小さな興味から

──本日は、「好きを仕事に」というテーマでお話を伺っていきたいと思います。ヒロシさんは、芸人に行き詰まりを感じた際、喫茶店経営やバンド、アイドル運営、そして今とてもお好きだというキャンプなど、さまざまなものを試してみたそうですが、それはなぜですか?
「興味があった」ということでしょうか。どれもやったことのないことだから、始めた時点では、好きか嫌いか、わからなかったものもあります。

例えば喫茶店は、自分だけのスペースに「ガチャガチャ」を置いてみたかったんです。私物や自分のグッズなどをガチャガチャの景品にしてみたいという小さな興味が最初のきっかけです。そしてガチャガチャを置くためには、利用してくれるお客さんが必要。さらに、お客さんを集めるにはお店を構えなくてはいけない。だから、お店をやるためにはどうしたらいいのか、いろいろ調べて実際に動いてみたんです。
そして、自分の店で、自分だけの箱でトークライブをやってみたいという、新たな興味にもつながっていきました。当たり前だけど、すべては「ちょっとした興味」からスタートとしています。

──「好き」ではない「興味がある」程度でも、まずは着手してみることが大事なのですね。
「やりたいことがない」という人もいますよね。また「夢がない」という人も多い。「夢」まで大きなことでなくてもいいのですが、誰にでも、気になることややりたいことはあると思うんです。小さいことでいい。漠然としていてもいい。

もしかしたら、「ダラダラしたい」でもいいかもしれない。しかし、ダラダラするにもお金が必要ですよね。だから、最低限いくら必要なのか、そのお金を稼ぐためにどうすればいいのか、考える。ダラダラするための努力をするということです。
最近は、子どもの頃に「無謀だ」と言われていたことが実現できる世の中になってきていますよね。小学生のとき、「一日中ゲームをしていたい」なんて思っていましたが、いまは本当にいます。ゲームの動画配信で稼いでいる人や、eスポーツでプロ選手として稼いでいる人もいる。

ほかにも、「レンタルなんもしない人」という方を、この前知りました。ただなにもせず、人の話を聞き、見守るだけの人の需要がある。「そんなの成り立つの?」というものが、注目を浴びています。

もちろん、周囲からは始めるにあたっていろいろと言われたでしょう。けれども、彼、彼女たちはそれに動じずに行動した人です。僕も「芸人なのにYouTubeなんか始めて……」と批判を受けました。しかし、批判に負けず行動すれば、小さな夢でも、気になることでも実現しやすい世の中になってきたと実感しています。

──ヒロシさん自身も、働き方の多様化を実感していらっしゃるということでしょうか? 芸人というラベルがなくなり、パーソナルな部分へフォーカスされてきたと感じますか?
僕も、舞台に立ってネタをやるのが「芸人」だと思っていました。しかし、いまは違う。何年か前から、いろいろとやっていいと思い始めたんです。

僕は「芸人」というカテゴリーにいますが、社交性がないし、ひな壇にいても喋れない。それができている人が「芸人」らしいと見なされてきましたが、ここ2~3年でガラッと変わってきた。だから僕も生きやすくなってきました。

タネを蒔く

──著書『働き方1.9 君も好きなことだけして生きていける』(講談社)で「タネをいっぱい蒔け」と書かれていましたが、それが「好きを仕事に」することにつながるのでしょうか?
「なんでもかんでも手を出すのはよくない」という風潮がありますよね。どちらかというと、「ひとつのことを長く継続すべき」という空気が蔓延しています。「続けることの美徳」は、親世代からの刷り込みとして自分のなかにもありました。

「いまの仕事を生涯まっとうする」という考え方は偉いですが、保証のない時代です。会社は潰れるかもしれないし、給料も上がらないかもしれない。それに、一つのことに縛られ続けていたら、楽しくない人生になる。「あぁ……辛かった」って死ぬのは嫌です。これからは、遊びが仕事になっていくのではないでしょうか。

といっても、急に別の職業を始めるのは難しい。だからこそ、「タネをいっぱい蒔け」ということなんです。タネを蒔いておくと、どこかで仕事の花が咲くかもしれません。あるいは、「仕事の苦痛も、週末の趣味で耐えられる」といったこともあるでしょう。

花が大きく育ってきたら、仕事を辞めればいいんです。いまは、そういうことができる時代です。これは、僕がタレントだからではない。サラリーマンだって同じです。サラリーマンが所属している企業で5000円、10000円と月給を上げるのは大変なことなんですよね? でも、好きなことで副収入を得られる時代が来ている。

「YouTubeで100万回再生! 月収も数百万円!」なんて大げさな話ではなく、自分の好きなことでお金が入ってきたという感動を味わってほしいですね。僕自身、「ヒロシです…」のネタで4000万円を稼いでいたときより、キャンプ動画で初めて200円を振り込まれたときのほうが、遥かに感動しましたから。
お笑いも好きでしたが、ネタはテレビ局のプロデューサーや視聴者から求められることを演ずる部分もあり、好き勝手にできません。自分の好きでやったものに反応があって、お金が入る。素のままの自分を受け入れられたことに、心底感動しました

──著作で「得意はダメ」といった趣旨の話をされていました。ヒロシさんから見た「好き」と「得意」の違いについて教えてください。
キャンプも「好き」だけど「得意」ではありません。ロープワークはできないし、専門用語も詳しくない。でも、「好き」だから続いています。

僕が言いたいのは、「得意だけど好きではない」は続かないよ、という話です。生活のために得だから仕方がなくやるのなんて、楽しくないですよ。僕も、自虐ネタが得意だから「ヒロシです…」のネタをやり続けてきたのですが、苦痛になってしまった。だから、いまはネタをつくっていません。

それでも、別にいいんです。いつかまた、お笑いを好きになって、ネタをつくり始めるかもしれない。そのときに好きなもの、そのときの自分が、一番興味のあることをやっていきたいと思っています。

──赴くままに、自分の小さな興味からスタートする。そしてそれが好きになり、仕事になることで、生きがいも感じる。まずはその一歩を踏み出すことですね。後編ではヒロシさんの好きの原点を伺っていきます。後半は3月24日(火)にアップします。お楽しみに!
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