──はじめに小俣さんが所属する、マーケティング本部プロモーション部のZOZOでの役割について教えていただけますか?
プロモーション部に与えられている役割は大きく2つあり、それに応じた2つのセクションを設けています。1つ目は、「どのようにZOZOTOWNを知ってもらうか」を提案する、外部集客のセクション。2つ目は、「ZOZOTOWNへの満足度をあげて、いかに収益化に結びつけていくか」を提案する、販売促進のセクションです。私自身はこの2つの部署の統括をしています。

具体的に手がけてきた施策としては、ダイレクトメールからLINEへのシフト。あとは、「何度も商品ページを開くけどカートには入れない商品」や、逆に「カートには入れるけど結局購入されない商品」などの分析ですね。「なぜ購入まで至らなかったのか?」の理由を探って、それを改善するための施策を検討し、実施していきました。いわゆる「パーソナライズ」と呼ばれる施策ですね。

──以前、ZOZO分析本部 本部長である、牧野洋平さんにも取材をさせていただきました。「分析」と「マーケティング」の2つはとても近い領域にあると思うのですが、ZOZOではどのように棲み分けをしているのでしょうか?
そもそもですが、「マーケティング」という業務自体が昔に比べて陳腐化していると私は考えています。なぜなら、数字の扱いや分析をして、「数字の妥当性を確かめる」という業務では、データサイエンティストやアナリストのほうが我々マーケター以上の成果を出すことができるかもしれない。また、Web広告の出稿をする場合でも、マーケターが考える以上にGoogleなどが運営するプラットフォームにすべて任せてしまったほうが一番適切に運用できるケースも増えてきました。つまり、「マーケティング」という仕事が誰にでもできる仕事になりつつある。だから私たちマーケターは新たなる職能を持つべきだと考えています。

ZOZOのマーケティング部のマーケターが重要視しているのは、マーケター自らがビジネスをつくっていく、「ビジネス化」という視点です。データサイエンティストが分析した数字、またエンジニアやクリエイターが新たに開発した技術やサービスなど、周りに散らばるあらゆる要素を用いて、どうやってビジネスを生み出していくか。この能力がこれからマーケターには、とても重要になっていくと考えています。
──「マーケティング」が陳腐化しているからには、マーケターは職域を移していかなければならないと。なぜその先が「ビジネス化」になるのでしょうか?
マーケターって、会社の中にある経営課題を解決するために、社内の川上から会社のあらゆる部分を観察しています。川上に位置し、さまざまなところに散りばめられている答えを見つけるチャンスをマーケターは持っているんです。だからこそ、マーケターは新しいビジネスをつくるチャンスに恵まれていると思っています。

以前、ZOZOグループの研究開発機関である「ZOZO研究所」に出張したのですが、そこで、「ある技術をビジネス化できないか」と相談されたのです。その技術とは、「関係性を数値化する技術」で、「AさんとBさんの2人がどのくらい親交があるのかを分析して、数値化する」というものでした。

とてもすごい技術を生み出した彼らですが、その技術とビジネスを結びつけることは研究員だけでは難しい。だから相談されたんです。難しいのにはわけがあって、「研究員と経営層の距離」が理由でした。マーケターに比べると、研究員は経営課題に遠いところで、テクノロジーと向き合って仕事をしている。一方で、マーケターは会社の川上に位置して、経営課題に向き合い仕事をしている。

ZOZO研究所の研究員とディスカッションをして以来、このことに気づき、会社のなかでの職種の位置関係を意識するようになったんです。そこから見出したのが、ビジネスを生み出すチャンスがあるマーケターの可能性でした。

当たり前ですけど、各職種にはそれぞれの役割があります。そして、会社という大きな箱のなかで、それぞれの職種ごとに国をつくっている。つまり、職種ごとに国境が存在している。その国境を挟んだ先にある仕事は簡単に真似できないし、理解できないこともあると思います。そこに、橋を架けていくのがマーケターの役割です。

職種ごとにある国をつなぎ、さらにそれをビジネスへとつなげていく。会社の中と外、両方を観察しているマーケターならば、それができるチャンスは大いにあります。少なくともZOZOの場合、新しいサービスをつくっていくことにおいて私たちの部署が担っている役割は大きいと自負していますし、そういう仕事をこれからも続けていかなければならないと考えています。
──川上にいるマーケターだからこそ、つながりをつくれる。そしてそこから新しいビジネスも生み出せるというわけですね。
「未来を想像しなさい」と、よく上司に言われました。「未来を想像したとき、起きうることこそがマーケターの解決すべき課題になる。それを受動的に受け取るか、能動的に取りにいくのか。それがリーディングカンパニーになれるかどうかの一つの線引になる」。この言葉が私の胸に焼き付いているんです。

現状の環境を隅々まで把握して、そこから将来的に現れるであろう潜在的ニーズを予測し、経営課題として提案していく。現在と未来を結びつけていくことこそがマーケターの重要な仕事ではないでしょうか

そして、現状を把握する上では、月並みですが、さまざまな人たちと会話をすることが一番有効ですね。いろいろなコミュニケーションツールが生まれて、効率よく、必要最低限のやり取りで人とコミュニケーションを取ることが可能になっていますが、それでは「雑談」が生まれない。雑談って、一見必要のない、無駄なものだと思う人がいるかもしれませんが、思いもよらぬ一言が重要なヒントになることもざらにあるんですよ。このヒントはツールを介した、必要最低限なコミュニケーションでは決して得られないものです。

コミュニケーションに限らず、効率化とイノベーションは共存させることが難しいものです。その理由の一つには、「無駄の有無」が挙げられる。無駄を省いて、想定の範囲内の領域を行き来するだけでは、新しいものはなかなか見えにくい。だから、マーケターとして情報を積極的に得たいのなら、無駄だと思うものこそ、捨ててはいけないと思います。無駄から生まれる思いもよらぬ情報には、未来の財産になる可能性が眠っているんです。
──ここまで「現状を観察して、未来へ投資していく」ことについて、お話していただきましたが、実際に小俣さん自身はZOZOの現状をどのように捉えているのでしょうか
前代表の前澤がいる時代は「ZOZOTOWNはプラットフォームである」という考え方をしていました。UI/UXを向上させて、ユーザーが選択をしやすいサイトにする。そこに、画期的なサービスやイノベーションを起こしたプロダクトを乗せていけば、オンリーワンのサイトになっていく。このような考えで運営していました。

でも私は、プラットフォーマーの状態では、この先の大きな発展は難しいのではないかと考えています。Zホールディングスの傘下の企業になり、新しい選択とより深い集中力が必要になっているなか、ZOZOTOWNはもう一度原点にある、かっこよさに立ち返らなければいけない。まだWebで服を買うのが当たり前ではなかった時代に、ZOZOTOWNというかっこいいサイトで欲しい服を買うことができた、あのころのスタイルを取り戻す必要があると思っています。そうではないと、埋もれていってしまう。

──立ち返って、イノベーティブなプロダクトになる必要があるのですね。
いつかくるであろうECサイト飽和時代のためにも、便利以外のまったくの別軸でユーザーに必要だと思ってもらえるサイトを目指していかなければいけません。そのために必要なのが「かっこよさ」なのです。「どういう服を着たらかっこよくなれるのか?」というインサイトに対して、ZOZOTOWNから個々のユーザーへ提案するような役割を担っていきたい。

やはり、ファッションECサイトというものは「かっこよさ」など、エモーショナルなものを持ち続けたほうがいいと思うんです。そうでなければ、買う動機をユーザーに喚起できない。利便性では、総合モールのECサイトにはどうしても敵わない部分がありますから。エモーショナルなサイトをつくり、ファッションが好きな人たちを集めることで、総合モールにはない特化した部分が生まれていくし、それをこれから先の武器として磨いていくべきだと思っています。

いま、新型コロナウイルスの影響によって、社会全体が大変な状況にあると感じています。自宅にいてもファッションを楽しみたい人に洋服を届け、こんな時だからこそ楽しむことを忘れずに笑顔になってもらえるように、ZOZOだからサポートできることに取り組んでいきたいと思っています。

ZOZOの企業理念でもある「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」は、いまの私自身がかなえたい夢でもある。マーケティングやプロモーションなど、私が携わる業務で、いかにこの夢をかなえるために貢献できるのか、自分たちにできることを一生懸命取り組み、みなさんと共に、さまざまな課題を乗り越えていきたいと思っています。
──ZOZOで取り組んでいる小俣さん自身のマーケティング業務を通して、マーケターとECサイトの未来についてお話いただきました。新しい職種が次々と台頭していますが、いま一度自分の職種が会社のどのような場所に位置しているのかを考えるのは、新たな気づきが得られる視点になるかもしれませんね。お話いただき、ありがとうございました!

※2020年2月以前に取材・撮影したものです
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