お茶でつながる現代と戦国時代。戦を生き抜く秘訣は休息にあり〈前編〉 TeaRoom 代表取締役/CEO 岩本涼さん
日本人がこよなく愛する飲料、お茶。日本の生活には切っても切り離せないものであるお茶は、伝統文化である「茶道」としての一面も持っています。自身も13年間お茶をたしなみ、茶道をきっかけに「お茶×ビジネス」の領域で起業をしたのが、TeaRoom 代表取締役 岩本涼(いわもとりょう)さんです。なぜお茶のビジネスを手がけるに至ったのか、岩本さんに前後編に渡り、インタビューしました。前編では、茶道に関わり続けたからこそ見えた戦国時代といまの共通点についてお話いただきました。
現代と戦国時代には共通点がある
──TeaRoomが手がける事業について教えていただけますか。現在はBtoB向けのお茶の卸事業をメインに手がけています。静岡の大河内という地域に日本茶の工場を運営し、生産や加工、開発から販売まですべて社内で行なっております。私が茶道家ということもあり、茶室設計や店舗のプロデュースなどお茶と名のつくものは、基本的にすべてやらせていただいております。
──岩本さんは茶道家としては13年ものキャリアがあるとお聞きしました。人生のほとんどをお茶とともに歩んでいるといっても過言ではないですよね。
ただ別に茶道の家元の生まれでも、両親がお茶の商社に勤めているというわけでもなかったんですよ。私がお茶に関わりをもった最初のきっかけは、9歳のときのことです。俳優の東山紀之さんが和服でテレビ番組に出演しているのを見かけ、「和服がかっこいい」と感動して、始めたことが最初でした。それからずっとお茶を習い続けていて、気がつけばいまに至っていました。 なぜこんなに長い時間を飽きずにお茶とともに歩んでこれたのか。受験生のころやアメリカに留学していたとき、どんなに忙しいときでも茶室に1時間いればすごく心豊かになれたんです。自分の心を預けられる場所があること。そのような余白があったことが、私の人生にとってとても大きな影響を与えました。だからTeaRoomでは「余白のある世界」の美しさを伝えていくことをミッションに掲げているんです。
──「余白のある世界」ですか。それは一体どのような世界になるのでしょうか?
令和って、戦国時代にすごく近いと思っています。戦国時代は戦のなかで、茶会をしていたという記録があるんです。なぜかというと、殺し合いをするなかで、唯一心を預けられる場所が欲しかったから。茶会は戦いのなかの余白であり、心が預けられる場所として設けられていたんです。
これと同じことがいまの社会でも言えるのではないかなって思うんです。いつ殺されるかわからなかった戦国時代と、いつ押し潰されるかわからないいまのソーシャル時代、この2つは状況がとても似ているなと。戦国時代での人を殺すこと、そしていつ自分が殺されるかわからないことへのストレス。現代でのSNSで叩かれ、炎上するリスクやSNSに振り回され、疲れを感じるなどのストレスがある。リアルかソーシャルかの違いだけで、構造はとても近い。そうであれば、戦国時代の戦のなかで茶会を開いていたことと同様に、現代でも茶会を開くことに需要があるのではないかと考えたんです。それが私たちの目指す「余白のある世界」です。
茶室のあるオフィスとは
──言われてみれば、ソーシャルメディアでセルフ・ブランディングして個人の力を発揮できる状況は戦で武将が名を挙げることと似ているかもしれないです。戦国時代と現代では類似点がありますね…。そういう状況だからこそ休息できる場所が必要になるといわけですね。そうなんです。また「働き方」という観点でも余白が求められていると私は考えています。その一環として、私はレシート買取アプリ「ONE」を提供するワンファイナンシャルという会社で、茶頭(さどう)という役職を務めさせていただいています。ここでは「働き方」という切り口で、お茶を用いて会社に「余白のある世界」をつくっていこうと試みています。 ──「茶頭」という役職は初めて聞きました…。一体どのような仕事をしているのでしょうか?
主に場づくりをしています。社内の皆さんが一番心地よく、適切な間を持って仕事に取り組めるような場、つまり社内に茶室をつくるようなイメージですね。2019年の間では2件の茶室をプロデュースさせていただきました。
茶道の本質は「高次元の遊戯性」だと言われています。「次元の違い」と「遊戯性」、この2つが重要なんです。高次元と呼ばれる所以は、茶室の中が非日常の空間となるためです。茶器などの道具は日常的に使っているにも関わらず、なぜか茶室の中は非日常の空間となる。これは「茶室の外の日常」と「茶室の中の非日常」では次元が違うから。
また「遊戯性」とは、茶道の楽しみはままごとに似ていることが関係しています。普段は敬語を使わない子どもがままごとで母親を演じるとき、敬語を使うことがありますよね。それは現実ではない遊戯であるから。普段からみんなお茶を飲みますが、高次元の空間である茶室でお茶を飲む場合には、普段しない飲み方や振る舞いを演じます。つまり遊戯に変わるのです。そのため、茶室の中の行為は一つ次元が上がった遊戯であると言えるのです。 ──それをオフィスのなかに取り込むのにはどのような意味があるのでしょうか?
オフィスでは生産性を高め、効率良く動く必要があります。そのためにはずっと凝り固まっているわけにはいかず、凝りを解きほぐすことができる要素も必要になると考えました。そのための場所として茶室はぴったりな空間なのです。非日常な空間でリフレッシュできることはもちろん、話し合いや交渉する場としても茶室は適しています。茶室は昔、大臣や将軍など位の高い人たちの密談の場としても使われていた側面も持ちます。これらの観点と私自身が茶室とともに過ごして来た経験から、茶室は企業の成長に寄与できると考えました。
──茶室が福利厚生の一つになるとそのようなメリットがあるわけですね。
そうなのですが、私は福利厚生という概念とは少し違うと思っています。福利厚生とは、一生懸命に働くことを推奨するための西洋的な文化であると考えています。そうではなく、休み方改革を推奨するための東洋的な文化として茶室を設けているんです。効率的に働くことではなく、戦略的に休むことを推奨していきたい。戦国時代ではきっとこのような考え方だったと思うんです。戦のなかでの非日常の休息の場、それが茶室。現代でもそのような休息の場として茶室を設けようと考えています ──働き方改革ではなく、休み方改革ですか…。戦国時代といまを比較するからこそ見えてきた方法ですね。後編では、世界のお茶文化事情とTeaRoomが目指す未来についてお話しいただきます。