学び×ボードゲームから生まれた「Marketing Town」。逆境で見えた進化の道とは? NEXERA 代表取締役 飛田恭兵さん
経営視点を体感で学ぶマーケティングの基礎を体験できるビジネスボードゲーム「Marketing Town」。NEXERAが開発したこのゲームは一般に流通しておらず、「企業研修」という場でのみ体験できるボードゲームになっています。
「研修でボードゲームなんて、本当に学べるの?」そんな疑問に対し、「ボードゲームと学びには、すごく親和性がある」NEXERA代表取締役の飛田恭兵(とびたきょうへい)さんは、そう答えます。今回は、飛田さんにビジネスボードゲーム「Marketing Town」誕生の経緯と、「学び」と「ボードゲーム」の相互作用についてお話いただきました。
「研修でボードゲームなんて、本当に学べるの?」そんな疑問に対し、「ボードゲームと学びには、すごく親和性がある」NEXERA代表取締役の飛田恭兵(とびたきょうへい)さんは、そう答えます。今回は、飛田さんにビジネスボードゲーム「Marketing Town」誕生の経緯と、「学び」と「ボードゲーム」の相互作用についてお話いただきました。
ボードゲーム事業を起こすために必要だったもの
──NEXERAが開発したビジネスボードゲーム「Marketing Town」とは、どのようなものでしょうか?経営者として会社経営を疑似体験できるビジネスボードゲームです。プレイヤーは仮想の街で小売店を経営し、ターン毎に市場調査・出店・広告・仕入・販売・資金調達といったアクションを行いながら、より高い営業利益を目指していきます。実践に近い疑似経営をゲーム形式で経験できるので、普段の業務では経験しにくい経営視点を身に付けることが可能になっています。
Marketing Townの魅力は、ボードゲームを通じてマーケティングや財務を「体験」できることです。一般的にマーケティングや財務は、書籍や座学で知識を学ぶことができるものですが、体験するには実際に仕事で運用していくしかありません。
アメリカの調査機関であるロミンガー社の調査結果から生まれた法則に「70:20:10の法則」というものがあります。これは「人が成長するために必要な要素は、70%が経験、20%がアドバイス、10%が学習・研修」であるというもの。つまり、実際に経験ができないと、最大でも3割程度の成長の要素しか得られないのです。そのため、私たちがMarketing Townで提供するのは、「学習するための機会」ではなく「経験するための環境」であることを心掛けています。
大学時代のある講義が原体験になっています。『マネジメントゲーム MG』という、マネジメントや経営を疑似体験できるボードゲームをご存じでしょうか? 40年以上前に生まれた、経営を学ぶことができるビジネスゲームなのですが、このゲームを扱う講義を大学生時代に履修していました。初めは、ゲームという響きに釣られて選択しただけでしたが、いざプレイしてみると、かなり本格的に経営を学べる内容で驚きました。
そしてこのゲームにすごくハマってしまったのです。ハマってからというもの、講義の15分前には席に座って一人で作戦会議をしたり、次の日の講義の予習をしたりする毎日。ついには、講義のアシスタントを任されるレベルまでに至りました(笑)。この経験から、ボードゲームによる学習にとても可能性を感じるようになったのです。
また、私の祖父は八百屋、実家もカフェ&バーを経営していて、事業を経営していた人たちが周りに多くいる環境で育ってきました。その影響で、学生のときに聞かれる「将来の夢はなに?」という質問は、「将来なにを売りたいのか?」を聞いているものだと思っていました。そんなふうに勘違いするくらい、昔から起業は私にとって身近なものでした。そのため、大学卒業後に新卒で入社した会社を辞め、起業をしたのですが、実はそこで一度事業に失敗しているのです。
──NEXERAの前に、ほかの事業で起業していたということですか…。それはどのような事業だったのでしょう?
クラウドファンディングのプラットフォームの運営をしていました。まだまだクラウドファンディングという言葉も浸透していない時期に立ち上げたのですが、うまく成長させることができませんでした。まだまだ私自身の経験も知識も足りず、あらゆる面で力不足で事業をクローズすることになりました。
そんなときに出会ったのが、現在NEXERAでCBO(Chief Boardgame Officer:最高ボードゲーム責任者)を務め、ボードゲーム開発の中心を担っている山本でした。彼は出会った当時から「奨学金の返済のためにボードゲームを5000個売ろうと思っている」「ボードゲームで食べていけるようになりたい」と話していました。その際に彼が個人でつくっていたボードゲームをプレイしたのですが、かなり完成度が高く、一緒にボードゲームの事業に取り組みたいと思うようになったのです。
ただ、実際にボードゲームで事業を起こそうとしたとき、そのビジネスモデルの設計は簡単ではありませんでした。ボードゲーム業界では、商品が1000個売れればヒットと言われています。ただ、多くの商品の単価は2000~3000円程度です。そうなると売り上げも200万~300万円程度にしかなりません。そこから原価や作業のための諸々の手数料を差し引くと、得られる利益はとても多いとは言えない。しかもこれはヒットと言える商品を生み出せた場合です。毎回ヒットを出し続けていくことは、あまり現実味のあるビジネスモデルとは言えませんよね。
そこでたどり着いたのがボードゲームに「学び」を掛け合わせたビジネスモデルでした。ボードゲームを市販で流通させるのではなく、法人向けに「ゲーム」と「学び」をセットにした研修という形で提供する。それならばボードゲームを事業にすることは可能であると考えたのです。
──ボードゲームだけで事業をつくっていこうとしたからこそ、BtoCではなくBtoBという形になったわけですね。やはり、飛田さんが大学生時代に熱中したマネジメントゲームは参考にされているのでしょうか?
そうですね。学習との結びつけの面など、少し参考にしている部分はあります。しかし、このマネジメントゲームは世に出てからすでに40年以上の時間が経っている。まだインターネットもなかった時代に生まれたため、現代のビジネスっぽくない部分もあります。それは私が大学時代にプレイしているときにも感じていました。ほかにも、よりゲームが面白くなりそうな要素など、私がマネジメントゲームをプレイした経験から生まれたアイデアも織り交ぜ、Marketing Townの設計に反映させていきました。
とりわけ一番の課題となったのが、「ゲーム」と「学び」を同時に成立させるためのバランスでした。Marketing Townは、「ゲーム」として楽しみながらインプットした「学び」を、現実でアウトプットにつなげることに価値があります。しかし、ゲーム要素が強すぎれば「楽しい」だけで終わってしまうし、逆に学習要素が強すぎると、ゲームなのにつまらなくなってしまう。この2つの要素がベストマッチで両立することを目指して、各要素の細かなバランスの調整をするために、テストプレイは300人以上の人たちにご協力していただきました。一般の方や経営者の方など、多くの人に実際にプレイしてもらいながら試行錯誤を重ね、1カ月間でゲームとしてのMarketing Townを完成させました。
──わずか1カ月でMarketing Townを完成させたとは…!
その1カ月の間は、とにかくボードゲームのことだけを考え続けていましたね。ほかのことは一切考えず、まずはMarketing Townのゲームをつくることにすべてを注ぎ込みました。その後、研修としての全体設計などは時間をかけて調整していきました。
「ボードゲーム」×「学び」で構成したMarketing Townは結果として、私たちの予想を越える反響がありました。「ボードゲームで学べるわけがない」という反発の声も予想していましたが、ボードゲームでの学びはそれを越えて、多くの方に浸透していったと感じています。
私たちがMarketing Townを広めるなかで、気にかけていたのは研修の感想をオープンに広めていくことでした。「研修」というと一般的には事前に得られる情報が少ないです。それは公に感想を言う場がないことや、言うこと自体を許していないことが要因にあると思います。しかし、良い研修ならばそれをもっと世の中に声に出し、発信していくべきだと私は思っています。そのためMarketing Townは、「画が映える」ように心掛けていますし、写真の撮影や掲載も許可しています。誰もがSNSで情報を収集する時代ですから、それを見越した研修コンテンツとして広がる仕組みを私たちは意識して設計しています。
逆境から進化したMarketing Town
──Marketing Townしかり、多くのボードゲームはオフラインで行われる以上、新型コロナウイルスによる影響を大きく受けたかと思います。そんななかで、NEXERAでは、オンラインでプレイが可能な『Marketing Town the Team』を新たに開発したとお聞きしました。こちらを開発した経緯を教えてください。おっしゃるとおり、ボードゲームは「三密」な状況をつくります。そのため、コロナの感染拡大が続くなかで会社としてなにをすべきか非常に悩ましい部分でした。出した答えは、この状況が長期化することも視野に入れた、オンラインでも学べるボードゲームをつくることでした。
初めは、従来のMarketing Townをそのままオンライン化することを試みたんですけど、これがびっくりするほど面白くなかったんです。Zoomを介して、3時間4人でテストプレイをしたのですが、あまりのつまらなさに1時間で中止してしまうほどでした。そこで痛感したのが、オフラインでのコミュニケーションの重要性です。ボードゲームには、その場の空気感を感じ取ったり、相手の表情や動きを読んだりと、直接対面をしなければ味わえない楽しさが本当にたくさんある。そこから生まれるコミュニケーションがゲームの楽しさにつながっていることがよくわかったんです。
その楽しさは、ゲームをそのままオンライン化してしまうだけでは抜け落ちてしまう部分です。そのため、Marketing Townのオンライン化には、ボードゲーム特有のコミュニケーションを損なわないことが最も重要な課題でした。
そこで行き着いた答えが、チーム戦形式のボードゲームでした。オフライン版のMarketing Townは個人戦で、それぞれのプレイヤーが会社経営をしていくのに対し、オンライン版では、プレイヤー全員が同じ会社に所属し、それぞれ違う部署から会社の経営に取り組む。これが私たちの開発した『Marketing Town the Team』です。
──チーム戦にすることで、ボードゲームの持つ「楽しさ」が損なわれないは、なぜなのでしょうか?
前述のとおり、ボードゲームの楽しさを担保するために欠かせないものはコミュニケーションです。また、時間や場所に融通が利くというのがオンラインのメリットですが、得られる情報が減るためコミュニケーション不足に陥ってしまうのがオンラインのデメリットです。だから、オフラインのとき以上に、オンラインでのボードゲームはコミュニケーションを多く取ることができる設計にする必要がありました。それを解決するのがチーム戦の形式です。チーム戦でお互いが味方になることによって、目標を共有することになります。そして、その目標を達成するために、より多くの情報を共有しなければいけない状況をつくることで、コミュニケーション不足を解消できると考えたのです。
また、オフラインでコミュニケーションを取ることが難しい環境になったことで、会社という組織のなかでも、「社員同士のつながりを感じにくくなっているのではないか」とも考えました。緊急事態宣言が発令された時期は、ちょうど新年度が始まったばかりの時期です。つまり、入社したばかりの新入社員たちの多くは、誰かと一緒に仕事をすることがイメージしにくいのではないかと考えたのです。それを解消するためにも、誰かと一緒にプロジェクトに取り組む経験を提供したいと思ったことも、チーム戦方式を採用した要因の一つです。
──確かに、新年度は新たな出会い、新たなコミュニケーションが生まれる時期ですよね。
本来経験するの機会を失ってしまったことに対して、それを補填したいという思いは強くありました。そこに対して私たちが提供できる価値として体現したものが、このMarketing Town the Teamでした。
今回、Marketing Town the Teamをつくったことは私たちNEXERAにとっても大きな成長機会になりました。人と接することが難しくなる状況はいままでまったく想像もしていませんでしたし、自分たちが持つ弱点とも向き合う機会となりました。そのような状況になったからこそ、オンラインの領域に足を踏み出し、事業としても一段階進化することができました。ここで得た経験は、今後も事業を続けていくなかで糧となると思います。
この先、NEXERAで目指していきたいことは大きく2つあります。1つはMarketing Townのさらなるアップデートです。より現実に近いマーケティングを体験できる仕様はもちろんのこと、ゲーム内の環境も変化する仕組みを取り入れたいです。例えば、オリンピックなどの大きなイベントによって、景気が大きく変化するとか。現状ではそのような環境を変化させるギミックは搭載していないので、その辺りは今後も改良余地があると考えています。
もう1つは完全新作ゲームの制作です。Marketing Townはその名のとおり、マーケティングを学ぶことができますが、それ以外にもマネジメントやチームビルディングなど、ほかのビジネススキルを体験できるゲームをつくってほしいという要望も多くいただいています。それらのニーズに基づいた新しいビジネスゲームはもちろん、ビジネス以外の領域でも学びを得られるボードゲームをつくっていきたいです。例えば、子ども向けの国語や算数、道徳観を考えるゲームとかですね。それ以外にももっと広い領域で、ボードゲームを通して、学びを体験に置き換えていくことをこの先も目指していきたいです。
──「ボードゲーム」×「学び」で新しい体験をつくっていく、NEXERAがこれからどのように社会を驚かせていくのか、今後も注目していきたいと思います。本日はありがとうございました!