──田部さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
大学卒業後、新卒で入社したのは丸井グループです。宣伝部への配属を前提に入社しました。同社を選んだ理由には、学生時代の経験が影響しています。アルバイトで飲食店のオーナーをしていて、マーケティングの重要性を痛感したからです。

店を任された当初は、自分でポスティングするなど集客プロモーションを仕掛けました。しかし、その施策では利益の拡大につながりませんでした。プロモーション施策の投資効率を考えれば、経費削減や値引きをしてしまった方が、利益率が高まることもある…、そんな経験をしたのです。ブランド好意度や購入意向を高めるまでが仕事であれば、各種プロモーション施策で成果を出したといえるかもしれません。しかし、その先にある利益も考慮に入れるのであれば、より複合的な視座でマーケティングの施策を考えなければならない。そんな総合的なマーケティング手法を学びたいと思いました。

同社へ入社後、最初の2年間は店舗販促を担当しました。その後、広告宣伝、販促キャンペーン、広報など会社全体のマーケティングを任されました。常に自分に言い聞かせていたのは「面白いプロモーションを仕掛けても実際に商品が売れなければ意味がない」ということです。「話題性よりも売上拡大」。そう強く意識し、販促施策に取り組みました。

その後、ウエディング事業を行うテイクアンドギヴ・ニーズに転職。理由は、4Pすべてを統括する責任者を経験したかったからです。今でこそ、業界最大手となった同社ですが、私が入社した当時は組織も細分化されていないベンチャー企業。そんな段階だったからこそ、より広範囲の業務に携われると思ったのです。

同社では、広告宣伝部のマネージャーとして入社。しかし1年半後、リーマンショックで業績が悪化。抜本的な業務改善の必要性から、事業戦略室長に抜擢されました。業務内容は、会社の業績改善を考えて、PL・業績回復を目標に据えた経営戦略の練り直し。数百億円という会社全体の売上責任を負っての一大任務です。「投下した投資コストは本当に利益を生んでいるのか」「企業価値を高めるために必要な手段は広告ではなく商品開発や事業開発かもしれない」など…。この時、初めて会社経営というものの責任の重さや、難しさを知りました。
ラクスル 取締役CMO ノバセル事業本部長 田部正樹さん<br />
丸井グループにて主に広報・宣伝活動などに従事。2007年ハウスウエディングのパイオニアであるテイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長等を歴任。2014年5月、ラクスル入社。マーケティング部長を経て、取締役CMOとして4P戦略全般を管掌しながら事業の非連続な成長を売り上げと組織、両面で支えている。
ラクスル 取締役CMO ノバセル事業本部長 田部正樹さん
丸井グループにて主に広報・宣伝活動などに従事。2007年ハウスウエディングのパイオニアであるテイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長等を歴任。2014年5月、ラクスル入社。マーケティング部長を経て、取締役CMOとして4P戦略全般を管掌しながら事業の非連続な成長を売り上げと組織、両面で支えている。
──ラクスルに入社した経緯を教えてください。
私の周りには、ご自身で商売をしている知人が東京だけでなく地方にも多くいます。飲食店、医療、小売などです。そして、商売について個人的にアドバイスをすることがあります。彼らは、体系的にマーケティングを学ぶ機会もなく、まさに直感で日々の収益を上げています。学生時代の私と同じです。知識も潤沢な資金もなく、商売に悩む個人事業主を支援するなかで、「マーケティングを”民主化”したい」と強く考えるようになり、退職を決意。ラクスルに入社しました。

同社を選んだ理由は、印刷機のシェアリングを通じ、誰でも安く簡単に印刷ができるプラットフォームを開発した、いわば印刷を”民主化”した会社だったから。同社であれば、今後、顧客に向けて印刷以外のプラスαの価値提案ができるのではないか、ひいては、“マーケティングの民主化”が実現するのではないか、と考えたのです。

同社では、マーケティング部長を経て、取締役CMOに就任。まずは、サービスの認知拡大のため、テレビCMを活用。結果、4年間で売り上げを約20倍まで伸ばしました。さらに、そのノウハウを活かし、顧客に向けたテレビCM支援事業を設立。広告枠の空き状況の確認から、CMの効果測定まで可能にするプラットフォームを開発しました。

──マーケターに必要な資質とはなんだと思いますか。
私の考えるマーケターの仕事とは、新しい価値を創造し、ビジネスモデルとして確立させた上で、さらには継続的なマネタイズまで導くこと。マーケティングを通じ、売り上げを伸ばし、さらには経営をも改善する。換言すると、マーケターの最終地点は「経営者」だということです。その最終地点にたどり着くためには、マーケティングの仕事の範囲にあっても、常に会社の損益に対し、責任を持って業務にあたることです。仮にそれが小さなプロジェクトでも、会社のお金ではなく、自分のお金だと思うくらいの責任感を持って、仕事に向き合ってください。それがマーケターとしての成長につながります。
──若手マーケターへのアドバイスをお願いします。
例えば、5年後どんな人物になっていたいか、その理想に近づくために「これを学びたい」という明確な目的があるなら転職するのも良いでしょう。ただ現職でも、まだやりきったと言える状況でないのに、「会社の業績が低迷しているから」などといって転職するのはお勧めしません。そんな時だからこそV字回復を狙うチャンスがある、そう考えてみてください。
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【聞き手】
荒川直哉
株式会社マスメディアン
取締役
国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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キャリアアップナビ
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