「間を取る」日本人だからこそ、見出せる第三の答えがある〈後編〉 TeaRoom 代表取締役/CEO 岩本涼さん
お茶×ビジネスのスタートアップ企業TeaRoomを起業した、同社代表取締役 岩本涼(いわもとりょう)さん。前編に引き続き、お茶のさらなる魅力へ迫ります。後編では、世界とお茶という切り口で、TeaRoomが目指す未来についてお話いただきました。
世界共通の喫茶文化と日本独自の「間を取る」概念
──前編では茶道や茶室を通した「余白のある世界」を実現するための岩本さんの活動についてお話いただきました。茶道というものは日本が発祥の文化であると思いますが、ほかの国でも独自の文化があるのでしょうか?まず、私たちが考えるお茶の定義は、「スパイスとハーブの抽出物」であることです。これを前提に置くと、全世界のどの国でもお茶文化を持っていると言うことができます。例えば、トルコのトルココーヒーやタイのタイティー、中国の飲茶(やむちゃ)、アメリカだとクラフトビールなども当てはまります。それぞれの国に独自のお茶文化がありますが、喫茶という行為は全世界どの国でも共通して持っています。日本ではいわゆる「お茶をする」という行動で、飲料物を通して人と人が出会う行為を指します。
──ある意味、“お茶”を狭義に「煎茶・抹茶」として捉えるのではなく、広義に「人が会話する喫茶」としても捉えているのですね。
人の根幹にあるのは、「誰かとつながりたい」という思いです。そのため、お茶を飲みにいくことが交流の媒介手段になる喫茶文化は世界中の国に存在しているんです。これは全世界が唯一持つ共通文化なのではないかと思っています。日本にはその喫茶文化のなかに、茶道という独自の文化を内包しているんです。 ──世界共通の喫茶文化のなかに、茶道があると。なぜ日本は独自に茶道という喫茶文化を築いていったのでしょうか?
日本には、「間(あいだ)を取る」という概念が存在しているからです。これは二元論で語りきれないものを、間を取って場を収めるという行為であり、これはほかの国にはない行動なんです。例えば、アメリカではすべての結論がYes or Noになるところを、日本語では「大丈夫」という言葉でYesともNoとも取れる結論になることがありますよね。ほかにも縁側という場所。これは家の中とも外とも言えない曖昧な空間です。これらのように、日本の文化は二元論や二項対立すらも優しく包み込んでくれる大きな価値観を持っているんです。このような間を取る概念と喫茶文化が混ざり合って生まれたのが日本の茶道です。これはとても美しい日本が誇る文化であると思うし、世界中の対立もきっと解消できるヒントがここにはあると思っています。
──AでもBでもあり、それとも違う新しいCという答えを、間を取る日本文化でなら見つけることができると。
そうです。そしてそれはお茶を通して実現できる。前述した通り、喫茶文化は世界中に存在しているし、私自身も27カ国で茶会に参加したことがあります。その際にお茶を飲めない人はほとんどおらず、ユニバーサルな商材であると感じました。飲めない人がいないということは、誰とでも接点持てるということで、その接点から思想を入れることができる。既存の喫茶文化に日本の思想を入れてあげるだけでいいため、新しい文化をつくる必要はないんです。だからお茶をして世界平和を実現することはそんなに難しいことではないし、本気で実現できると私たちは考えています。
2020年は習い事元年になる
──最後になりますが、TeaRoomを通して今後具体的に取り組んでいくことを教えてください。私たちは、来年2020年は習い事元年にしたいと考えています。そのためお茶を学ぶことができるような取り組みを今後していきます。
なぜ習い事元年にしたいのかと言うと、大きいのが働き方の変化です。以前よりも仕事以外に時間を割きやすくなり、自己投資に時間を費やす人が増えています。そのようななかで現代が戦国時代に共通する部分が増えていると感じていることもあり、時代がまた一巡して茶道や武道、華道などの習い事にスポットが集まるのではないかなと。まったく同じものではないにせよ、現代に合わせてアップデートされた習い事のブームが起こるのではないかと考えています。
──確かに、TeaRoomや岩本さんの取り組みは伝統文化をアップデートして普及していく活動に重きを置いていますよね。そして次に取り組んでいくのは習い事のアップデートというわけですか。
茶道という形ではないにせよ、お茶が新しい習い事なるのは十分可能性があると思いますね。私たちが伝えたいメッセージの一つに、日本の季節感があります。「気がつけば夏が終わっていた…」みたいな感覚に陥ることありませんか? 時の流れが早いと感じる人が増えていると思うんです。それは生活のなかでパソコンやスマホに情報やコンテンツが集約されるようになり、デジタルデバイスに頼る場面が増えたことが一因にあるかなと。そのなかには日々新しいことが溢れていますが、ソフトが変わるだけで、ハードが変わるわけではありません。結局スマホの画面をスワイプするだけの同じ行動の繰り返しになり、中身ばかりに注目し外を気にしなくなるんです。そうして外を見なくなる時間が増えるため、現実の季節感がどんどん希薄になり、時間感覚が狂っていくと考えています。 その狂ってしまった感覚を、お茶を通して元に戻せるような仕組みをつくっていきたいです。せっかく四季がある国にいるのに、季節を感じられないのはとてももったいないですから。これをかなえられるような、新しいサービスを2020年にTeaRoomでもリリースする予定です。そのサービスを通して、私たちで新しいトレンドをつくりたいと思います。
──西洋文化が生活にあふれていくなかで、お茶というのは東洋が発祥の独自文化であり、そこには現代を変えるためのヒントがあるのですね。岩本さんがお茶を通じてこの先つくりあげていく世界が果たしてどのようなものになるのか、とても楽しみです。お話いただき、ありがとうございました!