肩書を脱いで、本心をさらけ出す。ミレニアル世代の新たなコミュニティ ツカノマノフードコード プロデューサー 古谷知華さん、DIGDOG 代表 陳暁夏代さん
渋谷駅から徒歩10分、神泉駅から徒歩3分の場所に4カ月間の期間限定でオープンしたフードコートをご存知ですか? 週ごとにシェフも提供するフードも変わるツカノマノフードコートは、場所でも人でもなく、「食」というコンテンツを中心に、コミュニティが形成されています。
今回は、ツカノマノフードコートを立ち上げた古谷知華(ふるやともか)さんと、スナックなつよや廃墟型イベントNOBODYなど独自のイベントをオーガナイズする陳暁夏代(ちんしょうなつよ)さんに、ツカノマノフードコートの盛り上がりを軸に、本音でトークしてもらいました。利害関係のない場所や本心になれる場所の必要性など、新たなコミュニティ論に注目です。
今回は、ツカノマノフードコートを立ち上げた古谷知華(ふるやともか)さんと、スナックなつよや廃墟型イベントNOBODYなど独自のイベントをオーガナイズする陳暁夏代(ちんしょうなつよ)さんに、ツカノマノフードコートの盛り上がりを軸に、本音でトークしてもらいました。利害関係のない場所や本心になれる場所の必要性など、新たなコミュニティ論に注目です。
──4カ月間限定の仮設のツカノマノフードコートから見るコミュニティとは、どういったものでしょうか?
古谷:ツカノマノフードコード(以下、ツカノマ)は、場所にコミュニティがつくのではなく、コンテンツにコミュニティがついているんだと思います。ゆくゆくはツカノマを音楽のレーベルのように、食のレーベルにしたい。レーベル化すれば、違う場所に出ても、新しい地域の人たちが入ってきたりして、コミュニティができていくので。
陳暁:ここ数年、“人とつながれる”コミュニティそのものが商品になり、20~30代が交流できるコミュニティが同時多発的に生まれました。
でも、ツカノマって不思議で、“人とつながれる”のではなく、あくまで“食”が真ん中。つまりコンテンツが中心にあるんです。そこに人がついてる。
神泉のこの場所もなんの意味も持たない。シェフも入れ代わり立ち代わりだし、誰がいても成り立つ。コミュニティのオーナーであるともちゃんがいなくても成り立つでしょうね。
古谷:レストランって、座る場所とか区画整備されてますけど、ツカノマは「ここに座ってください」という規定のないデザインにしています。ジャングルみたいなイメージ。お客さんはどこに座ってもいいんです。店内は30人くらいでいっぱいになってしまいますが、混んでくるとお客さん同士でスペースの譲り合いがはじまります(笑)。自治が生まれてるんです。 陳暁:正直、ツカノマがこんなに盛り上がるなんて思ってなかったんですよ。
古谷:私も! まったく思ってなかった(笑)。
陳暁:渋谷からちょっと離れた神泉という場所も悪いし、さらに駅からも歩く。多くの人に接点のない場所なのに、なぜか毎日満員。
古谷:コンテンツ目当てで、お客さんは来ているから、場所が悪かろうが遠かろうがどこでも来るんだと思う。でも逆にコンテンツが充実していない日は人が少ない(笑)。
ただ、1年以上営業するとなると事情は変わるかなと。近隣のお客さんを増やさないとならないし、コンテンツのつくり方も変えないといけなくなります。ツカノマは期間限定だから突拍子もないイベントができる。シェフが本当に実現したい企画ができれば、人が入らなくてもいいかくらいの気持ちで取り組んでいます。
古谷:来年の2月まで。半年どころか4カ月間だけしかやらないの。
陳暁:飲食店という気持ちでやってる? それとも、イベントという気持ちなの?
古谷:うーん、来ているお客さんたちとシェフはイベントの気持ちだろうね。私は飲食だと思っているところもあるけど、本来、飲食経営で思考すべき部分がツカノマには一切ないから。めちゃくちゃコンテンツだけを考える店なので、飲食経営をしている人からすれば「飲食店じゃない」って言われるだろうな。 陳暁:実際、一緒にやりたいというシェフたちは増えてるの?
古谷:増えてる! 2月いっぱいまで、もうやる人が決まっていて。始めた当初は、来年の予定なんて埋まってなかったのに。いまはシェフ側から声かけてもらうことのほうが多いくらい。
だから、申し出のあったシェフをこちらで精査して、参加の決まったシェフと一緒にコンテンツを考えています。
──ツカノマノフードコートが、シェフにとってのプラットフォームになっているということですか?
陳暁:いまフリーランスのシェフって増えてますよね。自分で店を持つのはハードルが高い。継続的な運営は大変だし。だから、ツカノマのような場所で、パッと腕を試せてお客さんの反応を見れる場所というのはとても貴重だと思うんです。
古谷:さきほども言いましたが、ツカノマって4カ月間だけなんですよ。超刹那。毎週、違う料理人とコンテンツを考えていきます。そのシェフが「できること」というよりは、「やりたいこと」を探って、イベントを企画するんです。
料理研究家の女性のケースなんですけど、普段はきれいで美味しそうな料理をつくっている方なのですが、ツカノマで振る舞うイメージが湧かなかった。でも、打ち合わせとは関係のない雑談のなかで、その人が物事を官能的にデザインすることに興味があるとわかったんです。それで、エロいメニューをつくることになって、12月20日に「性なるフードナイト」というイベントをやることにしました。シェフの本質を引き出すのが私たちの役割だと思っています。
陳暁:面白そう。「ディープキスしている感覚を味わえるショコラ」とあったら、食べてみたい。 古谷:そう、ほかのイベントでは臭いという苦情のきた料理も、ツカノマならOK。やりたいことをやれる、食の無法地帯です。食の解放区みたいな。
陳暁:店内が臭くなったら翌日の営業をやめればいいもんね。自由なツカノマじゃないとできないことがたくさんあると思う。従来型のテレビ業界とVODの話とよく似ているね。
これからの時代は実験の場が必要。実験できないと、自信を持って大々的にやることができないから。
古谷:例えば、アメリカのポートランドでは小さな製本所とかに、ZINE(編集部注、小規模の自費出版物)をつくるための場所が充実しているんですよ。ツカノマもイメージとしては、ZINEをつくる製本所のような感じ。もしくは食のZINEですね。ここで、好きなフードをつくって出して、それが売れても売れなくても別にいいんです。
陳暁:料理人って本業しかないイメージですけど、ツカノマなら副業として成り立ちますよね。あるいは、本業の人の普段が出せない裏料理とか。かなり料理にこだわりがあるお母さんとか。そっちの需要の方が高そう。こういう、既定路線ではないことを試していい場所って、なかなかないよね。
古谷:2年前、フードスタジオをつくりたいと思っていたんです。自分で食のブランドを立ち上げていたこともあり、気軽な食の実験場みたいな場が欲しかったんです。リサーチをしていくなか、ニューヨークやヨーロッパにはすでにそういった場所があるとわかったのですが、日本にはなかった。
まずは、勤めている広告会社の一つの企画としてできないかなと思い、企画書だけはつくっていました。折を見て会社に提案してみましたが、いろいろな課題があって受け入れられず。
それで別の案が実現できないか探っていたところ、ちょうどクラウドキッチンが増えて、この方向性も検討してみたんです。でも、「そういうことがしたいんだっけ?」「クラウドキッチンでつくったものをUberで届けて儲けるだけでいいんだっけ?」と思って。そこにコミュニティの機能や、シェフとシェフが出会って新しい料理を創造するといった機能が欲しいと感じました。世の中に出てきていたクラウドキッチンは、私のイメージと違ったんです。
ただ、時代の流れ的に、フリーランスのシェフのための場所がどんどんできている機運は感じ取っていました。だから、やれそうだなとは思ったのですが、場所がないし、個人でお金も出資できない。そんなタイミングで、「RELABEL」という空間マッチングサービスをやっている空間プロデュース会社NODの溝端友輔くんと出会いました。「居抜き物件がある」ということで、「これはできるかも」となったんです。 ──タイミングが重なって実現できたのですね。ちなみになぜ、ツカノマフードコートはこんなに盛り上がったのでしょうか? お客さんはなにを求めていると思います?
古谷:私自身、なんで来ているのか、わかってる部分とわからない部分があります。ツカノマでは、お客さん同士が絡むことはあまりないんですよ。だから、出会いを求めているというモチベーションではないと思う。家みたいな感覚を求めているのかもしれません。「家でゆっくり遊ぼう」みたいな感じ? 気を張らず、適当に時間を過ごせて、プラス好奇心も満たせる空間がツカノマなのではないかなと。
陳暁:ツカノマでは「なんの仕事をしている?」とか聞かれることがないんです。フードが「これ美味しい!」という話をきっかけに横の他人と盛り上がったりはするけれど、あくまでコンテンツが軸。通常のレストランだと交流はないし、通常のイベントだと肩書前提の出会いしかない。ここは両方が合わさっているからこそ、新しい出会いや発見があり、自然体でいられます。
陳暁:知人が「SAMMADISCO」というイベントを主催していたのですが、これも原理は近いと思っていて。SAMMADISCOは文字どおり秋刀魚とディスコ(音楽)の2つの柱で成り立っているので、どちらの口実でも参加できる。それは参加者に選択の幅を与えているわけで、その口実をいかにつくるかが大事。音楽できた人は、秋刀魚を楽しめ、秋刀魚できた人は音楽に出会える。そこで意図しない出会いがあったり。そういう利害関係のない出会いの場が今大事なんです。
この秋刀魚という「利害関係のないコンテンツ」がすごく重要。「めちゃくちゃ臭いご飯を食べに行こう!」と誘えるツカノマも、「おでんを食べよう!」と誘えるNOBODYにも通じることだと思います。
私は会社にもその他のグループにもどこにも所属していない。だからこそ、つなげることが人よりできると感じています。利害関係のないコミュニティってなかなかないから、私みたいな人間が提供しないといけない。
コミュニティに限らず、カテゴリーもそうです。ファッション業界・音楽業界・広告業界・建築業界、それぞれの業界に分断されている人たちをつなげる場所が来年以降は必要だと感じています。つなげるためのヒントって、食や睡眠など人間の日常生活にあるのではと思っています。花見とか日の出とかもですよね。利害関係なくみんなで共有できることや気を張らずに出かけられるコンテンツが求められている。
だから、食をコンセプトにしたツカノマが、それを担えていることは、納得できますし、NOBODYもそういった狙いを持って開催しました。
──おふたりの今後の展望について、また、コミュニティが今後どうなっていくと考えているか、教えていただけますか?
陳暁:私は、コミュニティの持つポジティブな面もネガティブな面も両方見るようにしています。そこに対する懸念を解消していきたいですね。コミュニティがもたらす隔たりや障壁を崩せるのは、それはまたリアルな場であるコミュニティなんです。だから、属性をフラット化できる場をつくるしかないと考えています。
NOBADYでいえば、クラブに来ない人におでんを振る舞ってクラブに来てもらう、夜のお店に来ない人をスナックのママの格好をしてお迎えするなど、隠しミッキーのように属性をフラット化するヒントを多く散りばめています。
陳暁:サラリーマンからアーティスト、家族連れ、障がい者まで、さまざまな人に来てもらえる場をこれからも企画していきたいです。どうしたって参加者はそのコミュニティの人に偏るし、企画も主催者の脳内からははみ出ない。だからこそ、私自身の成長も必要ですし、無所属の人間にしかつくれない催しもやっていきたいです。
私は分断されているコミュニティをつなげるコネクターになりたいのかもしれませんね。人って、仕事ではない場で出会った方が仲良くなれますよね。ビジネスと関係ない場を、多くの人が求めているんだと思います。
あと「日本のしきたり」も壊したい。会社名や年齢、経歴にとらわれるのではなく、個人のできることと思想を知っていれば、いいコンテンツを生み出せます。個人間の思想のドッキングが今後は求められてくると思います。
古谷:ツカノマは4人で始めました。自分が全体を統括するプロデューサーで、溝端くんに声をかけ、デザイナーの女の子に声をかけ、PRに強い子を入れて、というふうに。知り合いの伝手で人選は適当だったけれど、思想が近しいメンバーが集まりました。仕事におけるプロフェッショナル度は把握しないまま、人間性だけで選んだんです(笑)。
陳暁:思想で対話できる人って、なかなかいない。でも、思想でつながると、すごいものが生まれるよね。
さっきのエロのデザインに興味がある料理人のケースでも思ったけど、思想は突き詰めていってあらわになる。最近は会う人みんなに「本当はなにが好きなの?」とせまっています(笑)。早く裸になって、本心をさらけ出せよって。私もともちゃんも、脱がせたがりで、固定観念からの脱却を目指しているのかもしれない。 陳暁:利害関係のないなかで本心から動いている人は、10年後、いい大人になってると思うし、後々本当の仕事につながる。それはフラットな立場でのお互いの性格を理解し合えるから。営利目的で人間関係をつくっていない状態での出会いは、かなり相手との相性が測れます。
古谷:ツカノマも運営陣は無給(笑)。
陳暁:NOBODYも自腹(笑)。結局、自腹でやりたいことやっている奴が一番いいアウトプットを生むんじゃないかなと思いますね。クオリティさえ担保できれば。それこそクリエイターの責任感だと思いますが。自分がやりたいと思うことは、別の誰かのやりたいこと。だから、先陣を切ってやりたいことをやれる人が、新しい現象やトレンドをつくるんです。
古谷:私も新しいトレンドとして、食のレーベル化を進めたいですね。すでに、「ケータリングをして欲しい」という要望もきていますし、必要なところにシェフをコーディネートするアイデアも実現できると思う。仮設だからこそ、一つの場所にとらわれずに、あっちこっちと移動するのもいいかなと。
若手シェフが、初期費用をなるべくかけず、自分の料理を試しながら、お金も手に入るというプラットフォームを目指していきたいです。
──ツカノマノフードコートとNOBADYを通して「利害関係のないコンテンツが中心となるコミュニティ」について探ってきました。おふたりとも本心でいろいろお話いただきありがとうございました。
advanced by massmedianの「コミュニティ特集」では今後、以下のような方々の記事を予定しています。
12/19(木)ハートドリブンフェス小能巧巳さん×みんなのメルカリ文化祭上村一斗さん対談
12/24(火)アル古川健介さん×note深津貴之さん対談
※2019年12月18日(水)「SAMMADISCO」について指摘を受け、一部修正しております。関係者の皆さまご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。
古谷:ツカノマノフードコード(以下、ツカノマ)は、場所にコミュニティがつくのではなく、コンテンツにコミュニティがついているんだと思います。ゆくゆくはツカノマを音楽のレーベルのように、食のレーベルにしたい。レーベル化すれば、違う場所に出ても、新しい地域の人たちが入ってきたりして、コミュニティができていくので。
陳暁:ここ数年、“人とつながれる”コミュニティそのものが商品になり、20~30代が交流できるコミュニティが同時多発的に生まれました。
でも、ツカノマって不思議で、“人とつながれる”のではなく、あくまで“食”が真ん中。つまりコンテンツが中心にあるんです。そこに人がついてる。
神泉のこの場所もなんの意味も持たない。シェフも入れ代わり立ち代わりだし、誰がいても成り立つ。コミュニティのオーナーであるともちゃんがいなくても成り立つでしょうね。
古谷:レストランって、座る場所とか区画整備されてますけど、ツカノマは「ここに座ってください」という規定のないデザインにしています。ジャングルみたいなイメージ。お客さんはどこに座ってもいいんです。店内は30人くらいでいっぱいになってしまいますが、混んでくるとお客さん同士でスペースの譲り合いがはじまります(笑)。自治が生まれてるんです。 陳暁:正直、ツカノマがこんなに盛り上がるなんて思ってなかったんですよ。
古谷:私も! まったく思ってなかった(笑)。
陳暁:渋谷からちょっと離れた神泉という場所も悪いし、さらに駅からも歩く。多くの人に接点のない場所なのに、なぜか毎日満員。
古谷:コンテンツ目当てで、お客さんは来ているから、場所が悪かろうが遠かろうがどこでも来るんだと思う。でも逆にコンテンツが充実していない日は人が少ない(笑)。
ただ、1年以上営業するとなると事情は変わるかなと。近隣のお客さんを増やさないとならないし、コンテンツのつくり方も変えないといけなくなります。ツカノマは期間限定だから突拍子もないイベントができる。シェフが本当に実現したい企画ができれば、人が入らなくてもいいかくらいの気持ちで取り組んでいます。
陳暁:何月まで営業しているの? 半年くらいだっけ?
古谷:来年の2月まで。半年どころか4カ月間だけしかやらないの。
陳暁:飲食店という気持ちでやってる? それとも、イベントという気持ちなの?
古谷:うーん、来ているお客さんたちとシェフはイベントの気持ちだろうね。私は飲食だと思っているところもあるけど、本来、飲食経営で思考すべき部分がツカノマには一切ないから。めちゃくちゃコンテンツだけを考える店なので、飲食経営をしている人からすれば「飲食店じゃない」って言われるだろうな。 陳暁:実際、一緒にやりたいというシェフたちは増えてるの?
古谷:増えてる! 2月いっぱいまで、もうやる人が決まっていて。始めた当初は、来年の予定なんて埋まってなかったのに。いまはシェフ側から声かけてもらうことのほうが多いくらい。
だから、申し出のあったシェフをこちらで精査して、参加の決まったシェフと一緒にコンテンツを考えています。
12月のスケジュール発表!
— ツカノマノフードコート (@TsukanomanoFood) November 25, 2019
なんと定休日が無くなり全部営業🥺
12月以降、毎週台湾料理屋さんが参入!火曜を中心にご提供💁♀️
マンガごはん📚/焼き師の師走バーベキュー🌏/ヲ卓フェス/オノマトペ食堂🎶/性なるフードナイト💜/わんこ🍜アラカルト/ツカノマ忘年会
など...12月も猛烈加速中💨💨🍽 pic.twitter.com/A2NRE2gfy6
陳暁:いまフリーランスのシェフって増えてますよね。自分で店を持つのはハードルが高い。継続的な運営は大変だし。だから、ツカノマのような場所で、パッと腕を試せてお客さんの反応を見れる場所というのはとても貴重だと思うんです。
古谷:さきほども言いましたが、ツカノマって4カ月間だけなんですよ。超刹那。毎週、違う料理人とコンテンツを考えていきます。そのシェフが「できること」というよりは、「やりたいこと」を探って、イベントを企画するんです。
料理研究家の女性のケースなんですけど、普段はきれいで美味しそうな料理をつくっている方なのですが、ツカノマで振る舞うイメージが湧かなかった。でも、打ち合わせとは関係のない雑談のなかで、その人が物事を官能的にデザインすることに興味があるとわかったんです。それで、エロいメニューをつくることになって、12月20日に「性なるフードナイト」というイベントをやることにしました。シェフの本質を引き出すのが私たちの役割だと思っています。
陳暁:面白そう。「ディープキスしている感覚を味わえるショコラ」とあったら、食べてみたい。 古谷:そう、ほかのイベントでは臭いという苦情のきた料理も、ツカノマならOK。やりたいことをやれる、食の無法地帯です。食の解放区みたいな。
陳暁:店内が臭くなったら翌日の営業をやめればいいもんね。自由なツカノマじゃないとできないことがたくさんあると思う。従来型のテレビ業界とVODの話とよく似ているね。
これからの時代は実験の場が必要。実験できないと、自信を持って大々的にやることができないから。
古谷:例えば、アメリカのポートランドでは小さな製本所とかに、ZINE(編集部注、小規模の自費出版物)をつくるための場所が充実しているんですよ。ツカノマもイメージとしては、ZINEをつくる製本所のような感じ。もしくは食のZINEですね。ここで、好きなフードをつくって出して、それが売れても売れなくても別にいいんです。
陳暁:料理人って本業しかないイメージですけど、ツカノマなら副業として成り立ちますよね。あるいは、本業の人の普段が出せない裏料理とか。かなり料理にこだわりがあるお母さんとか。そっちの需要の方が高そう。こういう、既定路線ではないことを試していい場所って、なかなかないよね。
気を張らないコミュニティ
──面白い実験場なんですね。そもそもツカノマノフードコートの立ち上げ経緯について教えていただけますか?古谷:2年前、フードスタジオをつくりたいと思っていたんです。自分で食のブランドを立ち上げていたこともあり、気軽な食の実験場みたいな場が欲しかったんです。リサーチをしていくなか、ニューヨークやヨーロッパにはすでにそういった場所があるとわかったのですが、日本にはなかった。
まずは、勤めている広告会社の一つの企画としてできないかなと思い、企画書だけはつくっていました。折を見て会社に提案してみましたが、いろいろな課題があって受け入れられず。
それで別の案が実現できないか探っていたところ、ちょうどクラウドキッチンが増えて、この方向性も検討してみたんです。でも、「そういうことがしたいんだっけ?」「クラウドキッチンでつくったものをUberで届けて儲けるだけでいいんだっけ?」と思って。そこにコミュニティの機能や、シェフとシェフが出会って新しい料理を創造するといった機能が欲しいと感じました。世の中に出てきていたクラウドキッチンは、私のイメージと違ったんです。
ただ、時代の流れ的に、フリーランスのシェフのための場所がどんどんできている機運は感じ取っていました。だから、やれそうだなとは思ったのですが、場所がないし、個人でお金も出資できない。そんなタイミングで、「RELABEL」という空間マッチングサービスをやっている空間プロデュース会社NODの溝端友輔くんと出会いました。「居抜き物件がある」ということで、「これはできるかも」となったんです。 ──タイミングが重なって実現できたのですね。ちなみになぜ、ツカノマフードコートはこんなに盛り上がったのでしょうか? お客さんはなにを求めていると思います?
古谷:私自身、なんで来ているのか、わかってる部分とわからない部分があります。ツカノマでは、お客さん同士が絡むことはあまりないんですよ。だから、出会いを求めているというモチベーションではないと思う。家みたいな感覚を求めているのかもしれません。「家でゆっくり遊ぼう」みたいな感じ? 気を張らず、適当に時間を過ごせて、プラス好奇心も満たせる空間がツカノマなのではないかなと。
陳暁:ツカノマでは「なんの仕事をしている?」とか聞かれることがないんです。フードが「これ美味しい!」という話をきっかけに横の他人と盛り上がったりはするけれど、あくまでコンテンツが軸。通常のレストランだと交流はないし、通常のイベントだと肩書前提の出会いしかない。ここは両方が合わさっているからこそ、新しい出会いや発見があり、自然体でいられます。
利害関係がない場が求められている
──陳暁さんがオーガナイズするNOBODYとツカノマノフードコートの共通点はありますか?陳暁:知人が「SAMMADISCO」というイベントを主催していたのですが、これも原理は近いと思っていて。SAMMADISCOは文字どおり秋刀魚とディスコ(音楽)の2つの柱で成り立っているので、どちらの口実でも参加できる。それは参加者に選択の幅を与えているわけで、その口実をいかにつくるかが大事。音楽できた人は、秋刀魚を楽しめ、秋刀魚できた人は音楽に出会える。そこで意図しない出会いがあったり。そういう利害関係のない出会いの場が今大事なんです。
この秋刀魚という「利害関係のないコンテンツ」がすごく重要。「めちゃくちゃ臭いご飯を食べに行こう!」と誘えるツカノマも、「おでんを食べよう!」と誘えるNOBODYにも通じることだと思います。
陳暁:東京は、都市型のコミュニティ性質があると思っていて、利害関係やコミュニティ同士の関係値で動いているところがある。そういうものを取っ払った場所やそこでのピュアな出会いが必要とされているのを感じます。だから、もっと増えてほしいですよね。2018年から2019年にかけて、コミュニティがたくさんできたのはいいけど、コミュニティビジネスが主語に来てしまった。それが逆にいろんなものを狭めていると危惧しています。
私は会社にもその他のグループにもどこにも所属していない。だからこそ、つなげることが人よりできると感じています。利害関係のないコミュニティってなかなかないから、私みたいな人間が提供しないといけない。
コミュニティに限らず、カテゴリーもそうです。ファッション業界・音楽業界・広告業界・建築業界、それぞれの業界に分断されている人たちをつなげる場所が来年以降は必要だと感じています。つなげるためのヒントって、食や睡眠など人間の日常生活にあるのではと思っています。花見とか日の出とかもですよね。利害関係なくみんなで共有できることや気を張らずに出かけられるコンテンツが求められている。
だから、食をコンセプトにしたツカノマが、それを担えていることは、納得できますし、NOBODYもそういった狙いを持って開催しました。
──おふたりの今後の展望について、また、コミュニティが今後どうなっていくと考えているか、教えていただけますか?
陳暁:私は、コミュニティの持つポジティブな面もネガティブな面も両方見るようにしています。そこに対する懸念を解消していきたいですね。コミュニティがもたらす隔たりや障壁を崩せるのは、それはまたリアルな場であるコミュニティなんです。だから、属性をフラット化できる場をつくるしかないと考えています。
NOBADYでいえば、クラブに来ない人におでんを振る舞ってクラブに来てもらう、夜のお店に来ない人をスナックのママの格好をしてお迎えするなど、隠しミッキーのように属性をフラット化するヒントを多く散りばめています。
スナックなつよに続き、拡張版NOBODY、皆様噂を嗅ぎつけ道なる世界に足をお運び下さり誠にありがとうございます。
— なつよ (@chinshonatsuyo) November 7, 2019
4日前の告知にかかわらず、400人もの方にお越し頂きました。
前日に駆けつけてくれた70人以上のスタッフと、seiho、比留間さんに最大の愛と敬意を。 pic.twitter.com/VfvP1lyMhQ
私は分断されているコミュニティをつなげるコネクターになりたいのかもしれませんね。人って、仕事ではない場で出会った方が仲良くなれますよね。ビジネスと関係ない場を、多くの人が求めているんだと思います。
あと「日本のしきたり」も壊したい。会社名や年齢、経歴にとらわれるのではなく、個人のできることと思想を知っていれば、いいコンテンツを生み出せます。個人間の思想のドッキングが今後は求められてくると思います。
古谷:ツカノマは4人で始めました。自分が全体を統括するプロデューサーで、溝端くんに声をかけ、デザイナーの女の子に声をかけ、PRに強い子を入れて、というふうに。知り合いの伝手で人選は適当だったけれど、思想が近しいメンバーが集まりました。仕事におけるプロフェッショナル度は把握しないまま、人間性だけで選んだんです(笑)。
陳暁:思想で対話できる人って、なかなかいない。でも、思想でつながると、すごいものが生まれるよね。
さっきのエロのデザインに興味がある料理人のケースでも思ったけど、思想は突き詰めていってあらわになる。最近は会う人みんなに「本当はなにが好きなの?」とせまっています(笑)。早く裸になって、本心をさらけ出せよって。私もともちゃんも、脱がせたがりで、固定観念からの脱却を目指しているのかもしれない。 陳暁:利害関係のないなかで本心から動いている人は、10年後、いい大人になってると思うし、後々本当の仕事につながる。それはフラットな立場でのお互いの性格を理解し合えるから。営利目的で人間関係をつくっていない状態での出会いは、かなり相手との相性が測れます。
古谷:ツカノマも運営陣は無給(笑)。
陳暁:NOBODYも自腹(笑)。結局、自腹でやりたいことやっている奴が一番いいアウトプットを生むんじゃないかなと思いますね。クオリティさえ担保できれば。それこそクリエイターの責任感だと思いますが。自分がやりたいと思うことは、別の誰かのやりたいこと。だから、先陣を切ってやりたいことをやれる人が、新しい現象やトレンドをつくるんです。
古谷:私も新しいトレンドとして、食のレーベル化を進めたいですね。すでに、「ケータリングをして欲しい」という要望もきていますし、必要なところにシェフをコーディネートするアイデアも実現できると思う。仮設だからこそ、一つの場所にとらわれずに、あっちこっちと移動するのもいいかなと。
若手シェフが、初期費用をなるべくかけず、自分の料理を試しながら、お金も手に入るというプラットフォームを目指していきたいです。
──ツカノマノフードコートとNOBADYを通して「利害関係のないコンテンツが中心となるコミュニティ」について探ってきました。おふたりとも本心でいろいろお話いただきありがとうございました。
advanced by massmedianの「コミュニティ特集」では今後、以下のような方々の記事を予定しています。
12/19(木)ハートドリブンフェス小能巧巳さん×みんなのメルカリ文化祭上村一斗さん対談
12/24(火)アル古川健介さん×note深津貴之さん対談
※2019年12月18日(水)「SAMMADISCO」について指摘を受け、一部修正しております。関係者の皆さまご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。