──廣瀬さん、新井さんともにまったく異なるキャリアを歩まれてきたと思いますが、「6curry店長」としてコミュニティ活性化に活きている経験はありますか?
新井:私はコンサルティング会社で、企業のチームビルディングや人事制度をつくる仕事をしていました。人を見るのが専門の仕事でしたから、人の気持ちをくみ取るということは日常的なことでした。この経験は、6curryの会員とのコミュニケーションに活きていると思います。

また、仕事としてではありませんが、趣味でカレーをつくるイベントを全国各地で行なっていました。地方へ飛び回り、その地域のみなさんとカレーづくりをするんです。子どもから年配の方まで、多様な背景をもつ人たちが集い、「カレー」をつくる。2~3年で200回ほど開催しました。これによって「カレー」は人をつなげる料理であることを確信しました。

廣瀬:私は大学院卒業後、投資銀行に勤務し、M&A等を担当していました。その後、ベンチャー企業の経営企画などを経て、2017年8月に6curryの親会社であるNEWPEACEへ入社。まったくの異業種のキャリアなので、驚かれることもありました。

でも、恵比寿店のオープン当初に集まっていた会員のみなさんは、スタートアップの代表やフリーランスで活躍している人が多かった。これまでの経験を元に、彼らの相談に乗ったり、会話したり同じ目線で話すことができるというのは、親和性が高かっただろうと思います。

プロセスを楽しむ“永遠のβ版”

──6curryは、ゴーストレストランからスタートし、2018年9月に会員制のキッチンコミュニティ「6curryKITCHEN」を恵比寿にオープン。さらに6curryコミュニティを活性化させるべく、2019年10月15日には、2店舗目の渋谷店をオープンさせたわけですが、そもそも6curryを立ち上げるに至った経緯を教えていただけますか?
廣瀬:6curryはNEWPEACE代表の高木が「カレーで革命を起こしたい!」と、社内外のごく少人数のメンバーを集めスタートしたものです。とても面白い人が集まっていて、一平ちゃんもそのなかのひとりでした。そして、私も「カレー好き?」「好きです!」という流れで(笑)、NEWPEACEから6curryへジョインしました。

チームを立ち上げた2年前の時点では、いまほど東京でスパイスカレーは流行っていませんでした。すでにスパイスカレーに詳しい男性陣の間では話が非常に盛り上がっているけれど、女性陣は取り残されてしまうという状況。そのため、「女性のためのカレーを一緒につくろう」ということになりました。その結果生まれたのが「カップカレー」です。
廣瀬:既存のレストランの一部を借りて、ランチ時間帯だけ「カップカレー」のデリバリーをスタートしました。おかげさまでカップカレーは好評をいただき、ランチの時間帯に間借りの営業では、オペレーションの継続が難しい状況となったんです。

「間借りではなく、自分たちで場所を持ってやろう」ということになり、改めて6curryの方向性を再検討しました。そこで行き着いたのが、つくったものを売るのではなく、みんなで一緒につくってきたことこそが、6curryの一番のコアであること。ゴーストレストランで販売していたカップカレーを生み出すまで「どういう味がいいか」「どういう順番で具材を入れるか」など、制作過程をつまびらかに公開し、夜な夜なSNSで募集したチームメンバーとともに開発するプロセスがすごく楽しかったなと。みんなが集える場所で体験をつくっていくことが、自分たちの価値であり、やりたいことだと気づきました。

コアの部分を見つめ直した結果、「EXPERIENCE THE MIX.」というコンセプトが生まれたんです。6curryKITCHENは、レストランのようにつくられた最終形を食べてもらう場所ではないので、「KITCHEN」と名乗っています。みんなでつくり上げていく場なんです。

新井:新平さん(NEWPEACE代表)の一声で、カレー好きが集まった当初、とてもワクワクしました。形をつくり上げるまでのプロセスは熱量が高く、とても楽しい時間です。僕たちはこのエキサイティングな時間を、6curryKITCHENでずっと続ける必要があるんです。

廣瀬:だから6curryは「永遠のβ版」なんです。常にアップデートし続けますし、常に「いまが一番最高」という状態にしたいと考えています。

新井:プロセス自体を楽しむ場所として6curryKITCHENがあると思っています。そのため未完成であり続けます。

例えば店で提供する、カレー、おかず、お酒といったメニューから、BGMまで会員とともに決めていきます。コミュニティ内のルールもそうです。いろいろなメンバーとミックスする体験をしてもらうには、まずは、コミュニティが安心安全な場所である必要があるからです。会員の価値観やコミュニケーションの違いで、エラーが生じるとうまくいかなくなってしまう。だから、会員のみんなとコミュニティづくりを考え続ける必要があると感じています。
──コミュニティの方向性を誤らないための「安心安全な場所」ということですね。6curryのルールというのは、コミュニティの中から自発的に出てきたものなのでしょうか? あるいは、廣瀬さんと新井さんがコミュニティマネージャーとして導いてきた部分があると感じていますか?
新井: 6curryの「EXPERIENCE THE MIX.」というコンセプトと「6つのルール」については我々の方で決めて、会員に周知しています。ただ、各会員がコンセプトやルールについてどう解釈するか、また、それらを元にどうミックスするかなどの楽しみ方については、自由です。

さらに会員総会や会員限定DAYでは、会員たちのリアルな声を寄せてもらい、6curryについてみんなで考える場を設けています。
廣瀬:実は、会員総会や会員限定DAYというのは、私たちの反省から生まれたものなんです。恵比寿店は、オープンから半年くらいでお店のキャパシティを越えるほど人が集まる場所になりました。連日満席で、人が溢れる様子を見て、私たち運営側としては「盛り上がっている」と思っていたんです。

ところが、会員たちから「人が多すぎて話せない」「ゆっくり交流できない」など、ミックスが起きにくくなっている状況を指摘されました。そこで、会員のみが参加できる会員総会や会員限定DAYを設けることにしたんです。

誰もが持つ「カレーづくり」の原体験

──なるほど常に試行錯誤されていらっしゃるのですね。ちなみに大盛況とのことですが、やはりこのような場を求めていたのでしょうか?
廣瀬:時代にあっていたのだと思います。代表の高木は「6curryはみんなのサードプレイスになればいい」と言っていますが、確かに、大人になってから利害関係のない友人をつくるのって難しい。でも、6curryは自分が日常的にいるコミュニティの「外」にいる人と、まったく利害のない状態で知り合って、話すことができ、適度にライトな関係を構築することができます。距離感がちょうどいいんです。

例えば、毎日忙しくて友人と予定合わせて食事に行くのは難しいけれど、6curryであれば、約束をしていなくても誰かがいます。飲みに行くとなると拘束される時間が長くなりますが、6curryは滞在時間の長さも自分で決められる。自分のライフスタイルを誰かに合わせたり、変えたりしなくていいことが、現代にあっているのだと思います。

──サードプレイスとしてスターバックスなどのカフェも注目されてきましたが、「カレー」がそれにふさわしいと考えたのはなぜですか?
新井:カレーという料理は、誰もが関わることができるというのがあると思います。小さいころから慣れ親しんでいる料理であり、嫌いな人が少ない。むしろちょっと好き、みたいな料理。人を選ばない料理といえるのではないでしょうか。

林間学校やキャンプなどで「みんなとつくった」という原体験があることが多く、「みんなとつくる」ことへのハードルが低い料理ともいえます。

6curryでは「スパイスが2種以上入ったらカレー」と定義しています。カレーは食材を選ばない料理。つくる過程が難しくないからみんなで共同作業をすることができる。実際にKITCHENでも会員さんが食材を持ち込んだり、アイデアを出したりしてくれる。さまざまな意味での、ミックスを生むことができるんです。

夢をかなえる場

──会員自らが食材やアイデアを持ち寄ってくる、その熱量はどのように醸成されているのか気になります。やはりコミュニティマネージャーの率先する姿勢が重要なのでしょうか?
新井:はい、それでコミュニティの空気が決まります。コミュニティマネージャーの姿を見て、みんなも自発的に動くようになるので。

廣瀬:会員のみなさんには、6curryというプラットフォームを通じて、夢をかなえてほしいとも思っています。例えば、一日店長を体験してもらうことで、その会員がどういう人で、どういうことをやっていて、どういうこと困っているか、集まった会員たちにシェアをする。結果、応援する人や助けてくれる人が見つかるのが6curryなんです。

「一日店長」というのは「カレーを提供する」というより、自由にイベントを企画できる機会と捉えていただくとイメージが湧きやすいかなと。ただカウンターに入って会話をするだけでもいい。もちろん、新しいカレーをつくるでもいい。なにかやりたいことをやるための「場」を提供しているんです。
新井:「サードプレイス」というのは、家と会社の自分だけでなく、新しいことを始める、始めようとする自分が、もう一歩進むために必要な場所だと思います。そのために、新しいことを一緒にする仲間を見つけたり、新しいことを表現したりする場所が必要になる。6curryという場を提供することで、その手助けをしたいんです。

──恵比寿や渋谷などの東京のど真ん中だけじゃなく、6curryコミュニティを地方へ暖簾分けすることも考えていますか?
新井:私が過去に全国津々浦々で実施したイベントでのつながりから、地方の味噌を使ったカレーを開発するなど6curryでの新たなイベントへ発展したケースがあります。東京と地方、また地方同士のコラボによって、6curryをハブとしたつながりを日本全体に広げていきたいんです。

今回、渋谷店を開店するにあたりクラウドファンディングを行いましたが、地方在住の人も会員権を買ってくれました。そういった方々は、都内の店を頻繁に利用できるわけではありませんが、「東京にきたときに行ける場所がある」と考えて、購入してくれたみたいなんです。

これは、逆のケースもあると思うんです。都内在住の会員は「6curryKITCHEN」が地方にあったら、行きたいと考えるのではないでしょうか。地方に旅行や出張などで行った際、地元のディープなお店には入りにくいことがありますよね。でも6curryがあれば、共通のルールでのコミュニケーションが可能なので、安心して入ることができ、さらに地域のコアな話も聞くことができるかもしれない。

廣瀬:今年は虎ノ門と台湾にポップアップショップを期間限定で出店しました。今後も、他の企業とコラボレーションすることで、自分たちだけでなく、コラボ先にあるコミュニティの活性化ができるのではないかと考えています。

すでにあるコミュニティに6curryが参加し、「カレー」を触媒として、コラボ先のコミュニティが活発になることもあると思っています。さらにコミュニティをどうマネタイズしていくかということも伝えていきます。他企業や他のコミュニティと連携しながら、誰かの居場所や夢をかなえる場所を増やしていきたいですね。
──確かにカレーを触媒として、すでにある地方のコミュニティの活性化ができそうですね。最後に、今後のコミュニティの姿、コミュニティの可能性についてどう考えているか、教えてください。
新井:コミュニティは、利害関係のあるエコノミー的なものと、よりよく生きるためエコロジー的なものがあると思います。地方においては、そのふたつが融合しているように感じますが、東京はエコノミー的なものへ振り切れています。

よりよく生きていくために、エコロジー的なコミュニティの存在は大切だと考えています。自分の本質的な部分を見せることができ、参加することでワクワクすることができる。そういったコミュニティが、特に東京には必要でしょうね。

廣瀬:コミュニティとは「人と人のつながり」ということだと思うんです。「居場所」というのは大げさなので、6curryは「たまり場」くらいにしようという考えではじまりました。

今後は、単発で良い体験をするのではなく、日常的に豊かで楽しく過ごすことが求められるようになると思います。つまりコミュニティは、瞬間的に切り取られる良い空間ではなく、長い時間軸で良い空間を提供することが求められるようになるでしょう。

最初にもお話しましたが、6curryでは「一緒につくる」というプロセスを大切にしています。つくったものを体験してもらうのではなく、一緒につくり上げる体験をしてもらう。6curryでは、日常的に寄り添って、会員のみなさんが新しいものに出会い、夢をかなえることのできる、コミュニティにしていきたいです。
──会員の夢をかなえる場所として、長期的にお付き合いしていくことがコミュニティであると。6curry発で夢をかなえた人が活躍する未来が楽しみですね。本日はお話ありがとうございました。

なおadvanced by massmedianでは「コミュニティ特集」として以下の記事を公開予定です。

12/05(木)SNACK 3rd オーナー 山崎大輝さんインタビュー
12/10(火)ツクルバ Chief Community Officer 中村真広さんインタビュー

12/12(木)WeWorkコミュニティマネージャー対談
12/17(火)ツカノマフードコード古谷知華さん×NOBODY陳暁夏代さん対談
12/19(木)ハートドリブンフェス小能巧巳さん×みんなのメルカリ文化祭上村一斗さん対談
12/24(火)アル古川健介さん×note深津貴之さん対談
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