トム・クルーズが主演した「マイノリティー・レポート」という映画をみたことがあるだろうか。設定は2054年の未来。地下鉄やお店、広告看板(デジタル・スクリーンになっている)など、至るところにカメラが設置されている。そのカメラは人間の虹彩という目の模様を捉え、カメラの前にいる人が誰かを特定する。会社や地下鉄のカメラはセキュリティや定期代わりだろう。お店に入れば、以前買った商品履歴から今日のオススメをコーディネートしてくれる。広告看板からは、次の夏休みの旅行について勧めてくるかもしれない。アマゾンで買い物をしたり、YouTubeを見ているときに、過去履歴からオススメを知らせてくれることにはもう誰もが慣れている。そうしたインターネット上ではなく、街を歩いているときに、リアルタイムで広告看板が自分に話しかけてきたらどうだろう。我々はそんなことに慣れるだろうか。これからの広告パーソンは、そんな仕掛けも考えなければならないだろう。

リアル空間はサイバー空間で再現される

あるコンサルティング会社に言わせると、サイバー空間(インターネット)でリアル空間の出来事はほぼ再現できるそうだ。朝、出勤時に乗換アプリで行き先を検索、 SuicaやPASMOで改札を通り、最寄駅のコンビニで買物をする。ランチになったら食べログで検索したレストランに行き、出てきた料理の写真をInstagramにタグ付けしてアップする。普段の生活でスマートフォンをずっと触っているということは、あなたがどこで何をしているのかが、サービス提供元にわかっているということである。もちろん、ヤフーと食べログとフェイスブックは違う会社だから、すべての行動が紐付けされてしまうわけではない。

しかし、例えばTポイントやPontaといったポイントで支払いをしていたらどうだろう。違うお店でもあなたの行動がわかってしまう。もし、渋谷に1時間後にいると予測されたら、ハチ公前交差点の屋外看板から、あなたの好きな映画がいま上映中であることを教えられるかもしれない。それでもまだ、屋外のデジタルスクリーンとスマホのアプリはうまく連動していない。それに、マイノリティレポートのように、指紋や虹彩などをどこかに登録することもない。だから、あなたの行動を「推測」されるだけである。ただ、目指している方向は、消費者の行動を知り、先んじて情報を流す。それが購買につながる。そんなところだ。

広告のカタチが変わる

そんな未来の広告の動きは、すでに動き始めている。世界の広告会社グループランキング(連結)を見ると、電通やWPPといった有名な広告会社と一緒に、IBMや会計事務所のデロイト、クレジットカードの与信サービスを提供するエクスペリアンといった意外な会社がランクインしている。彼らは消費者のデータを集め、広告主の情報を的確なタイミングで配信するサービスを行なう会社だ。テレビや雑誌の広告枠を買い、印象に残るクリエイティブをつくるといった広告のカタチとは違う。

しかし、一歩下がって広い目で広告を捉え直すと、その目的は結局、企業価値の増大の手伝いにある。海外のカンファレンスにいくと、よく現地の広告会社の人が”Right message, right time, right person”という言葉を使う。的確な情報発信という意味だが、それができればそのカタチはなんでもいい。”Advertisement as we know it”これも、よく聞かれる言葉である。「いままでの広告」というほどの意味だろうか。それが変わっていくという含意がある。テクノロジーで消費者行動がわかるとき、広告もその姿を変えるのだろう。これからの広告業界で生き抜くなら、そんな20-30年後を想像してみよう。
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志村一隆
メディア研究者。早稲田大学卒業後、WOWOW入社。ケータイWOWOW代表取締役を務めたのちに、情報通信総合研究所の主任研究員に。その後ヤフーに入社し、現在はよしもとクリエイティブ・エージェンシーの取締役に就任。著書『明日のテレビ』(朝日新書、2010)『ネットテレビの衝撃』(東洋経済新報社、2010)『明日のメディア』(ディスカヴァー 携書、2011)、『群像の時代』(ポット出版2015)、『デジタル・IT業界がよくわかる本』(宣伝会議)などで、メディアイノベーションを紹介したメディア・コンテンツ分野の第一人者。2000年米国エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号取得。水墨画家アーティストとして欧米で活躍。
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