マイクロソフトからnoteへ

──津隈さんはなぜマイクロソフトからnoteへ転職することを決めたのでしょうか?
大きな理由は、マイクロソフトでの仕事に一区切りがついたと思ったからです。私はもともとエンジニアとしてマイクロソフトに新卒入社し、その後マーケターへ転籍しました。職種を変えたこともあり、入社後約10年間でマイクロソフトではさまざまな経験を積むことができました。そして2020年ころから、新しい挑戦をしてみたいと考えるようになり、そのなかで出会ったのがnoteでした。

noteに入社を決めた一番の理由は、noteが掲げるミッションに強く共感したこと。マイクロソフトで仕事をしていくなかで、いつしか私は自分の人生をかけて取り組みたいと思えるミッションを見いだすようになりました。それは「楽しいことに集中する環境を提供したい」ということです。私が思い浮かべる「楽しいこと」には、「創作(クリエイト)する」というのが大きな要因です。そのため、創作に集中できる環境を提供する事業は魅力的だと考えました。一方noteでは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションを掲げています。このnoteが掲げるミッションと、私の人生のミッションが合致したのです。それが決め手となり、2020年10月にnoteへ転職しました。
──津隈さんは、noteで初のマーケティング専任者として転職をされたとお伺いしています。現在、noteのマーケティングチームではどのような業務を担当しているのでしょうか。
noteが提供しているサービスには、いわゆるだれでも投稿できる「note」や法人向けに特化したサービスを提供する「note pro」、ほかにもコンテストやイベントなどさまざまなものがあります。私たちマーケティングチームは、これらすべての事業に対し、マーケティング的な支援をし、noteのミッションを達成すべく活動しています。なかでも、「note pro」と「定期購読マガジン」はマーケティングチームとして、訴求を強化している最中です。

2021年3月現在、マーケティングチームのメンバーは私を含めた正社員4人と業務委託1人で計5人です。この5人はみなマーケティング専任で、なかには私が採用に携わったメンバーもいます。それぞれ「デジタルマーケティング」「イベント企画」「コミュニティ担当」の3つの担当が振られており、それぞれが一つの部署として成立するほどの大きな役割を持って仕事をしています。

──津隈さん自身は、noteに入社してからどのような業務を行ったのでしょう?
入社以前は専任者がいなかったので、私が入社して初めの2~3カ月は、マーケティングチーム設立のための基盤づくりに奔走していました。具体的には、各事業がそれぞれ運用していたSNSなどのコミュニケーションツールやアウトプットツールの最適化をするプロジェクトを立ちあげました。

また対外施策として、法人のnote参入のハードルを下げることを目的としたイベント、「等身大の企業広報」をチームメンバーと立ち上げました。このイベントは、実際にオウンドメディアを活用して先進的な広報活動をしている企業をお招きし、「等身大の企業の実体や本音を着飾らずに届けるにはどうすれば良いのかを一緒に考えていく」という趣旨で企画しました。このように、社内外両面の基盤づくりを行ってきました。

ほかにも、施策の成果を判断するための数字によるモニタリングの基盤づくりも行いました。noteという会社はこれまで、数字による細かなKPIは設定されていませんでした。単一のKPIではなく、サービスがグロースするための相互作用図である「グロースサイクル」の構築、発展に力を注いでいるのです。これは「クリエイターが集まる→コンテンツが増える→読者が集まる→クリエイターが集まる」ということをサイクルにしています。
noteのグロースサイクル
noteのグロースサイクル
どれか一つに偏ることなく、すべての点が同じように成長して循環がめぐるようにした結果、ここまでサービスを拡大していきました。2011年12月の創業以来、noteではこのグロースサイクルの構築を進めた結果、2021年3月時点で会員数は約380万人、総記事数は約1500万件と大きな成長を遂げたプラットフォームとなりました。KPIを主軸に置かないnoteが取る施策は、「正しいことをやっていたら必ず事業が伸びる」を徹底し、それを信じている事業の例だと思います。

このようにKPIを主軸に置かず、今日まで成長を続けてきたnoteだからこそ、私たちマーケティングチームが貢献できることはとてもたくさん存在していると考えています。いままで定性的であった「正しいこと」を定量化し、可視化と再現性を可能にしていく。そうして、成功と失敗それぞれの要因を見極めて、noteのさらなる成長へ貢献していくことこそが私やマーケティングチームに与えられているミッションなのです。

エンジニアからマーケターへ

──津隈さんは新卒でエンジニアとしてマイクロソフトに入社をされたと先ほど話がありました。なぜマーケターへキャリアチェンジをしようと思ったのでしょうか?
大きな要因は、マイクロソフトのエンジニアの仕事をしていくなかで、コミュニケーションの重要性を強く感じるようになったからです。

私はもともと、ロボットやIT技術に興味があったため、7年間高等専門学校でその分野について学び、その後は筑波大学大学院に進学。マイクロソフトには、PFE(プレミアフィールドエンジニア)として新卒で入社をしました。PFEとは、クライアントとエンジニアの間に立ち、双方の支援や指導し、ときにはアメリカ本社のエンジニアチームと協業してコードの変更を行うポジションです。PFEとして3年間働いたあとは、AIやクラウド、ARやVRなどのテクノロジーを世界的に盛り上げていく「Windows App Consultant」というチームに、自ら志願して立ち上げメンバーとして参画しました。そこではアジア技術員として3年間働いていました。

Windows App Consultant時代には、アジアの先進的なアプリを数多く支援してきました。そのなかで良い製品なのに世の中に広まらないものが多くあったのです。このときに、技術者として製品の良さを知っている私と、ほかの多くの製品と比べて市場を見ている消費者たちとの間に、大きな壁があると感じました。その壁を解消するために必要なものはなにか、思案したときに思い至ったのがシンプルなメッセージを基軸とした相手に伝わる「コミュニケーション」でした。それを機に、技術のスペシャリストになっていくよりも、マーケターとしてコミュニケーションを通して、良いものをきちんと広めていきたいと考えるようになり、マーケターに転身しました。
──エンジニアからマーケターへ、大きなキャリアチェンジを果たされましたが、困難もあったかと思います。
おっしゃるとおり、多くの困難がありましたね。一番ハードだったのが、社内でのコミュニケーションでした。エンジニアという職業は、基本的にエンジニア同士でのコミュニケーションが多い。そのため、エンジニア同士少ない言葉で、スムーズにコミュニケーションをすることが美徳である、そのような価値観がありました。

しかし、マーケターは一転して、さまざまな職種の方たちと一緒に仕事をします。マーケター同士だけでなくエンジニアもいれば営業もいる。なかには普段はまったく関わりのない部署の方たちとも仕事を共有することがありました。彼らからの意見も吸い上げ、その方向性や価値観をまとめることにかなり苦労をしましたね。例えば、マーケティングの観点では良い施策であっても営業的にはNGという事例があったり、自分の言葉を他職種の方たちには理解してもらえなかったりなど、各職種や部署にあるパワーバランスを理解することも苦労した点でした。

このことの改善するために、さまざまなチームのミーティングに参加をさせてもらいました。営業やエンジニア、それぞれのミーティングに参加し、彼らはなにを考え行動しているのか。なぜ理解をしてもらえなかったのか。課題がどこにあるのかを把握して、彼らの共通言語を身につけ理解する。そうすることで、改善を図っていきました。

──津隈さんがマーケターとして普段から心がけていることなどはありますか?
一つは、さまざまな方のnoteを普段からよく見ていますね(笑)。それ以外には、定性的なものに意識的に触れていく、ということ大切にしています。「日々の業務が数字を見ること=定量的なもの」が多いため、それ以外の定性的なものを得るために同業者の記事を読むことや、ほかの社員と会話をすることを意識的に行っています。定量的な情報は調査データや資料などの媒体からもわかりますが、定性的な情報は媒体ではなく会話を通じて得ることがほとんどです。文章だけでは伝わらない部分やニュアンスも、顔を見て話すことで伝わることもありますよね。だから、コロナ禍によりオンライン化が進んだことで、以前よりも簡単な打ち合わせや情報交換がしやすくなりました。これにより、以前よりも定性的なものに触れやすくなったと感じています。

私は、マーケターに重要なのは「ロジック」と「経験」、「コミュニケーション」であり、そのなかでも特に重要なのはコミュニケーションであると考えています。マーケターの仕事は、決して一人でできるものではありません。たくさんの人を巻き込みながら、施策を立案し、考え方が異なる人の気持ちもくみながらゴールに向かっていく。それがマーケターの仕事です。そのためにロジックや経験が必要なのはもちろんですが、コミュニケーションを同時に磨くことで、たくさんの人の協力を得られる力が身につきます。そうすることで、より良いマーケターになれると、私は信じています。

──それでは最後に、津隈さんが思い描く未来についてお聞かせください。
自分の考えや取り組み、感想を思ったとおりに表現できる場づくりをしていきたいです。普段考えていることをありのままに発信することも、だれかに気づきや共感を生むという意味で「創作」の一つだと思っています。
     
2021年3月に、第一生命保険は「大人になったらなりたいものランキング」を発表しました。小学生男子と中高生男子、女子で1位になったのは「会社員」でした。このような結果になったのは、コロナ禍の影響で、家で仕事をするお父さんとお母さんの姿を見て、子どもたちが「かっこいい」と感じたからだと私は考えています。いままで会社でしか見せていなかった姿を家で発信することで、子どもが親へ共感して憧れを抱いたのです。

このような、物事を発信して他者と共感できる場として、noteを利用することを促進していきたいと思っています。自分のことを他人に共感してもらえることは、とても楽しいことです。だからこそ、自分の感情を思ったとおりに表現できるようにnoteをもっと多くの人に身近に感じてもらえるような未来を実現させたいですね。
──エンジニアからマーケターへ、マイクロソフトからnoteへ。津隈さんのキャリアのこれまでのキャリアとnoteが目指す先の未来についてお話を伺いました。2021年12月に創業10周年を迎えるnoteに、津隈さんらマーケティングチームがどのような変革をもたらすのか、この先も楽しみです。お話いただき、ありがとうございました!
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