湘南ベルマーレからアクセンチュアへ転職。その理由とは?

──まず初めに、TOKYO CITY F.C.について教えてください。なぜ渋谷からJリーグを目指しているのでしょうか?
僕たちは「Football for good ワクワクしつづける渋谷をフットボールで」というビジョンを掲げ、渋谷を世界最高のエンターテイメントシティにしたいと考えています。渋谷は、ファッションや音楽などのカルチャーや、IT、ビジネスなど、分野を問わず次々に新しいものが生まれる街です。それらを若者はもちろんのこと、老若男女いろいろな人が受け入れてくれる土壌が渋谷にはある。グローバル都市と呼ばれる、ニューヨークやロンドン、パリなどの街に肩を並べるポテンシャルがあると、僕たちは考えています。

ただ、それらの都市に比べて、スポーツ領域にはまだ開拓余地があり、大きな可能性を秘めていると考えています。僕たちは、いまある素晴らしい渋谷のカルチャーとスポーツが掛け合わさることで、街の魅力はさらに高まると信じています。だからこそ、「スポーツ」という側面から、渋谷が世界に誇れるエンターテインメントシティになるための一助を担いたいと、僕たちは考えています
2019年3月、渋谷からJリーグ参入を目指すことを宣言
2019年3月、渋谷からJリーグ参入を目指すことを宣言
──具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか?
クラブの中核コンテンツとなるトップチームは、渋谷からJリーグを目指しています。現在はJ1リーグから数えて、8部に相当する東京都社会人サッカーリーグ2部にTOKYO CITY F.C.は所属しています。ここから、毎年の昇格を重ねて、2025年にJリーグへ参入することを目標としています。

また、僕たちはJリーグを目指すこと以外でも、サッカーを通じて、渋谷のスポーツカルチャーを盛り上げていきたいと思っています。その例として、2019年7月にナイキとコラボレーションをして、渋谷のクラブで「LIGHT PALETTE FUTSAL」というイベントを開催しました。これは、DJミュージックをガンガン流した暗闇のクラブで行ったフットボールアクティビティで、光るボールを蹴るとボールの軌跡が光で描かれるという、プロジェクションマッピングの技術を応用した新感覚のイベントです。
LIGHT PALETTE FUTSALの様子
LIGHT PALETTE FUTSALの様子
このイベントには、普段サッカーと遠い距離にいる人たちにも気軽にサッカーを楽しんでもらいたいという狙いがありました。なぜなら、スポーツを盛り上げるためには、にわかの人たちがどれだけ気軽に楽しめるのかがとても重要であるからです。スポーツチームとそのチームを応援してくれるファンの間がどれだけ盛り上がっても、その盛り上がりはそれ以外の人たちへは広がっていきません。渋谷には多くのカルチャーを受け入れてくれる土壌があるのにそれでは非常にもったいない。渋谷でカルチャーを築いていくためにも、サッカーへの入り口を多く設けるべきだと考えました。そのために、サッカーの試合だけではなく、サッカーの要素を取り入れたコンテンツの開発とその発信をしていく活動もTOKYO CITY F.C.では行っています。

──TOKYO CITY F.C.では、深澤さんはどのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか?
僕の役割はチームの監督兼ゼネラルマネージャー(GM)です。監督としてチームを指揮することと、GMとしてチームの強化とビジネス推進のバランスをとり、総合的にクラブを発展させていくこと。それが僕の役目です。

僕はTOKYO CITY F.C.に加入する以前からサッカーを仕事にしていました。大学卒業後には、湘南ベルマーレで強化担当としてスカウトやマネジメント業務を担当していました。湘南ベルマーレの選手たちはもちろん、コーチやスタッフなどさまざまなプロフェッショナルが集まる環境で、すごく多くのことを学ばせていただきました。湘南ベルマーレには計5年間所属し、僕はそこから、総合コンサルティング会社のアクセンチュアに転職しました

──なぜ、湘南ベルマーレからアクセンチュアへと進んだのでしょうか?
好きなものだからこそ、このままではサッカー界で戦っていけないと感じたからです。当然、僕も子どものころからサッカーは大好きだったのですが、僕以上にサッカーを大好きな人が湘南ベルマーレにはいました。しかし、特に当時の監督と接するなかで、圧倒的なサッカーへの熱量、追求心、探究心を間近で感じ、このままでは戦えないと思うようになったのです。そのような、ものごとに対する熱量などの思いは、自分の意志で持つというよりも、内から湧き出てくるもの。

さらに、指導スキルや経験値も鑑みると、このままチームにいるだけでは彼らに決して追いつけないと感じるようになったんです。彼らに追いつくためには、彼らが持たない経験やスキルを身に着ける必要がある。そう思い、湘南ベルマーレを離れアクセンチュアへと転職しました。

アクセンチュアでは、主に製造流通業界のマネジメント・コンサルタントをしていました。スポーツメーカーの経営計画の作成や戦略策定のコンサルティングワーク、市場調査など。それまではピッチのなかで仕事をしていたので、どの仕事もすごくギャップがありましたね。飛び交う専門用語もわかりませんでしたし、そもそもデスクに座って仕事をするスタイルにも慣れていませんでしたから(笑)。だからたくさん勉強して、なんとか必死に食らいついていきました。

そうして2年間アクセンチュアで勤めたあとは、スポーツマーケティングを手がける会社である、スポーツマーケティングラボラトリーへ転職しました。そこでは2019年に開催したラグビーワールドカップに関する案件を担当し、その組織委員会へ出向しました。チケッティングやマーケティング、最終的には広報をメインに担当していました。

そして、スポーツマーケティングラボラトリーで仕事をしているなかで、TOKYO CITY F.C.の代表である山内と知り合いました。彼が掲げていた、試合以外からのアプローチによるサッカーの新しいエンターテインメントとしての可能性や渋谷の未来など、彼が持つ思いに僕も共感して、TOKYO CITY F.C.でチャレンジしていくことを決意しました。

──アクセンチュアでビジネスの知見を身に着け、サッカー以外のスポーツビジネスも経験して、あらためてサッカーの仕事へ舞い戻ってきたというわけですね。
湘南ベルマーレとアクセンチュアなどで働いてみて感じたのは、ピッチ上にいる人たちとビジネスサイドの人たちではクラブを見る目線が異なるということです。例えば、ビジネスサイドの人たちからは、「ファンサービスをもっとやってほしい」とか、「選手にはメディアでもっとこういうことをしゃべってほしい」といった要望がある。一方で、チームサイドからは、「この選手はいまこういう状況だからメディア露出を控えたい」「選手には試合以外での負担はかけたくない」というような、それぞれの考えがあるのです。

それらはどちらが正しいとかではなくて、そのときどきで優先順位が変わりますし、クラブの方針やビジョンでも変わるものだと思います。そういう点で、ビジネスサイドやクラブのビジョンを見据えつつ、選手やコーチ陣の気持ちもくみ取り、両サイドの言葉や考えの橋渡しをすること。それをできるのが僕自身の強みであり、湘南ベルマーレのころには持っていなかった自分の武器です。

365日、スポーツの価値を提供していく

──2020年に開催が予定されていた東京オリンピックが2021年に延期になるなど、スポーツ界における新型コロナウイルスの影響はとても大きいものかと思います。TOKYO CITY F.C.ではどのような影響がありましたか?
チームとしての影響でいうと、リーグ戦は延期になりました。14チームのリーグ戦だったものが、レギュレーションが変わり、7チームのリーグ戦になって、試合数が少なくなりなりましたね。またビジネスの面では新たな施策として、5月より、法人を対象にしたマーケティング・クリエイティブサービスを開始しました。

──具体的にはどのようなサービスになるのでしょうか?
サッカーチームを運営する上で培ったノウハウや所属メンバーのスペシャリティを活かし、提供していくサービスです。例えば、2014年になにもないところから、代表の山内はTOKYO  CITY F.C.というコミュニティを立ち上げました。そこからいま現在まで続けていサッカークラブの運営のノウハウは、サードプレイスやコミュニティの価値が高まっている現代では提供できる一つの価値であると、僕たちは考えています。

また、TOKYO CITY F.C.では渋谷区周辺のベンチャー企業を対象とした「渋谷ベンチャーフットサル」というフットサル大会を主催しています。これはその名のとおり、渋谷区にある企業がチームごとに参加するフットサル大会です。普段は、ビジネスを通してしか出会うことができない他社の人たちも、スポーツを介して出会うことでビジネスを通してでは見られなかった新しい一面に出会うことができ。これもまた、スポーツが持つ力の一つだと思っています。ほかにも前述で紹介したようなクラブ×サッカーの新しいサッカーコンテンツなど、僕たちだからこそ提供できる価値を提供しています。
渋谷ベンチャーフットサルの様子。名刺交換をする時間も設けている
渋谷ベンチャーフットサルの様子。名刺交換をする時間も設けている
今回、このような前代未聞の状況になり、試合だけを軸に据えるスポーツビジネスのリスクが露呈されました。僕らが現在所属するのはアマチュアリーグであるため、試合が行えないことで生じたビジネスのマイナスはそこまで大きくはありません。しかし、プロチームの場合、チケット収入がなくなり、会場でのグッズや飲食物を売ることもできず、看板広告も意味がなくなっている。サッカー界に限らず、プロスポーツの世界が今回のコロナではすごく大きなダメージを受けました。

そういった部分を通して考えたとき、あらためてTOKYO CITY F.C.の目指す方向性は間違いではないと、僕は感じています。試合以外でもマネタイズする手段を設ける。試合のある日だけでなく、365日お客さまに価値を提供していく。スポーツビジネスでもそのような「面のビジネス」を意識する大きなきっかけとなったのではないでしょうか。ウィズコロナやアフターコロナと呼ばれる時代では、スポーツ界は大きく変化していくと思いますし、その先駆けをTOKYO CITY F.C.では目指していきたいです。

──試合という点だけではなく、それ以外にも点を設けて面にしていく。そのような面のビジネスがリスクヘッジにつながるわけですね。
また、チームだけでなく、個人の選手のなかでも自己プロデュースしていくことの重要性に気づいた人たちも多くいると思います。緊急事態宣言が発令されている間に、自分のつくった料理をSNSに掲載するなどして、試合以外の一面を見せて、すごくフォロワーが増えた選手たちもいました。アスリート個人に多くのファンがつくことはビジネスの面でもとても有利に働きます。試合でのパフォーマンスはもちろん最重要ですが、そこにそのアスリートならではのプラスアルファの価値提供ができると、アスリートにとってもクラブにとってもさまざまなチャンスが広がるでしょう。このような、いままでのスポーツ界にはなかった変化の兆しを僕はすでに感じています。

スポーツ界同様、個人としても選択肢が広がるなかで、変化をする上で大切なのは自分の軸を持った上で、新しいものを受け入れていくことだと思います。自分にとって、なにをすることが一番ハッピーであるのか? そのような自分の軸をしっかり持ち、選択していく。それこそが変わり続ける環境へ対応していくための唯一の方法であると思っています。僕自身も、サッカーが好きな気持ちはブレずに、自分が持つ武器を駆使して、変化する時代をこの先もTOKYO CITY F.C.とともに駆け抜けていきます。
──渋谷発のサッカークラブ、TOKYO CITY F.C.が目指す、渋谷そしてスポーツビジネスの未来についてお話いただきました。深澤さんがこの先どのような判断をTOKYO CITY F.C.でしていくのか、この先も注目していきたいと思います。お話いただき、ありがとうございました!

写真提供:TOKYO CITY F.C.
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