──まずはキャリアについて。noteの京樂さんからお願いします。
京樂:今、noteの事業開発部門にいます。法人向けメディアメニューの開発が主な仕事になります。

新卒では、三越伊勢丹の社内シンクタンクでマーケティングをしていました。消費者やトレンドの分析などを手がけました。百貨店のデジタル化の波が2000年代後半にやってきて、デジタル系の新規事業開発を研究所や本社で担当しました。その後、独立系のクリエイティブエージェンシーに転職し、そこでは直クライアントで、ファッション・リテールなどのブランドやコミュニケーション戦略の仕事をしていました。

noteに来たきっかけもお話しします。三越伊勢丹研究所は当時、衣食住のたくさんのブランドを研究、検討する部署で、ブランドをより良くしたい、より多くの人の手に取ってもらえる、良いブランドを届けることに強い思いが芽生えました。次のクリエイティブエージェンシーで、ブランドの認知・理解を高めるマーケティング活動を行いましたが、SNS広告、Web広告に接点が集約されている現状ではクリエイティブの余地がないなと感じました。高感度消費財の「良い体験」を通じて、そのブランドの深さを知らせたいのに、瞬間的な接点しかない。もっと接点自体が豊かになれないのだろうか。そんな課題を感じ始め、何らかの事業開発ができるといいなと思っていました。

noteは外資系とは異なり国産のSNSなので、マーケティングに使うタッチポイントを自主的に自由に開発・設計できる。2000~3000文字を書いて読むのが当たり前なので、滞在時間が長く、エンゲージメントが高い。企業や商品ブランドと個人がつながる場にできれば、そのブランドにとってはとてもいい場になる。そんな思いがあって、noteに入社し、今はその延長線上で、note Brand Storyの開発に関わらせていただいています。
──文藝春秋の高橋さん、キャリアについてお願いします。
高橋:私は新卒で文藝春秋に入社して、Number編集部、CREA編集部、月刊文藝春秋編集部を経験して、宣伝プロモーション部などを経て、現在はメディア事業部です。主な今の仕事は、雑誌Number、Number Webの広告営業と、広告記事の制作をしています。note Brand Storyの第1回がNumberとアンダーアーマーさんのジョイントでしたが、その担当を私がいたしました。note Brand Storyは新しいブランド発信の場として、文藝春秋だけでなく、将来的にはもっと多くの出版社に関わっていってほしいと思っています。
──それでは、note Brand Storyについてお話を伺っていきます。
京樂:2021年11月末にnoteの新事業の柱の1つとしてリリースしました。基本的に編集のプロフェッショナルが提供する法人向けアカウントの運用支援です。

note上の自社アカウントに、雑誌などのメディアの編集者がつくったコンテンツを載せるものになります。編集者のプロの高いスキルと経験で、自社ブランドの魅力を「客観的視点」で引き出せるのが利点だと思います。無料アカウントでも法人向けプランであるnote proアカウントでも利用可能です。

まず広げていきたいのは出版社とのジョイントです。自分の会社のことを自分で書くのはとても難しいので、社会の文脈や生活者の興味関心にいつも寄り添っている雑誌編集者にブランドのストーリーを編集してもらうことで、オウンドメディアとして読者とブランドの接点を深めたり、共感を高めたりすることを狙えます。noteはプラットフォームなので記事の内容には関与せず、出版社側に委ねています。noteは、アカウントに直接出版社が記事を投稿できるように、編集権限を紐づける仕組みを提供し、一時的に編集権限を付与することができます。クライアント側としては、高いクオリティの記事をシンプルなプロセスでつくってもらえるメリットが生まれます。

──1回目はアンダーアーマーさんとNumber編集チームが組みました。
高橋:Numberはスポーツ総合誌という長年培ってきたブランドがあるので、スポーツアパレルのアンダーアーマーさんと組ませていただくことができました(※)。結果、他では読むことのできない、良いコンテンツになったのではないでしょうか。

京樂:Numberさんは日本を代表するスポーツ総合誌なので、企業がなかなか話を聞くのが難しい著名なスポーツ選手に話を聞くこともできます。企業内の開発チームやクラブチームを取材してノンフィクションを書いたり、臨場感あるイベントレポートを生き生きと書いたりもできます。その他にもいい記事をつくるさまざまなスキームがあります。企業の内面に迫り、良いアングルを引き出し、ブランドの物語をつくる。それをNumberのプロフェッショナルチームがやるとどうなるのか、ワクワクするような期待感があるはずです。

高橋:例えば、学校の部活をNumberの編集記事のように取材し、描いてnoteにアップすると、選手の親御さんが読んで拡散する可能性もあります。地方のサッカーチームで天皇杯などには出られないけど、そのチームの物語をNumberの切り口で描けば、それによってスポンサー企業の支援や協賛促進ができたりするかもしれない。読みものとしてもおもしろければ、Numberを知らなかった方にも読んでいただけるかもしれません。Numberに広告出稿しようと思うと相応のコストが必要になります。それはもちろん有効な方法だとは思います。それに加えて、note Brand Storyという新たな情報発信の場で、多様なニーズにお応えできるといいな、と思っています。

また、noteの読者にNumberを知らない人もいます。特に10~20代の若い世代は雑誌Numberを知らない人もたくさんいるでしょう。そういう方々に、新しい記事がnoteに上がってタイムラインで、Numberのロゴだけでも見てもらえたら。記事を読んでいただけたら嬉しいですし、Numberというブランドの認知を広めるの場にもなると思います。

京樂:ロゴをファーストビューに入れ、リード文にも入れているので、Numberさんが制作したことはわかるようになっています。今後、雑誌のファンがnoteのブランド記事に触れるきっかけになったり、反対に、ブランド記事から雑誌に触れていただいたり、を目指しています。
Number編集部が制作したアンダーアーマーのnote記事のファーストビュー。カバー画像にNumberのロゴが入り、リードテキストにNumber制作である旨が記載されている。
Number編集部が制作したアンダーアーマーのnote記事のファーストビュー。カバー画像にNumberのロゴが入り、リードテキストにNumber制作である旨が記載されている。
──ブランド構築の場として、noteならではのメディア特性や価値もあると思います。
京樂:基本的には、noteはストック性の強いメディアです。ニュースサイトなどと比較すると1日当たりの閲覧数は多くないかもしれませんが、数年前の記事でも検索流入があるのがnoteのいいところで、ブランドを「資産」としてたくわえることができます。noteで読まれる文字数が他のSNSと違うのも特徴です。一般的なWeb記事のような広告はないので、4000~5000字でもすっと読んでもらえます。読者も長い文章を読み込んでいける層が多くいます。ですから、ブランドの世界を深く掘り下げて、長い絆づくりを目指す企業にとっては、うってつけのプラットフォームだと考えています。

高橋:そうですね、それが理由で月刊文藝春秋のデジタル版はnoteを使っています。出版の編集や記事の特性との親和性が高いのだと思います。

──自社メディアでどのような発信をしていくか、ブランドをどうつくっていくか、外のプロからの視点を取り入れることが大切になってきています。
京楽:note Brand Storyを考えるきっかけにもなったのですが、前職で、ファッション雑誌の編集者とネットワークがあり、企業のオウンドコンテンツをつくる仕事で、その方に個人的に入っていただいていました。その際、編集者が入るのと入らないのでは進行、クオリティ、何もかもが天地ほど違うと肌身に感じました。編集者の方が持っているクリエイティブのネットワーク、コンテンツ作成スキル。このすごい能力にブランドがアクセスできれば、と思っていました。しかし、企業はもとより、クリエイティブエージェンシーでさえも、なかなかアクセスできない「聖域」のような領域だったんです。ですので、こういうメニューがあると、クリエイティブを提供する編集側も、提供される企業側にも、オウンドメディアにより多くの選択肢をお互いに持つことができるのではないかと思いました。

高橋:企業にとって、コンテンツを上げ続けなければいけないのは、本当に大変だと思います。オウンドメディアの記事にバリエーションをつけたいという要望も確実に多くなってきているのではないかと思います。

京樂:noteを企業が始めていただく時に、私たちのチームが最初のサポートをしますが、自社について何を発信しようか指針を明確に立てて、継続的に発信することは、実はとても難易度の高いことなのだと思います。そんな難しい状況で、編集者が社会の中でその企業が何の役に立っているのか、外から光を当てることで、ブランドの価値やパーパスが浮かび上がるかもしれません。外部の視点やスキルが入ることで、その企業がより輝く要素が見つかるかもしれません。自社発信がメインで、note Brand Storyをスポット的に使うことで、その後のコンテンツが良くなる可能性があるとも思っています。

高橋:例えば、各部署の責任者をインタビューをしてまとめれば、その企業のカラーが浮かび上がります。インタビューして記事にするのは第三者的な視点を持った、外部のライターもしくは編集経験のある人がよいのかもしれません。それをnoteにコンテンツとして上げ続けていくとその企業のリアルな姿が見えてくるのかもしれません。インナーブランディングという意味でも、うちってなかなかいい会社なんだな、みんな結構大変なんだな、自分だけじゃないんだな、と思ってくれたりするかもしれなません。自社のことが好きになったり、そういう可能性もあると思います。

京楽:企業規模を問わず、採用広報にnoteは結構使われています。1番の読者はまずは社員、そして、これから入って来る社員かもしれません。

高橋:その会社を選ぶときの理由の一つになるような、魅力を伝える。そのようなことも含めて、編集者が紙媒体を超えて、noteの場でいろいろとブランドづくりのお手伝いができるといいなと思います。

京樂:是非、お願いしたいです!
──noteの未来、編集者の未来についてもお聞きしたいと思います。
京樂:今回のメニューの未来で言うと、法人の出版社やメディアと企業をマッチングするのをまずは進めますが、note上の個人のクリエイターが企業のお仕事を手伝うケースが増えていったらいいなと思います。将来的には、数多くの個人のクリエイターが、noteのプラットフォームで発信をしていき、仕事のチャンスを広げていく。それは、noteが個人の自己実現の場づくり、個人がコンテンツを直接売れる場づくりを目指すことと合致します。

若者だけでなくシニア層にも広がっています。商社をリタイアした方が赴任先について書いているんですが、ものすごく面白いですし、70代のお寿司屋さんが書いているお話もすごく良くて、若者がたくさんお店に来たりしているようです。

高橋:編集者の未来というと難しいのですが、コンテンツをつくるのに必要なことは何も変わっていない、それは不変なんだと思います。以前は企画、取材、編集して、紙に載せて、校了して、取次さんと書店さんが売ってくださるというシンプルな構造だった。しかし、それがいまは、紙かWebか、サイトかSNSか、何に載せるか、どう読者に届けるか、その方法はさまざまです。この記事をどのタイミングで、どこに出したら最も効果があるか、その選び方、センス、リテラシーも大切なのかな、と感じています。写真の選び方、タイトルのつけ方、などは明らかにWebと紙では違いますね。

感じるのは、今は、いろんな垣根がなくなっている気がします。仕事と趣味、企業と個人とかの境界線がはっきりしなくなってきているのかな、と。だから面白くなるんだろうなとも思います。Web上に大量のコンテンツが溢れているいま、「良質のコンテンツ」を丁寧に生み出せる集団のみが、より輝けるのかもしれません。

──企業にとって「外のプロの視点」でもう一度、社内を見渡してみることの大切さを感じました。意外な資産や人材の価値を発見したり、伝えていなかった大事な宝物を掘り起こしたり。そして、それをストックしていくことでブランド理解を深める。自社メディアは社会メディアでもあり、「読ませる」ではなく、「読みたくなる」コンテンツを今、必要としています。取材、ありがとうございました。

アンダーアーマー note:「あの一言で変わった人生ーー。”怪物の弟"が誰かの背中を押したいと思う理由。」https://note.underarmour.co.jp/n/n76ca03c58b1f
写真
【取材】
黒澤晃
元博報堂 クリエイティブディレクター
横浜生まれ。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライターを経てクリエイティブディレクターになり数々のブランディング広告を実施。受賞多数。2003年から博報堂クリエイターの人事、採用、教育を行う。多くの優れた若手クリエイターを育成した。2013年退社。黒澤事務所を設立。さまざまなライティング、プランニングの領域で活躍している。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。最近の著書「20歳からの文章塾」「これから、絶対、コピーライター」など。ツイッター#ツボ伝ツイート。note「3ステップ・ライター成長塾」。
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