代替肉が必要な理由

──ネクストミーツで行なっている代替肉事業とは、どのような事業なのか教えてください。
代替肉とはその字の通り、既存の牛肉や鶏肉、豚肉など動物の食用肉に代わる食品のことを指します。一般的には、大豆などの植物性タンパク質を用いたプラントベースで開発されているものが多いですね。また動物細胞を培養して、クローンのような形で肉をつくりあげていく培養肉事業も存在しています。現在当社では、この前者にあたる植物性タンパク質を用いた代替肉の開発を行なっています。

そして、なぜ代替肉事業というものが生まれたのかというと、それは温室効果ガスによる地球温暖化や人口増加による食糧危機の解消が目的です。また、さまざまな事情で動物の肉を食べられない人たちへのタンパク質の摂取源となることなども挙げられ、多様な理由から代替肉の開発が進められています。そして、当社が代替肉開発を進める一番の理由は、地球環境の悪化を防ぎ、その未来をより良く変えていきたいと考えているためです。

──どうして代替肉の開発が地球環境を守ることにつながっていくのでしょうか?
大きな要因として取り上げられるのは、現在地球上で行われている「畜産」の問題点を解消できる可能性があるからです。近年行われている研究によると、いま世界中の畜産業界が出している二酸化炭素の排出量は、地球全体での排出量の15%を占めていると言われています。15%と言われてもあまりピンとこないかもしれませんが、世界中の輸送業界が出す二酸化炭素の排出量も同じく15%程度と言われています。つまり、自動車の排気ガス中に含まれる量と、同じくらいの二酸化炭素を畜産業界からも排出しているのです。

なぜここまで畜産業界が多くの二酸化炭素を排出しているのかというと、家畜を育てるために多くの資源を用いていることが挙げられます。莫大な土地や餌が必要ですし、水もたくさん使います。そして家畜が出した糞などの処理にも多くのコストがかかります。極めつけに、牛が出すゲップには多量のメタンが含まれるため、非常に多くの二酸化炭素が排出されます。これらの理由から、畜産がかける地球環境への負荷はとても大きいのです。

だからこそ、私たちは現状の畜産を少しずつ、代替肉に置き換えていきたいと考えています。そうすれば二酸化炭素の排出量を減らしていくことができ、地球環境を守ることにつながります。「地球を終わらせない。」当社ではこのビジョンを掲げ、この先の地球の未来をつくっていきたいと考えています。
──そのようなビジョンを掲げているネクストミーツでは2021年3月現在、代替肉を使用したハンバーガーや牛丼、ハンバーグ、焼肉などを提供しているかと思います。これらを開発したのはなぜですか?
初めにリリースしたのはハンバーガーだったのですが、これは世界の基準に合わせることを意識していました。プラントベースのハンバーガーの開発には、世界中の多くの代替肉の事業社が着手しているんです。だから、まずは私たちもそこにラインを合わせて取り組みました。その後に牛丼やハンバーグ、焼肉を選択したのは「和食」という部分にフォーカスした結果でした。

海外の代替肉の事業では、ソーセージやハムなど加工肉を手がけている会社が多くあります。いわゆる加工肉と言われるもので、確かにこちらのほうが開発はしやすいんです。ミンチ肉でつくるため、見た目も成形しやすいですからね。しかし、それでは日本で代替肉事業に取り組む私たちのアイデンティティを発揮できないと考えました。日本で取り組むのなら、「日本の家庭に馴染みがある料理を手がけてこそ、価値を発揮できるのではないか」と方針づけたのです。牛丼や焼肉などは近年の日本食を代表するものとして、海外でも定着していますし、加工肉をメインに手がけている会社と差別化することもできます。これらの理由から、現在リリースしたメニューの開発に着手しました。

──代替肉で日本食メニューを再現する際にこだわりのポイントなどはありますか?
私たちが一番こだわっているのは「食感」です。本物の肉の食感を出すために、多くのトライ&エラー繰り返して開発にあたりました。プラントベースの代替肉は、肉に比べて柔らかい食感になってしまいがちなのです。そのため肉が持つしっとりとしていて弾力がある、あの独特の歯ごたえはかなり再現するのが難しい。私たちはその部分を少しでも近づけるべく、原料の配合から加工工程まで、かなりこだわってその再現にあたりました。また、味付けについても豆くささが少しでも抜けるよう、努力していますね。

私たちがここまで食感や味にこだわる理由は、最低限おいしく食べることができないと、代替肉はサステナブルな事業にはならないと考えているからです。たとえどれだけ環境に良い代替肉を開発したとしても、肝心の味がおいしくなければ誰も続けて食べようとは思わないですよね。ただでさえ豊富に食べ物が溢れている時代ですから、現代人は相当舌が肥えています。その舌を納得させられないと、代替肉はいつまで経っても生活のなかには浸透していきません。私たちが目指しているのは、ただ環境に良い代替肉を開発するだけでなく、きちんと人の生活の選択肢として、定着するものの開発なのです。だからこそ、おいしく食べられるということも、この事業の前提に置いています。
ネクストミーツで開発した、「NEXT牛丼」シリーズ
ネクストミーツで開発した、「NEXT牛丼」シリーズ
──ネクストミーツが開発した代替肉の焼肉は、焼肉店の「焼き肉ライク」でも提供されていますよね。疑問なのですが、焼肉店において代替肉のニーズはどのようなところにあるのでしょうか?
焼肉を食べている際に経験したことがある、食後少し物足りないとき。「もう少し食べられるけど、普通の肉では胃がもたれてしまいそう…」。そんなときに追加オーダーで注文されているそうです。また、いままで焼肉店に行ったことがなかったヴィーガンの方や、宗教上の問題で動物の肉を食べることができない方など。さまざまな事情でいままで焼肉店に行けなかった人たちが行けるようになったケースもありますね。

私たちが最初のステップとして目指しているのは、ノンアルコールビールのようなポジションです。ノンアルコールビールも出始めのころは、取り扱うお店も多くはなかったですが、いまではほとんどのお店で売っていると思います。私たちが開発する代替肉も、まずはそこのポジションに持っていくつもりです。さらに今後は、焼肉店に限らず、牛丼屋やハンバーグ屋などの外食店、そしてスーパーなどにも置いていただけるようにしていきたいと構想しています。

──では逆に、代替肉事業の問題点や改善点などはあるのでしょうか?
代替肉の事業にはまだまだたくさん課題があると思っています。まず一つは費用の面です。現状、普通の肉よりも代替肉の値段のほうが高いため、コスト面をいかに切り詰めていくのか。この課題は世界中の代替肉事業者が抱える問題となっています。

もう一つは代替肉の味です。いまはまだ肉に味をどのくらい近づけられるかに、かなりの技術投資をしています。先述のように、おいしくなければ人々の生活に受け入れられていかないと思いますから、日夜試行錯誤を続けています。ただ、私たちは肉の味に近づけることをゴールには設定していません。私たちは代替肉を普通の肉よりもおいしい食材として、新しいカテゴリーを確立することを目指しています。現在、代替肉と名称をつけてはいますが、なにも既存の肉が持つ味や食感に収まる必要は決してありません。普通の肉以上においしい代替肉をつくれれば、好んで代替肉を食べてくれる人もきっと増えていきます。そうすれば、普通の肉以上に代替肉を食べてくれる人が多い世界もきっと実現できる。だからこそ、肉を超え、進化した代替肉をこの先開発していきたいですね。

地球環境を守るための事業規模

──佐々木さんはどのような経緯で、代替肉の事業を手がけるようになったのですか? 以前は理系の大学で研究職などをされていたのでしょうか?
いえ、そういう経験を私は持っていません。それどころか私は高卒で仕事をするようになったので、大学にすら通ったことはなかったです。昔から自分のやりたいことをとことんやりたい性分であったので、高校を卒業してから個人事業に取り組んでいました。はじめはホームページをつくるWebデザイナーからキャリアをスタートさせ、その後キッチンカーの事業をするようになりました。キッチンカーを1年半くらいやったころ、縁があり「中国で一緒に事業をやらないか」と知り合いに声をかけてもらいました。そして、2008年ころに中国へ渡り、さまざまな仕事をするなかで出会ったのが代替肉の事業でした。

中国で仕事をしていたころは、多様な新規事業に携わせてもらう機会がありました。そのなかで次第に私は、社会貢献性のより高い事業を手がけたいと思うようになり、地球環境に寄与する事業をしたいと考えました。しかし、地球環境に関わる事業は、国や政府が取り組むような巨大な規模での取り組み、もしくは「環境に良いグッズ」をつくって消費者に売るなどの事業規模の小さい取り組みと、両極端。なかなか自分たちが目指すスケールでの事業を見つけられずにいました。だから、初めて代替肉の事業を知ったときはすぐに「これだ!」と思いましたね。まだ取り組みを始めている企業は多くないけれども、社会貢献性がものすごく高い。かつ民間企業でも上手な方法でビジネスにできれば、強い推進力を生み出すことができる。とはいえ、自分は研究者でもなかったので、なにもかも0から始めなければいけませんでした。その準備に3年近く時間をかけ商品化の目途が立ったため、昨年2020年6月に法人化へと至ったのです。

──そのような経緯で事業の立ち上げに至ったわけですね。中国でのご経験は佐々木さんのなかでも大きいものでしたか?
中国では深センで生活していたのですが、とにかく物事に対するスピード感がとてつもなく速い。いまでは、シリコンバレー以上にスピード感があると話す人もいるくらいです。そこで経験したスピード感を活かして、ネクストミーツの事業にも取り組んでいます。

あとは海外に行って、「海外の人たちがどのように物事を考えているのか」「どのようなものを見ているのか」そして「外から日本を見ると、どんなふうに見えるのか」を知りました。これらのことを知れたのはすごく大きかったと思っています。日本だけしか知らなければ、やはり日本のなかでのスケール感が物事を考える上での基準になってしまいます。このこと自体に正解や不正解はありませんが、地球環境などの社会貢献性の高い事業に取り組むのなら、世界のことも視野に入れていかなければいけないと思っています。そうでなければ本当の意味での社会貢献ができる事業にはならないのではないでしょうか。

また資本規模に関していうと、日本のスタートアップ企業と海外のスタートアップ企業ではまったくその大きさが異なります。日本では成長に大きく時間がかかる場合がほとんどですが、海外ではもっと早く資金調達を進められる環境がある。ビジネスである以上、その環境の違いはとても大きい。世界で戦える企業を目指すのならその違いを知る必要があるんです。当社も世界規模でビジネスを拡大していきたいと考えており、2021年1月にNEXT MEATS HOLDINGSとしてアメリカの証券市場に参入しています。

──日本だけの問題でない以上、世界にスケールを合わせた事業をネクストミーツでは展開しているのですね。最後に、ネクストミーツがこの先どのような未来を目指していくのか教えてください。
2020年12月に、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。これは2050年までに脱炭素社会を目指していくための戦略ですが、ネクストミーツでも同様に2050年までにすべての肉を代替肉に置き換えていくことを一つの目標に掲げています。とはいえ、それは既存の畜産業界をすべて駆逐していく、ということではなく彼らと一緒に、よりサステナブルなシステムを構築できるよう考えていきたいと思っています。そのためには、植物性の代替肉だけでなく、培養肉の分野まで、いずれは事業領域を拡大させていきたいですね。地球環境を未来に残していくために、食用肉のパラダイムシフトを起こすことをこの先も目指していきます。

──代替肉がなぜいま必要なのか。その理由や事業の実態について、佐々木さんにお話いただきました。多くの人が好きであろう、食用肉がこの先の未来にどのように変化していくのか。要注目です。本日はお話いただき、ありがとうございました!

※2021年3月18日 一部脱字があったため内容を修正しました。
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