──大瀧さんが所属している「電通Bチーム」と「AI MIRAI」は、どういうことをしているのでしょうか?
「電通Bチーム」に関しては、普段の広告業界のアプローチがA面だとすると、全然違うB面のアプローチをするチームのことを指します。USB的に、Bチームの知見をブスっと指して、新しい風を取り入れましょうという取り組みです。釣りや美容など、趣味が行き過ぎて特定の界隈にめちゃくちゃ詳しいメンバーがそろっているため、一次情報が自然と入ってくるわけです。その中で私はAIに詳しいリサーチャーとして所属しています。

対して「AI MIRAI」は、電通社内のAIプロジェクトを横断的に統括するチーム名称です。AIコピーライターのAICO、AIマーケターのMAI、テレビ視聴率予測システムSHAREST、AIによる流行キーワード予測システムTREND SENSORなど、さまざまなAI関連のプロジェクトが含まれています。私はクリエイティブ畑のキャリアを歩んできたので、主にAIコピーライターのAICOに携わってきました。
──そういった違いがあったのですね。電通社内でAIに詳しいポジションを確立されているようですが、学生時代、AIの研究をされていたのですよね? 広告会社の電通に入社した理由をお聞かせください。
実は大学院時代はAIの研究以外に、自律走行型の小型探査機の開発とロケット打ち上げのプロジェクトをしていました。米国の世界大会に何度か挑戦しまして、最終的に優勝できたのですが、それを機にJAXA選抜学生として海外で開発技術の普及活動をしたことが大きなターニングポイントになりました。技術をつくるだけでなく、それを伝えていく・広めていくアイデアの重要さと面白さを感じるようになったんです。それで広告会社に興味を持つようになりました。電通に入社を決めたのは、広告会社にもかかわらずARのアプリや新しいメディアの開発などに挑戦していて、面白そうだなと。

──AIだけでなくロケットも!? すごいですね! 入社後はどのような業務をされていたのでしょうか?
入社後は希望通りプロモーション局へ配属となり、イベントプロデューサーをしていました。というのも、AIの研究開発も面白かったのですが、開発したAIを使った実験を通して、人の反応や心理の変化を見るほうが面白かったんです。それで、イベントなどリアルな場で、テクノロジーを掛け合わせることがしたいなと考えていました。実際にプロモーション局に所属していたとき、とあるゲームのプロモーションイベントで、秋葉原の街中を舞台にして、ゲームの世界観をリアルに再現するためにビーコンの技術を利用しました。改めて、リアル×テクノロジーの魅力を認識しました。
そこからテクノロジーとクリエイティブを中心にした活動をしたいと考えるようになり、社内のクリエーティブ試験を受けました。幸いにも転局が叶い、デジタルクリエイティブ関連を担う部署に異動しました。その中で、社内でAIコピーライターを開発したいという要望があり、「大瀧ってAIの研究をしていたんだよね?」と声をかけられAICOの開発に携わり、さらに電通BチームのAIリサーチャーとなり、今に至ります。

広告力を活かしたAIプランナー

──AI案件が続々と大瀧さんへ集まってくるのですね。では次に、「AIプランナー」という役割・職能についてお伺いしていきたいと思います。
AIは完璧ではありません。とにかく使ってもらって、学習させて、育てていく必要があります。例えば、TBSラジオの「THE FROGMAN SHOW A.I.共存ラジオ 好奇心家族」という番組に、音声型AIの“ドッチくん”というペットが出演しています。Twitter上の「#ドッチのエサ」というハッシュタグがついている投稿を、ドッチくんがパクパク食べて成長する仕組みをつくりました。AIにデータを入れ込むアイデアはさまざまな方法があったと思うのですが、「#ドッチのエサ」とネーミングすることで、リスナーも自分がドッチくんを育てていく感覚になります。これは広告会社らしい体験を提供できたと思っています。ただし、アイデアだけではなく、エサの選び方、エサの食べさせ方といった仕組みまでをエンジニアの方々と考えることがAIプランナーとして必要かと思います。

──たしかにAIエンジニアとは違う発想ですね。
あとはAIを、どのように人と関わらせていくか、より親しみを持ってもらうか、そのためにどのようなキャラクターに設計するべきかを考えることが、広告会社の真価が発揮される領域だと思うんです。人の心も深くわかっている広告会社のクリエイターがAIの知見を持ちつつ、AI領域に入っていくとAIプランナーとしてうまく機能します。広告クリエイターも、今までの広告力を応用してできるのではないでしょうか。

AIプランナーには、スマートなAIをつくる人もいれば、人の心を揺さぶるようなAIをつくる人もいます。広告業界のクリエイターは後者になれると思うので、これまでの経験が蓄積している分、すごいポテンシャルがあると思います。

AIに任すべきコミュニケーションは

──まさに人のインサイトを捉える広告クリエイターが得意とするところですね。AIの真価は何だと捉えていますか?
AIの真価は、「人間ではないこと」ではないでしょうか。例えば、人に言わせると角が立つようなことを、AIが代弁すると意外とすんなり受け入れられたりします。私が昨年手がけた案件の一つに、新聞広告の日に「AI意見広告」を掲載しました。人間が言いにくいテーマをAIに言って貰おう!というアイデアで、AICOのコピーが大量に載った30段の新聞広告です。
新聞広告の日の「AI意見広告」(2018年10月20日のフジサンケイビジネスアイ掲載)
新聞広告の日の「AI意見広告」(2018年10月20日のフジサンケイビジネスアイ掲載)
また逆に、人には言いづらいこともAIになら言えるということもある気がします。例えば、子どもが親にはうまく相談できないことをAIキャラクターには話しかけられる、といったことが私の担当した仕事でも見受けられました。あともう一つAIによって可能性が広がるのが、AIは人と違って永遠に付き合ってくれる点。子どもって素朴な疑問や質問を親にひたすら聞いてくるじゃないですか。天才の子の親は、子どもの「なんで?」に対して全部返しているからという説もありますが、まさしくそれはAIの得意分野だなと。人間だったらいずれ消耗してしまうけど、AIなら無限に打ち返してくれる。AIと手分けすることで、我々人間は答えがない哲学的な領域について深く考えたり、議論したりする余地ができたことに意味がある気がします。この考えは、子どもに限らず福祉の分野やメンタルヘルスの領域でのアプローチにも応用できると考えています。
──AIと分担して、人は答えが見つかっていないものの答えを探していく役割を担うわけですね。
そういう意味で、すでに答えが見つかっている領域へのAI活用の仕方はもっとあると思います。例えば、伝統工芸の後継者問題。職人さんが蓄えている暗黙知を数値化してAIに学習させることで、高いクオリティーで再現ができる。でもこの作業って、職人の方々からすると嫌がることでもあります。けれども、AI活用の前段階で「数値化」や「言語化」すること自体、ご本人にとっても安定的な成果を出すことに貢献できるはずです。人材育成の面でも書面化することで弟子の方々がより深く体系的に学ぶことができる。秘伝の書がなかったジャンルに、AIの導入を機に、ついに秘伝の書が生まれるわけです。そういったメリットや「後世にこの技術を伝承させていかなければならない」と奮い立つストーリーやビジョン、プロジェクトを考えることも広告会社におけるAIプランナーだからできる役目だと考えています。

──たしかに反発・摩擦を防ぐ上で、ストーリーテリングやプロジェクトデザインは必要ですよね。最後に、今後AIがどのように活用されていくか、大瀧さんの考えをお聞かせください。
「ラジオ×AI」や「新聞×AI」など、「アナログ×AI」といった組み合わせがどんどん出てくると予想しています。LINEを使ったAI会話アカウント「渋谷区に住む小学生AI“渋谷みらい”」の立ち上げと運用をしているのですが、彼はLINE上だけでなく、渋谷区の区報にコーナーを持っています。
渋谷区在住のAIキャラクター「渋谷みらい」。Webサイトでは、渋谷区の子どもたちの顔をモンタージュして、どんどん顔が遷移していきます。
渋谷区在住のAIキャラクター「渋谷みらい」。Webサイトでは、渋谷区の子どもたちの顔をモンタージュして、どんどん顔が遷移していきます。
そうすると、渋谷区報で彼の存在やキャラクター性を知り、LINEのお友達になってくれる方がたくさんいるのです。AIと紙媒体は一見不思議な組み合わせに見えますが、「愛着」が重要なプロジェクトではAIとはいえ対象となるコミュニティにもっとも響くメディア選定が必要です。

AIというと怖い印象さえあるかもしれません。でもそんなAIがリアルに紙の紙面に載って、家族のことを話していると親近感が湧いてきませんか? ラジオでAIが話して笑いをとっていると圧倒的な存在感がありませんか? こういった設計を考えるのもある種のAIプランナーかもしれないですね。渋谷みらいくんも今後どんどんリアルな場に出ていく予定です。最初の話に戻りますが、リアルに体験してもらい、その反応を直に見ることが好きなので、AIでもそういった場をつくっていきたいです。

──「アナログ×AI」はたしかに可能性を秘めていますね。そしてそういった領域に広告クリエイターは求められそうですね。お話ありがとうございました!
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