──今回の特集のテーマは「好きを仕事に」なのですが、太田さんは好きなことを仕事にすることについて、率直にどう思っていらっしゃいますか?
多くの人が、本当に好きだと思うことを仕事にはしていないのではないでしょうか。だから、好きなことを仕事にできるというのは、一部の人にしかできないことで光栄なことだし、ありがたいと思っています。

ただ、好きなことを仕事にすると、仕事とプライベートの区別がなくなってしまいます。私の場合は、オンもオフもサウナ(笑)。スイッチのオンとオフなどはなく、24時間ずーっとサウナです。恐らく、好きなことを仕事にしている人は誰もが、オンとオフの切り替えがないでしょう

普通の人は、仕事の疲れを趣味で癒したりしますよね。でも、私は趣味もサウナだから。仕事もプライベートも全部一緒になってしまうというのが、好きなことを仕事にした人の悩みだと思います。

私は、その状況に辟易したり、疲れを感じたりしたことはありません。その状況も、楽しめています。24時間、同じことをやれる人間しか、好きなことを仕事にはできないでしょうね

サウナにハマり、温浴施設コンサルタントへ

──改めてお尋ねしたいのですが、温浴・サウナというものは、いつから好きなのですか?
学生時代にサウナにハマったので、10代の頃からになりますね。学生のとき、歌舞伎町でアルバイトをしていて、そこの先輩や社員の人たちに連れられて、サウナへ行き始めました。当時、歌舞伎町に「グリーンプラザ新宿」という繁盛している施設があって、そこによく通っていました。

当時のサウナはおじさんたちが行くもので、24時間営業だったことから宿泊用にも使われていたんです。飲んだ後に終電がなくなってしまったから泊まる、というような使われ方をしていたので、夜になるとお客さんがたくさんいました。

バブルの頃に、クラブでボーイをしていたのですが、チップを1万円をもらえたこともありました。私はお客さん、つまり社長の方々がそれぞれどんな銘柄の煙草を吸うのかすべて覚えていたので、タバコを切らす頃合いで、渡しにいっていたんです。すると、「お前は、気が利くな」と、チップをもらえるわけです。そのお金でサウナに行っていました(笑)。

──当時も、いまでいう「ととのう」みたいなものを求めて、サウナに行っていたのでしょうか?
そうですね、気持ちよさを覚えたから通っていました。最初は気持ちよくなかったんです。しかし、おっさんたちが気持ちよさそうなのを見て、「なんで気持ちよさそうなのかな?」と観察していました。

「なるほど。サウナに入っている時間が俺より長いな」とか、「その後、水風呂に入ると、こうなるのか」とか、おっさんたちと同じようにやってみたら気持ちよくなったので、「あ、これか!」と。そしてハマっていきました。
──学生時代からすごい観察眼をお持ちだったんですね。そういうところが得意だと思って、船井総研に入社したんですか?
そういう意味ではなかったです(笑)。船井総研時代は、飲食やショッピングセンターなど、違う業界のコンサルティングをしていました。当時、サウナ関連の仕事はあまりなかったのですが、たまに温浴施設案件のヘルプをしていました。温浴施設やサウナはもともと好きだったので、経営者といろいろ話すなかで、アドバイスが自然と出てきました。徐々に温浴施設やサウナ関連のお客さまも増え、会社からも「専属でいいよ」と言われ、温浴専門チームに異動することとなり、その後、自分のチームを立ち上げました。

コンサルファームではできない。すぐに退職届を提出

──その後、船井総研を退職し、現在の会社を立ち上げたと。社内に残って自分の好きな仕事をする、または独立をして好きな仕事をする、双方にメリット・デメリットがあったと思います。なぜ独立を選ばれたのです?
別に辞める気はありませんでした(笑)。ただ、温浴施設のコンサルをしていると、「支配人になってくれないか」や「運営を委託したい」といった相談が来るんです。しかし、コンサルファームは、そういった依頼は受けられません。

だから、グループ会社や子会社をつくって、温浴施設に運営もできる会社をつくろうという話を社内でもしてみたのですが、やっぱりできないと。役員にも掛け合いましたが、「うちはコンサルファームだから、つくる必要もないし、やらない」と。「お前が本当にやりたいんだったら、辞めてやれよ」と言われたので、次の日に辞表を持っていきました。

ただ、それだけの話で、別にやめようと思ったわけではないんです。辞めろって言われたから、辞めただけ(笑)

現在経営している楽楽ホールディングスは、コンサル業で、温浴業ではありません。「運営をしてもらいたい」という相談がある場合、業績が悪化していて、自分たちの手に負えないから依頼してくるわけです。ただ、よくよく見ると、私がアドバイスをするだけで再生できるというケースが多い。だから、「もうちょっと頑張ってみませんか、これ直したらイケると思いますよ」とコンサルティングをしています。そして「じゃあ、やってみるよ」と応えてくれた施設が、いま右肩上がりで成長しています。
暖炉・薪ストーブ、サウナなどの開発・輸入・販売を行うメトスで取材を実施。太田さんとメトスは、ともに温浴業界を盛り上げていく同志関係のようです。
暖炉・薪ストーブ、サウナなどの開発・輸入・販売を行うメトスで取材を実施。太田さんとメトスは、ともに温浴業界を盛り上げていく同志関係のようです。

永続的に温浴施設が経営できるように

──現在、サウナ―から西の聖地としても崇められている「湯らっくす(熊本)」や、都内の新たな人気スポットになりつつある「かるまる(池袋)」などのコンサルティングもされていらっしゃいますよね。温浴施設コンサルタントとしてどういったアドバイスをされていらっしゃるのでしょうか?
すべてを見ています。広告宣伝も、施設の運営、例えば接客指導から提供メニューまで幅広くアドバイスをしています。さらに、将来的なリニューアルも視野に入れて財務的なこともチェックしています。例えば、水風呂のチラー(空冷式チリングユニット)を3年後に交換することを念頭に、いまやるべきことを、自分が社長だったらと考えながら、施設側に提案していますね。

恐らく、コンサルタントとしての立場だけだったら、成功していないと思います。自分がここの社長だったらどうするかということを、ひたすら考えて投げかけています。

──サウナ好きのユーザー視点プラス、自分が経営者だったらという視点ということでしょうか?
ユーザー視点といっても、自分はかなりマニアックな方ですから、自分の視点でアドバイスしてもお客さんは増えないでしょう。常に、「初心者だったら」「サウナが好きじゃなかったら」「水風呂に入らない人だったら」という視点も持っています。

池袋のかるまるで、あえて25℃の冷たくない水風呂を用意しているのも、そういうことです。スーパー銭湯の水風呂は17~18℃なのですが、そういう中途半端な温度の水風呂は不要。つまり、「超マニアックな人向けの超冷たい水風呂」と「初心者向けのぬるい水風呂」があればいい。そうでないと、経営が成り立たちません。

──長期的に経営が成り立つよう、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を意識しているのですね。現在のニッチユーザーと、遠い未来にニッチユーザーになる可能性を秘めたビギナー。だから、ビギナー向けの入り口を用意する必要があるということですか?
そうです。ビギナーがマニアに成長するステップを示してあげないといけないんです。「こうやって顧客を広げ、育てていくんだな」というのがわかれば、永続的に経営することができます

これが経営者に必要な視点です。5年頑張ればいいというわけではなく、10年、20年続けるためにはどうしたらいいかという目線が求められます。
──最後に、「好きを仕事に」することはやりがいもあると思いますが、今後はどのようなことを目指していますか?
サウナは、温泉より美容や健康に効果があると言われています。元鹿児島大学大学院・循環器呼吸器代謝内科教授の鄭忠和鄭先生や、日本鍼治療標準化学会代表理事であり日本サウナ学会の代表理事でもある加藤容崇先生がさまざまな研究を通して、実証しようとしています。

私も、サウナは人を幸せにすると信じています。そして、サウナ人口を増やすことが私の使命です。

施設が閉店してしまうと、その地域周辺の人たちはサウナに入れなくなってしまいます。だから、できるだけコンサルに入っている各地域の施設の業績を向上させ、長く営業できるようにすることが、ひいてはサウナ人口の維持や底上げになるだろうと考えています。

施設をつくり、再生させ、各地域ごとにサウナ人口を増やしていく。そのために、永続的に経営できる体質になれるようサポートする。これによって、日本全国津々浦々の健康および美容に大きく貢献していきたいです。
──温浴施設が永続的に経営できるようサポートすることで、日本の健康と美容を底上げしていくのですね。好きを超えた使命感に溢れる太田さんの今後の活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

<取材協力>メトス
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