──小山さんのこれまでのキャリアを教えてください。
新卒で入社した会社は、ベンチャーのインターネット広告会社です。営業職として入社し、リスティングやSNSなどのWeb広告関連の商材を提案営業していました。そして、1年経過したころからは自ら志願して広告運用も兼任していました。新卒で入社した僕が、広告のプロとしてお客さまと対等に話せるようになるには、Web広告のリアルな知識や肌感が足りないと思ったからです。職種が細分化・固定化されず幅広く業務に携われることがベンチャーで働く醍醐味です。その分、業務量が多くなり、ハードワークになりがちですが、きちんと実績をつくれば、昇進スピードも早く評価してもらえると思い、がむしゃらに働いていました。その結果、最年少で営業課長になることができました。

──転職を考えたきっかけはなんでしょうか?
広告運用を始めたときは、広告運用の施策によってお客さまの売り上げに直接貢献できていることが目に見え、すごくやりがいを感じていました。しかし、3カ月を過ぎたころから、広告運用に関係なく、数字が良かったり、悪かったりすることがあり、お客さまの成果の理由がわからなくなっていったのです。よくよくお話しを聞いてみると、実は新聞広告を出していたり、テレビに露出していたりということがありました。実際にTwitterで検索してみると、それがものすごく話題になっていて、納得することがありました。広告会社側にいると、ヒアリングにも限界があり、お客さまの状況を的確に把握することができず、要望に応えきれていないことに次第にストレスを感じるようになり、事業会社への転職を意識するようになりました。

そこから1年間ぐらいかけて、親しい業界の先輩や友人に話を聞きながら、じっくり転職活動を行い、ドミノ・ピザに入社しました。

──数多くある事業会社のなかで、なぜ、ドミノ・ピザに入社されたのでしょうか?
大きく2つあります。1つは、僕が前職でドミノ・ピザを利用する機会が多くあり、一消費者として、好きなブランドだったことです。もう1つは、ドミノ・ピザの求人を紹介してくれたマスメディアンの担当者のドミノ・ピザ愛がすごかったこと。大学時代にドミノ・ピザで働いていたそうで、真面目な顔でドミノ・ピザがどんなにいい会社か、熱弁されたんです。これだけ従業員の心を動かせる会社は、すごいブランドなのではないかと、興味が湧きました。
──ドミノ・ピザではゼロベースでSNS運用の土台をつくったと伺いました。
2018年8月に入社した当時、私はデジタルマーケティングについての知識や経験はありましたが、自社のSNSを運用した経験はありませんでした。会社としても、SNS公式アカウントの運用指針もルールもなにもかもがないところから、手探りで投稿する内容を考え、それを上司に承認してもらい、ロケハンも撮影もライティングも自分で行い、投稿し、お客さまの反応をみるということを繰り返して、1年ぐらいかけて運用ルールやフローを確立していきました。TwitterやInstagram、Facebookなどの既存で運用していたSNSはそれぞれのチャネルに合わせて投稿内容を切り分けるようにしたり、TikTokの公式アカウントを新設したりしました。また、インフルエンサーマーケティングにも力を入れ、YouTuberやInstagrammer、TikTokerのキャスティングは広告会社を使わずに、自分で開拓してすべて対応しました。2年目の途中ぐらいまでは、ドミノ・ピザのエージェントのような立ち位置でしたね。そこである程度、SNS運用の成功パターンをナレッジとして得ることができました。

この約2年間は本当にしんどかったのですが、マーケターのなかでも、ゼロからイチをつくり出す経験はなかなかできるものではありません。ドミノ・ピザは新しい取り組みも信頼して任せてもらえるので、本当にチャレンジしてよかったと思っています。

──小山さんが入社されてからTwitterのフォロワー数が約8万人から50万人超まで増えたのですよね。なにが成功のポイントだったのでしょうか?
僕が入社して、初めての成功と言っても過言ではないプロモーションがあります。現在は「ウルトラチーズ®」という定番商品になったのですが、当時「ニューヨーカー 1キロ ウルトラチーズ」という、1キロのチーズを直径40センチのピザの上にのせただけのシンプルなピザが2週間限定で発売されました。そのピザをTwitterで紹介するとき、静止画ではチーズの伸びている臨場感が伝わらないと思い、動画で投稿したところ、2万9000リツイートされ、たった2週間で10万枚を販売することができました。また、より認知を獲得し興味を持ってもらうために、流行に乗っかるカタチでフォロー&リツイートキャンペーンを仕掛けました。「ニューヨーカー 1キロ ウルトラチーズ」を楽しく食べていただけるように、クーポンをTwitterで配り、2週間でフォロワー数が15万人まで伸びました。その結果、売れすぎて一部の店舗で売り切れになる事態に。「申し訳ございません。2週間延長します」とTwitterで謝罪文を出したところ、「延長ありがとう」という反響がSNS上で広がり、その謝罪でさえも1万リツイート前後獲得し、お客さまもポジティブな印象のまま販売終了まで売れ続けました。このときはメディアにも取り上げられ、社会現象にまでなっていましたね。そこからコツをつかんでトントン拍子でフォロワー数が伸びていきました。
──最近では、ピザライスボウルがバズったと伺いました。
「ピザライスボウル」はピザの生地ではなくバターライスにトッピングをのせた商品なのですが、社内で試食したときに、「ドリアみたい」という話が出ました。ただ、開発した社員は「ドリアじゃない」って言い張るんです(笑)。この狭間がものすごく面白いと思い、これをコミュニケーションにしようと、Twitterで「ピザライスボウルはドリアなの?」と緊急アンケートを取りました。「ドリアだろう」、「ドリアじゃない」という、ピザライスボウル論争がSNS上で盛り上がり、投稿してから1週間で1158万以上のリーチを獲得。最終的には「ドリアだろう」が勝ってしまったのですが…。

ピザライスボウルは発売から5カ月で100万食を突破しました。この結果にはTwitter上のコミュニケーションが多少なりとも影響していると思います。僕としては、ドミノ・ピザの商品を一人でも多くの人に楽しんでもらえるきっかけをつくれたことがとても嬉しいです。
──2021年2月に20代にして最年少のマネージャーに抜擢されたとのことですが、どこを評価されたと思いますか? やはりバズらせたことを評価されたのでしょうか?
僕はお客さまに楽しんでいただくことに最も注力しています。それがすべてです。僕らのビジネスはお客さまがあってのこと。僕らがどんなに熱い思いを会社やピザに持っていたとしても、お客さまは商品や接客の良し悪しで判断します。だから、お客さまに喜んでいただければ必然的に利用頻度も増えるのではないか。極めてシンプルなマインドに基づいた行動をしているだけです。どのようなコミュニケーション手段であっても、どのような切り口であっても、ベースはお客さまに喜んでいただくこと。ありがたいことに、そのスタンスをお客さまに評価していただけたことが、売り上げアップとして表れ、いまの僕の社内での評価につながっているのだと思います。

もう1つは、入社してから3年ぐらいで、Twitterのフォロワー数を約8万人から50万人超まで増やしたこと。バズらせる頻度も多かったので、そこを評価してもらえたと思います。またTikTokが良い事例ですが、新しいことにも積極的に取り組みました。どこの会社もまだTikTokの公式アカウントを持っていない時代に先駆的に始め、フォロワー数は30万人目前までになりました。新規のチャネルをつくったことで新たな新規ユーザーを獲得することができたことも、大きかったと思います 。

──現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
ソーシャルメディアマーケティング課のマネジメントと実務を行いながら、一部の商品・サービスのプロダクトマネージャーも兼任しています。SNSの特性は、お客さまの生の声を一番近い場所から聞けること。それを強みに、商品開発にも関わっています。ただ、立場が変わっても、お客さまに喜んでいただくことに最注力する姿勢は、絶対に変わりません。僕が得意なのはファンづくり。会社もそれを期待していると思っています。

──お客さまファーストの考え方にとても共感しました。キャリアにおいて、ターニングポイントはどの時点だと思いますか?
ドミノ・ピザに入社したことがキャリアにおける一番のターニングポイントです。広告会社時代、僕は100社強の企業を担当していました。お客さまによって予算も大小あるため、自ずと予算の大きいお客さまに注力することに。予算は少ないけれどもっと時間を費やしたいお客さまがあるのに、限られた時間のなかでは物理的にできない。その現実にフラストレーションがたまり、転職を考えるきっかけになりました。いまは、ひたすらドミノ・ピザのためだけに仕事ができています。ドミノ・ピザのことだったら、僕は友人に永遠に話ができるし、自慢もできます。この熱量を一つの会社だけに集中できる環境が素晴らしくて。また、マーケターとしての“感性”や“バランス感覚”も学ぶことができているので、やはり転職は人生が変わった瞬間です。
──若手のデジタルマーケターにアドバイスをお願いします。今後必要とされるスキルやマインドはなんだと思いますか?
3つあると思っています。まず1つ目は、インプットも当然大事ですが、アウトプットをして自分のものにすること。2つ目は、クリティカルシンキングの力を養うこと。クリティカルシンキングとは批判的思考のことです。まずは、既成事実を疑ってみて、実はこうしたらうまくいくのではないかと前向きな気持ちで考える。この前向きな気持ちこそが重要です。3つ目は、できる人に仕事は集まるということ。すなわち依頼のあった案件は絶対に断らない。僕の場合、ドミノ・ピザでは専門領域以外の相談もしばしばあります。未経験だけれど、その仕事を受けなかったら、二度とその領域の経験はできないかもしれないんですよね。だから1回受けてみよう。業務が多くて迷惑をかけそうなときは、業務整理をした上で相談してみる。その心掛けのおかげで、業務の幅が広がり、いまではプロダクトマネージャーの仕事も任されるようになりました。

──今後の展望を教えてください。
いま、任されている仕事は実直に遂行していきたいと思っていますが、ゆくゆくはブランドマネジメントまで関わっていきたいです。デジタルマーケティングやSNSマーケティングだけではなく、テレビやチラシなど別のチャネルでのマーケティングや、デザインの領域までマネジメントできるようなポジションを目指したいです。

そして、別の切り口になりますが、僕の胸のなかで温めているピザが2つあります。1つがお客さまから集めたコメントを元にして、お客さまが商品開発に携わるピザ。お客さまが100人いれば100通りのピザができるのでシリーズ化して売ってみたいです。あともう1つは、現場のクルーが密かに持っている「まかないピザ」。やっぱりドミノ・ピザ愛があるからこそ、自分なりの「まかない」があります。自分がこよなく愛しているピザを世の中に出せることはインナーコミュニケーション上でも効果的ですし、お客さまを惹きつけられる商品になると思います。

──SNSというデジタルな世界のなかでも、コミュニケーションは人と人。むしろ顔が見えない世界だからこそ、お客さまや従業員の気持ちに寄り添わなければいけません。デジタルマーケティングを熟知しているからこそ、「お客さまに喜んでいただくこと」を大切にする小山さんに、改めてデジタルとアナログとのバランスを再認識させられました。そしてなんだか無性にピザが食べたくなりました!
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