二極化する社会

──清水さんはスタイリスト、クリエイティブディレクター、アーティストと、さまざまな角度で社会に切り込む活動をされていますよね。今の社会には、どのような課題があると感じますか?
最近感じているのは、「考える人」と「考えない人」に二極化してきていること。能動的にアクションを起こさなくても、エスカレーターのように自動的に豊かさを享受できる環境が、この二極化を加速させているのではないでしょうか。

特に僕たちの世代では、インターネットが当たり前のように生活に根付いています。気になることがあればすぐにネット検索できるし、SNSで論理的に見える意見に納得してしまう。そのなかで、情報をとことん深堀りする人と、表面的な情報で満足する人。2つに分かれつつあると感じています。

──二極化を感じたきっかけはなんだったのでしょうか?
いま世界的に問題となっている、新型コロナウイルスです。僕も予定していた仕事をいくつも失って、「どうやって生きていこう」と考えさせられました。こうした危機は、先々を見据えて考えて動ける人と、いまにとらわれて無思考で動けない人の2つの人種があぶりだされたなと。

でも、新型コロナウイルスの影響は悪いことばかりではないと思うんですよ。直近の生活に影響が及んだことで、自分たちがこの先どう生きるべきかを必死で考えるようになった。そして、「死」が身近に忍び寄ってきたことで、自分が本当にやりたいことを振り返る機会にもなった。僕たちのようなクリエイターからしたら、「もっと自分のやりたいことをやりきらないと、死ぬかもしれない」という強い危機感につながった。

僕らの世代は、やりたいことがあったとしても「どうせできないし…」と諦めてしまうことも多い。インターネットで調べたら、その行動によって引き起こる結果がなんとなくわかってしまうから二の足を踏んでしまう。新型コロナウイルスでどうなるかわからないからこそ、もっと積極的にやりたいこと、新しいことに挑戦していくべきでしょう。

わかりにくさを残す

──清水さんの場合、舞い込む仕事も多種多様ですよね。これまでの活動のなかで、印象に残っている案件はありますか?
ファッションブランド「ベネトン」の国内サイトで公開した、デジタルスタイルブックでしょうか。スタイリストとしてだけでなく、アートディレクターとして全体を監督しました。

若者をターゲットとし、同世代に人気のアーティストやインフルエンサーをモデルに起用した、「わかりやすい」企画で動いていました。しかし、僕はあえて「わかりにくい」企画にしたかった。著名なモデルを中心に据えた構図ではなく、全員を等間隔でランダムに並べ、Webムービーに映る秒数も統一しました。意図がわかりにくいコンテンツにすることで、見る人の心をざわつかせることを狙いにしました。
ユナイテッド カラーズ オブ ベネトンによる、新しいBENETTONの世界観を表現したデジタルスタイルブック『Benetton Rainbow Machine -Tokyo Edition-』
ユナイテッド カラーズ オブ ベネトンによる、新しいBENETTONの世界観を表現したデジタルスタイルブック『Benetton Rainbow Machine -Tokyo Edition-』
──企業のコミュニケーション施策に、わかりにくさを組み込んだ意図はなんでしょうか?
情報量が多すぎる時代に、メディアは「わかりやすさ」を求められがちです。しかしそれは、人々から意図を考えさせる機会を奪い、思考停止をもたらします。だからこそ、わかりにくいことを伝え、人々が考えるきっかけをつくりたいと思っています。

そもそも、人間ってわかりにくい生き物じゃないですか。学歴も仕事も、性的嗜好だって人によってバラバラです。それなのに、その全員に向けたものをつくる必要はあるのでしょうか。僕は、誰にでも表面的に通じる「わかりやすい」ものではなく、「わかりにくい」からこそ一部の人の心に深く刺さるようなものを生み出していきたいんです。

僕はいろいろな肩書で幅広く活動しているので、よく「お前は何者なんだ?」と尋ねられます。それこそが「わかりにくい表現」がフックとなって、興味を持ってくれた人や企業から新たな仕事をいただくことができています。

表面的な情報で満足しない

──清水さんならではの仕事術ですね。あらゆる職域で結果を残す。決して簡単なことではありませんよね。苦難も多かったと思いますが、どのように乗り越えてきたのでしょうか?
乗り越える方法はとてもシンプルで、「挑戦」と「継続」です。インターネットで気軽に情報が得られたとしても、実際に経験してみないとわからないことはたくさんあります。表面的な情報に触れただけで、経験したつもりになっても意味はない。Googleは情報の断片でしかないから。

僕たちにはまだまだ時間があるし、いま失敗したとしても痛手にはなりません。だからこそ、少しでも興味を持ったことは「やってみよう精神」で飛び込むべき。僕がスタイリストになれたのも、経験もないのに「できます!」って発言して、チャンスを掴んだから。実際にやってみると大変でしたが、挑戦したからこそ経験と実績につながりました。まずは一歩を踏み出してみる、これを積み重ねたことが僕のスタイルにつながっています。

──好奇心を持って飛び込んでみる、ということですね。
チャレンジしたことのなかには、「自分に向いていないのでは?」と感じることもありました。ときには忍耐強く続けてみることも大切です。納得いくまで進んだ上で本当に合わないことならやめていい。

ただし、その道の先に可能性を感じるなら、耐える覚悟も必要ではないでしょうか。僕も、死ぬほど忙しいときや辞めたいと思うタイミングはありました。しかし、いま当時を振り返ると、「この仕事って楽しいな」と思わせてくれる、良い経験になっています。

思考スイッチのオン/オフ

──ひたむきに突き進むことで得られるものがあるのですね。壁を乗り越えてきた清水さんですが、この先に実現したいと考えていることはありますか?
僕はこれまでファッション、音楽、広告など、さまざまな領域で仕事をしてきました。これからもこのスタンスは続けていきたいし、自分の強みだと思っています。しかし、この状態には副作用があって、僕の活動に共感してくれる、支持してくれる人たちも、領域ごとに分散されてしまっている。だからこそ、これまでの活動を集約した展覧会のようなものを開催できたらいいなと考えています。一見わかりづらい僕を一面的に見るのではなく、展覧会に来てもらうことで多面的に理解してもらいたいですね。
──最後に、この春から新社会人となるみなさんへメッセージをお願いします。
「思考スイッチ」をうまく切り替えることが大切です。

まずは、自分のなかに湧いた疑問に「考えすぎかも?」というくらい追求しましょう。もがいていれば、自然とやりたいことが鮮明になってくると思います。それが確信に変わったら、あとはがむしゃらに突き進みましょう。最近は「がむしゃら」をダサいと言う人もいるけれど、その考えが逆にダサい。夢中な人ってほんとうにクールだし、夢中になって歩んできた道のりは、数年後の自分を支えてくれるはずです。

ただし、注意しなくてはならないのが、目標と自分との距離です。がむしゃらに進んでいると、スタートしたときに目指していた目標と、現在地にズレが生じてしまうことがあります。「こんなはずじゃなかった!」と後悔しないためにも、定期的に過去を振り返る時間を持つと良いと思います。

過去の自分を客観視することで、良かったこと、悪かったことを整理できます。すると思考がスッキリして、新たな発想が生まれてくるかもしれません。「これだ!」と思ったら突き進み、時折後ろを振り返る。その繰り返しが仕事なのではないでしょうか。

──自分の心に嘘をつかず、決意を胸にひたすら進む。その足跡が自分を支え、未来を切り開いていくのですね。新社会人へのエールありがとうございました。
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