茂森:まず最初に、オプティマインドはどんなことをしている会社でしょうか?

松下:物流量が莫大に増加している中で、物流会社は深刻な人員不足という問題を抱えています。「宅配クライシス」なんて言葉も生まれていますが、そのような問題を解決するために、配送ルートの最適化をブラウザで行えるクラウドサービス「Loogia(ルージア)」を開発し、提供販売をしています。

配送ルートの最適化というのは、人工知能を活用して最適ルートを算出し、配送ドライバーに提供できるシステムのことです。その中でも我々はラストワンマイルに特化しています。例えば、ここは左付け、この先はUターン禁止、ここは一時停車OK区域、といったドライバーの経験則をデータ化し、配送区域を最適化した地図の作成をしています。人手不足による人員不足に加え、ドライバーの高齢化によりノウハウの引き継ぎができない中で、そういったノウハウをインフラ化することができれば、社会的課題の解決になるのではと考えています。「世界のラストワンマイルを最適化する」が我々のミッションなのですが、そこを突き詰めていくつもりです。
茂森:「世界のラストワンマイルを最適化する」というミッション、わかりやすくていいですね。

松下:ありがとうございます。何をしている会社なのか、社員が誇りをもって言えないとダメだと思っていて、わかりやすいミッションを掲げています。実はこのミッション、最初は長ったらしく「数%でもいい。より快適な世の中にするために、世の中のヒトとモノの移動をアルゴリズムの力で、しっかり“最適化”をする」だったんです。それに対してメンバーからも「数%で妥協せずにいこう!」などとポジティブな意見も上がり、今の形に着地しました。

茂森:削り落とされてシンプルになっていったんですね。HPに書いてある「物流に、革命を。」は……?

松下:これはブランディングのためのコピーですね。日本郵便オープンイノベーションプログラムで優勝できたのは、この言葉があったからです。今までまったく注目されていなかったのですが、このコピーのおかげで「物流AIベンチャーならオプティマインド」というポジションを確立することができました。

最適化に惚れ込んで、起業

茂森:松下くんはまだ名古屋大学の大学院生でもあるんですよね。そもそも起業をしたきっかけはどのようなことだったのでしょうか? 

松下:大学1年生のときに「最適化」という技術に惚れ込んだことがきっかけです。自動車の部品を用意するために1枚の鉄板をどう切り取れば無駄がなくなるか。これが最適化です。今まで微分積分や行列計算など、役に立つのかわからないものばかりを勉強してきましたが、この組み合わせ最適化という学問は世の中のためになるぞと。この時点では起業なんて考えてもいませんでした。このため最初は企業に入ろうと思っていたのですが、学生のうちから「最適化」が社会にどれだけ価値があるのかを検証しようと思い、企業に対して最適化のためのコンサルティング提案をしていたんです。ただ相手企業から、法人対法人でないと契約書を結べないと言われ、それならば起業するかと思い、今に至ります。

茂森:学問に惚れ込んで、知識を検証したくて起業に至った。行動力が素晴らしいね。でも紆余曲折があったんじゃない?
松下:今のオプティマインドにたどり着くまでにいろいろありました。それこそ茂森さんをはじめ、名古屋で活躍する企業の経営者の諸先輩方に相談をしたことは懐かしいですが、2回ピボットしました。最初は製造業の最適化コンサルをしていたのですが、売り上げが立たずでピボットして、次は教授と学生がインタラクティブにやり取りをして授業を進められる「Re:act」というサービスを立ち上げました。結局このサービスも収益を上げるまでには至らず再ピボットしました。改めて我々の強みは何かを見つめ直して、やっぱり「最適化だ!」と思い直し、物流の最適化にたどり着きました。
茂森:そういえば、最初は現在の事業モデルではなかったね。名古屋大学発のベンチャーが増えてきていますが、名古屋大学だからこその強みのようなものってありますか?

松下:地域柄、製造業や自動車産業が盛んなため、自動運転やラストワンマイルについて名古屋大学は他の大学に負けない優位性を持っていると思っています。また名古屋大学は、Tongali(とんがり)プロジェクトと称し、起業・ベンチャー支援をしていて、プロジェクト発のスタートアップがどんどん増えています。

茂森:松下くんが起業した次の年(2016年)に、Tongaliプロジェクトが発足しているよね。オプティマインドは言ってしまえば先駆けみたいな感じですね。では次にオプティマインドの今後について、今は「世界のラストワンマイルを最適化する」というミッションを掲げていますが、今後はどのようなチャレンジをしようと考えていますか?

松下:5年、10年後には、「物流のラストワンマイルだけでなく、ラストワンマイルの人や物のすべての移動の最適化といったらオプティマインド」と言われるくらい突き抜けていきたいです。ラストワンマイルから始まり、我々の組合せ最適化技術をはじめとする保有技術を活かして、街全体の最適化もしていきたいですね。

ラストワンマイルの先

茂森:ちなみに物流の世界は今後どのように変化していくと予想していますか?

松下:まず大量の集荷を運ぶ幹線輸送は自動化されるだろうと予想しています。ただそのあとのラストワンマイルをドローンで自動配送することは、まだまだ現実的ではないと見ています。ドローン配送も一定の拠点間では実証実験が済んでいますが、電線などの安全面の課題が残っているからです。

これらとは別に、いま当社でもっとも注目しているのが、ラストワンマイルよりさらに短いラストワンヤードです。自動運転輸送やドローン輸送が普及し、家の前まで荷物を届けることができるようになったとしても、受け取り手が不在では荷物の受け渡しができません。だから、軒先で荷物を受け取る犬型ロボットなのか、ドローンが着地するヘリポート式の宅配ボックスなのか、そういったラストワンヤードの整備が今後必要になっていきます。
茂森:今の話で興味深かったのがドローンについて。競合かなと思っていましたが、オプティマインドはどう捉えていますか?

松下:ラストワンマイルもラストワンヤードも完全にドローン配送のみになってしまったら、オプティマインドの役目はなくなってしまいます。けれども、ラストワンヤード部分にのみドローンが利用されるのなら協業できると考えています。実際にドローンは何十キロも離れた場所に配達することが現実的ではないため、配送トラックを拠点にし、ラストワンヤードをドローンが配達するといった未来がくることが予測できます。そういった世界なら、トラックとドローンのルート算出などで協業できるかなと。

茂森:なるほど、そういったすみ分けがされるわけですね。

松下:ちなみに配送拠点の話で、もう一つ面白いと感じているのが、“ダークストア”です。ショッピングモール内の使われていない売り場を倉庫にするという考えで、ラストワンマイルにアプローチする前にもう一つ配送拠点を構えようというもの。これのなにが面白いかって、ショッピングモールの中なので、大型トラックを横付けできるし、荷降ろしする設備も備わっているので、倉庫を新設するより効率的なんです。だから、水面下で、そのダークストアをさまざまな企業が注目し、活用を始める動きがあります。

より複雑化する物流に最適化が活かされる

茂森:面白いね、そんな動きがあるんだ。ちなみに宅配物の受け渡しにフォーカスして、宅配ボックスについて松下くんはどう認識していますか?

松下:CtoCサービスが広がっていくと圧倒的に物流量は増えていきます。ただ人口減少によって物量は減っているのが現状です。物量と物流量の違いは、例えば、本を3冊輸送するときに物量は3ですが、物流量は、まとめて送れば1に、3回に分けて送れば3になります。こうした状況でなにが起こるか。それは利幅が減って、かつ複雑になっていく世界です。こうしたラストワンマイルの危機がすでに到来していると感じておりますし、今後さらに深刻化すると予想しています。

茂森:そのなかでオプティマインドの担う役割は重要なわけですね。そういえば、物流業界が法改正で変わると聞きました。そこにビジネスチャンスがありそうですが、どうでしょう?

松下:法改正次第ですが、貨客混載の時代がくるのではないでしょうか。人とモノを一緒に運んでいい時代です。極論を言えば、帰り道に呼んだタクシーの中で、宅配荷物を受け取ることができるようになります。そうなると、移動や物流がより複雑になりますよね。そこで我々の「ルートの最適化」が活かされる、ビジネスチャンスになると思っています。

ネガティブにとらわれるな

茂森:これからの名古屋のスタートアップ企業はどうなっていくと思いますか?

松下:今、名古屋の資金調達額は全国2位なんです。にもかかわらず名古屋ではビジネスがやりにくいという固定観念にとらわれています。行政も盛り上げたいと言いながら、「名古屋はスタートアップが少ない」という課題感を全面に出してしまうことで、結果的にネガティブキャンペーンのようになってしまったりもします。だからこそ声を大にして言いたいのは、名古屋の市場は資金調達が続きスタートアップにとって活況で、また大企業も多いためBtoBマーケットも魅力的だということです。つまり“名古屋は激アツ”なんです。あともう一つ、東京ばかりを見るのではなく、世界を見ていかないといけません。そういった意識をスタートアップはもちろんのこと、行政も持ってほしいですね。行政が動いてくれないのであれば、世界に出てしまうという判断をする起業家もいると思うので。

茂森:行政にスピード感がないなら名古屋を見捨てて世界に出ていってしまうというのは恐ろしいね……。あと名古屋の東京へのコンプレックスは本当にわかります。東京と大阪に挟まれた恵まれた立地で、さらに大企業も多い土地なのに。もしかしたら教育の問題かもしれないですね。それなりに恵まれた環境にいて、挑戦することに対してネガティブになっているような気がします。けれども、今は名古屋大学発のTongaliプロジェクトなどを通して、挑戦することへの土壌が少しずつ耕されているのかもしれないね。

松下:まさにその通りで、名古屋でも高校生のうちから起業する人とかも出てきています。つまり、起業という選択肢が頭の中にインプットされているんです。あとは、そんな芽を潰さないようにサポートしていくのが、我々の役目だと感じています。実際に、僕も茂森さんのような兄貴分たちにすごく良くしてもらったので、今度はその感謝を下の世代に還元していけたらいいなと。

逆に僕から質問してもいいですか? 僕たちの世代よりも一歩先を歩いているからこそ、我々がまだ経験していない悩みなどもあると思うのですが……。

茂森:僕らがWeb制作会社を起業したときとは、とにかくこれから起こるインターネット時代の変化を毎日感じて、期待感を持ってみんな同じ目的に向かって、寝る間も惜しんで働いていました。けれども、いまはコモディティ化して、Web制作も当たり前になってきました。そのような状況で、みんなの目的を集中させるのは本当に難しい。だからこそ会社としてのミッションやビジョンをしっかり定めて、さらには社員のパーパス(存在意義)も考えて、時代に合わせて微調整していくしかないと思っています。

あとは社員の状況も変わっていくことも忘れてはいけなくて。結婚して家庭を持ったり、親の介護をする必要が出てきたりと、起業当初とは様変わりするよね。モチベーションの維持が難しくなる中で、もう一度全社のマインドを合わせて前進できるのかという試練にも対峙すると思います。
松下:ウチの会社もいずれぶち当たるわけですね……。

茂森:まあ、でも今は突っ走るほうがいいと思います! 最後に、松下くんの人生についてというか、これからについて聞かせてほしいな。

松下:まずは今の事業をちゃんとやりきりたいです。海外展開も見据えていて、世界中どの街を走っているトラックでも、当社のサービスが入っているような状況にしていきたいです。その世界の実現を目指して人生をかけて頑張ろうかなと。その先はわからないですが、シリアルアントレプレナー的に新しい事業を立ち上げるよりは、今の事業を大きくすることに集中していきたいです。

茂森:久しぶりに松下くんにお会いしましたが、不透明で予測不可能な未来に対し、エネルギーに満ち溢れているね。つい7~8年ほど前まで「名古屋にはスタートアップは生まれにくい、育ちにくい」といった噂がありましたが、それをあざ笑うかのように、多くのベンチャーマインドを持った若者たちが育ち、「未来への希望」を感じました。労働への価値観が変わり、地域に根ざす若者が希望を持つことで、ますます名古屋圏が活性化していきそうで楽しみです。

※出典:entrepediaによるレポート「Japan Startup Finance 2018 H1の2018年上半期地域別調達額(2018年8月12日現在)」
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【ナビゲーター】
茂森仙直
アクアリング 代表取締役社長。大学を卒業後、人材系会社を経て、2001年アクアリング入社。​IMCを視野にデジタルコミュニケーションを主力とするチームを指揮。WeBBY awards、Singapore Good Design Mark、Web Grand Prix、文化庁メディア芸術祭、DIGITALSIGNAGEAWARD等受賞。​ボルダリングとデジタルを掛け合わせたARボルダリング「WONDERWALL」で2017、2019年日経トレンディベストヒット予想コンテツに選出。​地元滋賀長浜と現在居住の名古屋の発展を目的に街づくり活動にも尽力。2014年よりStartup Weekendでコーチ・審査員も務める。​2019年8月より現職に。
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