広告やメディアは、生活者にメッセージを届けることで、なにかしらの影響を与えるものです。とはいえ、安易に生活者が欲しがるものだけをつくっているのでは、新しい可能性は生まれない。だから、社会にとって絶対に必要なものではありません。だから、社会に求められがちな常識や合理性とは異なるアプローチをしていきたいと考えています。
──どちらもメディアという枠組みだけでなく、企業や業界の壁を超えた存在になっていきそうですね。そうした取り組みの先には、どのような未来があるのでしょうか?
小野:小川さんもおっしゃっていましたが、競合関係を超える動きは、この先は当たり前になってくると思います。実は雑誌『広告』にも、電通アートディレクターの上西祐理さんに企画段階から参加してもらっています。
小川:人によっては「競合との協業」に反対する人もいるかもしれませんね。
小野:いるでしょうね。でも、その壁は崩れはじめています。組織や立場は関係なく、同じ志を持つ人や、偶然生まれた縁を大切にすることが、広告業界の活性化につながるのではないでしょうか。
小川:私にとって広告会社とは、世の中を元気にする会社だと信じています。日本をより良くするためにできる取り組みを、電通や博報堂のような大きな会社が先頭に立って、実行していくべきです。企業の壁を超えたつながりを築いていくことも、広告業界の活性化、ひいては日本の活性化に必要なことだと思います。会社が個人を縛れる時代ではありませんから。 ──「個人の時代」になるということですね。
小野:だからこそ、自己発信することから目をそむけてはいけません。広告会社の人は、クライアントとマスに目を向けがちで、つい「自分の視点」が抜けてしまいます。世の中には漠然とした課題が多く、凡庸なままの情報を発信しても、誰にも届きません。課題を自分ごと化し、自分の意志を込められる人が、強いメッセージをつくり届けることができると考えています。
小川:広告業界には、自分なりの目標や野望を秘めた、魅力的な人が多いと思います。こうした個人の持つ影響力を、もっと大きなうねりにしていきたいですね。会社というのは、同じベクトルの想いを持った個人の集合体でしかありません。余計な障壁を超え、さまざまなつながりを築くことで、斬新で魅力的なコンテンツが生まれる。大きなうねりによって、日本はより良くしていきたいですね。
──会社や業界の常識を壊し、そこから生まれる新たなコミュニティが、日本を元気にしていくのですね。「ウェブ電通報」と雑誌『広告』、それぞれがメディアという枠を超え、社会の起爆剤になる日を楽しみにしています。本日はお話いただきありがとうございました!
小川:もともと営業として15年間勤めており、広報部に異動してからは10年ほどになります。営業時代から出版物やアニメなど、コンテンツ系の案件に縁があったこともあり、「ウェブ電通報」の立ち上げメンバーに選ばれました。私自身も「いつか電通をクライアントにしてみたい。電通のコンテンツをつくりたい」という思いがあったので、絶好の機会でした。
実をいうと、「ウェブ電通報」という名前は最初から決まっていたわけではありませんでした。立ち上げ当時の2013年ごろ、SNSの普及によって個人の情報発信が増えはじめ、メディアにも変化が求められていました。そのなかで紙版のみ発行していた電通報も、今後のあり方を模索していたんです。同時に、印刷物へのコスト削減や環境負荷の問題が持ち上がっていました。そういった内部事情とWebメディア立ち上げのタイミングが重なり「ウェブ電通報」という名前になったんです。 小野:僕は、もともと空間デザイナー、コピーライターを経験したあと、プロダクトデザイナーとして「ものづくり」に携わってきました。会社には「広告はやらない」と伝えていたくらい、ものづくりに集中していました。そのようななかで、雑誌『広告』の編集長就任の打診をされたのです。
1946年の創刊以降、博報堂の広報担当者がつくってきたのですが、2000年以降は嶋浩一郎さんなどクリエイティブの人間が編集長を兼任するようになっていました。その時期から『広告』というタイトルながら、広告以外のことを題材とすることが多くなっていきました。
編集長就任の打診の際に、会社からは「博報堂という看板を背負わなくていい」と言われました。会社というしがらみを気にすることなく、「ものづくり」をテーマにした雑誌がつくれるなら自分にとっても意味がありそうだと思い、2019年から編集長を務めることになりました。 ──それぞれまったく異なるキャリアから編集長になったのですね。続いて「ウェブ電通報」と雑誌『広告』の魅力を教えてください。
小川:ウェブ電通報では、「withコロナにおける学びと発見」をコンセプトに、顧客の事業が厳しいなかビジネスドライブするような社員による記事と電通のネットワーキングによる外部有識者の記事の2軸で幅を持った形で日々更新しています。
特徴的なのが、掲載されるコンテンツ自体を、対象となる社員が自ら執筆していること。「ウェブ電通報」を通して蓄えたノウハウを発信してもらうことで、社員の成長や新たな仕事の獲得につながり、メディアとしてもコンテンツを拡充し続けることができます。
また、記事に対するリアクションがすぐに見えるのも、Webメディアの大きなメリットですね。書き手や編集者の熱意が込もった記事ほど、よく見られていることがわかります。だからこそ社員それぞれのモチベーションが刺激され、コンテンツの質も高められています。
小野:個人の視点で発信できるのは魅力的ですね。雑誌『広告』も似たようなところがあって、僕自身の一番の興味である「いいものをつくる、とはなにか?」を全体テーマとしています。
そもそも広告は「ものづくり」の一部だと思っています。自分でつくったものがあったとして、それを「使ってみて」と勧めるのも、小さな広告です。それが会社のなかでは宣伝部という組織になり、さらには広告会社として会社単位にまで区切られるようになりました。一方で、近年の広告会社は、クライアントの「パートナー」として、事業に寄り添った動きが求められています。もともと「ものづくり」の一部であったからこそ、もう一度「広告とものづくり」を一体にすることに意義を感じています。
小川:2019年7月に発売されたリニューアル創刊号では、販売価格を1円(税込)と設定していたのが衝撃的でした。あの価格設定にはどういった意図があったのでしょうか?
小野:特集が「価値」だったので、「価値」について誌面で問題提起をするだけでなく、実践するところまで取り組みたかったんです。雑誌『広告』は、利益を上げることを目的とした出版物ではありません。だからこそ「1円で売る」という試みを通して、「価値」について考える入り口をつくれるのではと考えました。
また、2020年3月に発売した最新号では「著作」を特集し、オリジナル版とコピー版の2冊を同時に発売しました。オリジナルだけでなく、コピーという「セルフ海賊本」もつくることで、著作物の保護と利用のあり方について問いかけを行ううえで効果的だと考えました。ビジネスが目的ではないからこそ、挑戦的な取り組みで最大限にテーマを訴求できるわけです。
競合とも協業
──今後、両メディアが実現したいことなどはありますか?小川:「ウェブ電通報」では社員だけでなく、外部とも連携したコンテンツづくりにも積極的に取り組んでいます。電通ではいろんな社員が活躍していて、それぞれに人脈が広がっています。人とのつながりは、ビジネス以前に大切にすべきもの。多くのつながりに恵まれている電通のメディアだからこそ、その思いを体現すべきだと考えています。いずれは「メディア」としての役割を超え、みんなが集まり、つながっていく「場所」になれるような取り組みを推進していきたいですね。
小野:今回の対談も、つながりの1つということですね。
小川:電通と博報堂のような競合関係であっても、つながりの大切さには関係ありません。小野さんにも、ぜひ「ウェブ電通報」で記事を書いてもらいたいですよ。この場でオファーさせていただきます。
小野:ありがとうございます。こうして堅苦しいハードルをなくした方が、面白いコンテンツが生まれそうですよね。 小川:つながりを増やしていくためには、オンライン・オフラインそれぞれを活用することも大事です。最近は新型コロナウイルスなどで状況も変化し、オンラインでのコミュニティ形成に向けて、社会全体がシフトしつつあります。だからこそ、つながる「場所」づくりを活性化するうえで、今がゲームチェンジのタイミングではないかと考えています。
小野:雑誌『広告』でも、従来とは異なる取り組みを続けていきたいと思っています。雑誌って「この先、世の中はこう変化する」とか「社会はこうあるべきだ」みたいな方向性や思想を伝えるものが多いですが、雑誌『広告』ではそれは行いません。編集者の価値観の提示ではなく、雑誌をつくることで、自らが学んでいきたいんです。例えば、AとBというそれぞれの問題があっても、僕から「こっちが絶対に正しい」という意見は出しません。あくまで自分が学んだ二面性を提示し、読者に問いかけるだけ。どちらが正しいかは、読者が考えられるようにしています。雑誌『広告』は、僕が経験した「学び」の追体験を届けるものであり続けたいと思っています。
小川:「博報堂」という看板を背負わなくていいからこそ、偏った主張を求められず、自由度の高い表現ができるんですね。
小野:ただし、自分の裁量でつくれるからこそ、独りよがりにならないよう気をつけています。常に、僕自身と一緒に記事をつくるライターや編集者という最小限のチームにとって発見のあるものを目指しています。この最小限のチームが納得できないものなら、やらないほうがいい。逆に、チームの満足度が高い記事ほど、評判は良いですね。
広告やメディアは、生活者にメッセージを届けることで、なにかしらの影響を与えるものです。とはいえ、安易に生活者が欲しがるものだけをつくっているのでは、新しい可能性は生まれない。だから、社会にとって絶対に必要なものではありません。だから、社会に求められがちな常識や合理性とは異なるアプローチをしていきたいと考えています。
──どちらもメディアという枠組みだけでなく、企業や業界の壁を超えた存在になっていきそうですね。そうした取り組みの先には、どのような未来があるのでしょうか?
小野:小川さんもおっしゃっていましたが、競合関係を超える動きは、この先は当たり前になってくると思います。実は雑誌『広告』にも、電通アートディレクターの上西祐理さんに企画段階から参加してもらっています。
小川:人によっては「競合との協業」に反対する人もいるかもしれませんね。
小野:いるでしょうね。でも、その壁は崩れはじめています。組織や立場は関係なく、同じ志を持つ人や、偶然生まれた縁を大切にすることが、広告業界の活性化につながるのではないでしょうか。
小川:私にとって広告会社とは、世の中を元気にする会社だと信じています。日本をより良くするためにできる取り組みを、電通や博報堂のような大きな会社が先頭に立って、実行していくべきです。企業の壁を超えたつながりを築いていくことも、広告業界の活性化、ひいては日本の活性化に必要なことだと思います。会社が個人を縛れる時代ではありませんから。 ──「個人の時代」になるということですね。
小野:だからこそ、自己発信することから目をそむけてはいけません。広告会社の人は、クライアントとマスに目を向けがちで、つい「自分の視点」が抜けてしまいます。世の中には漠然とした課題が多く、凡庸なままの情報を発信しても、誰にも届きません。課題を自分ごと化し、自分の意志を込められる人が、強いメッセージをつくり届けることができると考えています。
小川:広告業界には、自分なりの目標や野望を秘めた、魅力的な人が多いと思います。こうした個人の持つ影響力を、もっと大きなうねりにしていきたいですね。会社というのは、同じベクトルの想いを持った個人の集合体でしかありません。余計な障壁を超え、さまざまなつながりを築くことで、斬新で魅力的なコンテンツが生まれる。大きなうねりによって、日本はより良くしていきたいですね。
──会社や業界の常識を壊し、そこから生まれる新たなコミュニティが、日本を元気にしていくのですね。「ウェブ電通報」と雑誌『広告』、それぞれがメディアという枠を超え、社会の起爆剤になる日を楽しみにしています。本日はお話いただきありがとうございました!