慣れない空間を成長の機会に

──慶應義塾大学卒業、おめでとうございます! 大学生活はいかがでしたか?
ありがとうございます。私は幼稚舎の頃から慶應義塾で、周りの同級生は恵まれた環境で育ってきた人たちばかりでした。しかし、大学生になって地方から上京してきた友人や海外の方との交流できたことで、自分がどれだけ狭い世界で生きていたかを痛感しました。この4年間で視野が広がり、新たな世界を知ることの大切さを、改めて学ぶことができたと思います。

──文学部に在籍していたとのことですが、この学部を選んだ理由はなんだったのでしょうか?
高校生の頃から数学があまり好きではなかったので、文系の学部に入りたいとは考えていました。途中まではSFC(湘南藤沢キャンパス)の学部に進むつもりだったんですけど、ある日Twitterを見たら、私の進学先について予想大会が行われていたんです。そこで「椎木里佳はSFCに行くだろう」と言われているのを見て、「それを裏切ってやりたい」と思って、文学部に決めたんです。
──反抗心が進路の決め手になったんですね。
半ば強引な決断でしたが、この学部を選んで本当に良かったと思っています。仮に予想されていた通りの道を歩んでいたら、自分のコンフォートゾーン(快適な空間)に留まったまま、成長できていなかったでしょう。文学部を選んだことで、それまでの自分では絶対にアクセスできなかったコミュニティに触れられたので、良い刺激を得ることができました。
 

世界を目の当たりにして

──椎木さんは15歳でAMFを設立し、現在も社長業を続けていますよね。学業との両立は大変でしたか?
学業を疎かにしないことが前提だったので、学業と社長業とのバランスは7:3くらいでした。夕方まで授業を受けて、そのあと仕事という流れでした。大学生のアルバイトと同じ感覚かもしれませんね。ただし、「社長」として責任ある立場ですので、ときには朝まで働くこともありました。

AMFでは10代をターゲットとしたマーケティング活動を行う「JCJK調査隊」を組織していて、中学1年生から高校3年生まで、およそ100人が在籍しています。女子大生マーケティングサークル「PAIGE」のメンバーを合わせると250人ほどに。メンバーのなかには進学などを機に脱退する子もいますが、代わりに既存メンバーの姉妹や後輩が新たに加入してくれることも多いんです。設立から7年という年月で広がった人脈のおかげで、継続的に事業を運営できています。

経営していて大変だったことは、どちらかというと内面的なところにありました。私は「女子高生社長」というイメージが世間的に強かったので、そこからどう脱却していくかが事業継続の一番の課題でした。悩んだこともありましたが、結果的には女子大生マーケティングサークルの立ち上げなど領域を広げて、落ち着くことができました。
──この4年間で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
意識を大きく変えるきっかけになったのは、Forbes ASIAが主催する「30 UNDER 30」です。これは世界各国から「30歳以下の世界が注目すべき30人」を選出するもので、大学1年生だった2016年に受賞させていただきました。そのとき、シンガポールで行われた受賞式に参加したのですが、現地に集まったほかの受賞者たちに衝撃を受けたんです。

彼らは海外への事業展開を当然のように考えていて、英語を話せることは当たり前。外の世界に向けて積極的に売り込む同世代たちを見て、ドメスティックに仕事を続けてきた自分との間に、大きなギャップを感じました。それと同時に、このままでは日本だけが、アジアのなかでビジネスチャンスを逃してしまうのではないかという危機感も抱くようになったんです。

そこで私は、韓国の企業と業務提携することを決め、アジアの10代・20代女性向けファッションECサイト「kloset」を2018年にオープンさせました。危機感をただ伝えるだけでは、なにも変えられない。まずは自ら実践すべきだと思ったんです。

──すぐに行動を起こしたのですね。海外進出の手応えはありましたか?
実際には、オープンから半年ほどで事業はクローズしてしまいました。klosetでは自分たちで商品の在庫を持たずに、韓国の倉庫から直接商品を発送する「ドロップシッピング」の仕組みを利用したECサイトでした。しかし、当時は日韓関係が悪化していて、あるとき韓国側から一方的に取り引きを断られ、ビジネスを継続できなくなってしまったんです。

でも振り返ってみれば、私自身も学業やAMFでの仕事に時間を取られ、klosetの運営に手が回っていなかった部分があります。そしてなにより、韓国企業とのコミュニケーションが不十分でした。日韓関係の影響だけではなく、国境を超えてビジネスを展開するうえでの反省が多くあったように思います。

海外へ再チャレンジ

──海外進出は簡単ではなかったのですね。
実は今年の5月に、台湾企業と共同出資した新会社を立ち上げる予定なんです。klosetでの反省を糧に、2年間かけて準備を進めてきました。これが私にとって、新社会人としての第一歩になります。

新会社では、AIとインフルエンサーマーケティングを連携させたSaaS(Software as a Service)を開発・提供します。AIを活用し、クライアントに最適なインフルエンサーを提案し、ときにはタレントエージェントとしての役割も担います。また、日本と台湾は友好関係も築けているので、長期的な事業展開が望めると考えています。

──klosetの反省を活かして、大学を卒業してすぐに新会社を設立したのですね。今後の展望を教えてください。
私はいままで、周囲から「女子高生社長」「女子大生社長」と言われ、その肩書に助けられた部分もありました。でも、これからはただの「社長」になります。だからこそ、今後はより一層仕事で勝負していかなければなりませんん。新会社設立もそうですが、学業としての時間の制約がなくなるからこそ、新たな挑戦を続けていきたいですね。

──過去のインタビューでは「2020年までに結婚・出産・上場したい」と仰っていましたが、それも実現させたいと考えているのでしょうか?
正直にいうと、いまはどれも実現させたいとは思っていません。過去に掲げた夢を追い続けることも大切なのかもしれませんが、この4年間いろんな経験を積んだことで、もっと面白い生き方があるのではないかと考えるようになりました。

昔の自分は未熟で、気付いていないことも多く、選択肢が限られていたと思います。いまは視野も広がり、違った道が見えはじめています。これからも成長し続けていくことで、新たな道を切り開きながら、自分なりのベストエフォートを見つけていきたいです。

批判を恐れないで

──最後に、この春から椎木さんと同じく、新社会人となる同世代に向けてメッセージをお願いします。
私たちは、多感な時期に東日本大震災を目の当たりにしたことで、人に尽くすことを使命と考える「つくし世代」だと言われています。

実際に人の気持ちを尊重し、家族や友人など、周囲と良好な人間関係を築いている人が多い。でも裏を返せば、人の気持ちに干渉することに臆病な世代でもあると言えます。人を敬うことは、もちろん大切です。でも、同調的で全体主義や社会のなかでも、自分の意思で突き進む強さも持つべきではないでしょうか。

なかには、批判を恐れて進むことを躊躇している人もいると思います。確かに、世の中には「出る杭は叩く」みたいな風潮があることも事実です。しかし、恐れる必要はないんですよ。「出る杭」には私がなりますから。飛んでくる批判の声は、全部私が受け止めるので、皆さんには周りの目なんて気にせず、望むままに自己発信してほしいと思っています。

──心強い味方ですね。
また、友人やフォロワーのなかには私に悩み相談をしてくれる人もいます。相談事にはどれも共通点があり、それは「見えないことを恐れている」ということです。

世の中には、まだ起こってもいないネガティブな情報が溢れていて、それを真に受けている人が多いと思います。でも、それで考え込んで歩みを止めてしまうくらいなら、自分からポジティブな情報を取りに行くよう、能動的に働きかけるべきです。

それでも辛い思いをしてしまうようなら、別の道に移ってもいいと思います。夢だって、自分が進みたいと思った道に合わせて、いくらでも変えていいし、増やしたっていい。自分だけの人生、世間体にとらわれず、フレキシブルにいろんな選択肢を持って歩み続けていきましょう
──誰よりも人の気持を考えることができる、心優しい世代。だからこそ自分の意思も大切にしながら、人生を切り開いていくべきなのですね。新社会人へのエールありがとうございました!

※4月初旬に、「密閉」「密集」「密接」を避けて取材・撮影しております
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