──マルチサイズというサービスはどのような経緯で生まれたのですか?
外村サイズを理由に、好きな服を着られない人をなくしたいという思いからスタートしました。ZOZOが掲げる、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という企業理念にも通じるところがありますね。これはファッションアイテムすべてにおいて言えることですが、ファッションに気を使うとき、デザインだけでなく、サイズ感も合っていれば、よりカッコよく、よりおしゃれに見えると思います。

しかし、洋服のサイズはブランドによってバラバラなことも多いですよね。同じMサイズのTシャツでも、着丈60センチの場合や75センチの場合などがあり、そのサイズは一律ではない。だから、「モデルが着用した写真を見て購入したけど、自分で着てみるとイメージと違う…」という経験がある人も多いのではないでしょうか。

そもそも、一般的に服のサイズはS・M・Lなど3サイズ程度での展開が多いと思います。しかし、背の高い方や低い方、がっちり体型の方、細身の方など、さまざまな体型の人がいるなかで、3サイズだけではどうしてもカバーしきれない体型も存在しているのです。にもかかわらず、ファッション通販では服を試着することはできません。つまり、洋服のサイズはファッション通販において、商品を購入するための一つのハードルになっているのです。そこで生まれたのがマルチサイズのサービスでした。

これまで、ファッション通販の入り口は「サイズ」ではなく、「欲しい商品」が先にありました。自分に合うサイズを選んでから服を探すのではなくて、欲しい服があった上で、最後にサイズを選ぶので、欲しい服は決まっているのにサイズに悩むというケースも多かったと思います。しかし、マルチサイズのサービスに対応した商品では、商品画面上で身長と体重を入力するだけで自分にあったサイズがすぐにわかるので、サイズに悩む心配がありません。なお、そこで表示される商品たちは、各アイテムにつき、約20~50種類以上のサイズで展開されています。マルチサイズのサービスでは、それらの商品から一人ひとりに最適なサイズを提案しているのです。このサービスは、以前当社が手がけていた体型サイズを計測するための採寸用ボディースーツ・ZOZOSUITで蓄積した100万件以上の体型データを活用することによって実現しています。
マルチサイズの商品一覧イメージ。「マルチサイズ」というタグが付いた商品が、マルチサイズ対応商品の印になる
マルチサイズの商品一覧イメージ。「マルチサイズ」というタグが付いた商品が、マルチサイズ対応商品の印になる
自分の身長と体重を入力することで自分に合ったサイズの商品が表示される
自分の身長と体重を入力することで自分に合ったサイズの商品が表示される
──マルチサイズのサービスを進める上で、リーバイスとの協業に至った理由を教えてください。
外村:マルチサイズのサービスを展開していくために、まず初めに注目したのがジーンズでした。以前当社が手がけていた、マルチサイズの前身となる、プライベートブランド「ZOZO」(以下PB)を展開していた際、もっとも販売点数が伸びていたのがジーンズだったからです。PBでは当時から、ZOZOSUITで計測したデータを活用して、お客さま一人ひとりにオススメのサイズを提案するサービスを展開していました。

しかしジーンズは、購入後に裾上げが必要なケースが多いこと。また、裾上げをしたとしても、裾に入っているダメージ加工やウォッシュ加工が失われてしまい、商品本来のシルエットやデザインを楽しめないこと。このような要因があり、通販では買いづらいと感じる方もいらっしゃったと思います。

一方PBでは、ジーンズだけで数千サイズを展開しており、ZOZOSUITでの計測結果をもとに通販でジャストサイズの商品を購入できる点に好評をいただいていました。そのため、PBの後継サービスであるマルチサイズのサービスでも、ジーンズはいち早く取り組むべきアイテムの一つでした。その際にパートナーとなっていただくブランドを考え、一番初めにお話をさせていただいたのがリーバイスでした。リーバイスのジーンズは、一家に一本と言っても過言ではないくらい、多くの方に長い間愛されているメーカーであると思います。ぜひ、協業してジーンズのマルチサイズ化を実現したいと思い、ZOZOからリーバイスへお声がけしました。
ZOZO 外村亘さん
ZOZO 外村亘さん
──ZOZOから協業の話を受けて、リーバイス®での第一印象はどのようなものだったのでしょうか?
佐竹:第一印象からとても前向きに提案を受け止めていました。実はリーバイスでも通販における商品の返品率に課題を感じていたのです。特に、本社のある本国のアメリカでは、日本以上に返品率が高い状態で、経営課題の一つとなっていました。そのため、マルチサイズのサービスは、ファッションサービスの抱える課題の突破口になるのではないかという期待があり、ZOZOとのマルチサイズでの協業に着手することになりました。とはいえ、いままでまったく取り組んでいない方向でのアプローチであったため、苦労する面もありましたね。

──それは具体的にどのような部分に苦労されたのですか?
佐竹:そもそもですが、ZOZOからのサイズ展開に関するリクエストに対応することが容易ではなかったです。リーバイスのブランドでは、通常の商品だと、1つの商品に対して、メンズで7~8種類のサイズを展開しています。しかし、マルチサイズでは1つの商品で36種類のサイズを用意する必要がありました。つまり通常の4倍以上のサイズを展開しなくてはいけなかった。だから、通常の商品の生産ロットでは対応が難しかったのです。つくり過ぎても在庫を抱えてしまうリスクがあるわけですからね。適正な数量の生産とそのスピードを、工場と調整することがはじめの難題でした。

また、実際の商品のクオリティーにも難しい課題がありました。通常、商品を検品する際には、ウエストと股下の2点を計測して、規定以上の誤差がなければ、その商品を出荷しますが、マルチサイズの商品には全部で7点の計測ポイントがあるのです。また、ジーンズはその特性として加工を入れる際に生地が縮んでしまう、というポイントがあります。そのため、ほかのアイテムよりも商品のサイズに個体差が生じやすいのです。この誤差をいかに出さないようにするかも苦労したポイントでした。これらの問題をなんとかクリアし、2020年2月にマルチサイズのジーンズの提供へこぎつけました。

──マルチサイズの商品の提供をスタートして、その反響はいかがでしたか?
外村:想定を上回る反響がありましたね。当初は、メンズとウィメンズでそれぞれ1種類のシルエットの計2型を展開し、メンズ36種類、ウィメンズ28種類の合計64種類のサイズで取り扱いをスタートしました。その後、シルエットを増やしてほしいという声を多くいただき、シルエットを6型追加して、2020年11月現在では計8型のシルエットで商品を展開しています。大変多くの方にご好評をいただいており、在庫がほとんどないシルエットも出てきている状態です。

佐竹:また、先ほどお話した商品の返品率に関しては、通常のS・M・Lの3サイズ展開の商品とほぼ同水準をキープできています。「3サイズ展開と同じでは、返品率の問題は解決していない」と思われる方もいるかもしれません。しかし先述のように、マルチサイズでは通常の商品よりも4倍以上多くサイズを展開している商品もあります。それらの商品を手に取るお客さまは過去に、商品のサイズが合わなかった経験を持つ方などもおり、サイズに対してシビアな評価をくだす方が多いかと思っています。そのような状況で、通常の3サイズ展開の商品と同程度の返品率になっていると、私たちは考えています。もちろん、返品率が0%ではない以上、まだまだマルチサイズのサービスには改善点が多くあるとも思っています。そのため、返品率0%を目指して、さらなる改善をし、サービスの質を高めていくつもりです。

──具体的にどのような部分に課題があるのでしょうか?
佐竹:商品の生産体制には、まだ改善の余地がありますね。先ほど外村さんが話したように、マルチサイズ対応商品のページでは、初めに自分の身長と体重を入力します。その上で自分に合ったサイズが表示されるのですが、売れ行きの良い商品は在庫が少なく、在庫のない商品は一覧には表示されません。この商品の表示数が少ない状況が長ければ長いほど、サービスのレベルが低くなってしまいます。だからこそ、まずは早急に商品を生産できる体制を整えることが目先の課題の一つですね。
リーバイ・ストラウス ジャパン社 佐竹良介さん
リーバイ・ストラウス ジャパン社 佐竹良介さん
外村:生産上の課題は、ZOZOとしても最重要課題だと捉えています。マルチサイズの商品はサイズ数が多い分、特に人気商品では欠品サイズが多くなっています。そのため、自分のサイズがあると期待して見に来てくださったお客さまを、在庫がなくてがっかりさせてしまうことがまだまだ多くあります。一方で、商品をつくりすぎて商品在庫が余ってしまうリスクのあるサービスでもあると思います。現状のアパレル業界では過剰生産という課題を抱えていますが、そうならないように、適正量を生産しながら、サービスレベルの向上に努めていくことが大事だと考えています。

このような課題を解決するための一つの取り組みとして、マルチサイズでは一部の商品で受注生産対応を行っています。受注生産では、お客さまの注文に応じて生産をするため、過剰生産になるリスクなしでサイズ欠品の問題も解消することができます。まだまだ全商品での対応には至っておりませんが、生産体制の強化と合わせて、課題解決、サービスレベルの向上に努めていきたいと思っています。


──それでは最後に、マルチサイズの今後の展望を教えてください。
外村:私たちZOZOとしては、リーバイス®をはじめとした、各ブランドから力をお借りして、マルチサイズの価値をさらに世の中に広げていきたいですね。マルチサイズには、まだまだ伸び代がありますので、それをどんどん引き出していきたいです。リーバイスとのマルチサイズの商品も、さらなる付加価値を提供できる企画を現在進行しています。ぜひこちらも楽しみにしていてほしいです。

ほかにも、心からファッションが好きな人たちへのアプローチも強化したいと考えています。大衆に向けた商品とはまた別に、いわゆるファッションフリークに刺さるような、ひとクセあるサービスも展開していきたいですね。さまざまなマルチサイズ対応した商品を提案し、より多くの人にファッションを楽しんでもらいたいです。

佐竹:現在、リーバイス®の商品は、8種類の商品がマルチサイズ化できていますが、まだマルチサイズ化できていない品番が多く残っています。いずれはお客さまからニーズのある商品をマルチサイズ化していきたいと考えています。

また、今後はサイズだけでなく、好みのダメージ加工やウォッシュ加工が通販上できるサービスがあったら面白そうですよね。マルチサイズのサービスもそうですが、さまざまなものがパーソナライズ化されている時代です。ジーンズも、より自分好みのカスタマイズが気軽に体験できるようになれば、さらにファンを増やしていけると考えています。より多くの人にジーンズならではの楽しみ方を知ってほしいですね。

リーバイス®の自社ECの購入層は30代後半から40代、50代が多く、この世代の方たちは、新品のジーンズから色が落ちる過程を楽しんだり、古着屋で好みのデニムを探したり、という経験をした人も多いと思います。だからZOZOTOWNで買い物をする若い世代の方たちにもジーンズをより好きになってもらいたいです。ジーンズって、すごく奥深い世界を持つ洋服だと思いますので。

──マルチサイズのサービスを通して、リーバイスとZOZO、それぞれの目線からお話を伺いました。ファッションを取り巻く業界も日々変化を続けています。メーカーのリーバイスと、ファッションECサイトを運営するZOZO、それぞれがどのように変化していくのか。これからも楽しみです。お話いただき、ありがとうございました!
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