──大学時代はバックパッカーだったと伺いました。
僕が通った宮城県仙台第一高校は、とても自由な校風です。「自重献身」「自発能動」という校訓と標語があり、生徒の意思が大切にされます。例えば文化祭などの行事も、「発起人制度」という仕組みによって、生徒が自主的に結成する実行委員会での議論を経て初めて開催が決定します。こうした校風がとにかく心地よく、このころから、僕は自由が好きだったのだと思います。

大学に進んでも、アルバイトでお金を貯めては、宿も決めずリュックひとつで世界中を旅していました。大人になってからは「自分とは異なる価値観に触れるため」なんてカッコよく言ってますけど、当時はただただ刺激が欲しかったんですよね。

就職先にコニカミノルタを選んだのも同じ理由です。当時はコニカとミノルタの2社が経営統合した直後で、人事の方から「いまは社内が混沌としている」と聞き、「面白い経験ができそうだ」と思いました。

当時から、将来はマーケティング・コミュニケーションの仕事をしたいと考えていました。宣伝とか広告のイメージでしたけどね。趣味とすら言えるレベルではありませんが、DJやバンドをかじって、人の気持ちが動く瞬間に興味を持ったことが影響していると思います。

──最初に営業職を志望したのはなぜですか。
営業をやらないとビジネスがわからないんじゃないかと思って。もちろん、どんな職種にも重要度の優劣はありませんが、当時はお客さまと直に接する営業からビジネスの根幹を学べると考えていました。

営業としてモノの色や光を数値化する「計測機器」の販売を担当したのですが、僕はどうやら営業が向いていたらしく、すごく成績が良かった(笑)。入社2年目から4期連続でトップセールスになりました。その後、販売企画や新規事業を経験しましたが、「いつかコミュニケーションの仕事がしたい」という気持ちは変わりませんでした。社内でもそう公言していましたし、20代後半から宣伝会議主催の講座に自費で通うなど、準備を進めていました。

株式会社ポーラブランドマーケティング部 部長 中村俊之さん<br />
2005年コニカミノルタ入社。営業、販売企画、新規事業を経験したのち、ブランド推進部で企業ブランディングやデジタルコミュニケーションのグローバル統括などを担当。2018年ポーラ入社。CRM戦略やEC事業を経て、現職では広告宣伝、DX推進を担当。2019年より日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構 代表幹事を務める。
株式会社ポーラブランドマーケティング部 部長 中村俊之さん
2005年コニカミノルタ入社。営業、販売企画、新規事業を経験したのち、ブランド推進部で企業ブランディングやデジタルコミュニケーションのグローバル統括などを担当。2018年ポーラ入社。CRM戦略やEC事業を経て、現職では広告宣伝、DX推進を担当。2019年より日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構 代表幹事を務める。
チャンスが来たのは31歳のとき。社内公募制度でブランド推進部から1名募集が出たんです。当時の上司は「いなくなるのは困るけど、応募するのを忘れるなよ」と声をかけてくれて。温かい後押しを受け、コミュニケーション領域へと足を踏み入れることになりました。

ブランド推進部では最初にSNSを担当。しかし、SNSを起点としながらもオンライン上でのコミュニケーションの改善策を考えていくうちに、Webコンテンツやキャンペーンも自分で企画したくなった。そうすると顧客とのコミュニケーションを全部やりたくなって。マスや屋外広告を使った企業ブランディング、グローバルのデジタルコミュニケーションの統合、さらにはインターナルブランディングの領域にまで業務が広がっていきました。だから僕は生粋のマーケターじゃない。「雑食キャリア」なんですよ。

──順調にキャリアを積むなか、ポーラに移った理由は?
ポーラには、実店舗でエステサービスを提供するサロンビジネス、そしてダイレクトセリングで築いたお客さまとの強い関係があります。

いまはDXが流行り言葉のようになっていますが、本来、デジタルはあくまでビジネス変革や顧客体験の向上のための手段です。リアルを中心に顧客との深いつながりを持つポーラだからできる、新しいチャレンジがあるのではないかと。未来に大きな可能性が広がっているように感じたのです。面接で社長から「道なき道を歩んでほしい」と言われた。それで心が決まりました。
──「顧客体験」とよく口にされていますね。
僕は人の気持ちや行動にポジティブな影響を与えられるような仕事がしたくてコミュニケーション業務を希望しました。お客さまの心を動かすために顧客体験を良くすることは僕のミッション。マーケターの役割についてはさまざまな議論がありますが、自分が目指すものは大事にしたいと思っています。

もうひとつ大切なことは、ミッションを実現するために「枠」を超えていくこと。僕はこれまで、より良い顧客体験のためであれば、組織や役割、立場を気にせずに仕事を広げてきました。「いいように使われてしまうよ」と言われたこともありましたが、気にしていませんでした。「雑食キャリア」も自虐で言ったのではありません。ミッション実現のために、必要なことだったのです。

若い人たちにも、枠を超えて挑戦してほしいですね。その経験はきっと、自分のミッション実現に向かう歩幅を大きくし、思ったより遠くまで連れていってくれるはずです。

僕はスティーブ・ジョブズのスピーチに出てくる「Connecting the dots」の話が好きです。一見、遠回りにも見える過去の経験がつながって、僕はいまここに立っています。そしてこれからも自分の枠を超えて、新たなことに遭遇していきたい。それもいつか点と点が結びつき、道を切り開くと信じているのです。
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【聞き手】
廻直加
株式会社マスメディアン
執行役員
国家資格キャリアコンサルタント
大手企業のマーケティング・クリエイティブ部門や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行ったのち、キャリアアドバイザーとして、600名を超えるマーケティング・クリエイティブ・デジタル従事者の転職をサポート。現在は、マスメディアンのマーケティング責任者として、マーケティング・クリエイティブ・デジタル領域におけるキャリア戦略を研究。
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