たこ焼きだけでなく焼き鳥や天ぷらも? ロボットが世界中で日本食をつくる未来 コネクテッドロボティクス 代表取締役 沢登哲也さん
2018年、コネクテッドロボティクスが開発したたこ焼き調理ロボット「OctoChef」がハウステンボスで採用され話題になりました。工場などで使われている“産業用ロボット”ではなく、人びとの生活のより身近なところで人間と力を合わせて活動する“協働ロボット”に特化して、ロボットの開発・販売を行っています。代表取締役の沢登哲也(さわのぼりてつや)さんに、フードテックの未来や、ロボットと人の共生についてお話を伺いました。
──2019年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンにて開催される最先端テクノロジーの世界的イベント、サウス・バイ・サウスウェスト2019(以下、SXSW2019)に出展するそうですが、そこではどういったものを展示するのでしょうか?
「朝食ロボット」を展示する予定で、その名の通り朝食を自動でつくってくれるロボットです。直近ではホテルやAirbnbなどの簡易宿所に設置することを想定していますが、最終的には家庭に置くことを目指しています。朝に目が覚めたら、つくりたての朝食が待っているという世界をつくっていきたいです。目覚ましが鳴る時間にコーヒーとか卵焼きとかトーストの匂いがしたら、朝が苦手な人も起きることができますよね(笑)。ただ、実現にはまだまだ時間がかかるので、SXSW2019ではプロトタイプを発表予定です。4月からは大阪のホテルやAirbnbのホストさんのところで実証実験を行って、開発を加速していきます。 ──私も朝が苦手なので実装が楽しみです! では改めて、沢登さんの起業までのストーリーをお聞きしたいと思います。大学時代にはNHKロボコンで優勝、世界大会出場などを果たしていますよね。
東京大学でコンピュータ科学を専攻していました。サークルは「ロボテク」というロボット研究会で、私はソフトウェアエンジニアとして、ロボットの制御部分を開発していました。NHKロボコンに出場し、サークルの念願だった、初優勝も私たちの代で叶えることができました。 ──大学ご卒業後はどのようにキャリアを積まれたのでしょうか?
最初は飲食店で一年間働き、新規店舗や新業態の立ち上げなど企画に携わっていました。これまでやってきたことからするとちょっと唐突に聞こえるかもしれませんが、自分がつくった何かしらでお客さまが喜んでくれる様子をダイレクトに感じることができる飲食業に魅力を感じていて、いずれは自分で飲食店を起業しようと考えていたのです。ただ飲食業の現場の大変さに心身ともに疲れ果ててしまって……。それでマサチューセッツ工科大学発のロボット開発のベンチャーへ転職しました。そこでは産業用ロボットのコントローラーの開発をしていました。動作の制御をするエンジニアですね。その後独立して、前職の受託仕事をしながら、アプリ開発などをしていました。けれども自分の強みは「Webブラウザ・アプリケーションのエンジニアリングではないな」と思い悩んでいました。やっぱり自分は「ロボットなどのエンジニアリング」で、かつ「現場のオペレーションも把握している飲食」が自分の強みをもっとも活かせると思い、2017年4月にたこ焼きロボットの開発を始めました。
──沢登さんの得意とするエンジニアリングについてもう少し詳しく説明いただけますか。
ロボットはハードウェアのエンジニアリングだけでなく、周りの設備やロボットを動かすアルゴリズム、戦略などのいろんな要素が絡み合った総合エンジニアリングなんです。これはロボコンも同じで、ある部分で勝っていても、例えばネジの強度が弱くて一本欠けてしまうだけで動かなくなります。ある部分でほころびがあるとそれだけで最下位になってしまいます。逆に戦略的に優れていれば、技術力はそれほどでも勝つことがあります。実際に私たちがロボコンで優勝したときは、技術力というより戦略で勝ちました。戦略+総合エンジニアリングがロボットの魅力だと思います。
それまで私が開発してきた産業用ロボットは、基本的に皆さんから感謝されません。ロボットは作業ができて当たり前で、ミスをすると納入先からすごく怒られる。常に精度や速度などの厳しい要求がくるわけです。非常に厳しい世界だと感じていました。それと同時に、そのころの私は子育てに忙しい時期で、子どもにとってわかりやすい仕事がしたいという思いが自分の中に芽生えてきました。
悩んでいたときに子どもの友だちのたこ焼きパーティーに誘われて、子どもたちのためにたこ焼きを焼きました。やってみたら子どもたちがすごく喜ぶんですよ。こんなに見て喜んでもらえて、食べても喜んでもらえるものってないぞと。ロボットにたこ焼きを焼かせたら子どもたちは大喜びするのではないかと思い、すぐにプロトタイプを開発しました。それを『Startup Weekend Tokyo Robotics』というイベントで披露したら大いにウケて、さらにコンテストで優勝することができました。
それまでは、産業用ロボットをずっと開発してきたので凝り固まって、技術オリエンテッドなロボットを開発しようとしていました。初志に立ち返り、ダイレクトにフィードバックが得られる協働ロボットに行き着いたのは、大きな転機かなと思います。
──飲食以外には考えなかったのですか?
飲食店が大好きなので、それ以外は考えませんでした。“焼く”、“揚げる”という工程には、火傷の危険があります。時間もかかり火加減も常に見てなければいけませんが、それはロボットでもできます。演出面でも魅せることができる“たこ焼き”はピタリとハマりました。
──確かに鉄板の前は熱いですし、ロボットがたこ焼きをくるくる回すのは演出的にも映えますね。演出面では寿司などにも応用できそうですが。
寿司の場合、職人技をロボットで実現するにはまだまだ難しい状況です。ロボットの価値が発揮できるのは、とにかく速くネタを切って乗せるといったスピードの話になってしまいます。私たちがつくるロボットは、やっぱりワクワク感を提供していきたいですね。
「調理をロボットで革新する」というビジョンのもと、私たちの3つのミッションを実現していくつもりです。一つ目は飲食業で働く人を助けること。二つ目は日本食を世界に広めること。三つ目は、新鮮な食べ物を届けることです。たこ焼きなどつくりたてに意味があるものにフォーカスして、日本食の“美味しさ”を世界に届けていきたいです。
──世界への足がかりとしてSXSWへ出展するわけですね。今後の展望についてどのようにお考えでしょうか。
グローバル展開は非常に重要視しており、2020年までは日本でしっかりとしたビジネスの礎を築いて、それ以降は日本食というコンテンツを世界に広めたいと考えています。世界的にも日本食が広がっているトレンドがありますが、調理スタッフの不足でなかなか広まっていかないのが現状です。ロボットでトレンドを後押ししていきたいですね。
ゆくゆくは、ロボットが活躍できる”焼き物“や”揚げ物“といったジャンル、つまり焼き鳥や天ぷらなど日本らしいものをつくるロボットを開発していきたいです。それから、皿洗いなどもロボットができるようにして、飲食の現場の大変さを少しでも和らげて、キッチンを楽しく働ける場所にしたいと思っています。
基本的にはロボットは人のために働く“ツール”であって、自動車に近い存在としてとらえるべきだと思っています。ロボットが身近な存在として近接感を醸し出すことは重要ですが、人が行っていた仕事を代替するロボットは、顔などの人っぽいアイコンは持たないほうがいいです。人は感情があり誤解をする生き物です。ロボットが顔を持つと人間そっくりのヒューマノイドになってしまうのでは? いつか裏切られるのでは? 人の仕事を奪ってしまうのでは? といった疑いを持つ人が出てきます。映画『ターミネーター』の世界のようなことが、実際に起こるのではないかという懸念を抱いてしまうわけです。 さらに冗談みたいな話ですが、ヒューマノイドに家事や仕事をやらせたら同情する人たちが出てくるのではないだろうかという意見もあります。「ヒューマノイドを奴隷にするな。ヒューマノイドにも人権がある」というようなことを言い出す人が出てくると、もっとややこしくなります。ヒューマノイドではなくて“ツール”にしておけば、そんなややこしいことにならないわけですよ。特に私たちが手がけているしているキッチン回りのロボットは、ヒューマノイドである必要性はまったくないと思っています。だから私は、ロボットは“ツール”であるべきだと思っています。愛される“ツール”であるべきだと。自動車も“愛車”という言葉もあるように、 “ツール”ですが愛されているのと同様です。
──貴社の目指す“すべての人がロボットと楽しく暮らす豊かな未来”が実現する日が待ち遠しいですね。お話ありがとうございました。
「朝食ロボット」を展示する予定で、その名の通り朝食を自動でつくってくれるロボットです。直近ではホテルやAirbnbなどの簡易宿所に設置することを想定していますが、最終的には家庭に置くことを目指しています。朝に目が覚めたら、つくりたての朝食が待っているという世界をつくっていきたいです。目覚ましが鳴る時間にコーヒーとか卵焼きとかトーストの匂いがしたら、朝が苦手な人も起きることができますよね(笑)。ただ、実現にはまだまだ時間がかかるので、SXSW2019ではプロトタイプを発表予定です。4月からは大阪のホテルやAirbnbのホストさんのところで実証実験を行って、開発を加速していきます。 ──私も朝が苦手なので実装が楽しみです! では改めて、沢登さんの起業までのストーリーをお聞きしたいと思います。大学時代にはNHKロボコンで優勝、世界大会出場などを果たしていますよね。
東京大学でコンピュータ科学を専攻していました。サークルは「ロボテク」というロボット研究会で、私はソフトウェアエンジニアとして、ロボットの制御部分を開発していました。NHKロボコンに出場し、サークルの念願だった、初優勝も私たちの代で叶えることができました。 ──大学ご卒業後はどのようにキャリアを積まれたのでしょうか?
最初は飲食店で一年間働き、新規店舗や新業態の立ち上げなど企画に携わっていました。これまでやってきたことからするとちょっと唐突に聞こえるかもしれませんが、自分がつくった何かしらでお客さまが喜んでくれる様子をダイレクトに感じることができる飲食業に魅力を感じていて、いずれは自分で飲食店を起業しようと考えていたのです。ただ飲食業の現場の大変さに心身ともに疲れ果ててしまって……。それでマサチューセッツ工科大学発のロボット開発のベンチャーへ転職しました。そこでは産業用ロボットのコントローラーの開発をしていました。動作の制御をするエンジニアですね。その後独立して、前職の受託仕事をしながら、アプリ開発などをしていました。けれども自分の強みは「Webブラウザ・アプリケーションのエンジニアリングではないな」と思い悩んでいました。やっぱり自分は「ロボットなどのエンジニアリング」で、かつ「現場のオペレーションも把握している飲食」が自分の強みをもっとも活かせると思い、2017年4月にたこ焼きロボットの開発を始めました。
ロボットはハードウェアのエンジニアリングだけでなく、周りの設備やロボットを動かすアルゴリズム、戦略などのいろんな要素が絡み合った総合エンジニアリングなんです。これはロボコンも同じで、ある部分で勝っていても、例えばネジの強度が弱くて一本欠けてしまうだけで動かなくなります。ある部分でほころびがあるとそれだけで最下位になってしまいます。逆に戦略的に優れていれば、技術力はそれほどでも勝つことがあります。実際に私たちがロボコンで優勝したときは、技術力というより戦略で勝ちました。戦略+総合エンジニアリングがロボットの魅力だと思います。
効率だけでなくエンタテインメントも重視
──どういった流れでたこ焼きロボットに行き着いたのでしょうか?それまで私が開発してきた産業用ロボットは、基本的に皆さんから感謝されません。ロボットは作業ができて当たり前で、ミスをすると納入先からすごく怒られる。常に精度や速度などの厳しい要求がくるわけです。非常に厳しい世界だと感じていました。それと同時に、そのころの私は子育てに忙しい時期で、子どもにとってわかりやすい仕事がしたいという思いが自分の中に芽生えてきました。
悩んでいたときに子どもの友だちのたこ焼きパーティーに誘われて、子どもたちのためにたこ焼きを焼きました。やってみたら子どもたちがすごく喜ぶんですよ。こんなに見て喜んでもらえて、食べても喜んでもらえるものってないぞと。ロボットにたこ焼きを焼かせたら子どもたちは大喜びするのではないかと思い、すぐにプロトタイプを開発しました。それを『Startup Weekend Tokyo Robotics』というイベントで披露したら大いにウケて、さらにコンテストで優勝することができました。
それまでは、産業用ロボットをずっと開発してきたので凝り固まって、技術オリエンテッドなロボットを開発しようとしていました。初志に立ち返り、ダイレクトにフィードバックが得られる協働ロボットに行き着いたのは、大きな転機かなと思います。
──飲食以外には考えなかったのですか?
飲食店が大好きなので、それ以外は考えませんでした。“焼く”、“揚げる”という工程には、火傷の危険があります。時間もかかり火加減も常に見てなければいけませんが、それはロボットでもできます。演出面でも魅せることができる“たこ焼き”はピタリとハマりました。
──確かに鉄板の前は熱いですし、ロボットがたこ焼きをくるくる回すのは演出的にも映えますね。演出面では寿司などにも応用できそうですが。
寿司の場合、職人技をロボットで実現するにはまだまだ難しい状況です。ロボットの価値が発揮できるのは、とにかく速くネタを切って乗せるといったスピードの話になってしまいます。私たちがつくるロボットは、やっぱりワクワク感を提供していきたいですね。
ロボットが日本食を本当のグローバルに
──飲食店の過剰労働の軽減だけでなく、ワクワク感を演出していくのですね。「調理をロボットで革新する」というビジョンのもと、私たちの3つのミッションを実現していくつもりです。一つ目は飲食業で働く人を助けること。二つ目は日本食を世界に広めること。三つ目は、新鮮な食べ物を届けることです。たこ焼きなどつくりたてに意味があるものにフォーカスして、日本食の“美味しさ”を世界に届けていきたいです。
──世界への足がかりとしてSXSWへ出展するわけですね。今後の展望についてどのようにお考えでしょうか。
グローバル展開は非常に重要視しており、2020年までは日本でしっかりとしたビジネスの礎を築いて、それ以降は日本食というコンテンツを世界に広めたいと考えています。世界的にも日本食が広がっているトレンドがありますが、調理スタッフの不足でなかなか広まっていかないのが現状です。ロボットでトレンドを後押ししていきたいですね。
ゆくゆくは、ロボットが活躍できる”焼き物“や”揚げ物“といったジャンル、つまり焼き鳥や天ぷらなど日本らしいものをつくるロボットを開発していきたいです。それから、皿洗いなどもロボットができるようにして、飲食の現場の大変さを少しでも和らげて、キッチンを楽しく働ける場所にしたいと思っています。
ロボットは愛すべきツール
──ロボットと人との共生する未来については、どのように考えていますか?基本的にはロボットは人のために働く“ツール”であって、自動車に近い存在としてとらえるべきだと思っています。ロボットが身近な存在として近接感を醸し出すことは重要ですが、人が行っていた仕事を代替するロボットは、顔などの人っぽいアイコンは持たないほうがいいです。人は感情があり誤解をする生き物です。ロボットが顔を持つと人間そっくりのヒューマノイドになってしまうのでは? いつか裏切られるのでは? 人の仕事を奪ってしまうのでは? といった疑いを持つ人が出てきます。映画『ターミネーター』の世界のようなことが、実際に起こるのではないかという懸念を抱いてしまうわけです。 さらに冗談みたいな話ですが、ヒューマノイドに家事や仕事をやらせたら同情する人たちが出てくるのではないだろうかという意見もあります。「ヒューマノイドを奴隷にするな。ヒューマノイドにも人権がある」というようなことを言い出す人が出てくると、もっとややこしくなります。ヒューマノイドではなくて“ツール”にしておけば、そんなややこしいことにならないわけですよ。特に私たちが手がけているしているキッチン回りのロボットは、ヒューマノイドである必要性はまったくないと思っています。だから私は、ロボットは“ツール”であるべきだと思っています。愛される“ツール”であるべきだと。自動車も“愛車”という言葉もあるように、 “ツール”ですが愛されているのと同様です。
──貴社の目指す“すべての人がロボットと楽しく暮らす豊かな未来”が実現する日が待ち遠しいですね。お話ありがとうございました。