企業の文化祭

──本日は、企業が取り組むべきコミュニティとはなにか、そして、「みんなのメルカリ文化祭」・「ハートドリブンフェスティバル」という、両企業が取り組んでいるコミュニティ施策についてうかがいたいと思っています。まずは、それぞれの文化祭の概要について教えていただけますか?
上村:
「みんなのメルカリ文化祭」は、コミュニティチームにとって、これまでに取り組んできたコミュニティ施策の一つの結実の場であり、立てた仮説の実証実験を仕掛けた場でもありました。

メルカリのサービスは、ファッションやガジェット、子育てなど幅広い領域にまたがって、ユニバーサル的だと思っています。だから「みんなのメルカリ文化祭」では、個別のジャンルに絞らず、純粋に「メルカリというサービスが大好き」というユーザーと活動することを意識しました。

また、メルカリ側が考えた企画にユーザーを招待するのではなく、アイデア段階からユーザーに関わってもらい、一緒にイベントをつくり、一緒にお客さまを迎え成功させる。“共創”をテーマとしました。

今年、200~300人の規模で「文化祭」というパッケージを試したことで、イベントの安全やコンテンツに関する仮説の検証ができたと考えています。来年以降は、もっとスケールを大きくして実施することができるでしょう。今後は、東京など一部地域のイベントではなく、日本全国に展開していきたいです。
メルカリ コミュニティチームマネージャー 上村一斗さん<br />
2016年メルカリ入社。3年半ほどカスタマーサービス部門でマネジメントを担当。2019年7月コミュニティチームの立ち上げを行い、現在チームマネージャーを務めている。
メルカリ コミュニティチームマネージャー 上村一斗さん
2016年メルカリ入社。3年半ほどカスタマーサービス部門でマネジメントを担当。2019年7月コミュニティチームの立ち上げを行い、現在チームマネージャーを務めている。
小能:アカツキでは、コミュニティ施策=文化祭というわけではないですが、コミュニティ形成のひとつの切り口として「文化祭」、いわゆる企業のお祭りを実施しています。創立4周年から「アカツキ周年祭」として年に1回、毎年ひとつの節目として行ってきました。8周年までは完全に社内向けでしたが、9周年である2019年から「ハートドリブンフェスティバル」と名を変え、社外も巻き込む形となりました。

アカツキの周年祭は、当時アカツキが社会ビジョンとして掲げていた“感情報酬”を最も感じられる日として会社の節目に全社で集まっていました。創業からの3年間はアカツキにとってハードな期間で、4周年を機に開いた「アカツキ周年祭」によって、その時期を乗り越えた社員同士の結びつきを強く感じることができたんです。以後、祭の世界観を強くして、毎年開催してきました。

8周年までは社内で感情を共有しあい、横断的にクロスできる場として機能していましたが、今年から毛色を変えました。「ハートドリブンフェスティバル」として、アカツキと親交の深い、あるいは「ハートドリブン」という軸で共鳴してくれる人や企業を招待しています。
アカツキ 人事企画室 HEARTFUL 領域リーダー 小能拓己さん<br />
新卒でマクロミルに入社し、広報と営業を担当。2014年アカツキ入社後は、マーケティング・新卒採用担当を経て、社内コミュニケーション業務に従事。事業成果と従業員の幸せを両立する企業のあり方について、HRの観点から取り組んでいる。
アカツキ 人事企画室 HEARTFUL 領域リーダー 小能拓己さん
新卒でマクロミルに入社し、広報と営業を担当。2014年アカツキ入社後は、マーケティング・新卒採用担当を経て、社内コミュニケーション業務に従事。事業成果と従業員の幸せを両立する企業のあり方について、HRの観点から取り組んでいる。
──具体的にどういったことが行われたのか、伺ってもよろしいですか?
小能:
ハートドリブンフェスティバルは、新木場 Studio Coastで開催しました。コーストはメインステージのほか、フロアがいくつも分かれていて、野外エリアもある。会場が充実していたこともあって、社内外合わせて、合計40くらいのやりたいことを実現することができました。

社外からの例でいえば、DeNA、マクアケ、ライフイズテックなどが参加し、寿司を握ってくれたり、日本酒を振る舞ってくれたりしました。また、ツクルバには大変な餃子フリークの方がいらっしゃるんですが、餃子をつくってくれたりもしました(笑)。

社内外問わず、内容は本当にさまざまで。王道のカラオケ大会であったり、健全にポーカーゲームを楽しむブースであったり、当社社員がコミケのように同人誌を売るスペースもありましたね。CEOの塩田が仲間とつくった曲を披露したりもしました。
ハートドリブンフェスの当日の様子。バックスクリーンに掲げられている大きな木の絵はアカツキのメンバーで描いたもの。
ハートドリブンフェスの当日の様子。バックスクリーンに掲げられている大きな木の絵はアカツキのメンバーで描いたもの。
──ステークホルダーが自ら披露するモチベーションってなんなんでしょう? なぜ、みなさんそこまでやる気になるのかなと。
小能:
参加いただいた多くの方は、資本主義社会と切り離されている部分、つまり「好き」ということや根っこで共鳴し合っているものを、語り合い表現したいと考えていると思います。「ハートドリブン」と呼んでいる外からは見えにくいもの、内側にある原動力を価値にしていきたいんです。

参加いただく際に、「一切の忖度のない世界」ともお伝えさせていただきました。アカツキからのおもてなしもしません、と。だから、お越しいただいたみなさんは「呼ばれたから行こう」というスタンスではく、とても熱量が伝わってきたし、自らのやりたい気持ちで集ってもらえたと感じています。それに「文化祭」というフォーマットがハマったんでしょうね。

──「みんなのメルカリ文化祭」はいかがですか?
上村:
その前に、「なぜメルカリでコミュニティ施策を行っているのか」について説明させていただきます。お客さまから見たときに、他社サービスとインターフェイス上での大きな違いはなくなってきています。もちろん、出品しやすさなどの体験の磨き込みについては努力してきましたし、今後も引き続き改善していきますが、コモディティ化してきているとは思います。ユーザーにとっての機能的な価値である「使いやすさ」は、サービスを選んでもらう上で大きな差別化にならなくなった。

そこで、ユーザーの「オフラインで携わる時間」に着目しました。メルカリのアプリ上の行動よりも、梱包や発送作業などに充てる時間のほうが長いですよね。このオフラインのUXを磨き込み、メルカリのファンをつくることに注力していかないと、5年後、10年後も使い続けてもらえないのではないか、と考えました。

いま、「メルカリ教室」を東急リバブルさまやドコモさまなどで開催しています。メルカリ教室を経由したユーザーは、すごくコンバージョンが高い。教室の参加者は、その場でメルカリを使い始め、継続出品してくれるようになります。

そして、そこで多くのニーズに気がつかされました。僕らは、まだまだお客さまのこと知らなかった。メルカリが提供しているコアな価値ってなんだろうと考えました。エモーショナルな部分でメルカリのプロダクトに触れてくれたユーザーほど、ほかの人にも推奨してくれる。だからこそ、機能的価値だけでなく、情緒的価値も訴求していく必要があると感じました。
──なるほど、そこからどのように「文化祭」という発想へつながったのですか?
上村:
もともと「文化祭」って、ユーザーからのアイデアなんですよ。コミュニティチームを立ち上げた2019年7月に、ユーザーのリアルな声を聞きたいとミートアップ的な小規模のイベントを定員50人で2回開催しました。するとユーザーから「メルカリと一緒になにかをやりたい」という反応が、思った以上にあったんです。その場で「文化祭」というキーワードが出て、「これだ!」と思いました。プロジェクトは、ユーザー15人に文化祭実行委員を担ってもらい、コミュニティチーム3人とメルカリおよびメルペイの社員から有志を集め、始動しました。

「みんなのメルカリ文化祭」で行なった、各コンテンツもユーザー発なんです。「参加する場と学ぶ場」というコンセプトで、メルカリの活用方法についてのセミナーや、写真の撮り方や梱包方法のレクチャー、ハンドメイド作品をつくるワークショップまでありました。また、不用品のお片づけコンサルタントによる指南や、たもさん(編集部注、メルカリジャパンCEO田面木氏)に直談判できる場も設けました。
みんなのメルカリ文化祭の様子
みんなのメルカリ文化祭の様子

“企業文化祭”の可能性

上村:僕たちコミュニティチームは、コンテンツの質の均質化と、実行委員のやりたいことをすべて実現できるようサポートすることに注力しました。また、200~300人ではなく、1000人規模でも実現可能か想像しながら取り組んだんです。

ユーザーと社員が共にイベントをつくり上げることで、ユーザーの「続けたい」という意思を強固にする関係を構築できれば、他社には真似のできない資産になるでしょう。また、「文化祭」という世界観も改めてよかったなと。文化祭は、ほかのすでに走っている施策へもつなげやすい。なんでも内包できる可能性を感じます

小能:文化祭って、包容力が大きいですよね。メルカリさんの場合は、プロダクトとしてのメルカリのファンがいて一緒につくりあげたということですよね。アカツキにも各モバイルゲームやアソビルなどさまざまなプロダクト・サービスがあり、それぞれのファン向けにコミュニティ施策をやっています。

一方、ハートドリブンフェスティバルは、プロダクトではなく企業としてのアカツキのコミュニティ施策。アカツキが目指している社会、アカツキが大事にしている理念を実現していくためのものです。

機能的価値と情緒的価値という発想についても、同じだと思いました。情緒的価値にこそ、意味がある。「熱中できる」「純粋にこういう瞬間が好き」、そういった感情・情緒面の価値でつながって、「ハートドリブンな世界をつくる」ことを企業としてやっているし、会社の枠を超えてやっていこうとしています。

上村:情緒的価値はとても大事です。でもそれは、機能的価値あってのことだとも思います。機能的価値によって、従業員は自社のプロダクトに自信を持つことができ、EX(エンプロイーエクスペリエンス)が上がる。それが、CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上につながっていく。そして最終的に情緒的価値の高まりに寄与するのではないでしょうか。
──情緒的価値の形成にコミュニティは有効だということでしょうか?
小能:
情緒的価値は、日常の仕事のなか、あるいは合理主義のなかで切り捨てられやすい部分です。スリム化や効率化を安直に進めていると、切られてしまいますよね。

アカツキでは、切り捨てられがちな部分にこそ価値があると思って、日々追求し、中長期で見た差別化になるよう、徹底的な投資をしています。わざわざ時間をとって、感情を分かち合うことが、他社に真似することのできない圧倒的な価値につながると信じているんです。

それを一番体現体感しやすい一つのイベントが、「ハートドリブンフェスティバル」。ただ、イベントが盛り上がっただけで、イベント後に「楽しかった」が残るだけでなく、日常にも影響が残ると、より大きな可能性につながると考えています。

ハートドリブンな世界を体感“feel”した上で、新しいあり方・ものの見方“be”をもって日常の仕事に取り組んでいく。祭りを一過性のものに終わらせないためにも、事前事後のつくり込みや対話の時間も大切にしています。

上村:人は誰もが慢性的に孤独を抱えていると思うんです。メルカリ利用者に実施したアンケートで、メルカリによって「自己肯定感が高まる」という回答がしばしばあります。なかなか他者から褒められることのない毎日のなか、不用品を売って感謝されると、承認欲求が満たされるのでしょう。

この背景には、昨今の人と人とのつながりの希薄さがあるように思いました。そういった面で、コミュニティは有効と言えるのではないでしょうか。

“企業文化祭”は企業人格の発露の場

──短期的ではなく中長期的に情緒的価値を高め、ブランド力を向上するということが両社の「文化祭」の取り組みの根底にあると感じました。最後にアカツキ・メルカリ両社のの今後の目指すところを教えてください。
小能:
「他者との関係性の質がよくなると思考の質がアップし、行動が変わり成果も得られる」とか、「幸福度が上がると創造性が上がる」などと言われていますが、そういった言葉を突きつけられても、実感することができなければ、人は変わらないんですよね。だから、実感することのできる場が日常にあるか、またそういった場をどう生み出すかということが、すごく大事。

私は人事ですが、プロダクトも開発していきたいと思うんです。社内をハートドリブンな場にするには、工夫が必要でしょう。ささいな気持ちいいフィードバックがめぐるだけで、場の空気が変わることがあります。でも、みんな思っていても伝えないことや伝える瞬間を逃すことはありませんか。

例えば、LINEやslackのスタンプは、オンライン上の会話議論において、発言するまでではないけれど、意見や気持ちの表明をするときに重要な役割を果たしている。日常の会議でもそれに相当する使いやすいものがあれば、関係性の質向上や心理的安全性の向上に貢献するんじゃないかな、とか。

人が人をマネジメントしやすくするツールではなく、人と人が活きる場をデザインしていくイメージで取り組んでいきたいです。
上村:来年は「文化祭」の規模を大きくしたいです。そのためにも、メルカリのさらなるブランド力向上に取り組んでいきます。利用者が増える一方、なんとなく「この服、メルカリで買った」と言いにくいと感じているお客さまもいる気がしていて。

 メルカリは、「出品してくれる人・購入してくれる人」=「趣味にお金や時間を使う人」が増えないと成り立たないサービスです。コミュニティチームは、ユーザーのファネルをもっと手前に広げ、趣味や楽しいことに夢中になれる場を提供していきます。「ハートドリブン」というアカツキの理念に共感しましたし、メルカリもそのフェーズにきていると感じています。
上村:最近では日本最大級の女性カメラ好きコミュニティ「カメラガールズ」さんとのコラボ施策にもチャレンジしました。カテゴリー軸では、スポーツ・ファッション・ガジェットといろんな切り口で自走できるコミュニティを仕掛けていく予定です。

あとコミュニティの有用性として、メルカリのサービスブランドではつながれないところに、メルカリコミュニティとして接続できるという可能性もあると感じています。例えば、一次流通のメーカーや事業者さんとも、コミュニティを緩衝材にして、取り組めることもあるのでは考えています。

小能:メルカリとアカツキで組むのも面白そうですね(笑)。
──そんな展開になったら面白いですね。両社のコミュニティ施策について伺い、コミュニティの可能性の幅広さを感じました。本日はお忙しい中ありがとうございました。
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