話のタネで飯のタネにはならない!?

──ヒロシさんの「好き」の原点について伺いたいです。まず、芸人を目指した理由を教えてください。
小学生のとき、漫才ブームが起きて、ツービートのことを面白いだけではなく、かっこいいと思ったんです。「人を笑わせることが、仕事になるんだ」と衝撃を受けて、漫才師への憧れが生まれました。同時に、心の片隅に“漫才師になりたい”という思いが芽生えました。

高校の三者面談のとき、思い切って先生に「漫才師になりたい」と言ってみたんです。けれども、「成功するのは一握りだ」と一笑されました。自分のなかでも、芸人になりたい思いと普通に生きたい思いが半々で。そのまま、なんとなく流されて、大学に進学して就職して、保険会社の営業になりました。

しかし、就職してみたら、だんだんと具合が悪くなってきてしまった。出社の時間になると頭がガンガンする。普通に生きようとしたけど、ダメだった。だから、「芸人になりたい」という気持ちに従ってみることにしました。

──その後、「ヒロシです…」というネタでブレイクし、2014年からはソロキャンプ動画をYouTubeにアップし始めた。その経緯を伺ってもいいですか?
キャンプ好きの原点は、小学生の頃に親に連れて行ってもらったことです。夏は決まってキャンプをしていました。ただ、芸人になったばかりで、お金もなかった頃は行けませんでしたね。都会に憧れていた時期だったのもあります。少し売れて、お金が手に入るようになったとき、「もう一度キャンプに行きたい」と思うようになったんです。昔、好きだったからでしょうね。
その後、キャンプにどハマりしたきっかけは、一人で行ってみたことです。それまでは、後輩芸人などを連れてキャンプをしていたのですが、自分が最もキャンプへの熱量が高いので、人の分まで準備をしていたんです。「なんで俺が、後輩の面倒を見なきゃいけないんだよ」って。そこで、思い立って一人でキャンプへ行ってみたら、すごくよかった。人に左右されず、自由にできる

キャンプ動画をアップし始めたのも、お金儲けをしようという考えはまったくありませんでした。ただ、キャンプ仲間にシェアするためだけに撮影したんです。あくまで話のタネで、飯のタネにしようなんて思っていなかったし、なるとも思っていませんでした。

というのも、YouTubeチャンネルを開設する前に、キャンプ関連の仕事ができないか、テレビ局や雑誌社へ営業したのですが、箸にも棒にもかからない状況でした。だからまったくニーズがないと思っていたのです。その後、YouTubeチャンネルを開設し、キャンプ情報を発信していくと、徐々にキャンプ専門誌などで取材依頼が舞い込み、そのタイミングで「仕事になるかも?」と思い始めました。

テレビにはないリアルさ

──いまでこそ、多くの芸能人がYouTubeに挑戦していますが、当時はどうだったのでしょう?
2014年の時点で、ヒカキンさんなどが人気YouTuberとして存在していましたが、芸人やタレントでYouTubeに動画をアップしている人はほとんどいなかったです。だから、「俺のキャンプ動画なんて誰が見るんだ」と思っていたんですよ。ところが、予想外に再生数が伸びてくる。自分の動画を見てくれている人がいると思うと、励みになりました。

──YouTubeの再生回数が増えはじめたのは、なにが要因だと思いますか? ヒロシさんのよりニッチなキャンプに対する偏愛感が、キャンプ通に刺さったのでしょうか?
テレビで見ることのできない映像をYouTubeだと流すことができます。火起こしの様子だけを、ひたすら映しているテレビ番組なんてないでしょ。

「ヒロシちゃんねる」を見ている人は、うまくいかない様も含めて見たいのだと思います。つまり、テレビであればカットされる映像ですよ。テレビ的には火起こしの手間取る映像なんていらないじゃないですか。もちろん、つくり込んだ映像もYouTubeにはありますが、「ヒロシちゃんねる」は、リアルさを大事にしています

綺麗な景色ではなく、キャンプで試行錯誤する人間臭さが垣間見えるところが魅力的だと自分では分析しています。つるんとした動画よりざらっとした動画と言いますか。
一回、映像を撮るためにキャンプへ行ってみたこともあるんです。けれども、全然、楽しくない。「明るいうちに風景を撮ります。つぎは、空を撮ります」なんてことをやってみたけど、虚しくて。赴くままに、「これいいな、カメラ回そう」でいいんですよ。自分の萌えポイントを撮影しているだけです。これが、自然と僕のキャンプ好きが伝わっている理由だと思います。

──自然体だからこそ、評価もされたし、続けることもできたのですね。
仕事だったら続かなかったと思います。好きだからこそ長続きした。「YouTubeで一山当ててやろう!」なんて気負わなかったのもよかったですね。

ちなみに仕事でキャンプに行くこともありますが苦手です。気がついたら、毎日キャンプ関連の仕事だったときがあったので、いまはあえて完全プライベートのキャンプ日を月に1~2回は設けています。
最近、著名な女優やタレントもYouTubeに参入しています。チームを組んでつくり込んだ動画をアップするケースが増えてくるかもしれません。それも評価されるかもしれませんが、自分の動画の路線を変える気はないです。

そのうち、YouTubeはツイッター化すると予想しています。スマホの機能や通信環境が向上すれば、誰でも動画を簡単に編集し、アップロードできるようになる。だからこそ、リアルさが大事だと思っています。

ひとりか、チームか

──いまお話しにありましたが、チームでつくり込んだ動画をアップしているタレントもいます。一方で、ヒロシさんは自分で撮影・編集することを続けていらっしゃいますよね。それはなぜですか?
確かに、チームを組んで本数を増やしたいと思うこともあります。キャンプの仕事が増え、狙ったタイミングでアップできないことも増えてきましたし、誰かに任せられたら動画の幅ももっと広がる…とは思います。でも、誰かに任せたら自分の思うような構成になっていない、なんてことも。自分と同等の目線や熱量のある人が編集してくれるならいいのですが、そんな人はいません

人間同士って、絶対にどこかでズレが生じるんです。漫才コンビだったときもそうでした。コンビ同士でも熱量はズレる。そして、そのズレをうまく対処する能力が僕にはない。

もちろん、チーム制が合う人もいると思います。チームとして目指すものが言語化できれば、うまくいくのかもしれない。でも、僕のキャンプ動画が目指すことは簡単に言語化できません。「火の粉のぱちっとした余韻を残したいのに、なぜその前でカットするの!?」とか。なかなか言語ができないですよね。

それだったら、自分でやったほうが早いし、ストレスがない。自分の好きなキャンプの動画くらいは、自分の好きなように編集したいというのが本音です。キャンプ動画は、平穏を守るための自分の聖域みたいなものですね。

──聖域のキャンプぐらいは、自分の好き勝手にやりたいのですね。チームだからこそ、パワフルにできる。しかし、ひとりだからこそ、スピーディーに意図のとおりにできる。悩ましい問題ですね。引き続き、advanced by massmedianでは好きを仕事にした方々の、チーム体制についてもインタビューしていきます。
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