──起業の原点はなんだったのでしょうか?
僕のおじいちゃんは太平洋戦争で空軍に召集されたのち、シベリアに抑留され、それから父親の商社の経営に関わります。まさに小説『沈まぬ太陽』の主人公のような経歴の持ち主なのですが、空軍に所属していたとき、数日終戦が遅ければ、遺書を書かなければなりませんでした。もし戦争が数日長引いていたら、僕は存在していなかったかもしれない。そう思うと、運命や生まれた意味を考えるようになって……。自分が生まれてきたからには社会的に自分が存在する意義があるのではないかとずっと思っていました。自分はなにをすべきかを考えていくうちに、貧困地域をなんとかしたいという気持ちが湧いてきました。

それとは別に、幼稚園のバザーで、僕がものを売る姿を偶然見かけたある親御さんが、「この子、商売っ気ある! 将来は自分で事業をしたほうがいいよ」と母親に言ったそうです。実はその方は有名企業の社長さんだったのですが、そのエピソードを幼いころから母親に聞かされて育ちました。

大好きなおじいちゃんとこの幼少期のエピソードがシンクロして、いつかは起業するだろうなと思っていました。

──どのようにして事業のアイデアは生まれたのでしょうか?
大学生のとき、フィリピンでフェアトレードの現場を見て、「開発途上国を改善するロールモデルをつくりたい」と思ったことが、事業のコアアイデアになっています。では、どの切り口で改善すれば、現地にいる子どもたちが将来に夢を持ってハッピーになれるのか。衣、食、住のなかでどれを改善すべきかを考えた結果、重要度が高いと思ったのが「食」でした。

理由は、とてもシンプルです。衣類や住居は現状の許す範囲で最大限の工夫がされているにもかかわらず、食だけは、もっと栄養のあるものが手の届く価格で買えるのに、体に悪いものばかり食べていました。それは、栄養の重要性を知らないからなので、改善の余地があると気づいたからです。そこから食を改善することで、貧困問題にアプローチしたいと思うようになりました。

──開発途上国の貧困問題を食で改善することを決められたのですね。
フィリピンから帰国してからは、大学の図書館で、SDGsの前身であるMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)やフェアトレードなどの論文を読み漁っていました。そのなかで、栄養は世界的に大きな問題で、今後、世界各国がお金を投じて取り組むから、莫大なマーケットになることに気づきました。栄養改善が、食料問題を解決しながらビジネスとしても成り立つことがわかり、自分がやろうとしていることが明確になりました。
栄養改善をビジネスにすることは決めましたが、今度は解決方法の壁にぶつかります。とりあえず僕は学生だったので、思い切って飛び込めば誰でも会えると思い、いろいろな起業家の方に会いに行きました。いろいろな方々と情報交換をするなかで、栄養を改善するには、栄養状態を把握する必要があることに気づきました。栄養状態をきちんと把握しないと解決方法が曖昧になってしまいます。そして、栄養状態は人それぞれ違うので、その人にあったアプローチをすべきです。そのためにまずは、ドラゴンボールでいうスカウター(相手の戦闘能力を計測するメカ)をつくるべきだと思い至るようになりました。大学生だった2004年に思いついたアイデアで、いまでこそ、パーソナライズドニュートリション(栄養の個別最適化)という分野がありますが、当時はまだ概念が生まれるか生まれないかの時期でした。

──大学生のときにすでに事業の構想はできあがっていたのですね。なぜ、大学を卒業してすぐに起業せずに、リクルートへ就職したのでしょうか?
リクルートに就職した理由は、起業スキルを身に付けるためです。慕っていたアメフトのコーチにリクルートをおすすめされたことがきっかけだったのですが、起業を見据えたとき、リクルートに就職する以外の選択肢は考えられませんでした。

実は、リクルートに入社した当初は、営業、事業開発、会社経営を3年間で経験したのち起業するというプランでした。一緒にユカシカドを創業したCTOの寺田大輔からも、「早く起業しよう」と言われ続けていましたが、「まだ早いから」と待ってもらい、8年後に起業しました。

──リクルートにいたときは、栄養改善の事業は一旦お休みしていたのでしょうか?
リクルートに在籍したときも、仕事をしながら、休みの日は栄養状態を把握する方法を探し回っていました。起業してからも、コンサルティングなどで稼いだお金をすべて投じ、栄養の可視化を実現するために心血を注いでいました。 ──どのようにして栄養を把握することに成功したのでしょうか?
体の栄養状態をどのようにしたら把握できるのかを調べていると、血清アルブミンが栄養の指標になると言われたのですが、それだけでは、「栄養が良くない」ことだけがわかり、「なにが」「どれだけ」「どのように」良くないのかがわかりませんでした。血液、髪の毛、唾液、便、尿などあらゆるものを調べて、その分野の先生を片っ端からリストアップして、会いに行きました。

おそらく100人以上の研究者に相談したと思いますが、なかなか糸口は見つかりませんでした。やっと光が指したのは、滋賀県立大学の福渡努教授にお会いしたときです。福渡先生は、ビタミンの栄養評価において功績を納めてきた研究者です。僕が成し遂げたいことを伝えると共感してくださって、共同研究をすることになりました。その結果、栄養状態を検査する技術の実用化に成功し、2017年に晴れて尿検査で栄養状態を可視化する「VitaNote」を完成することができました。結局、商品ができるまで、着想から13年、起業してから4年の歳月を要しました……。

──VitaNoteについて教えてください。
VitaNoteは、尿を送るだけで、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど20種類の栄養素と2種類の体調マーカーを測定し、栄養状態を可視化してくれます。そして、その結果をもとに、一人ひとりの体質や栄養バランスに合わせた食品やサプリメントも製造・販売しています。アプリ「VITANOTE」を使えば、管理栄養士から助言をもらえたり、足りない栄養素を補う食品やサプリメントをレコメンドされたり、パーソナライズドニュートリションの一連のサポートをワンストップで受けられます。

最近では、自宅で簡単に栄養状態を検査できる「VitaNote Quick」も開発しました。ワンコインで手軽に栄養状態を把握できるので、栄養状態を改善するきっかけになればと思っています。
 
栄養状態を検査できるキット「VitaNote」
栄養状態を検査できるキット「VitaNote」
──美濃部さんはどのような未来をつくりたいと思っていますか?
世の中にはまだまだ体に悪い食品がたくさんあるので、そのような食品がなくなり、安心安全で健康な食品があふれる世界にしたいです。そのためには僕らスタートアップがやるべきことはたくさんあると思っています。ただ、僕たちの努力だけでは実現できることではありません。消費者自身が栄養リテラシーを身に付ける必要があります

特に開発途上国は、栄養バランスに関心が薄いと、フィリピンやバングラデシュを訪れたときに感じました。フィリピンではバナナや魚も豊富にあるのに、体に悪いものばかりを食べていました。バングラデシュでも甘い食品があふれ、小児性糖尿病にかかっている子どもたちが多くいました。栄養リテラシーを高めることは、貧困地域の食の改善につながると思った原体験です。だから、ユカシカドのビジネス「栄養状態を把握すること」は、とても意義があることだと思っています。
 
──今後、ユカシカドで実現したいことはありますか?
VITANOTEを使うと、自然と栄養状態が良くなるので、たくさんの方に利用いただくことで、健康な人を増やしていきたいです。プロダクトづくりに13年以上の歳月と莫大な資金を投じてきました。今後はVITANOTEを多くの人に使ってもらうことに注力していきます。

──栄養状態を把握して、一人ひとりの体質にわせて個別に改善するというアプローチは、ありそうなのに存在しなかったサービスで、VITANOTEが普及すればするほど、世の中の栄養リテラシーが高まり、健康な人が増えると思いました! 本日はありがとうございました!
 
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