アルCEO古川氏・noteCXO深津氏が語るコミュニティ論 アル 代表取締役 古川健介さん、ピースオブケイク CXO 深津貴之さん
今回の「コミュニティ特集」では、ユーザーと親密なコミュニティを形成しているWebサービスについて取材します。文章や写真、イラストなどを手軽に投稿できるクリエイターのコミュニティ「note」を運営するピースオブケイクCXOの深津貴之(ふかつたかゆき)さんと、数々のコミュニティサイトを運営され、2019年1月に新たにマンガファンコミュニティ「アル」をローンチした古川健介(ふるかわけんすけ)さんにお話をうかがいました。
深津さんは「プロダクトのコアバリューのなかにユーザー同士の交流が含まれるなら、コミュニティ施策はやるべき」と語ります。一方で、マーケターがコミュニティ施策に安易に着手することについては、深津さん・古川さんともに懐疑的です。共創型マーケティングがきっかけに起こった、コミュニティバブルがもたらすものはなんなのか。コミュニティの未来を論じていただきました。
深津さんは「プロダクトのコアバリューのなかにユーザー同士の交流が含まれるなら、コミュニティ施策はやるべき」と語ります。一方で、マーケターがコミュニティ施策に安易に着手することについては、深津さん・古川さんともに懐疑的です。共創型マーケティングがきっかけに起こった、コミュニティバブルがもたらすものはなんなのか。コミュニティの未来を論じていただきました。
安易にコミュニティに手を出すな
──「note」はクリエイターのコミュニティとして、「アル」はマンガファンのコミュニティとして、活性化しているように感じます。おふたりにはWebサービスにおける、コミュニティについてお聞きしたいと思っています。共創マーケティング、コミュニティマーケティングは有効なのでしょうか?深津:いきなりこんなことをいうのもですが、noteはマーケティングのためにコミュニティをつくってるわけではありません。我々にとってコミュニティはマーケティングの手段レイヤーではないことを、最初に皆さんにお伝えしたいです。
古川:おっしゃる通りです。マーケティングのためにコミュニティをつくるのは、費用対効果が悪いんですよね。単なる「点」のマーケティング施策としてコミュニティに取り組むと、時間がかかる割にマーケティング的な効果は少ないので、途中でやる気をなくしてしまいます。コミュニティ施策はインナーマッスルを鍛えるみたいなものなのかなぁ、と。
深津:コミュニティ施策は、成果が見えるまで最短でも半年くらい、真っ当に取り組んだら、2~3年はかかってしまいますからね。
古川:また既存顧客との関係維持のためのリテンション施策としてコミュニティは有効なのか?という点ですが、これも費用対効果は悪いように思えます。マーケターが安易に、コミュニティをマーケティング手段としてやっちゃうのは危険だよ、という話は前もって伝えておきたいなと思いました。
僕らがコミュニティをやっているのは、マーケティングというより、サービスの設計思想そのものがコミュニティと結びついているからやっている、というほうが正しいと思います。
深津:そう、マーケティング目線ではなくビジネスアーキテクチャ目線。ピースオブケイクのミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」。だからコミュニティがあることは目的レイヤーなんです。そしてコミュニティがちゃんと機能するために、手段レイヤーにマーケティングがあるという話です。
──コミュニティ施策を考えている企業がいるとしたら、目的と手段を見誤ってはいけないということですね。では、コミュニティが必要な企業とはどういったものでしょうか?
深津:コミュニティが必要な企業は、ユーザーと近い事業、近いことに意味のある事業だったらいいと思います。ユーザーと仲良くなる必要のない事業であれば、無理にコミュニティをつくる必要はないでしょう。
例えば、学校のような事業であれば、ユーザーコミュニティを持つことはとても健全ですよね。一方、学習塾や技能検定といった学力向上が目的の事業社がユーザーコミュニティを持つことは戦略として優先順位が低いかもしれない。
また、サービスやプロダクトのコアバリューのなかに、ユーザー同士の交流が含まれているならば、マーケティング手段かどうかはともかくとして、コミュニティは持ってもよいでしょうね。
──根幹を見つめ直し、ユーザーとの距離が近いのであれば、コミュニティ施策をやる意味があると。この点についてもう少し詳しくお聞きしたいです。
深津:「距離が近いこと」をもっと分解していくと、「一緒につくること」に意味があるかどうか、ということになります。
ユーザーが、その会社・ブランド・プロダクト・サービスと、「一緒に時間を過ごすこと」に価値を感じているのであれば、コミュニティはあったほうがいい。逆に、その会社・ブランド・プロダクト・サービスなどが、ユーザーにとって単なる不便の解消レベルにすぎないのであれば、コミュニティはなくてもいいのではないでしょうか。
古川:世の中のあらゆるものの情報の流通が高速になったおかげでコモディティ化し、サービスの機能の差はなくなってきています。なので、価値をずらすためにコミュニティをつくるのであれば「あり」だと思っています。つまり、差別化の手段としてのコミュニティです。
例えば、昨今、飲食店のほとんどは「美味しいお店」になったと思うんです。食べログによって可視化されて、美味しくない店が消えていったからだと思っているのですが、そうすると美味しい店の価値は薄れます。すると、どこのお店で食べても美味しいなら、知り合いが営んでいるお店や、気心の知れた店員がいるお店にいこうかな、と思うのではないかなと。
サブスクリプションモデルを導入しているある飲食店の話なのですが、ユーザーは定額で食べ放題だからサービスにお金を払っているというより、その飲食店のコミュニティに参加するためにお金を払っているケースがあります。お店へ行くと誰かしら顔見知りの人がいて、食事をしながら話せるところに価値がある。お店のメニューではなく、場が商品になる、価値をずらすためのコミュニティ施策ですよね。
これは、プロダクトそのものの価値の転換、プロダクトの意味を変えるという話です。コミュニティは狭いマーケティング施策では難易度が高いのですが、プロダクト施策という面では、活用できるシーンが結構ありそうだなと感じています。
アル・noteのコミュニティデザイン
──では、noteとアルで実施しているさまざまな施策については、どのように考えていらっしゃいますか?深津:noteの場合、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」という目的にたどり着くかどうかで、施策を決めます。だから「この施策は売り上げに効果があるけれど、ユーザーが続けられなくなるから、やるべきではない」というジャッジをすることもあります。
短期的にテクニカルな手法で数字を伸ばすことはせず、長期的にファンダメンタルに数字を伸ばすことが、全社的な方針です。ピースオブケイク代表の加藤も朝会などで同じことを説きます。メンバー全員が「こんなnoteにしたくないよね」という共通の意識を持つために、社内のデジタルサイネージには「こんなnoteはいやだ」というスライドが表示されています(笑)。 古川:アルにとってのゴールは、「世界中のマンガファンがもっとマンガを楽しめる」ことです。そこへ行く道は、わりと複雑ですが、複雑性を残しながら、いろんな施策を決めています。
「マンガを楽しむとはなんぞや」と考えたとき、「マンガを読む」ことは最も基礎の部分、前提にすぎません。その上に、誰かとマンガを語ること、共有することがある。アルは、その空間をつくっています。
──目的・ゴールの達成のために、各種施策に取り組んでいると。両サービスは高頻度で機能改善をされていますが、これもコミュニティ活性化のためでしょうか?
深津:コミュニティはとどまるのではなく、ちょっとずつ変わっていくのが正しい。だから機能改善によって、ちょっとずつ変えていくのが理想だと思っています。
古川:「コミュニティ3年限界論」というのがありますよね。3年くらい経つとコミュニティが淀んでくる。中学や高校も3年。おそらく、3年で変化していくのが健全なんです。
淀むとはつまり、コミュニティ内にプロダクトやサービスの文脈を知っている人が増えて、新しい人が話題に入りにくくなること。いわゆる、古参と新参の問題ですね。
深津:そう、古参で行列ができてしまうと、新参が入ってきても、そのサービスの価値にたどり着けなくなってしまう。 ──コミュニティ内には「文脈」をつくりすぎないことが重要ですか?
深津:うん、僕はそっち側。一見さんに優しくします。
古川:僕は、文脈は簡単なんだけど、「こんなの理解できるのは自分たちぐらいだ」とユーザーが思えるレベルに設定します(笑)。
あと、一見さんに優しくするけれど、学習コストが低すぎるとつまらないと感じるので、ちょっとしたハードルを組み込むようにしています。それがないと、ほかのサービスと同じ感覚なので、すぐに忘れられてしまう。だから、そのサービスにおける独自用語をひとつだけつくるとかはいいと思っています。Twitterであれば「ツイート」みたいな言葉ですね。
深津:独自用語が多すぎるのはダメですね。でも、1~2個はあってもいい。noteでは、できるかぎり標準用語を使うようにメンバーには言っています。特殊な単語を多用すると集団が内側に向きすぎるんですよね。
古川:逆に、独自用語をたくさん設けるというパターンもありますよね。これは、若者向けサービスに多い気がします。日常会話で使っても、大人がわからないようにしている。しかし、3年ぐらいで消滅するサービスがほとんどだなという印象です。
コミュニティバブルの弾けた先は?
──コミュニティをどうしたいか。そのために用語の設定から意識すべきなのですね。最後に、おふたりが考えるコミュニティの未来についてお聞かせいただけますか?古川:最近は、「消費」することが飽きられていると感じます。そして、誰もが「生産」するつくり手に回りたいと思っている。noteを使ってクリエイターになるとか、アルでマンガ業界に寄与するとか。今後も、つくり手側になりたいというニーズは増すと予想しています。
こうしたニーズに対して、コミュニティで対応するか、ユーザーの声を反映させる参加型コミュニケーションで対応するか。アプローチはいろいろあると思う。ユーザーの横のつながりをOKにしたコミュニティは、99%事故るので、コミュニティではなく、もう少し洗練されたユーザー参加型のコミュニケーション、企業を応援して自分もつくり手になれる手法が開発される気がします。
深津:僕は、SNS全盛期に起きたことがスケールを変えて、もう一度リバイバルされると思っています。あの時代から利用者が学んだことは2つ。1つ目は「別に友達100人とか、世界中の人とつながる必要はなかった」こと。2つ目は「コミュニティはでかくなりすぎるとつまんなくなる」こと。
これと同じようなことが、ポコポコ生まれたコミュニティでも起きるのではないでしょうか。「日常生活で、何個もコミュニティに属する必要はない」ことが発覚し、コミュニティバブルが弾け、ハイプ・サイクルの幻滅期に、弱いコミュニティは廃れていく……というところまで、セットで盛り込んでおいた方がいいと考えています。
深津:おそらく、最終的にコミュニティは、統廃合されていく。コミュニティブームの昨今、正しいポジショニングと正しい投資をして、正しく機能するコミュニティを持つことができたプレイヤーと、サービスやプロダクトとの相性が悪かったか、あるいは変な投資をしたかで、まとまったコミュニティをつくることに失敗したプレイヤーに二極化していく。
これまで述べている通り、良質なコミュニティを形成するには手間暇がかかる。だから安易に着手するべきではない。だからこそ、自分でコミュニティをつくるのではなく、良質なコミュニティを持っているコミュニティホルダーと組むプレイヤーが多くなるのではないかと、個人的には思っていますね。
アルと一緒にマンガをつくろうとか、noteと一緒に出版しようとか。良質なコミュニティがいろんなところとコラボする世界になるだろうと推測しています。
──コミュニティバブルの先の未来まで言及いただき、とても示唆に富んだコミュニティ論でした。お忙しいなか、ありがとうございました。