Vol.16 「好き」がなければ、人間の本質に訴えるマーケティングはできない キャリアアップナビ
キャリアアップナビでは、マーケティングやクリエイティブ職のキャリアアップについて、毎月テーマをピックアップして解説します。今回は、スターバックス コーヒー ジャパンのCMOを務める森井久恵(もりいひさえ)さんに、これまでのキャリアを伺いました。聞き手はキャリアコンサルタントの荒川直哉(あらかわなおや)。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずでは、なかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!
──これまでのキャリアについて教えてください。
新卒で入社したのはNTT東日本です。外資系金融企業に対するシステム導入の提案営業を経験した後、新規事業部に異動。そこで知ったマーケティングの仕事に強く興味を惹かれ、未経験での転職は狭き門ではありましたが、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンに入社しました。
同社では「KENT」のブランドマーケティングを担当しました。実務を経験して気付いたのは、マーケターとは専門家ではなく、ジェネラリストとして、営業、製造、販売部門などの社員や協力会社を巻き込むハブとなりブランドを育てていく仕事だということです。もっと現場を知りたいと考え、営業職を経験し、タバコ屋さんを回って自動販売機を売っていたこともあります。
ブランドマーケティングの面白さがわかってくると、もっと身近な商材を扱いたいという思いが強くなり、ユニリーバ・ジャパンに転職を決めました。
「Dove」担当のアシスタントマネージャーとして入社し、ブランドマネージャー、アジア担当のブランドダイレクターなどを経て、日本のマーケティング部門のトップも経験することができました。先輩や上司の姿に憧れていたので、ステップアップの機会があれば迷わず手を挙げるようにしていました。次々に与えられる難問に挑んでいくのが楽しくて、マーケティングの世界にのめり込んでいきました。
そうして掴んだ最大のチャンスが海外赴任です。日本よりも大きな市場で挑戦する機会に恵まれ、夫と娘2人も連れて家族全員で赴任することに。中国とタイで、それぞれマーケティングバイスプレジデントを務め、個人の成長にもつながったと感じています。
こうして振り返ると、私を育ててくれたのはユニリーバでした。このまま働き続けたいと思っていましたが、赴任から3年経った頃、家庭の事情から帰国すべきかどうか悩んでいたとき、スターバックス コーヒー ジャパンからCMOのオファーを受けました。スターバックスはずっと大好きなブランドだったので、これはご縁だと思い入社を決意しました。
CMOとして、商品、デジタル戦略、マーケティングの部署を統括し、次の時代においても愛され続けるブランドを育てることです。これまでさまざまな経験を積んできましたが、ここまで広い業務領域を担当するのは初めてです。日々新しい挑戦をしています。
商品本部では、季節ごとの新商品開発など常にお客さまの期待を超える、本物でわくわくする商品を開発し、戦略を立てています。また、多様なニーズや生活様式の変化に合わせてサービスの拡充を図っているのがデジタル戦略部門です。レジの列に並ぶことなくドリンクを楽しめる事前注文決済アプリ「Mobile Order & Pay」をリリースし、国内約800店舗(7月末現在)まで広がりました。マーケティング部門では、社会に必要とされる価値を追求し、パートナー(従業員)・商品・店舗・サービスのすべてがつくりだす「スターバックス体験」を発信しています。手話を共通言語とする店舗「サイニングストア」の開業をはじめ、環境やダイバーシティなど社会をより良くする活動や情報発信も大切な業務です。
私一人ではレシピもアプリもつくれません。CMOに必要なのは、俯瞰した経営目線を持ち、ブランドとしてあるべき「思い」を組織に共有することです。目標数字だけでは、社員の心を動かすことはできません。思いを共有できると、組織はより強い力を発揮できます。
スターバックスは、店舗のパートナーを通じて商品をお客さまに届けています。そのため、お客さまの一番近くにいるパートナーの熱意や、店舗のオペレーションはブランド価値を左右するほど大切なものです。店舗に頻繁に足を運び、現場の声を聞くことも愛されるブランドづくりの一部です。
──キャリア形成のなかで、大きな転機はありましたか?
2つありました。1つは海外赴任です。文化も考え方もまったく違う環境で、まずは上司として認めてもらうために、とことんその違いに向き合い、対話を重ねました。この経験を通じて、相手にとっていちばん大事なことはなにかを考え抜く力が養われたと思います。
もう1つは、35歳での妊娠と出産、育児です。妊娠がわかったときには悩みましたが、なんとかして仕事と両立したかった。そこで、産後3カ月で職場復帰すると決め、「そのためにはなにをすべきか?」とマインドセットを変えたのです。それが実現できた経験は、仕事にも活きています。また、子育てにもマーケティングにも愛情が欠かせないという共通項に気付きました。今は、娘たちが大人になったときにもスターバックスが憧れのブランドであり続けられるように育てていきたいという思いを日に日に強くしています。
──マーケターとして大切にしていることはなんですか?
「好き」という感情です。人間は決断するとき、まず感情で決めているものです。ロジックは実は後から考えていたりする。ですから、どんな選択においても、「好きかどうか」は絶対条件です。
私は20年来のスターバックスのファンです。それは、私に力を与えてくれるブランドだから。新社会人だった頃、スターバックスのコーヒーを持って歩いていると、自立した社会人になったような気がして自信を持てたのです。こういった、個人にとってブランドが持つ意味をマーケターは考え抜かなければいけません。人間の本質的なところに訴えかけることは、ブランディングに必要な要素だと思います。 ──若手マーケターへのアドバイスをお願いします。
行動を起こすときに失敗が怖いのは当たり前です。そのときには、最悪の場面を具体的に想像してみると、意外と失うものは少ないと気付けるのではないでしょうか。どうしてもやりたいと思えることって人生でそう多くはありません。それを見つけられた人には、経験のないことに飛び込むスリルを楽しむ気持ちで、ぜひ掴みにいってほしいですね。
新卒で入社したのはNTT東日本です。外資系金融企業に対するシステム導入の提案営業を経験した後、新規事業部に異動。そこで知ったマーケティングの仕事に強く興味を惹かれ、未経験での転職は狭き門ではありましたが、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンに入社しました。
同社では「KENT」のブランドマーケティングを担当しました。実務を経験して気付いたのは、マーケターとは専門家ではなく、ジェネラリストとして、営業、製造、販売部門などの社員や協力会社を巻き込むハブとなりブランドを育てていく仕事だということです。もっと現場を知りたいと考え、営業職を経験し、タバコ屋さんを回って自動販売機を売っていたこともあります。
ブランドマーケティングの面白さがわかってくると、もっと身近な商材を扱いたいという思いが強くなり、ユニリーバ・ジャパンに転職を決めました。
「Dove」担当のアシスタントマネージャーとして入社し、ブランドマネージャー、アジア担当のブランドダイレクターなどを経て、日本のマーケティング部門のトップも経験することができました。先輩や上司の姿に憧れていたので、ステップアップの機会があれば迷わず手を挙げるようにしていました。次々に与えられる難問に挑んでいくのが楽しくて、マーケティングの世界にのめり込んでいきました。
そうして掴んだ最大のチャンスが海外赴任です。日本よりも大きな市場で挑戦する機会に恵まれ、夫と娘2人も連れて家族全員で赴任することに。中国とタイで、それぞれマーケティングバイスプレジデントを務め、個人の成長にもつながったと感じています。
こうして振り返ると、私を育ててくれたのはユニリーバでした。このまま働き続けたいと思っていましたが、赴任から3年経った頃、家庭の事情から帰国すべきかどうか悩んでいたとき、スターバックス コーヒー ジャパンからCMOのオファーを受けました。スターバックスはずっと大好きなブランドだったので、これはご縁だと思い入社を決意しました。
──スターバックス コーヒー ジャパンでのミッションを教えてください。
CMOとして、商品、デジタル戦略、マーケティングの部署を統括し、次の時代においても愛され続けるブランドを育てることです。これまでさまざまな経験を積んできましたが、ここまで広い業務領域を担当するのは初めてです。日々新しい挑戦をしています。
商品本部では、季節ごとの新商品開発など常にお客さまの期待を超える、本物でわくわくする商品を開発し、戦略を立てています。また、多様なニーズや生活様式の変化に合わせてサービスの拡充を図っているのがデジタル戦略部門です。レジの列に並ぶことなくドリンクを楽しめる事前注文決済アプリ「Mobile Order & Pay」をリリースし、国内約800店舗(7月末現在)まで広がりました。マーケティング部門では、社会に必要とされる価値を追求し、パートナー(従業員)・商品・店舗・サービスのすべてがつくりだす「スターバックス体験」を発信しています。手話を共通言語とする店舗「サイニングストア」の開業をはじめ、環境やダイバーシティなど社会をより良くする活動や情報発信も大切な業務です。
私一人ではレシピもアプリもつくれません。CMOに必要なのは、俯瞰した経営目線を持ち、ブランドとしてあるべき「思い」を組織に共有することです。目標数字だけでは、社員の心を動かすことはできません。思いを共有できると、組織はより強い力を発揮できます。
スターバックスは、店舗のパートナーを通じて商品をお客さまに届けています。そのため、お客さまの一番近くにいるパートナーの熱意や、店舗のオペレーションはブランド価値を左右するほど大切なものです。店舗に頻繁に足を運び、現場の声を聞くことも愛されるブランドづくりの一部です。
──キャリア形成のなかで、大きな転機はありましたか?
2つありました。1つは海外赴任です。文化も考え方もまったく違う環境で、まずは上司として認めてもらうために、とことんその違いに向き合い、対話を重ねました。この経験を通じて、相手にとっていちばん大事なことはなにかを考え抜く力が養われたと思います。
もう1つは、35歳での妊娠と出産、育児です。妊娠がわかったときには悩みましたが、なんとかして仕事と両立したかった。そこで、産後3カ月で職場復帰すると決め、「そのためにはなにをすべきか?」とマインドセットを変えたのです。それが実現できた経験は、仕事にも活きています。また、子育てにもマーケティングにも愛情が欠かせないという共通項に気付きました。今は、娘たちが大人になったときにもスターバックスが憧れのブランドであり続けられるように育てていきたいという思いを日に日に強くしています。
──マーケターとして大切にしていることはなんですか?
「好き」という感情です。人間は決断するとき、まず感情で決めているものです。ロジックは実は後から考えていたりする。ですから、どんな選択においても、「好きかどうか」は絶対条件です。
私は20年来のスターバックスのファンです。それは、私に力を与えてくれるブランドだから。新社会人だった頃、スターバックスのコーヒーを持って歩いていると、自立した社会人になったような気がして自信を持てたのです。こういった、個人にとってブランドが持つ意味をマーケターは考え抜かなければいけません。人間の本質的なところに訴えかけることは、ブランディングに必要な要素だと思います。 ──若手マーケターへのアドバイスをお願いします。
行動を起こすときに失敗が怖いのは当たり前です。そのときには、最悪の場面を具体的に想像してみると、意外と失うものは少ないと気付けるのではないでしょうか。どうしてもやりたいと思えることって人生でそう多くはありません。それを見つけられた人には、経験のないことに飛び込むスリルを楽しむ気持ちで、ぜひ掴みにいってほしいですね。