WeWorkのコミュニティ哲学

──WeWorkは2018年2月に日本に上陸したわけですが、WeWorkの考える「コミュニティ」とはどういったものでしょうか?
平田:WeWorkの「コミュニティ」はビジネスに特化しています。WeWork利用者(以下、メンバー)が我々になにを期待しているのかといえば、それはまさに「コミュニティ」です。新しいビジネスチャンスを見出すためのコミュニティを求めていると感じます。WeWorkは、プロフェッショナルなビジネスのつながりを提供できると考えています。

WeWorkではいわゆる大企業のことを「エンタープライズ」と称していますが、そのエンタープライズ企業とミッドスケール企業、スタートアップ企業や個人事業主など、さまざまな業種、規模のメンバーが集まっています。各企業のニーズはさまざまです。

スタートアップ企業であれば、社内の機能が揃っていないことも多いですよね。例えば、Webサイトをつくりたい場合など、WeWorkであればエンジニアやデザイナーなどとの出会いがある。人事採用の機能がない場合でも、そういったところをフォローできる会社がほかにあるかもしれない。

また、ダイナミクスを生むつながりも期待できます。大企業は社内の機能はすでに揃っており、オフィスも構えていますから、そういった意味でのニーズはないはずなのですが、WeWorkを借り、コミュニティに参画しています。これは、10年、20年と同じビジネスを繰り返していてはダメだという危機感に起因していると思います。

つまり、スモールクラスの企業と大企業では目的が異なりますが、これまでにない出会いを求めているという点は一致している。大企業からすると、R&Dレベルで新しい出会いを求めているといえるでしょう。WeWorkで発生する数多くの出会いから、通常では考えられないようなスピードでコラボレーションが起こったり、すぐにビジネスにつながらなかったとしても、いつかなにか新しいアイデアになったりすることがある。WeWork独自のプラットフォームを提供できることが、他社にない強みだと思っています。
──カンファレンスなどのネットワーキングタイムとの違いとは、なんなのでしょうか?
平田:WeWorkでは、仕事終わりにカウンターでビール飲んでいたら、隣の人が協業に相応しい企業の人だった、ということが日常的に起きます。

エンタープライズ企業がスモール企業と組んだ例として、自動車会社と映像制作会社のケースがありました。もともと自動車会社の方は、新しいビジネスシーズを得るために、WeWorkのコミュニティをフル活用していらっしゃいます。WeWork内のイベントに参加するし、主催もする。どういったつながりを求めているのか、積極的に私たちに相談してくださいます。

結果、空間を映像や写真に残す技術に長けている映像制作会社とつながり、車の中や外見を映像として残すというプロジェクトが動き出しました。

佐藤:私が以前担当していた新橋のWeWorkで印象的だったのは、地方にある製菓メーカーのケースです。歴史のある中小企業でしたが、カルチャーを変えたいと考え、マーケティングチームが東京に進出してきました。

彼らは、WeWorkコミュニティのネットワークを使って、テストマーケティングを行ったり、反響のあったイベントを定期的に開催したりしています。
©︎WeWork  撮影:キム・アルム
©︎WeWork 撮影:キム・アルム
©︎WeWork  撮影:キム・アルム
©︎WeWork 撮影:キム・アルム
──メンバー間のコミュニケーション活性化のために意識していることはなんですか? WeWorkのコミュニティマネージャーおよびコミュニティチームの役割とはどういったものなのでしょうか?
平田:コミュニティチームとしては、常にメンバーのエンゲージメントを意識しています。つながってもらう仕掛けをいかに仕込めるか。私たちが担う大きな仕掛けとしてあるのがイベント。WeWorkでは、イベントを週に3~4回開催しています。

WeWorkが主催するイベントというのも存在しますが、週3の頻度で開催する平日夜のイベントでは、主にメンバーがホストとなります。こういったイベントでも、ほかのメンバーのニーズに合うように、我々も企画や運営をサポートします。

また、日中に開催するピンポイントなイベントとして好評だったのが、名刺交換会です。日本人にとって名刺交換をすることは、ビジネスにおいて大きなウェイトを占めています。前述したイベントでは「名刺交換がしにくい」といったメンバーからの声もありました。名刺交換会には、他拠点からの参加も多く、30分ほどで30人以上が集まり、1時間半以上続きました。「またやってほしい」といった反響も多かったんです。

ほかにも、小規模で濃密につながるためにランチイベントも開催しています。参加人数を8人ほどに限定し、業種や職種だけでなく、「子育て中のお父さん」といったくくりでもランチ会を開いています。

──「名刺交換会」は日本のビジネス文化に合わせてローカライズしたのですね。グローバルでもイベントはコミュニティチームの重要なミッションなのでしょうか?
平田:イベントはグローバルでも率先して行なっている取り組みのひとつです。

佐藤:現在、私が担当している半蔵門のビルは、はからずも1社占有となっています。また他拠点でも1フロアが1社占有となっている場合もあります。そういった場合でも、社内コミュニケーションの活性化のためにイベントを行なっています。内容は、普段は関わらない部署との交流が目的のものであったり、食べ物やヨガなど仕事のストレスを軽減するためのリラックスイベント、つまり福利厚生的な側面を持つものであったりします。

また、イベントを企画するときには、既存メンバーが持っている能力を活かしたいと考えています。そして、メンバーの興味の範囲にリーチすることができるイベントを、企画するよう心がけています。
平田:イベントではできるだけ、メンバーのパーソナルな部分を発揮してもらいたいと考えているんです。WeWorkはビジネスに特化したコミュニティですが、イベントでパーソナルな部分にフォーカスすることで、メンバーのエンゲージメントをあげています。

──WeWorkとしてグローバルで心がけていること、哲学などはありますか?
平田:フィジカルな空間の演出は、グローバル展開しているひとつの大きなコンセプトの元に設計されています。なにげなく描かれた壁の絵ひとつをとっても、インスパイアされる空間であり、イノベーションを生み出せる空間であるよう、意識されたものです。

また、音楽というのも空間演出の要素を占める重要な部分です。共用部分で流す音楽はWeWorkのカルチャーを感じてもらうために譲れない条件です。

空間に音楽があると会話が弾むんです。WeWorkとしてはメンバーに会話をしてもらわないと、我々の目的も果たすことができない。そこで、ドリンクなどを提供しているパントリーエリアも重要であると考えています。お酒や飲み物があると、コミュニケーションがスムーズになる。お酒が入るとコミュニケーションの一歩目を踏み出しやすいということもあると思います。パントリーはフィジカルコミュニティの出発点といえます。

キャリアの集大成、コミュニティマネジメント

──おふたりのこれまでのキャリアについて伺いたいのですが、メンバー同士をつなげ、コミュニティを活性化させる、メンバーのエンゲージメントをあげる取り組みに活きたことはありますか?
佐藤:私としては、留学経験や英語のスキルがあることは大きかったです。高校でカナダ、大学でオーストラリア、その後、タイで事業を起こしたことなどにより、異なる経歴や人種を超え、いろんなバックグラウンドを持つ人とコミュニケーションをとる方法を学びました。

また、自分がタイで行っていたことはWeWorkの事業と近いところがあります。異なるところからひとつの文化を学ぶために集まった人たちが、帰ってこれる場所、ホームとなるところを目指していたんです。WeWorkは海外で契約しているメンバーも日本の拠点を利用できるし、もちろん、日本で契約しているメンバーも海外拠点を利用することができる。WeWorkもどこへ行っても「帰ってきた」と感じてもらえる場所になり得ると思っています。

その後は日本でPR会社に就職しましたが、日本における仕事観にちょっとした違和感を覚えました。WeWorkへ応募したのは、ジョブディスクリプションに書かれていたことが「まさに私でしょ!」と思うほどの運命を感じたためです。仕事内容も会社のバリューにも納得感があり、昨年6月に入社してから毎日幸せです。

さまざまな経験をしてきて、自分の中でもキャリアとしてはバラバラな印象があったのですが、WeWorkで働くようになったことで、これまでの経験がすべてつながったと感じています。

平田:私もさまざまな仕事を経験してきましたが、キャリアとして最も長いのはスターバックスでの10年間です。スターバックスで長く働くことができた理由はふたつ。ひとつは、会社としてのコンセプトに共感できたこと。空間演出など、ユーザーエクスペリエンスを最大限に高めることを学びました。

もうひとつは、人材育成に携われたことです。人に教えることで自分も成長することができ、やりがいを感じました。また、いま思うと、スタバのコンセプトである「サードプレイス」は、「コミュニティ」につながるものだったと考えています。

10年ほど、店舗のオペレーションに終始する生活でしたが、店舗の外への興味が膨らみ、また、自分のビジネスパーソンとしての市場価値はどうなんだろう?と考えたことがきっかけでスターバックスを退職しました。その後は、ハワイのコンドミニアムのコンシェルジュや英会話スクールの運営、劇団での海外招聘交渉など、やりたいと思った仕事を渡り歩いてきました。

ただ、一貫して、サポートやホスピタリティ、成長を見守るといった、お客さまや一緒に働いている人の人生に影響を与えることに、やりがいを感じてきたと思います。

WeWorkに昨年7月に入社し、キャリアの原点に戻った気がしました。世の中に新しい場所を提供する、シニアマネージャーとして働くスタッフの成長を見守る、これまでのあらゆる経験を活かすことができています。

WeWorkのコミュニティチームの業務は、どんな仕事の経験も役立つでしょう。実際、営業やマーケターなど、さまざまなバックグラウンドの社員が集まっています。コミュニティチームは、それぞれの個性を活かして、メンバーとのリレーションシップを築いています。

──コミュニティマネージャーとして、マニュアル的な対応ではなく、個人のスキルを活かすことを大切にしているということでしょうか?
平田:WeWorkのカルチャーを表現するため、本質的な部分はグローバルでも決まっているのですが、いわゆる接客業のマニュアルみたいなものはまったくありません。そこからは、各拠点のコミュニティチームにおいて、メンバーさんのニーズをくみ取りながら発展・改善しています。

佐藤:ただ、メンバーが求めることへの対応を、自分自身で判断できないとコミュニティマネージャーはむずかしいでしょうね。コミュニティチーム、そしてコミュニティマネージャーの素質として臨機応変さが必要です。さらに大前提として「人が好きであること」があるように思います。

WeWorkが日本の仕事観を変える

──なぜ、WeWorkのような「場」が求められるようになったのでしょう? また、メンバーから求められているものはなんだと感じていますか?
平田:WeWorkのメンバーは「なにか」を求めているけれど、その「なにか」は必ずしもクリアではありません。なにかしらの新しいもの、あるいは、なにかしらの大きな期待を持って、WeWorkに参画してきます

コミュニティマネージャーは、メンバーのニーズを聞き提案をしていくことが役割です。「なにか」を変えていきたいという期待に応えるために、いろんな方法で仕掛けを提供するのです。

まず、入居メンバーとの1on1を実施し、カウンセリングを通して、各企業が求める「なにか」を明確にしていきます。これにより、我々がなにを提供すべきかはっきりし、メンバーのビジネスが成長していくのです。

佐藤:WeWorkは日本人の仕事観、働くことに対するマインドを変えていくことができると思っています。WeWorkのミッションは生きがいをもてる世界。仕事という概念を超えて、「Do What You Love(すごく好きなことをやろう)」というものです。

日本はプライベートと仕事を分けようという風潮ですが、「仕事を好きに」または「好きなことを仕事に」という考え方を広めていきたい。人生の大半は仕事をしていることになりますから、自分がやっていることを好きになったほうが、人生を豊かにすることができると思うんです。
──いまのお話にも通じますが、最後にWeWorkが目指すものを教えてください。
平田:将来的にWeWorkがやっているビジネスは、東京に、日本に、プラスのインパクトを与えることができると考えています。その「インパクト」の内容を、いま具体的には述べるのはむずかしいのですが、メンバーは「なにか」を求めてWeWorkへ来るので、その「なにか」をどんどん提供していくことによって、影響は広がっていくと思います。

佐藤:日本にも、行動力があってアイデアもある若い人が、たくさんいます。その方たちの後押しをし、日本から世界を変えていきたいです。WeWorkコミュニティから、世界の困難な問題の解決策が生まれるかもしれません未来を変えていくサポートができるというのは、最高です。

世界に影響を与え、社会に貢献することができる。メンバーも運営側もWeWorkで過ごすことにより、プラスとなるようなコミュニティにしていきたいと考えています。

──期待感を持った入居メンバーがWeWorkでなにかしらを持ち帰って、それが社会に還元されていく。そんな社会が楽しみですね。本日はありがとうございました。

advanced by massmedianの「コミュニティ特集」では今後、以下のような方々の記事を予定しています。


12/17(火)ツカノマフードコード古谷知華さん×NOBODY陳暁夏代さん対談
12/19(木)ハートドリブンフェス小能巧巳さん×みんなのメルカリ文化祭上村一斗さん対談
12/24(火)アル古川健介さん×note深津貴之さん対談
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