なぜヤフーを辞めたのか

──前職のヤフーには10年以上データアナリストとして勤めていたとお聞きしました。なぜ、ストアーズ・ドット・ジェーピーへ転職を決めたのでしょうか?
きっかけはストアーズ・ドット・ジェーピーの代表である塚原からTwitterのDMをもらったことでした。「データアナリストの仕事があるから話を聞きませんか」と代表から直接勧誘があって。話を聞いてみると、会社の雰囲気も、ネットショップ作成サービス「STORES.jp」も魅力的に感じたんです。そしてストアーズ・ドット・ジェーピーにはいままでデータアナリストが不在だったと聞きました。そこにさらなる可能性を感じたんです。

──データアナリストが不在だったということは、西村さんが第一号のデータアナリストというわけですね。
そうです。STORES.jpのサービスは、ユーザーの声に耳を傾け、改善を繰り返すことで成長していきました。そこに定量的なデータをかけ合わせることで、より大きなサービスへと成長できると確信したんです。その直感を信じて、ストアーズ・ドット・ジェーピーへの転職を決めました。
──データアナリストの仕事にはデータが欠かせません。事業規模を考えるとヤフーの方が扱えるデータの量は多いですよね? この点はどのように考えていたのでしょうか?
確かに、転職することを周りに伝えたとき、そのような反応もありましたね。「データアナリストだったらデータがないと始まらない」や「データの量が多いのは絶対にヤフーだ」などなど。データの量が多いとデータアナリストにできることが増えていくというのはそのとおりですが、会社のフェーズによって必要になるデータが異なるとも思っています。僕が感じたのは、これまでデータアナリストがいなかったストアーズ・ドット・ジェーピーで、データがサービスや事業に貢献する度合いはヤフー以上に大きいと思ったんです。ぜひそのフェーズで挑戦をしてみたいと。

──確かに役割は異なりそうですね。1→100に膨らませていくヤフーと0→1を新たにつくり上げていくストアーズ・ドット・ジェーピーという感じでしょうか。
結局は好みだと思いますけどね。膨大なデータのなかでデータとひたすら戯れたいと思う人は前者が向いているし、経営者やPM(プロダクトマネージャー)と一緒にサービスをつくり上げていきたい人は後者が向いている。そういう違いですね。

ストアーズ・ドット・ジェーピーでのいまの僕の上司はCEOの塚原になるんです。オフィス内でも座席は隣。リアルタイムに売り上げの変動を見て、すぐに数字を出す、という感じです。ほかにもPMとも一緒に仕事をすることが多いですね。

アナリストとサイエンティストに違いはあるのか?

──西村さんはデータアナリストという肩書を名乗っていらっしゃいますが、ほかにデータサイエンティストという職種もありますよね。データアナリストとデータサイエンティストに違いはあるのでしょうか?
確かに、データを扱う職種としてさまざまな名称の職種が存在していますよね。僕はそのなかでも自分はデータアナリストであると自覚してこの肩書を名乗っています。データアナリストの主な仕事は2つあると思っています。一つは「誰かの意思決定のスピードを上げること」。もう一つは蓄積されるデータそのものを活用して売り上げ向上や、運用面のコスト削減に貢献するなどして、「データを事業やプロダクトに活用していくこと」。この2つがデータアナリストの職能だと思っています。

ではデータサイエンティストはどのような仕事か。僕が関わってきたサイエンティストは、機械学習エンジニアに近い人が多かったです。機械学習を使って、レコメンドエンジンをつくり、関連した商品を並べる機能のロジックをつくるとか、ユーザーに適した検索結果に並べ替えられるようにデータを使って最適化する、などの役割がありました。
──かなり役割が違うのですね。
誰と仕事をするのかという点も大きな違いがあります。アナリストの方がマーケターやPM、経営者と会話をしながら一緒に仕事をすることが多い一方、サイエンティストの場合は、誰かと一緒に仕事をするというよりも、一つの問いを突き詰める職人のようなイメージがあります。例えば「特定の数字の最大化を図る」という案件があったとします。データアナリストはデータの専門家として、経営者やPM、ほか職種の人たちとセッションすることで、どのKPIを追いかけていくべきかの方針を決めていく。これに対し、データサイエンティストはデータの専門家として、問題を解決するために適した方法や技術を検討し、実際に手を動かし取り組むことで、数字の最大化を図っていく。アナリストとサイエンティストにはこのような違いがあると思っています。

アナリストが「視る」べきもの

──西村さんのなかの、アナリストとサイエンティストの区分けは理解できました。それでは西村さんにとって、より質の高いアナリストというのは、どのような人を指すと思いますか?
同じデータアナリストという肩書でも、さまざまなタイプの人たちが存在します。一つのスキルを尖らせて縦に伸ばしていくタイプもいるし、データ以外にマーケティング視点や企画、プロダクト、デザインなどのほかの視点を増やして横に広げていくタイプ、経営判断の部分に入り込むタイプもいます。しかし、枝葉が分かれていき、さまざまなタイプが存在していっても、共通して大事なことがあると思っています。それは、ザーがどのような数字を見たいかを察知して、正しくそれを設計してあげることです。それをレベルの高いアナリストは、しっかりとできていると思います。

──ここで言う、「ユーザー」とは誰のことを指すのでしょうか?
データアナリストにとってのユーザーとは、「データ分析の依頼をしてくる人たち」です。そしてそれらのユーザーとデータアナリストとの関係は、主従関係ではなく、対等であるべきだと思っています。ユーザーたちに「Aの数字を出してくれ」と頼まれた場合に、そのまま従うのではなく、それが本当に必要なのかと考える。そこで求められた要件が正しくないのなら、新たに適切なデータを用意して、意思決定者のズレを解消してあげるべきです。この部分にデータアナリストとしての技量が試されます。

──経営者やPMの意思決定が本当に合っているのか、データの領域から判断しなければいけないということですね。
それは同時に、データアナリストの判断により、意思決定者のミスリードを誘発してしまうリスクもあります。そのため僕は、データを並べて、ほか職種の人との議論をして検証する機会を積極的につくるようにしています。もちろん、データアナリストとしてデータに対する自分の考えやデータを用いるための根拠は持っています。しかしそれすらも、データアナリストから見た一つの視点に過ぎません。それだけの判断では、データアナリストよがりの意見になってしまう。そうではなく、ほかの職種の視点も取り入れて、結論を出すべきだと思っています。それが事業とプロダクトのための最適な判断につながります。

──単一の視点ではなく、多角的な視点だからこそ、最適な判断を提供できるわけですね。
プロダクトや事業のための最適なデータは、データアナリストだけでは見つけられないんです。確かに、データを正しく見つめる能力があれば、データアナリストとしての仕事は成り立つと思います。しかし勘違いをしてはいけないのですが、良いデータアナリストに求められるのは、決してデータを見る力だけではありません。データアナリストはデータの先にいるサービスやプロダクトのユーザーを見つめている必要があります。だから、もっと広い視点を持って、サービスやプロダクトの全体を理解しなければいけないんです。

僕のなかで、ユーザーを理解するという点において、一番進んでいる業界だと思っているのは広告業界です。顧客のニーズに対してのオリエンからクリエイターが作品をつくっていく過程。この考えはデータアナリストが持つべき視点として、とても参考になると思っています。

──確かに、クライアントの先にいるユーザーのニーズに答えてクリエイティブに昇華していくクリエイターたちは常日頃からそのような考えを持っていますね。
僕も過去に宣伝会議のコピーライター養成講座を受けていたことがあるんです。データアナリストの仕事には直接使えない部分もありましたが、データアナリストをしているだけでは知ることがなかった学びが多かったです。例えば、プロダクトのファンをしっかりと見て、サービスを改善すること。当たり前のように聞こえますが、アナリストの職業柄データ越しに、なにかを見つめることが多かった僕は、当時ハッとさせられました。このときに得た知見はいまでも多く活きています。

職種の壁がなくなる時代

──前述で、アナリストにもさまざまなタイプがいるとおっしゃっていましたが、西村さんはアナリストの幅を横に広げていくタイプのようだとお見受けしました。
そのとおりだと思います。しかもアナリストという境界を越えて、コピーライターだけでなくデザイナーのノウハウも雑食しています。純粋に、興味があるという理由もありますが、各職種の間にある壁が時代とともになくなりつつあると予想しています。

──それは一体どういうことでしょうか?
先日データアナリスト向けのイベントを開催したのですが、そこに現役のデザイナーの方たちが参加されていたんです。デザインには定性的な部分が多く、デザインとデータは、相反しているものだと思っていたので驚きました。気になって理由を聞いてみたところ、「定性的な部分が多いからこそ、数字やデータを使わなければデザインの理由を説明することができない」と答えてくれました。相反しているからこそお互いに理解したい、興味を持つ人たちが現れ始めていると、そのとき実感しました。

いまはまだ、お互いに理解したいと思ってはいるけど、「人種的に合わなさそう」などのバイアスがかかっていると思います。けれども、その先入観がなくなるのはそう遠くないと感じました。この仮説を実証するためにも、いつかデザイナーとデータアナリストを混ぜたイベントを企画したいですね。お互いに理解し合えるのか。それとも話が合わず喧嘩別れしてしまうのか…(笑)。どうなるかはわかりませんが、新しい視点をもたらすイベントになる気がします。
──油と水は混ざり合うのか。確かにとても興味深いイベントだと思います! 
エンジニア、デザイナーがなぜこのような意見を言ってくるのか? その原因がわかれば、問題の落とし所を見つけやすくなる。職種間の共通言語を獲得できれば、そこからまた新しいなにかが生まれてきます。それはもしかすると、デザイナーとアナリストが融合した新しい職業かもしれません。データアナリストという職業はまだ生まれて間もない職業ですが、これから先さまざまな形へ発展していくのではないかと思います。

──変化が著しい現代では、データとそれを扱う人たちの価値は今後ますます上がっていきそうですね。データを見る力に加えて、それ以外の視野をどれだけ広げられるか。そこが鍵になっていくと西村さんのお話から感じました。今後のデータアナリストの動向も気になるところです。お話いただき、ありがとうございました!
SHARE!
  • facebookfacebook
  • X (twitter)X (twitter)
  • lineline