──深山さんはもともと起業マインドが強かったのでしょうか?
子どものころから起業に対して純粋な憧れがありました。高校時代には周りに「起業する」と言っていました。目標にした起業家はヴァージン・グループの創設者であるリチャード・ブランソン。バージンというブランドを軸に、業種にとらわれない自由なビジネススタイルを貫く彼の姿に憧れていました。ただ、大学卒業後は一旦会社に就職すると決めていました。新卒で入社したのは大手広告会社の博報堂です。広告志向ではなかったのですが、インターンに参加したことがきっかけで、興味を持ちました。入社後は営業として大手通信会社を担当したのち、デジタルマーケティングの部門に異動し、自社のマーケティングソリューションを開発していました。博報堂での仕事はとても楽しかったのですが、このままではずっと起業できずに博報堂に一生居続けてしまうと焦りが生まれ、2016年のとき1年後に退職する決断をしました。やっぱり、起業していない自分が嫌だと思ったのです。Spartyを創業したのは2017年7月です。まだ、事業内容も固まっていないときでした。
──Spartyの構想はどのようにして生まれたのですか?
Spartyの「パーソナライズ×D2C」という事業は、数ある構想のなかの1つです。この1本に絞ろうと決心したのは、2017年の秋ごろです。それまでは試行錯誤して、結構時間がかかって…。ちなみに、私が事業を立ち上げるときに指針にしているのは、「波とサーファー」の選択理論。「いい波にいいタイミングで乗れるサーファーは、すでに半分の成功を収めている」という考えです。

2017年当時、D2Cはまだ日本ではあまり認知されていませんでした。ただ、日本に先駆けアメリカで流行していたのです。時同じくして、ビューティー業界ではパーソナライズサービスが登場していました。業界の流れを予測すると、間違いなく今後のトレンドになることは明白でした。ランディングやコミュニケーションという自分のキャリアとの親和性も考慮し、2017年というこれから波が高くなっていくタイミングで、ビューティー業界で「パーソナライズ×D2C」事業に未来を賭けてみたくなりました。第1号のオリジナル商品はヘアケア商品です。理由は妻が自分の髪質に合うシャンプーをずっと探していて、単純にその力になりたかったから。それに身近な人をペルソナに設定すると、ブランディングもしやすいと思いました。

──Spartyの事業内容を教えてください。
ヘアケア「MEDULLA」、スキンケア「HOTARU PERSONALIZED」、ボディメイク「Waitless」などのD2Cブランドを展開しています。いずれもパーソナライゼーションを基軸にしており、一律的な商品ではなく、簡単な質問に答えていただくことで、一人ひとりに合わせた商品ができあがります。例えば、「MEDULLA」では、5万通りの組み合わせから髪質に合わせたヘアケア商品を提案しています。
オーダーメイドシャンプー&リペア「MEDULLA」
オーダーメイドシャンプー&リペア「MEDULLA」
──「色気のある時代を創ろう」というミッションがユニークだと感じました。
ミッションにある「色気」とは、その人本来の人間らしい美しさのことです。建築家の隈研吾さんの言葉から着想を得ました。その内容とは、「素材の質感や形状が色気となり、物体にも惹かれ合う」というもの。なにかに惹きつけられる気持ちは、必ずしもロジックで説明できるものではありませんよね。例えば建築物に粗削りの材木が使われているとき、未完成だと思う人もいれば、人間味があって魅力的だと思う人もいるはずです。自分は欠点だと思っていた要素でも、他人からしてみれば色気なのかもしれない。その可能性に気づける時代を目指し、私たちはパーソナライゼーションを軸として、「いいもの」より「合うもの」を提案していきたいと思っています。ユーザーにどんな生活を送ってほしいか、どんな感情になりどんな体験をしてほしいか。そしてどんな機能を提供できるのか。それらを意識した事業を展開し、すべての人の魅力を引き出すことこそが我々の使命です。

──ビューティー業界ではD2Cがメインストリームになってきているのでしょうか。
多くの業界がそうであるように、ビューティー業界でもEC化が進み、現在リアル店舗での購入が減少しています。その結果EC発のブランドが多数生まれ、D2Cの流れが業界のメインストリームになってきています。またオフラインにもデジタル技術が普及しており、ECのあり方自体も変化しています。すると必然的にD2Cカンパニーがアプローチの方法を模索していく。そうした流れのなかでビューティーテックも登場し発展を遂げています。ただ、ビューティーテックと一言にいっても領域は幅広いです。バーチャルメイクで化粧品を試したり、肌診断で商品をお勧めしてくれたり、アバターが接客したり。今後は多種多様な要素を統合しながら、最適なUXを生み出せるかが業界で生き残っていくカギとなるでしょう。技術や素材をつくっているだけの会社は、将来的には大手化粧品メーカーに買収されていくと予想します。

──ビューティーテックはどのように進化していくと思いますか?
技術だけに焦点を当てると、ユーザーが自分にあったビューティー用品を1個からつくれる時代になっています。近い将来には肌データを企業に送るだけでオーダーメイドの商品が届くようになるでしょう。UIはディスプレイから音声へ移行して、手間を最小限にすることができるはず。さらに先の将来の話をすると、身体中にセンサーがついていて、そのセンサーに話しかければ、その場で化粧品を調合してくれるかもしれません。究極のUXを突き詰めていくと、意図せずにすべてやってくれることがベストなんです。これからどんどん便利なUXが生み出せる環境へ、社会は進んでいくでしょう。ビューティーテックも次のステージに上がるため、それに合わせた技術の開発やバリューチェーンの見直しなど、新たなイノベーションが必要だと思います。
──ビューティーテックの技術が発展して、それが浸透した未来。私たちの生活や価値観にどのような影響があるのでしょうか?
いまよりビューティーテックが浸透すると、「ラクしてきれい」は実現できます。ただし、便利なことだけがよいことなのかはわかりません。最適化されすぎると面白みがなくなってしまう気がします。美容は心の豊かさに通じるものなので、手間をかけてこだわることに喜びを感じる人もいるでしょう。逆に美容にかける時間自体に価値が出てくるのではないでしょうか。ファンデーションを粉からつくる人が出てくるかもしれません。簡単にきれいでいられるのがいいときもありますし、大切に手を加えて特別な日に備えたいときもある。突き詰めると、美を意識することで自分に自信を持てたら手法はなんでもいいと思うのです。心の豊かさをサポートするのが美容ですから、いくら手法が増えても根っこの部分は変わらないまま、これからの美容も日常に寄り添っていくのだと思います。

そう考えると、ビューティーテックで心の豊かさをサポートする余地はまだまだありますし、そのようなブランドをつくっていきたいです。

──今年の8月に41億円の資金調達をされていますが、Spartyがビューティー業界で果たす役割をどのようにイメージされていますか?
当社は既存の事業を強化する一方で、新規事業にも取り組んでいきたいと思っています。日本だけでなく、海外を見据えています。ただし時代によって求められるものは変わるため、そうした時流をきちんと読み切って事業を拡大していく予定です。いま考えているのは、自社の会員サービスを利用したデジタルとリアル店舗を融合するOMO。ほかにもアイデアは多数ありますし、場合によっては業界にとらわれず広い視野を持ってビジネスを展開していきたいです。理由は創業当初の事業だけで長く続く会社は稀有な存在だと思うからです。それに会社を枠にはめたくないとも思っています。その方が、これまでの既成概念にとらわれず柔軟な発想でチャレンジできるはず。まずは、いまのポジションを強みにしてビューティーテックが世の中を豊かにしていく一助になれたらと考えています。

──美容は心の豊かさを育む。だからこそパーソナライズを軸に、人らしさが輝く未来を自由な発想でつくっていく。ビューティー業界でSpartyが存在感を高めているのは、そんな気概が影響しているのでしょう。今後の動きにも期待大です! 本日はありがとうございました。
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