2020年、ZOZOの行く先

──遠藤さんは2005年からZOZOに入社されたとのことですが、入社した経緯を教えていただけますか?
学生のころ、前代表の前澤がやっていたバンドのファンで、彼らの曲をよく聞いていたんです。バンドを辞めたあと前澤がレコード通販などのビジネスを始めて、2004年末にはZOZOTOWNを開設して……。そのZOZOTOWNのサイトがとてもかっこよかったんですよ。ここで仕事ができたら面白そうだと思って、求人に応募したのがZOZOに入社したきっかけでした。それが25歳のときで、そこからずっとZOZOにいたので、2019年で入社15年になります。

これだけ長くいられたのは、労働という意識を持たずに働けるZOZOの環境が魅力的だったから。友人と遊んでいる延長線上、部活やサークルに近い感覚なんです。働いているという感覚よりは、好きなことや楽しいことをやっているという感覚。最高の職場なんですよ。

──創業者の前澤さんのファンであったことがきっかけで入社され、そこから15年間在籍しているのですね。それでは、2019年に前澤さんがZOZOを退任されたことは遠藤さんにとってはかなり大きな出来事だったのではないですか?
衝撃でしたし、もちろん寂しい気持ちはありました。しかし、前澤が抜けたからといって、会社の雰囲気が変わったかと言われれば、決してそうではないんです。みんな「次」を見据えて前を向いて行動しています。前澤が退任した現在、これまでの「ZOZOらしいデザイン」を踏襲しながら、次なるZOZOらしさをつくり上げていきたいと思っています。
──「ZOZOらしさ」というものを具体的に言語化すると、遠藤さんはどのようなものだと考えていますか?
ZOZOらしさを言語化すると、例えばこれまでは「他がやらないことをする」「遊び心がある」「驚かすのが好き」という要素がありました。この部分はこれからのZOZOにおいても変わらない、ぶれない部分です。

しかし、この先は変わるべき部分もあると考えています。例えば、これまでは「他がやっていないこと」にこだわって、トリッキーな変化球を好んでよく使っていました。これはZOZOが持つ大事な1つのアイデンティティである一方で、「シンプルに美しいデザイン」つまりストレートの剛速球ももっと磨いていきたいと思っています。これからの新しい「ZOZOらしいデザイン」をつくっていきたいです。
僕らデザイン部の仕事は、自分たちのなかにある「かっこいい」という感覚を突き詰めて、それをZOZOへと還元していくこと。それを続けていくことで「かっこいいZOZO」を実現できると思っています。

僕らデザイナーはほかの部門のスタッフ以上に、ZOZOへの愛着を強く持っています。そうでなければ、会社の想いや願いを目に見えて、手に取れる形にしていくことはできません。だから、デザイン部では「楽しいことをしてかっこいいモノをつくる」というスタンスでいられるように心がけています。これは、ZOZOが新たな局面を迎えたいまも変わることはありません。ZOZOが存在し続ける限り変わらない、デザイナーの芯にある部分なんです。

「前澤がいなくなってからZOZOはダサくなった」。

そう言われることがないように、ZOZOらしくありつつ、新しさも取り込む。そうやってかっこいいZOZOを、デザインを通して実現していきたいと思います。

「かっこいい」価値観を持ち続ける

──これまで遠藤さんがZOZOで手がけてきた案件は、どのようなモノがあるのでしょうか?
2010年に、「街から人へ」というコンセプトを掲げたZOZOTOWNの全面リニューアル、10周年の際に告知なしにゲリラ的に行った「0円セール」や、2018年に社名変更を発表した際に掲載した「拝啓 前澤社長」という前澤に宛てた新聞広告は、特に印象に残っています。最近では、ZOZOがヤフーの傘下に入ることと、前澤の退任を発表したページの制作などがあります。

──いま挙げていただいた案件以外にも、「ZOZOMAT」や、身長と体重を選択するだけで理想のサイズが簡単に見つかる「マルチサイズ」展開での商品販売など、ZOZOでは数々の前例のない施策に取り組んでいるイメージがあります。
そうですね。さまざまなサービスや施策を発表させていただきました。他社にはできない先進的な取り組みは、楽しく感じる一方で、すべての案件で予定通りの結果を出せたわけではなく、後悔が残る案件もありました。でもそれは決して失敗をしたというわけではないんです。

僕は「後悔することをしないとだめ」という座右の銘を掲げています。というのも、あとで「なんでこんなことをやってしまったんだろう」と思ってしまうようなことって、きっと始めたときはワクワクしていたと思うんですよ。いつもと代わり映えのない日常で忘れ去られる記憶ではなくて、後悔するほどの忘れられない記憶。そうやって記憶を覚えていれば今日や明日に活かせることもあると思うんです。

それなのに、後悔を恐れて挑戦しない若い人たちを見かけると「とてももったいないな」と。たとえ昨日、後悔するような行為をしたとしても、それを未来で活かすことができれば、それは失敗では終わらない明日の成功につながりますから。そのように個人的には思っていますね。
──進んで後悔をしていく。面白い考え方ですね。
そういう生き方をしていけば、自然と面白い人間になっていくと思います。面白い人って、かっこいいし魅力的ですよね。僕がZOZOに15年もいる理由も結局そこなんです。僕が一番面白いと感じられる場所がZOZOだった。だからZOZOにいるんですよ。

歳を取って、社会人である時間が長くなると、「かっこよくいること」を少しずつ諦めてしまうことがあるかもしれません。それは、時間やお金がなかったり、服装やルールが決められたりと、生きてきた時間が積み重なっていくと、しがらみや制約が増えて、やむを得ない理由が出てくることもあると思います。でも、見た目ではなく、生き方のかっこよさは忘れず持ち続けていたいです。

それらの、見た目には表層されないかっこよさを意識することはデザイナーにとって価値のあることです。時代が移ろうごとに、かっこいいと言われる表面的なデザインは変化していくと思います。それらの変化を察知して、時代に合わせていく以上に、デザイナー自身のなかで確固たるかっこよさを持つこと。それが深層的にかっこいいデザインをつくるためには欠かせないことだと思うんです。

──デザイナーは表層的な技術以上に、深層的なセンスを磨いていくべきだということですね。
技術的な側面から見れば、この先はAIなどが導入されることで、作業は効率化され、クオリティもある程度担保された最適化されたクリエイティブが出てくるかもしれません。でも、デザインとは人の気持ちをどのように動かしていくか設計し、どう表現するかだと思っています。だからこそ、テクノロジーが台頭しようとも、人が入り込む余地があります。その余地を残すためには、デザイナーは自分の個性や価値観を大切に持ち続けなければいけません。

自分の感覚をとがらせて、自分にしかつくれないデザインを突き詰めていくことが求められる。こだわりがデザイナーには必要。そのためには楽しんで生きて、面白いモノをインプットしていく。それをデザインでアウトプットする。このサイクルができれば、きっといい人生を送れると思いますよ。
──AI時代のクリエイターにはかっこよさとはなにかを考え抜く執念が必要なのかもしれません。遠藤さんはこの先もそれを追い続け、大好きなZOZOに還元していくのでしょう。大きな転換期を迎えたZOZOがどのように変化していくのかとても楽しみです。お話いただきありがとうございました!
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