スナックが持つ、コミュニティの本質とは?

──今回山崎さんが開業した、若者向けスナック「3rd」とはどのようなスナックなのでしょうか?
3rdは20~30代限定の会員制スナックです。「20~30代向けのリアルなサードプレイスをつくる」という方針のもとで、クラウドファンディングサイトのCAMPFIRE‎で支援を募って2019年10月に立ち上げたお店です。

家でも職場でも学校でもない、若者たちのサードプレイスとなってほしいという思いから、店の名前は「3rd」と名付けました。会員制にしている理由は、できるかぎり3rdが「自分の居場所」だと思ってもらいたいから。「自分で選んで参加した」という当事者意識や帰属意識を持つことで、より自分の居場所であると感じてもらえるのではないかと。そういう人たちが能動的に集まることで、コミュニティの質や秩序の担保にもつながると考え、会員制のスナックという形を選びました。
──バーやカフェなどのほかの飲食店ではなく、なぜスナックを選んだのでしょうか?
僕自身もスナックという場所が好きで、さまざまなスナックに通っていたんです。そうしていくなかで、スナックという場所がいまの若者たちには必要な場所なのではないかと思うようになりました。なぜならスナックには、「コミュニティの本質」が散りばめられているからです。

──「コミュニティの本質」ですか…。スナックというと、40~50代ほどの年齢層が高い方たち向けのお店という印象があります。そもそもスナックと、ほかの居酒屋との違いはどこにあるのでしょうか?
スナックの一番の特徴として「ママの存在」があります。ママは一般的な飲食店の店主とは少し違う存在なんです。思春期の子どもが抱える言葉にできない繊細な気持ちを、態度や雰囲気で察する母親と同様に、スナックに訪れるさまざまな人たちの気持ちや表情に合わせて、寄り添ってくれる存在。「気持ちを察する力」が人一倍備わっているのがスナックのママだと思っています。

さらに、「ペイフォワード(恩送り)的空間」が成立していることもスナックな大きな特徴の一つです。以前僕が行ったスナックで、数名のお客さんとママで飲んでいたのですが、途中でママが酔いつぶれかけてしまい、接客がままならなくなったことがあったんです。まずそれ自体が普通の飲食店では考えられない状況ですよね(笑)。そこでそのあとどうしたのかというと、常連のお客さんがママに代わり、接客を始めたんです。そうやって、お客さん同士協力して、ママをフォローすることでその場面を切り抜けました。
──確かに、ほかの飲食店では考えられない状況だと思います。まさにペイフォワードで、受けた親切を返すという循環が起こる場所がスナックというわけですね。
スナックって、正直あまり儲からない料金設定のところが多くて、お店はギリギリ潰れない範囲でお客さんと支え合いながら空間を存続しているんです。それでもスナックがなくならないのは、それなりの対価を払って得られる質の高いサービスや飲食を楽しむという体験ではなく、お店もお客さんも傷つかず、一体となって過ごせる空間を求めている人が存在しているからです。

「不完全であることを愛し、それを許せる場所」それがスナックであり、それは人間がコミュニティに求めることの根源にある部分ではないかと思います。

ただ、現状のスナックは20~30代の若者向けにはなっていない。先ほどおっしゃったように、多くのスナックの客層は40~50代の人たちです。僕は昭和歌謡が好きなので、スナックのカラオケで歌うと常連の人と仲良くなれることがありました。しかし、若者のなかで流行っている最近の曲を歌うと「ちょっと場の空気が読めない若者が来ちゃったな」という空気になることもあったんです。つまり、若者と現状のスナックの客層とは、盛り上がれる話題や情報にギャップがあるので、若者が自然体でいられる場所にはいま一歩及んでいない。だからこそ、若者向けのスナックをつくりたいと思い、3rdを開業しました。
──スナックが持つ「お互いを承認し合える場所」という本質は、多くの人たちが求めるものではあるものの、若者には少し使いにくい部分があったというわけですね。
また、Z世代のデジタルネイティブな若者は、出会いやコミュニケーションの入り口としてオンラインという選択肢を当たり前に持っています。ところが最近、オンラインでのコミュニケーションにポジショントークや承認欲求など、オンライン独特の配慮すべき点に疲れ始めている、いわゆるSNS疲れを起こす人たちも多いです。

そのため、テクノロジーが発達して生活の利便性が向上していく一方で、若者のなかでは「リアルのコミュニティ」の価値は上がっていくのではないかと僕は考えています。リアルのコミュニティをつくり、その価値を向上したいと考えた結果、望ましい要素を持っていたのがスナックだったのです。

コミュニティを運営するなら「言語化する努力」を怠ってはいけない

──SNACK 3rdは2019年10月からオープンしているとのことですが、実際にオープンした感触はいかがでしたか?
想像していた以上に大変でした(笑)。ママが6人いて、1日1人出勤のシフト交代制で営業しており、初月は僕もサポートに入っていたのですが、それでようやく回せる感じで…。一緒に接客を行うなかで、視野を広く持ってお客さんとコミュニケーションを取っていくのが思っていた以上に難しいとわかりました。そこでうまくコミュニケーションを取って、お客さんとお店が一体となれる空間を築いていくというのはやはり難しいですね。
また、実際にスナックを運営してみると、すべてのお客さんが必ずしもコミュニティにコミュニケーションを求めているわけではないということを感じました。常連とママが盛り上がっていたり、2人組の友達同士が話していたりする一方で、一人でカウンターに座って誰とも喋らない人もいて。その人はほかのみんながカラオケをしている様子をたまに眺めて手拍子するだけで、参加しようとはしないんです。ただこのスナックに心地よく存在できることだけを望んでいる人もいたんですよ。ほかにも、昨日はコミュニケーションを求めていた人でも、今日の気分はそうではないことも十分にありえることをスナックの運営をしてみて、あらためて知ることができました。その日、その時の表情などをくみ取った個別最適を図ることが必要なんです。

──コミュニティに求めるものは人それぞれで、画一化していくことは難しいわけですね。
そうなんです。だからこの3rdでは「なぜか自然にずっといられるような空間」を目指していくべきだと思っています。そしてそのためには、なぜか自然にいられるという「言語化できない居心地の良さ」を研究して言語化していく努力を、僕たち運営する側の人間はサボってはいけないなと。それを明確にして意識的にお客さんに提供していきたいと思っています。
──「なぜか自然にいられる」といった言語化が難しい部分を意識的につくり出していくためには山崎さんはなにが必要だと思いますか?
3rdに訪れたお客さんが来店後に行う体験までを設計していく必要があると考えています。例えば、3rdに訪れたことを後日SNSなどで誰かにシェアするときに、「3rdでどんなリアクションを受ければ満足感や幸福を感じるのか」という、どうすれば3rdの体験をその人の近しい人たちに語りやすくなるのかまで考えています。来店を一次体験とした、その先の体験である二次的なUX(顧客体験)まで設計していくことは、言語化が難しい「なぜか」を言語化していくための第一歩になるのではないか思っています。

人の人生に幸福を刻む

──山崎さんは、もともとDeNAやSHOWROOMでアプリのプロデューサーをしていたと伺いました。いまの若者にとってのサードプレイスの重要性を感じていたと先ほどおっしゃっていましたが、そうした場所やコミュニティに着目したきっかけがあったのでしょうか。
3rdを始める以前はDeNAの新規事業開発をする部署でアプリの事業責任者をして、その後SHOWROOMに出向し、今年フリーランスとして独立したばかりでした。アプリをつくっていた人間が、まさかコミュニティをつくろうとスナックを立ち上げるとはさすがに自分も思っていませんでしたね(笑)

ただ、僕自身の中ではアプリもコミュニティも、根底にあるものは同じなんです。それは「自分の生み出した言葉やモノが誰かの人生に刻まれる」ということ。「あのときあいつに出会ってよかった。あれに触れてよかった」そんなふうに、僕から出たなにかがポジティブな波及力を持てるよう、手段は問わずプロデュースしていきたい。それをよく表しているのが、槇原敬之さんの「僕が一番欲しかったもの」という歌。僕はこの歌が大好きで、僕の人生観はこの歌に体現されていると思っています。このことを場所という形でアウトプットしたときに、適切だったのがスナックという空間でした。
──前述の通り、ペイフォワード的空間であるスナックは山崎さんの持つ幸福論に合致したわけですね。
加えて、小説家の平野啓一郎さんが提唱している「分人主義」という考えにもとても共感しています。分人主義とは、「元気なAさんといるときの元気の自分」がある一方で、「物静かなBさんといるときの物静かな自分」といったような、同じ自分だけどそれぞれ違う一面が表れていることがあると思います。そのなかで、本当の自分がどれか探すのではなく、複数の自分が分人して存在しているという考え方です。

これは3rdが目指す「なぜか自然でいられる場所」への大きなヒントになると思っています。「こう在らねばならない」という特定の自分をつくらずとも、それを許し、承認し合える場所。そういう場所をつくることができれば、自然と良い出会いを生みだすことも可能になっていくと思っています。ンラインで人との出会いの機会が増えていく一方で、その質を高めていくことは、結局オフラインでしかかなえられないのではないか。それが僕の至った結論であり、僕の目指すサードプレイスです。まだできあがったばかりの3rdでそれがかなえられるよう、みなさんと共創していきたいと思います。

──ゲーム「ドラゴンクエスト」でも、仲間探しを行う場所は「酒場」であったように、昔ながら存在するスナックには人を引きつける魅力があることを山崎さんにお話いただきました。若者×スナックがこの先どのように展開していくのかとても楽しみです。お話いただき、ありがとうございました!

advanced by massmedianの「コミュニティ特集」では今後、以下のような方々の記事を予定しています。


12/10(火)ツクルバ Chief Community Officer 中村真広さんインタビュー
12/12(木)WeWorkコミュニティマネージャー対談
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12/19(木)ハートドリブンフェス小能巧巳さん×みんなのメルカリ文化祭上村一斗さん対談
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