意思決定をするだけのプロダクトマネージャーは生き残れない。「鳥の目」を持ち、世界を見渡す ヘイ プロダクトマネージャー 西岡大揮さん
コイニーとストアーズ・ドット・ジェーピー、そしてその経営統合により生まれた新会社、ヘイ。以前インタビューしたデータアナリストの西村純さんをはじめ、さまざまなバックボーンを持つメンバーが集まり、日々成長を続けています。今回の記事では、2018年の夏にヘイに入社し、ストアーズ・ドット・ジェーピー初のプロダクトマネージャーを務めた西岡大揮(にしおかだいき)さんにインタビュー。
新卒で入社した楽天、その後転職したクックパッドの買物情報事業部(現:株式会社ロコガイド)でプロダクトマネージャーとして働いた経験を持ち、一貫したキャリアを築き上げてきた西岡さん。そんな西岡さんが思う「事業成長のためにプロダクトマネージャーのあるべき姿」とは一体どのような姿なのでしょうか。キーワードとなったのは「視野の高さ」。プロダクトマネージャーに待つこの先の未来を考えます。
新卒で入社した楽天、その後転職したクックパッドの買物情報事業部(現:株式会社ロコガイド)でプロダクトマネージャーとして働いた経験を持ち、一貫したキャリアを築き上げてきた西岡さん。そんな西岡さんが思う「事業成長のためにプロダクトマネージャーのあるべき姿」とは一体どのような姿なのでしょうか。キーワードとなったのは「視野の高さ」。プロダクトマネージャーに待つこの先の未来を考えます。
社内初のプロダクトマネージャーへの期待
──ストアーズ・ドット・ジェーピーには、プロダクトマネージャー(以下、PdM)というポジションは西岡さんが入社されるまでなかったそうですね。初のPdMだったわけですが、どのようなことを期待されていたのですか?ストアーズ・ドット・ジェーピーではいままでPdMが存在せず、代表の塚原が会社全体の方針を立てていました。そしてその大きな方針のもと、エンジニアやデザイナーがそれぞれ自分たちで意思決定をし、自走する。そのような文化がストアーズ・ドット・ジェーピーにはありました。社内初のPdMとしての私の役割は、いままで塚原が決めていたプロダクト全体の意思決定と全体の意思を統一していくことです。
ただ、いままで塚原が取り組んでいた業務を一人で担うということで、感じたプレッシャーが2つありました。1つは、これまで弊社では存在しなかったPdMという役割を、一緒に働く周囲のメンバーに受け入れてもらうことができるのか。もう1つは、私自身がここまで経営に近いところで意思決定をしたことがなかったことです。ストアーズ・ドット・ジェーピー代表の塚原たち経営層が思い描く長期のビジョンとプロダクト開発を結びつけることには苦労しつつも、とてもやりごたえのあるミッションですね。 ──西岡さんがPdMとして、経営とプロダクト開発を結びつけるために、大事にしていることはありますか?
私もまだまだ暗中模索の状況ですよ(笑)。そのなかでも私が思うのは、ヘイ代表の佐藤やストアーズ・ドット・ジェーピー代表の塚原たち経営陣が思い描く長期のビジョンを、いかにプロダクトに落とし込むかが重要だと思っています。なぜなら将来に向けた意思決定の成功率は、その意思決定をみんなに信頼してもらえるかに依存するものだからです。いわば意思決定の伝達率を100%にできなければ経営と現場の間に、PdMが存在する意味はないと思います。
──一緒にプロダクト開発するメンバーにいかにして意思決定を信じてもらうのか。そのためのマネジメントがPdMには求められるのですね。
そうです。私自身が日々課題に感じていることでもありますが、未来のビジョンを示し、プロダクトを一緒につくるメンバーに信頼してもらうということです。不確実性の高い暗闇のなかで、先頭を切って前に進み、周りの人間を巻き込んでいく。それがPdMの仕事であると思います。決まった事実やデータが存在する過去に比べて、未来への見通しはメンバーごとに意見も違います。そのような状況でも、意思を統一し、物事を前に進めることができる人こそが、優秀なPdMであると思います。
虫から魚へ。魚から鳥へ
──西岡さんが社会人としてのキャリアをスタートさせた楽天でのことをうかがいます。どのような業務を担っていましたか?主に「楽天市場」のトップページを担当するディレクターとして働いていました。プロジェクトリーダーとして、トップページのデザインリニューアルに携わったことが最も印象深い仕事ですね。これは利用者のUI/UXを向上させるためのもので、半年に及ぶ長期のプロジェクトでした。数字が大きく下がることはなく、社内のなかでも成功と認識してもらえました。ただ、自分のなかにモヤモヤした思いが生まれて、このプロジェクト終了の数カ月後に転職をしました。
──リニューアルは成功したのですよね? そのタイミングでの転職は、周りも驚かれたのではないですか?
確かに、リニューアルは成功しました。でも、トップページのリニューアルだけでは、楽天市場全体に対する影響や貢献度は低く、部分最適になっているだけなのではないかと思ってしまったんです。また、当時私も20代前半でまだ経験値が低かったことも、モヤモヤを感じた要因だったと思います。
そのような胸中であり、一度サービスや会社の規模の小さなところで働いてみたいと考え、クックパッドへ転職しました。そこで当時20~30人規模の新規事業部門でPdMをしていました。その後、2018年の夏、現在所属するヘイに転職しました。 ──楽天とクックパッド、そしてストアーズ・ドット・ジェーピーの3社で、PdMを経験されていたとのことですが、同じPdMの仕事でもそれぞれで違いなどはありましたか?
PdMの主な仕事は意思決定であるとよく言われるのですが、その意思決定にも階層があることを、3社を経て体感しました。そのことに初めに気づいたのは楽天からクックパッドへ転職したときです。クックパッドでは所属する部門にはPdMが少なく、与えられた裁量が楽天時代と比べると、とても多かったことに戸惑いました。事業のマネタイズ方針といった根幹部分にも深く関わることができ、クックパッドで求められているものは楽天のときよりも事業に深く寄与する意思決定であると実感しました。PdMの意思決定には階層があると知ったんです。
ストアーズ・ドット・ジェーピーでもそれまで2社とは異なる階層の意思決定を求められました。私は過去の体験から、意思決定の質を「虫の目」「魚の目」「鳥の目」として、このような図で認識しています。
新卒で入社した楽天は「虫の目」の階層での意思決定を、2社目のクックパッドでは楽天よりも高い階層の「魚の目」、そしてストアーズ・ドット・ジェーピーでは経営に近い「鳥の目」の意思決定に携わる機会があります。私がそれまでPdMのいなかったストアーズ・ドット・ジェーピーへ転職を決めたのは、経営に近い「鳥の目」の階層での意思決定ができるのではないかと思ったからでした。
──なぜ「鳥の目」の意思決定を仕事にしたいと思ったんですか?
今後、データが集まる環境を容易に構築でき、ナレッジが積み重なるほど、「虫の目」の意思決定はPdMを介さずとも判断できるようになると考えているからです。エンジニアやデザイナーといった、ユーザーとプロダクトの両方の理解力が高いメンバーの方が適切な意思決定をくだせるようになっていく。だからこそ、これからのPdMは「虫の目」の目線だけではいけないという危機感を持っています。
例えば、プロダクトの目標をMAU(月間アクティブユーザー)で判断することにすると、そこでPdMに求められるのは、MAUを上げる施策を立案するだけではありません。事業全体にとってMAUという数値がどういう意味を持つのかを、言語化することが必要です。「現在のフェーズでは、こういう理由でMAU向上が大事。そのために最も費用対効果の良い施策を実行します」と上位概念から説明できる目線を持たなければいけないと感じています。
プロダクトマネージャーとしての覚悟
──この先、「虫の目」の階層では自身で意思決定をできるエンジニアやデザイナーが増えていくとのことですが、PdMとして生きていくためにはどのような知見を得ていくべきだとお考えですか?当社のような小さい組織だと、エンジニアやデザイナーが意思決定をする機会が増えるため、「エンジニアだけどプロジェクト管理もできる」など専門職にとらわれず、幅広く活躍できる人が増えていく実感があります。だからPdM自身も他職種の知識を学ぶ必要が出てくると思います。ただ、PdMとしてキャリアを築き上げてきた場合は、これから他職種の知識を学んだとしても、エンジニアやデザイナーなどの専門家に追いつくことは難しい。すでにプロフェッショナルとして確立している人たちの領域に追いつくことは現実的ではありません。
──それでもPdMが他職種のスキルと知識を学んでいく必要があるのはどうしてなのでしょうか?
PdMの一番の役割はプロダクトと事業のための正しい意思決定をすることです。しかし意思決定が正しくても、うまくその効果が現れないこともあるんです。それはなぜかというと、「正しい意思決定を、正しく実行する」ということができていない場合があるからです。いくら「鳥の目」の高さで適切な意思決定をしても、メンバーと共に、ユーザーに使ってもらえるプロダクトへ昇華できなければ意味がない。「鳥の目」の意思決定と「虫の目」の実行フェーズのバランスを保ち、前に進めていくことがPdMの腕が試される部分であると思います。
ここにPdMが他職種のスキルと知識を学ぶ理由があるんです。それらがあることで、現場で働くエンジニアやデザイナーと円滑なコミュニケーションを取ることが可能になります。そうやってPdMがデザイナーやエンジニアなど各チームの翻訳者になることで、プロダクト全体を円滑に回していく。周囲を巻き込んで仕事を進めていくことがPdMには求められるんです。 ──プロダクトや事業全体を見なければいけないPdMだからこそ、各メンバーの翻訳者にならなければいけないわけですね。
PdMの評価は、事業をいかに成長させられるかに尽きますし、そのための一手を打たなければいけません。だからPdM自身は、自分の仕事が事業全体から見て、意味のあることに落とし込めているかを考える必要がある。つまり、事業ファーストであるべきなんです。たとえ経営層と意見が対立することになっても、折れずに事業やユーザーに向き合えるか。それがPdMのミッションだと私は考えています。ひょっとすると、PdMはどの職種よりもエゴの強い職種かもしれません。そんな心構えでいることも、PdMとして未来を生き抜く一つの道になるのではないかと思っています。
──PdMに求められるものは、鳥のように事業全体を俯瞰すること。その上で正しい意思決定と意思決定を正しく実行させていくことが重要なんですね。事業やプロダクトの先頭を切って暗闇を進む、PdMの持つべき資質がよくわかりました。ヘイでの西岡さんのこれからの活躍が楽しみです。お話いただき、ありがとうございました!