ライブ遠征のたびにサウナへ

──江本さんはもともと東京・高円寺にある小杉湯でアルバイトをしていたそうですね。
21歳のときに高円寺で一人暮らしを始めたのですが、住んでいたアパートにお風呂がなかったんです。それで近くにあった小杉湯へ通うようになりました。ただ毎日入浴料を払うのが大変で、タイミングよくアルバイトを募集していて、「風呂入り放題」という条件に飛びつきました(笑)。2年働いた後に、一度引っ越しを機に辞めてしまったのですが、しばらくして荻窪にもう一度戻ってきて、久しぶりに小杉湯を訪れたんです。すると、ちょうどアルバイトが一人辞めると聞いて、「じゃあ、また働きます!」と申し出て復帰。そこからさらに1年ほど働きましたね。

──小杉湯にサウナはないですよね? 江本さんがサウナーになった理由を教えてください。
小杉湯は、「温冷交互浴」が有名です。そのおかげで水風呂の良さを知りましたが、当時はサウナに興味がありませんでした。けれども、数年前にEnjoy Music Club(以下EMC)のメンバーに誘われ、荻窪にある「なごみの湯」のサウナに入りました。すると、いままでに感じたことのない心地良さを味わってしまい、一気にサウナが好きになったんです。

また、メンバーに借りたマンガ『サ道』を読んで、気持ち良くなれるサウナの入り方を学びました。小杉湯では休憩を挟まずに風呂と水風呂を交互に入っていたので、マンガを通して「休憩する」という概念を知りました。著者のタナカカツキ先生には本当に感謝しています。

サウナの魅力を知って以来、ライブで遠征するときは決まって近くのサウナに入るようになりました。福岡や大阪、名古屋にもいいサウナがたくさんありましたね。いまではサウナ通いが習慣になり、多いときには週2回は入っています。
──EMCでは江本さんが作曲を担当されているのですか?
ほかのメンバー2人がリリック(作詞)を、僕がトラック(作曲)を担当しています。一般的には歌詞か曲のどちらかを先につくり、残った曲か歌詞を合わせていく流れだと思います。でも、僕たちの場合は、最初にテーマを全員で決めて、それから各々の作業を同時にスタートさせるんです。ラップは融通が利くところがあるので、この手法でも成り立つんです。もちろんサビのメロディーは、歌詞をもらってからにしていますけどね。

足し算と引き算

──トラック制作に関して、サウナで閃く瞬間はありますか?
「0から1」を生み出すときは自宅でアイデアを考えるのですが、「1から100」にする作業はサウナで行うことが多いです。ストックしておいたアイデアを、サウナ室で組み立て、膨らませる。これはEMCの曲でもソロの曲でも同じです。

最近EMCでリリースした新譜『東京で考え中』も、出だしがサビから始まります。この構成もサウナで考えたものです。自宅で思いついたモヤモヤしたいくつかのアイデアを、サウナでまとめ上げていきました。
また、サウナから出てリラックスした状態で曲を聴いていると、「こうすれば良かったんだ」という答えが見えてきます。絡まった糸が解ける感覚ですかね。作曲の初期段階ではアイデアを次々に足し算をしてしまうのですが、「サウナから出た後に気持ち良く聴けるかどうか」という視点で曲と向き合うと、余計な音を引き算することができるんです。つまり、自宅で作曲し、サウナで編曲するという流れ。本当は外気浴しながら曲を聴きたいんですが、機器を持ち込めないのが悔しいところ(笑)。そういうサウナ施設をぜひつくってほしいですね。

──作曲家のとくさしけんごさんも、似たようなことをおっしゃっていました。
とくさしさんの記事、読みました。とても共感しました。とくさしさんのアルバム『MUSIC FOR SAUNA』を聴いていると、「自分もこういう曲をつくりたいな」と思います。サウナに通うようになってから、アンビエント・ミュージック(環境音楽)やニューエイジ・ミュージック(癒やし系音楽)が大好きになったんです。それまではパンクロックやひずんだギターの音が好きだったんですけど、いまはキレイな音が聴きたいという気持ちが強いです。振り返ってみると、小杉湯にもキレイな音が溢れていました。サウナにハマる前から、銭湯に響く風呂桶の音は好きでしたね。

──確かにサウナ後は耳障りの良い音を求めちゃいますよね(笑)。
楽曲制作以外でも、サウナは欠かせない存在になりました。以前、ファッション誌『GINZA』で全10回の短編小説の連載をしていたのですが、内容を考えるときは毎回スパ ラクーアに泊まっていました。原稿料でサウナに入っていましたね(笑)。

──小説もサウナで閃いていたんですか?
そうです。楽曲制作と同じで、自宅で小説のテーマなどを箇条書きにまとめて、サウナで執筆していました。スパ ラクーアでは中高温サウナ・ヴィルデンシュタインでアウフグースを受けて、水風呂に入り、外気浴をする。そのあとに休憩スペースでパソコンを開き、寝そべりながら原稿を書いていました。執筆が煮詰まったら、気分転換にもう一度サウナへ。スパ ラクーアはサウナだけでなく風呂も種類が多くてアミューズメント感ありますよね。一日中いるにはちょうどよい場所でした。ちなみにサウナ仲間であり、仕事仲間でもある、劇団ロロ主宰の三浦直之さんも「仕事するならスパ ラクーア」と言っていますね。
──閃きやすいサウナの条件はありますか?
土日はどこも混んでいてリラックスできないので、サウナに行くときは必ず平日を選びます。昔は平日の昼に行けば空いていたのに、昨今のサウナブームで、どこも混んでいますよね。ブームに乗って、さらにサウナ施設が増えてくれたら嬉しいですね。

──リラックスできる場所だからこそ、閃きが生まれるのですね。
そうですね。サウナ中に閃くこともあれば、その後の食事中に閃くこともあります。サウナ施設全体が閃く場所になっていますね。ちなみに最近、キャンプによく行くのですが、新たな試みとしてテントサウナを購入しようか悩んでいます。大自然で閃きたいですね(笑)。

──大自然のサウナにインスパイアされて生まれる楽曲、楽しみですね。EMCでもソロでも、今後の江本さんの活躍を期待しています。本日はありがとうございました!

<撮影>池ノ谷侑花(ゆかい)
<取材協力>東京ドーム天然温泉 スパ ラクーア
写真
サウナでわたしも閃いた
「サウナによる脳内の刺激が創造性を活発にするのでは?」という仮説をもとにした、サウナと閃きの関係に迫る本連載「#サウナで私も閃いた」。これまでマンガ家、映像作家、音楽家と、多くのクリエイターにアイデア発想法をインタビューしてきました。
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