テクノロジーによる”真”体験、コロナ時代のエンタメとは セブンセンス/nommoc 代表取締役 吉田拓巳さん
花火×テクノロジーの迫力ある演出で、多くの人を興奮の渦に巻き込んだイベント「STAR ISLAND」。テクニカルディレクターを務めたセブンセンスの代表・吉田拓巳(よしだ・たくみ)さんは、イベントや音楽ライブの演出をはじめ、飲食店や店舗の空間プロデュース、アパレルのブランディングなど、領域にとらわれない挑戦を続けています。
吉田さんは、15歳のときにセブンセンスを設立。さらに2018年には無料の移動サービスを展開する新会社nommocを立ち上げ、大きな注目を集めました。今回は、吉田さんがこれまで生み出してきたコンテンツについて、また、コロナ時代のエンタメをどのように見据えているのか、お話を伺いました。
吉田さんは、15歳のときにセブンセンスを設立。さらに2018年には無料の移動サービスを展開する新会社nommocを立ち上げ、大きな注目を集めました。今回は、吉田さんがこれまで生み出してきたコンテンツについて、また、コロナ時代のエンタメをどのように見据えているのか、お話を伺いました。
──これまで幅広い案件を手がけていますが、セブンセンスとしての活動の軸はどのような部分にあるのですか?
「リアルな体験の提供」を一つの軸にしています。情報社会が進むいまだからこそ、「体験すること」や「そこにしかないもの」の価値が上がっているように感じています。そう考えたとき、私はもともと映像制作に取り組んでいたのですが、画面上の映像だけでなく、体験という新しい価値を生み出す必要があると思ったのです。最初は映像制作に近い領域として、音楽ライブの演出を手がけるようになりました。
──未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」では、花火の新しい形に多くの人が魅了されました。シンガポールのイベントではドローンも登場していましたが、こうしたアイデアはどのようにして生み出しているのですか?
このイベントは企画がスタートした2017年から関わっており、日本の伝統文化である花火を使って、世界中を驚かせるコンテンツづくりに取り組んできました。花火は、打ち上げて消えてしまうという儚さも魅力のひとつではありますが、ある種アナログとも言えます。そこに、音楽や照明を連動させたり、花火の音を3Dサウンド化したり、パフォーマーの演出を加えたりと、私たちがテクノロジーを足し算することで、新しい体験を提供しているのです。
ドローンについては、シンガポールで2020年のカウントダウンに実施した「STAR ISLAND SINGAPORE COUNTDOWN EDITION 2019-2020」で初めて取り入れました。以前からドローンをショーに活用したいと思い、中国のドローンメーカーと共同で開発を進めていたのですが、花火と組み合わせることで良い化学反応が生まれるのではないかと思い、実装することになりました。 ──観客がつけているリストバンドも吉田さんがプロデュースされたとお聞きしました。演出を見るだけでなく、より「体験している」感覚を味わえそうですね。
まさにそうです。イベントや音楽ライブって、その場に行くことで確かに参加しているのですが、どこか画面を見ているような感覚に陥る人もいるのではないでしょうか。観客も一緒に参加できるような演出ができないかと考え、身体に近いデバイスが良いのではないかという着想から、LEDのリストバンドをつくりました。動作はすべて制御しており、シーンに合わせてさまざまな色に変わります。観客一人ひとりが発する明かりが演出になっているのです。このリストバンドは「STAR ISLAND」をはじめ、さまざまな音楽ライブにも導入していただきました。 ──リアルな要素にテクノロジーを掛け合わせることで、新しいものを生み出しているのですね。店舗の空間プロデュースも手掛けていますが、これも同様の原理なのでしょうか。
テクノロジーとは少し違うかもしれませんが、リアルである「場所」に対して私たちがなにかをプラスすることで、より面白い体験を提供したいという思いで取り組んでいます。直近では、2020年8月に福岡・天神にオープンしたポップアップショップ「Whask POCKET SHOP」をプロデュースしました。
このスペースは、固定のテナントを入れずに、一定期間でさまざまな店舗が入れ替わるようにしています。空間の「余白」を大切にしたかったのです。海外でさまざまな街を見たときに感じたのが、「日本の街は余白が少ない」ということ。「なにをやってもいいよ」みたいな場所ってほとんどないですよね。ニューヨークのブルックリンに行ったとき、余白の多い街だと感じました。だからこそ、新しいアーティストやカルチャーが次々に誕生しているような気がするのです。こうした考えのもと、「Whask POCKET SHOP」も、いろいろなものが入れ替わりながら、新しいものが生まれる空間を目指しています。 まったく違う領域に進出したように見えるかもしれませんが、原理は同じです。リアルな体験に、私たちが新たな価値を加えていく。私のこれまでのキャリアも、自分が携わってきた領域を少しずつ拡大したり、深堀したり、繰り返していまに至ります。
──クリエイターとして「プラス1」を積み重ねてこられたのですね。これまでに転機となるようなできごとはありましたか?
中学生のときに、天神のApple Storeで音楽イベントをレギュラーで持たせてもらったことです。私は11歳で映像制作に興味を持ち、両親にMacのパソコンを買ってもらいました。使い方を教えてもらうためにApple Storeに通っていたのですが、小学生で来る人なんていませんから、「なんかやばい子どもがいるぞ」と話題になるわけです(笑)。
当時VJ(ビジュアルジョッキー)に興味を持っていたこともあり、2カ月に1回、音楽と映像のイベントをさせていただくようになりました。そこで知り合った方とのつながりで、仕事を任せてもらうようになり、ゆくゆくは起業することにもなったので、私にとって大きな転機となりましたね。
──現在も出身地の福岡を活動の拠点にされているそうですね。
東京に行く機会も多いのですが、あえて東京に移すことはせずに、福岡から行き来しています。理由の一つは、アジアに近いグローバルな都市に身を置きたいという思いがあります。
もう一つは、地方特有の時間の流れが私にとって大切だと感じているからです。東京は競争が激しく、情報のスピードも速い。もちろん、そのなかで身につくことも多いのですが、あまりに目まぐるしい環境にいると、自分が本当にやりたいことを見逃してしまう気がするのです。ふと気づくと「自分はなにがしたいのだろう」と我に返ることってありますよね。
私は、5年後、10年後を考えるよりも、「いまやりたいこと」にフォーカスしたいと思っています。そこには、常に自分自身のやりたいことに向き合える環境が必要で、それが福岡にはあるように感じています。
──吉田さんの「いまやりたいこと」はなんでしょうか。直近で取り組んでみたいコンテンツがあれば教えてください。
オンラインにおける「体験価値」の向上を模索しているところです。新型コロナウイルスによりオンライン上でのイベントが急増しましたが、その場にいるような体感を味わってもらうには、まだまだ課題が多いと感じています。
アメリカ・ネバダ州で毎年行われている「バーニングマン」というフェスがあり、以前現地に行ったことがあります。今年はバーチャルで開催されていました。リアルな空間にあったものが、バーチャル上にそのまま存在していることには感動しましたが、やはり、現地で感じた熱量と比べると薄れてしまいます。
リアルのイベントができないからこそ、「体験」「体感」という要素の重要性を改めて認識しました。この先テクノロジーが進化すると、その場に行かなくても、現地での体験と同じレベルに到達することができるようになるかもしれません。その実現に向けて、試行錯誤していきたいですね。
──新型コロナウイルスによって多くのコンテンツがオンライン化したいま、世の中的にも「体験」の価値が見直されている。そんな時代だからこそ見えてくるものもあるのかもしれませんね。吉田さんが次はどんな「プラス1」を乗せるのか、楽しみです。ありがとうございました!
「リアルな体験の提供」を一つの軸にしています。情報社会が進むいまだからこそ、「体験すること」や「そこにしかないもの」の価値が上がっているように感じています。そう考えたとき、私はもともと映像制作に取り組んでいたのですが、画面上の映像だけでなく、体験という新しい価値を生み出す必要があると思ったのです。最初は映像制作に近い領域として、音楽ライブの演出を手がけるようになりました。
──未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」では、花火の新しい形に多くの人が魅了されました。シンガポールのイベントではドローンも登場していましたが、こうしたアイデアはどのようにして生み出しているのですか?
このイベントは企画がスタートした2017年から関わっており、日本の伝統文化である花火を使って、世界中を驚かせるコンテンツづくりに取り組んできました。花火は、打ち上げて消えてしまうという儚さも魅力のひとつではありますが、ある種アナログとも言えます。そこに、音楽や照明を連動させたり、花火の音を3Dサウンド化したり、パフォーマーの演出を加えたりと、私たちがテクノロジーを足し算することで、新しい体験を提供しているのです。
ドローンについては、シンガポールで2020年のカウントダウンに実施した「STAR ISLAND SINGAPORE COUNTDOWN EDITION 2019-2020」で初めて取り入れました。以前からドローンをショーに活用したいと思い、中国のドローンメーカーと共同で開発を進めていたのですが、花火と組み合わせることで良い化学反応が生まれるのではないかと思い、実装することになりました。 ──観客がつけているリストバンドも吉田さんがプロデュースされたとお聞きしました。演出を見るだけでなく、より「体験している」感覚を味わえそうですね。
まさにそうです。イベントや音楽ライブって、その場に行くことで確かに参加しているのですが、どこか画面を見ているような感覚に陥る人もいるのではないでしょうか。観客も一緒に参加できるような演出ができないかと考え、身体に近いデバイスが良いのではないかという着想から、LEDのリストバンドをつくりました。動作はすべて制御しており、シーンに合わせてさまざまな色に変わります。観客一人ひとりが発する明かりが演出になっているのです。このリストバンドは「STAR ISLAND」をはじめ、さまざまな音楽ライブにも導入していただきました。 ──リアルな要素にテクノロジーを掛け合わせることで、新しいものを生み出しているのですね。店舗の空間プロデュースも手掛けていますが、これも同様の原理なのでしょうか。
テクノロジーとは少し違うかもしれませんが、リアルである「場所」に対して私たちがなにかをプラスすることで、より面白い体験を提供したいという思いで取り組んでいます。直近では、2020年8月に福岡・天神にオープンしたポップアップショップ「Whask POCKET SHOP」をプロデュースしました。
このスペースは、固定のテナントを入れずに、一定期間でさまざまな店舗が入れ替わるようにしています。空間の「余白」を大切にしたかったのです。海外でさまざまな街を見たときに感じたのが、「日本の街は余白が少ない」ということ。「なにをやってもいいよ」みたいな場所ってほとんどないですよね。ニューヨークのブルックリンに行ったとき、余白の多い街だと感じました。だからこそ、新しいアーティストやカルチャーが次々に誕生しているような気がするのです。こうした考えのもと、「Whask POCKET SHOP」も、いろいろなものが入れ替わりながら、新しいものが生まれる空間を目指しています。 まったく違う領域に進出したように見えるかもしれませんが、原理は同じです。リアルな体験に、私たちが新たな価値を加えていく。私のこれまでのキャリアも、自分が携わってきた領域を少しずつ拡大したり、深堀したり、繰り返していまに至ります。
──クリエイターとして「プラス1」を積み重ねてこられたのですね。これまでに転機となるようなできごとはありましたか?
中学生のときに、天神のApple Storeで音楽イベントをレギュラーで持たせてもらったことです。私は11歳で映像制作に興味を持ち、両親にMacのパソコンを買ってもらいました。使い方を教えてもらうためにApple Storeに通っていたのですが、小学生で来る人なんていませんから、「なんかやばい子どもがいるぞ」と話題になるわけです(笑)。
当時VJ(ビジュアルジョッキー)に興味を持っていたこともあり、2カ月に1回、音楽と映像のイベントをさせていただくようになりました。そこで知り合った方とのつながりで、仕事を任せてもらうようになり、ゆくゆくは起業することにもなったので、私にとって大きな転機となりましたね。
──現在も出身地の福岡を活動の拠点にされているそうですね。
東京に行く機会も多いのですが、あえて東京に移すことはせずに、福岡から行き来しています。理由の一つは、アジアに近いグローバルな都市に身を置きたいという思いがあります。
もう一つは、地方特有の時間の流れが私にとって大切だと感じているからです。東京は競争が激しく、情報のスピードも速い。もちろん、そのなかで身につくことも多いのですが、あまりに目まぐるしい環境にいると、自分が本当にやりたいことを見逃してしまう気がするのです。ふと気づくと「自分はなにがしたいのだろう」と我に返ることってありますよね。
私は、5年後、10年後を考えるよりも、「いまやりたいこと」にフォーカスしたいと思っています。そこには、常に自分自身のやりたいことに向き合える環境が必要で、それが福岡にはあるように感じています。
──吉田さんの「いまやりたいこと」はなんでしょうか。直近で取り組んでみたいコンテンツがあれば教えてください。
オンラインにおける「体験価値」の向上を模索しているところです。新型コロナウイルスによりオンライン上でのイベントが急増しましたが、その場にいるような体感を味わってもらうには、まだまだ課題が多いと感じています。
アメリカ・ネバダ州で毎年行われている「バーニングマン」というフェスがあり、以前現地に行ったことがあります。今年はバーチャルで開催されていました。リアルな空間にあったものが、バーチャル上にそのまま存在していることには感動しましたが、やはり、現地で感じた熱量と比べると薄れてしまいます。
リアルのイベントができないからこそ、「体験」「体感」という要素の重要性を改めて認識しました。この先テクノロジーが進化すると、その場に行かなくても、現地での体験と同じレベルに到達することができるようになるかもしれません。その実現に向けて、試行錯誤していきたいですね。
──新型コロナウイルスによって多くのコンテンツがオンライン化したいま、世の中的にも「体験」の価値が見直されている。そんな時代だからこそ見えてくるものもあるのかもしれませんね。吉田さんが次はどんな「プラス1」を乗せるのか、楽しみです。ありがとうございました!